東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~ 作:ようひ
この一週間は安静にしなければならない。
なので激しい運動は控え、寺子屋に従事することにした。
慧音の持つ授業を代わったり、暇な時間は子どもたちと遊んだり。
今日は早めに授業が終わったので、とある場所で教材の研究でもすることにした。
「いつ来ても暗くてジメジメした所だな」
建物の中は[古本]でぎっしりと埋め尽くされている。
そのため、押し入れのような香りが鼻孔を突いてくる。
部屋は数本の灯篭によって照らされている。本の色を落とさないためらしい。
明かりはそれらと、店主の座る机に置いてある手持ちのランタン。
不気味にもそれは店主の顔に影を落としていた。
?『そんな事無いです!ここは心落ち着く、憩いの場ですよ!』
「妖魔本があるのにか?」
?「妖魔本があるからこそ、ここはスピリチュアルで安らぎの場なんです」
「妖怪的発想だな」
小さな店主――[本居小鈴]が口を尖らせている。
彼女はオレンジの髪を二つ結びにしており、大きな丸メガネがギラリと輝く。
小鈴「今日は[いつもの]ですか?」
「あぁ、[いつもの]だ」
参考書のエリアへと行く。
この店――鈴奈庵はいわゆる【貸本屋】であり、様々な本の貸し出しを行っている。
本のジャンルは様々で、古書だけでなく、外の世界の外来本も取り扱っている。
幻想郷に流れてくる外の世界の物は貴重であるが、本は別だ。
字体が違ったり、英語が読めないなど、様々な理由で捨てられる事が多い。
鈴奈庵はその捨てられる本を集め、貸本屋として営業している。
(妖魔本、ね……)
ちなみに、妖魔本とは、妖怪が書いたり、妖力のある者が書いた著書の事を指す。
そういった本には何らかの妖力が宿るらしく、鈴奈庵には妖怪が棲みつく、と噂される。
実物を見たことは無いが、かなり危険な物らしい。それを扱う小鈴もまた危険だと思うが。
「算数、さんすう、と……あった」
ボロボロになった教科書を手に取る。頭から赤い「!」の生えた、黄色い謎のプリンみたいなキャラクターが表紙を飾っている。
中身を確認してから受付に持っていく。
小鈴「これだけでいいんですか?」
「んと、そうだな……」
手早く判子を押す小鈴。
他に借りる物はあるかあたりを見渡すと、ふと、テーブルに置かれた二冊の本が目に留まった。
「これ、面白そうだな」
小鈴「あ!これですか!?流石ミナトさん、お目が高い!!」
「え?」
小鈴「これは皆既日食の書と言いましてね!外の世界から流れてきた『天体』に関する本なんですよ!!わかりやすく図解などがしてあって読みやすいし、面白いので是非とも借りて下さい!」
「そっちじゃなくて、こっち」
小鈴「え?」
皆既日食の書の下にあった、一冊の小さな本。
本の題名は[光の都]だ。表紙にはタイトルのみで、絵も何もない。現代はジャケットの重要性が説かれているため、こういう本は見向きもされないことが多い。現代では、の話だが。
手に取って開いてみると、目次があり、物語のように話が進んでいる、いわゆる小説だった。
小鈴「あ、そっちですか。それは最近仕入れたばかりのもので、幻想郷で書かれた本らしいんですよ」
「らしい?」
小鈴「人里の口コミで広がった本なので、どういったルートでここに仕入れたか分からないんです」
文庫本ほどの小さいサイズだ。
中身も小説である事に変わりはない。
しかし、妙に心を惹かれるタイトルだった。
「この、[御壱]って著者もどんな人物か分からないのか?」
小鈴「はい」
こくこく、とオレンジ色の髪が揺れる。
存在がミステリーな、作者も謎な、今話題の小説。
「読んでみる価値はありそうだな」
小鈴「お、分かりました!では御勘定はそれプラスですね!」
……なんだかはめられているような気がする。
御一緒にポテトはいかがですか現象だ。
小鈴「あ、あと」
小鈴は言い忘れていたように付け足した。
小鈴「その本、結構人気なので、貸出は一週間でお願いしますね」
「おーらい」
小鈴「ついでに皆既日食の――」
「いらん」
小鈴「むーお得意様なのにィー」
ぶーぶー!と口をとがらせる小鈴を無視し、鈴奈庵を出る。
外の日差しが眩しい。
ここから出るときはいつも目が焼けそうな思いだ。
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