東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~   作:ようひ

84 / 122
案山子

「やめろ、案山子……その術は、オレに効く」

 

中庭にて案山子を作る。

素材はそこらへんの農家からもらった藁と太い木の棒。この時期はあまり使わないとのことなので譲ってもらった。

骨となる棒に藁を括りつけ、縄で縛る。

左手が使えないが、両足と口を駆使しつつそれっぽく作っていく。

顔は布を丸めて固定した質素なものだ。しかし、在るのとないのでは全く違う。顔があるから人のような存在になるのだろう。害獣たちの気持ちはさすがに分からないが。

 

「サスケェ!!」

 

墨で顔を書き、麦わら帽子をかぶせる。だがそれだけでは足りないので、そこらへんで買った服を着せた。

うむ、なかなかに人間っぽくなってきたじゃないか。

 

「お前にとってオレはオレオ!!」

 

最後の仕上げとして、首の所に赤いリボンを結ぶ。

 

「完ッ成ッだッ!」

 

制作時間、発案も含めて一時間。

リアリティとプリティを同居させる、というコンセプトの元、できた案山子。

 

「ビューリフォー……」

 

さっそく花壇の脇に突き刺す。

寺子屋からは『おおー』とか『こえェー!』とか『ただの案山子?』など、各所賞賛のコメントが送られた。

授業が終わった後、子どもたちは案山子を触ったりしながら、これから花壇を守ってくれる存在を歓迎していた。

慧音の意見をよくもここまで具現化したと思う。オレ、SUGEEEEEEE!!

 

?『……すごい』

 

皆が教室でわいわいしている中、縁側から小さな声がした。

見ると、チサトが縁側から足を出して、座っていた。

 

「だろ、せんせーやべェだろ?」

 

チサト「……うん、やべぇ」

 

生徒に褒められるのは悪い気がしない。

疲れたので、縁側に座っているチサトの隣に腰を掛ける。

汗をかいていたシャツを春風が通り抜けた。

空は雲一つない快晴。昨日の雨は何処へ行ったのだろうか。

 

チサト「……先生」

 

「ん」

 

チサトはオレの包帯に巻かれた左腕を見ている。

 

チサト「……腕、妖怪に?」

 

素朴な疑問だった。

オレは答えに躊躇ったが、

 

「そうだ、妖怪に襲われた」

 

チサトの黒い目は、知っていたと言うようにオレの左腕を凝視している。

 

チサト「……食べられた?」

 

「食べられていない。ただ、折れただけだ」

 

チサト「……」

 

無言、遠くで鳥のさえずりが聞こえる。

チサトは何度も口を開いたり閉じたりしていた。

彼女の選んだ言葉は、一言。

 

チサト「……怖かった?」

 

――人間は、妖怪に、虐げられている。

その言葉が、オレの頭の中でぱっと浮かんだ。

 

「まぁ、怖かったな」

 

妖怪に襲われた記憶がフラッシュバックする。

エンカウントして一瞬の出来事だった。何もできずにただ返り討ちにされた。本当にそれが起こったのかさえ実感が湧かない。

傷を見るたびに、そう思っていた。

 

チサト「……私も、怖い」

 

重々しい一言だった。その理由には、触れてはいけないような気がした。

しかし、今聞かなければ今後二度と聞けない、チサトの事を知ることが出来なくなる――。

そんな気がした。

 

「どうして?」

 

出来る限り優しい声音でそう問いかける。

 

チサト「……昔、妖怪に、襲われた」

 

初めて聞いた、チサトの過去。

ぎゅ、と胸に手を当てながら、苦しそうに、チサトは口を開く。

 

チサト「……怖かった、頭を打って……身体が動かなくなって……」

 

「……そうか」

 

身体が動かなくなる。

その感覚は、オレ自身も感じたものだった。しかし、彼女の場合、その怪我によって今の状態――虚弱体質へと変わってしまったのだろう。

父親に負ぶわれて寺子屋を行き来する、その理由。

小さく震える彼女を、オレは真っ直ぐに見つめる。

 

「だから、怖いのか」

 

こくり、と黒髪が揺れる。

妖怪に襲われたことで、癒えぬ傷を負い、妖怪を恐れる人間は想像以上に多いようだ。

やはり、人里は妖怪に脅かされている、この現状。

 

――博麗神社に来なさい。

 

別れる際の霊夢の言葉。

チカラ。

オレはどうしても、チカラが欲しい。

人を守ることが出来るチカラを。

 

「大丈夫だ、チサト」

 

チサト「……?」

 

「妖怪から人を守る。オレが、皆を守るよ」

 

オレは勢いよく立ち上がる。

曇りなき青空、木々を揺らす涼しい風がオレたちを包み込んだ。

 

チサト「……赤せんせー、が?」

 

「あぁそうさ。寺子屋の子どもたちには指一本たりとも触れさせはしない」

 

何かを口にすると、そこには言の葉が生まれる。

そいつは言った言葉が現実になる力がある。

――言葉は、魔法だ。

 

オレの覚悟を聞いたチサトは、口元を歪ませ、慣れていないような微笑みを見せてくれるのだった。

 

「さ、授業が始まるぞ」

 

チサト「……うん」

 

教室へ戻る。

中庭の案山子は空を見上げ、屈託のない笑顔を浮かべていた。

 

 

§

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。