東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~ 作:ようひ
寒い寒い空の下。
ソラ「で、ここから大事な話なんですが、この神社はなんと千年前から存在している神社なんですよ!」
現在、鳳先生による講演会が開かれていた。
もちろん拝聴者はオレ一人のみ。
青空教室ならぬ、夜空教室だ。
(どうしてこうなった?)
考えようとしても頭は働かない。
煙草を吸おうにも吸えない空気だ。
ソラ「これほど小さくても、昔の人は神の居所を大切にしてた訳なんですね!」
相変わらず、先生は饒舌に語ってくれている。
先生、メチャメチャ喋るじゃねーか。
まるで人が変わったかのような――いや、これは人が変わっているぞ、実際。
そんな熱意に押され、オレもへーとかほーとか適当に相槌を打って聞き流す。
ソラ「それで――ミナトさん?」
「あ、あぁ聞いてるよ、千年前だろ」
ソラ「そうです!聞いてなかったら殴ってましたよ~」
(…殴るのかよ)
目の前にある神社は人に管理されていないのか、所々破損している。
とてもじゃないがそこには神がいらっしゃるようには見えない。
ソラ「まぁ、今の人たちもこういった神社を大切にしないと、いけません!」
しかし、ソラはあたかもそこに神が居るかのように語っていた。
オレではなく、まるで神に語りかけるように。
(この子、神社が大好きなんだな)
でなければ突然『行くぞ』何ていう荒々しい口調になるはずがないし、殴るなんて言う訳が無い。
興奮すると人が変わってしまうのだろう。
オレに熱弁するソラは、ビシッと指を突き出した。
ソラ「で、ここからが大切な事ですが!」
(そのフレーズは5回ほど聞いたんだが? )
もちろん声には出さない。
静かにオレは彼女の言葉を待つ。
ソラはその大切なことを中々言わない。
ソラ「……え…なんで…?」
「……ん?」
口を開けたまま止まるソラ。
その眼は信じられない、といったように見開かれている。
「…鳳先生?どうした?」
その視線は、オレの後ろへ伸びていた。
――何かを見ている?
「…………?」
振り返る、そこには何もない。
オレたちが辿ってきた道が伸びているだけだ。
確かに今、ソラは[何か]を見ていた。
しかしその[何か]はオレには分からない。
視線を戻すと、「はっ」と我に返るソラ。
「どした?」
ソラ「……え、あ、あの…そのっ…」
突然、顔を赤らめ、慌てて前髪を弄り始める鳳先生。
オレと目を合わせないように顔を背けていた。
「早く続きを、先生」
ソラ「そ、そそうなんですが……えっと、その、あれ…」
「…大丈夫か?」
ソラは話すどころの話ではない様子だった。
[神社が好きな彼女]から[いつもの恥ずかしがりやな彼女]にスイッチが切り替わったように、突然口ごもってしまう。
多重人格、とは言わないまでも、唐突な切り替えだった。
ソラ「……確かに……見えたはず…」
「……本当に大丈夫か?」
怪訝な顔を浮かべながらぼそぼそと呟く彼女。
なんて言っているのか聞こう、と耳を顔に近づける。
ソラ「んひっ!!?」
ボン、と何か空気のようなものが爆発するような音がした。
ソラ「~~~~!!!」
どうやらオレの行為は逆効果だったようだ。
ソラは脱兎の如き慌てて走り去って行く。
「…よくあれで大学生やっていけるな」
オレは茫然と立ち尽くしていた。
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