東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~ 作:ようひ
何となくだが、幻想郷に慣れてきた、という実感がある。
妖怪に襲われたせいもあって、楽しみだけではなく、悲しみや辛さも同居する、ある意味人生ハードモードを味わっている気分だ。
しかし、その辛さがかえって良いスパイスになったりする。
程よく、生きがいのある人生に。
(何を不謹慎なことを考えてんだ、オレは)
煙草に火をつけ、帰路を歩く。
夏が近づいてきているのか、だんだんと外は暖かくなってきた。
これから暑い夏が来ると思うと眉唾物である。
暑いなら寒い方がマシだ。生まれた場所の影響もあるだろうが。
「雪国まいたけ!!」
帰りに野菜を買っていく。
1人暮らしをするとどうしても野菜が不足してしまう。
オレはしっかりと食事のバランスを考えているため、体格はそこそこよく、体系も少し肉付いているくらいをキープしている。
「雪国もやし!!」
商店街の喧騒を離れる。
少し歩くと、小川が見えた。
ここは綺麗な水が流れており、よく子どもたちが遊んだりしている場所だ。
その分、綺麗な水には霊が寄り付くと言われ、夕方あたりになると誰も近寄らない。
(……よく、近所の川で遊んだなぁ)
幼少時代をしみじみと振り返る。
なんとなく歩いていると、小川近くに生える苔の上に、銀色に光る四角い箱が落ちていた。
「ん?」
それを拾おうとしたとき、手が柔らかさに触れた。
「お」
?『あ』
顔見知りだった。
拾い食い、という言葉が似あう、少女。
?「お前、今失礼なこと考えてるだろ?」
「そんなことないさ、魔理沙」
ほんとかなぁ、と言いながら霧雨魔理沙は銀色の箱を手に取った。
彼女も同じようにこの箱へ疑問を持ったのだろう。目を丸くしてまじまじと見つめている。
魔理沙「これ、なんだ?ちょうど目に入ったから拾ってみたが」
「知らないのか?[ラジオ]って代物だ」
魔理沙「らじお?」
「音のなる音楽機器だ」
へぇ~と声を漏らしながら、振ったり空に掲げたりして眺める魔理沙。
魔理沙「そういえば、こーりんの奴がこんな物を持ってたな……あれは結構大きかったけど」
「こいつは携帯型(ポータブル)だ。何処でも聞ける便利なタイプの」
魔理沙「へぇ!ならお前ん家で聞いてみようぜ」
「……今日オレの家には大量の流星群が降り注ぐ予定でな」
魔理沙「じゃあ良いってことだな!」
押されるがままに家に向かう。
そういえば大学生活でもこんなこじ付けで家に来たがる奴がいたな、果たして誰だったか。
§ § §
「お前って煙草吸うんだな」
部屋に入った途端、魔理沙に見破られた。
「お前は犬か」
消臭は完璧だったハズなのだが。
どちらかと言えば魔理沙は猫っぽい。自由な所とか、妙なものに興味を示す所とか、行動派なくせに縁側で寝たりする所とか。
「煙草なんて、紳士なら嗜んで当然だ」
魔理沙「よくわからん理屈をこねる奴だぜ」
オレは拾ったラジオの電源を入れた。
充電式ではなく、一世代ほど前の電池式のようだ。
ジジジ……とノイズ音が発生する。
魔理沙「……変な音しか出ないぞ?」
「だりぃな、チューニング」
ダイアルを適当に弄りながら、数字を合わせていく。
ノイズは相変わらず酷い。電波の周波数が合うポイントを探っていく。
右回し。
右回し。
左回しの、右回し。
「ん」
あるポイントでノイズが消えた。きらびやかな音に代わる。
エレキギターの音が響く、とある音楽番組のようだ。
魔理沙「おお!」
魔理沙は前かがみになってこちらを見ている。まるで餌を待てない猫のようだ。
オレはラジオを卓袱台に置き、煙草に火をつける。
番組はオープニングだったようで、ギターのイカしたチョーキングで締められた。
【Stereo man】とネイティブな発音のタイトルコール。
男『ハロー、クソ野郎ども!』
ラジオパーソナリティの言葉は英語だった。
電波は外国の物を拾っているらしい。
まぁ、日本でも海外の番組を取り扱う事もあるし、断定は出来ないが。
魔理沙「……なんて言ってるんだ?」
「ごきげんよう皆の衆、だってさ」
魔理沙「へぇ、お前この言葉がわかるのか」
「少しくらいは」
頭の中で英語を訳していく。
男『くそったれな平日をいかがお過ごしかな?ん?職場の上司に飲みに誘われた?オゥ、何というバッドなニュースだ!まさにくそったれな平日だね!』
海外のノリは面白い。
人を罵倒し、罵倒の先に楽しいという感情が芽生える。
男『この番組、【stereo man】は、そんな救われねェお前らに勢いと音量を提供してやる番組さ』
煙草をふかしながらチューニングのつまみをひねる。
先ほどより音がクリーンになった。
男『さぁ!裸になったか?熱い曲に焼き殺されないようにしろよ!ヴォリュームも最大だ!近所の煩いババアには頭突きをかませ!!』
音量は半分ほど。
辺りに家は少ないが、今は夜だ。近所迷惑とかに敏感なのが一人暮らしの性である。
『HAHAHA!』と陽気な笑い声をあげながら、パーソナリティーが叫び声をあげた。
ぶっ壊れた狂気のラジオ番組らしい。
男『じゃ、聞いてくれ。一曲目は【***** *****】だ!』
イントロのギターのクリーンなアルペジオにドラムのリズムが絡む。
全体的に音の粒が整った曲だ。
男性ヴォーカルの声が美しい。特に、英語の発音が完璧だ。
日本人であろうか。
根っからの外国人ではなさそうだ。
歌詞は全て英語だった。
アメリカンな言い回しに、罵倒。
罵倒の先は、自分だ。
曲調も何処か哀愁さを含む。
しかしそれは、サビに入って変わり、明るい曲調へと変わる。
歌詞も内容がガラリと変わる。
明るい曲に合わせた、自分の希望の歌に。
サビが終わり、ラジオの前に食い入るように正座していた魔理沙が言った。
魔理沙「かっこいい歌だな、なんて言ってたんだ?」
オレは煙草の火を消し、二本目に火を付ける。
「ただ雨は降るんだ、だってさ」
§