東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~   作:ようひ

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ショタは無事送り届けられたらしい。

オレは自宅へと送られた。

「後片付けがあるから、じゃあね」と言って霊夢は去っていった。

敷かれた布団に、オレは潜り込む。

頭痛がする。吐気もある。心にぽっかりと穴が開いたような気分だ。

 

「…………」

 

布団に入って、どのくらい時間が経っただろうか。

全く寝付くことが出来ず、ただひたすらぐるぐると考えが浮かんでは消えてゆく。

それらは、己の無力を呪い、身近な人々が殺されていくような、妄想ばかりだった。

 

?「大丈夫か?ミナト」

 

「……あぁ」

 

オレの傍でぴちゃぴちゃとおしぼりを絞る音がした。

声の主は、寺子屋の先生であった。

霊夢に呼ばれたのか、彼女はオレの家まで来てくれた。

ご飯まで作ってくれて、今もこうして看病してくれている。そう気付いたのは今だった。

 

慧音「大変だったな」

 

「……」

 

慧音「霊夢が来てくれて本当によかったよ、餅は餅屋だ」

 

「……」

 

慧音の存在はとても暖かかった。

オレひとりでいたら、闇に押しつぶされていたことだろう。

それを慧音が阻止してくれている。とてもありがたかった。

 

慧音「ショタを、守ってくれたんだろ?」

 

「……守れなかったけどな」

 

慧音「立派じゃないか、お前ほど筋の通った人間なんていない。胸を張っていい」

 

「……」

 

慧音「具合の方は大丈夫なのか?」

 

「……頭が痛むが、死にはしない」

 

自分の弱い所を見せるのは苦手だ。

それらを飲み込んでくれる仲間をオレは持っていなかったから。

凌雅も、ナギも、結局いえば楽しい時を過ごすための仲間であり、弱音を吐けるような間柄ではなかった。

それも全部、オレが過ごしてきた環境によるものだと思う。

慧音は黙ってオレの話に耳を傾けていた。

それが、凄く嬉しかった。

同時に、凄く悔しいかった。

 

慧音「ミナト」

 

しばしの沈黙の後、慧音が口を開いた。

おしぼりが頭に当てられる。少し温くても、じんわりとした冷たさが心地いい。

 

慧音「誰だって守るものはある、それは人によって様々だ」

 

「……」

 

慧音「身近なものを守りたければ、世界を守りたい奴だっている。或いは自分を第一に考える奴もいる」

 

一呼吸置いて、言葉が紡がれた。

 

慧音「だけど、そういうものは、必ずしも守れるとは限らない。この世界に完全なんて無い……だけど」

 

布団の中に温もりが生まれる。

オレの右手を、細くて冷たい手が、優しく包み込んだ。

 

慧音「お前が守りたいものを守るその気持ちが、その人を救うんだ」

 

「……慧音」

 

慧音「私は応援するよ。お前が人を守ろうとする、その気持ちを」

 

細い指が、オレの指に絡んでいく。

慧音の手は案外にも小さい。女性の手だ。

 

慧音「完治まで2週間ぐらいかかると霊夢は言っていたよ。それまでは我慢だ」

 

「……ありがとう」

 

慧音「明日、寺子屋に来れるか?無理はしなくてもいいが、子どもたちが心配する」

 

「……行くよ」

 

「分かった。また明日」

 

オレの掌がぎゅっと強く包まれた後に、慧音は家を出て行った。

扉が閉まった後、傘を開く音がした。

雨は先ほどより強く降っているらしい。

 

「……」

 

沈黙の闇。

押しつぶされそうな弱い自分は、もういない。

 

(守りたいものを守る気持ち……)

 

オレが守りたいものとは何だろうか。

外来人であるオレが、幻想郷のために守りたいものは。

真っ先に浮かんだのは、やはり先ほどオレを看病してくれた、身近な存在だった。

その先生が、守りたいものが、オレの守りたいもの。

どうやら答えは出たようだ。

 

 

守りたいものは、慧音――お前が守りたいものでもあるのかもしれない。

 

 

§

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