東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~   作:ようひ

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序章 Ⅸ

最初の集まった場所へ戻ってきた。

誰も戻って来ていない。

動くのも面倒なので、ライターに火をつける。

街灯の明り一つない自然の中、光が漏れる。

その光を、取り出した煙草に受け渡し、息を吸う。

 

(やっぱり煙草は美味いな)

 

短い至福を味わいながら、小さな神社が鎮座する岩へと腰をかける。

罰なんぞ知ったことではない。

もともと、オレは神など信じない人間だ。

 

「……神社、か」

 

最近、神社など神仏的な建造物は無意味であると決めつけられ、取り壊しが行われている。

昔は蔓延るようにしてあった分社も[要らない物]として失われつつあった。

そんな無意味な物が、大学の裏に残されているのも不思議な話だ。

 

(要らない、物…)

 

失われたものは、時代の流れに置いて行かれ、この世から消える。

それらは全て、【げんそうきょー】に流れ着いているのだろうか?

オレもそこへ行けたら、時代から失われた物――親父に、出会うことができるのだろうか?

 

「…………」

 

静かに目を閉じる。

瞼の裏に浮かび上がる、幼き日々と幼馴染の笑顔。

なぜ今になって彼女の言葉を反芻しているのだろう?

見つかるはずのない空想の産物に、なぜこれほど想いを馳せているのだろう?

 

――気まぐれ?

 

【げんそうきょー】は、女の子の気まぐれで生み出された存在。

神隠しだって、言ってみれば隠す奴の気まぐれ。

物が出来るのも、物が失われていくのも、人間の気まぐれ。

この世のすべては、全て、気まぐれ。

 

――親父が失踪したのも、気まぐれ?

 

「……クソが」

 

無駄な思考を止め、煙を吐きながら目を開く。

煙草を吸っていると無駄に考えてしまう、オレの悪い癖だ。

ぼんやりと遠くを眺める。

どこからか電車が線路を踏む音がする。

深夜零時を過ぎた頃だというのに、電車はまだ動いている。つい最近まで田舎者だったオレからすればびっくりな話だ。

学校の前を通るこの時間の電車には、乗客が少ない。

乗せたとしても、せいぜい夜中じゅう遊びに行くような連中か、あるいは闇を抱えていそうな連中か、残業帰りの社会人程度だ。

遠くで鳴り響く電車の加速音は、まるで子守唄のようにオレを癒す。

 

「…………」

 

空は、曇っているせいで月も星も見えない。

山奥なら都会の光も届かないから綺麗だと思ったが、今日は臨時休業らしい。

夜空も人間的なものだ、学校前の中華料理屋ぐらい休業が多い。

 

(…明日の昼飯はそこ行くか)

 

煙草を携帯灰皿に押し込め、再び目を閉じる。

小さく聞こえてくる、少し早く出てきてしまった鈴虫の夏の声。

虫も随分と数が減った。住処を失われてしまったからだ。

こぉこぉと草木を揺らす風の音。

しかし、もうすぐそこに、夏は迫っている。

 

そして、いかにも夏の訪れを教えてくれるような、シュシュピピという音。

 

「シュピ?」

 

耳を澄ませば聞こえてくる、シュピピ。

聞いた事の無い虫の鳴き声だ。

不思議に思っていると、その音と同時に、何やらこもったような声が聞こえる。

 

――ステーション、――ステーション。

 

そこだけしか聞こえない。

駅前の電車のアナウンスだろうか、と目を見開く。

 

「――え」

 

そこには、まるで億という単位の蛍の灯を一度に照らしたような、またダイアモンド以上の輝きを放つ金剛石を誰かがいきなりひっくり返して、ばらまいたような、光の壁が眼の前いっぱいに広がっていた。

 

――え?

 

眼を擦る。

そこには、まるで億という単位の蛍の灯を一度に照らしたような、またダイアモンド以上の輝きを放つ金剛石を誰かがいきなりひっくり返して、ばらまいたような、光の壁が眼の前いっぱいに広がっている。

 

夢ではない。目の前で、極光がオレを照らしているのだ。

強い光に目が眩む。

永遠にも続く大いなる光は、不意に消え去った。

 

 

「――――あ」

 

 

ゴトゴト…。

そして気が付くと、オレの身体は、いつの間にか揺られていた。

 

 

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