東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~   作:ようひ

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銭湯

「くっはぁ~~~ビンゴ~~~」

 

ざばぁん、と湯船からお湯が零れる。

比較的熱いお湯が、身体を温め、疲れを取ってくれる。

仕事後の銭湯は至福のひと時である。

 

「いい湯だねぇ、そうだねぇ」

 

この時間帯の銭湯はあまり混んでいない。

農夫たちの仕事は夕方かその後に終わる。

夕方の銭湯はもはや戦場であり、暑苦しい漢たちのフルコース。

しかし今、客の姿はない。

 

「お肌すべすべ!バスロマン!」

 

壁に書かれた効能は[疲れ][やけど][疲労回復][乾燥保湿]など。

お年寄りにとってはありがたい物ばかりだ。

ただこんなモノが果たして本当に効果があるのか分からない。

 

「プラスィーボ効果って奴か」

 

頭にタオルを乗せて上半身を壁に預ける。

広い浴槽はまるで25Mプールのように広大だ。増築出来るぐらいに儲かるのだろう。

 

「58、潜りマース!」

 

40℃以上のお湯に頭から浸かる。

お風呂で泳ぐのはNGだが、誰にも迷惑をかけなければいいのだ。

 

「もうオリョクルは嫌でち!」

 

潜水艦ごっこをしていると、ガラガラとガラス戸が開いた。

一人の男性が身体を洗い、湯船に浸かる。

タオルを頭に乗せ、ふぅと息を吐いている。

身体を洗い終えると、男は小さなタオルを持って湯船に浸かった。

しばし微妙な距離感を味わっていると、沈黙を破ったのは向こうの男だった。

 

?『もしかして、外来人の方ですか?』

 

「そうです。……ご存じですか?」

 

男はもちろん、と言いたげな目をしていた。面長で暗い顔つきの男は、口元を吊り上げた。

 

?『里の中で有名になってますから、一度お会いして見たかったのです』

 

まぁ、そうなるよな。

新聞の力に外来人が寺子屋で働いている。こんなイレギュラーを気にならない方が無理な話だ。

男は波を立てずにオレに近づくと、いきなりオレの手首を握ってきた。なんだ?発展か?

 

?『あぁ、これは失敬。私としたことが……いやはや、アナタ、良いですねぇ』

 

「……何が?」

 

?『易ですよ。力強い易を感じます』

 

いきなり謎の単語が出てきた。エキとは?

男はまぁ分かりませんよね、と言った顔で説明する。

 

?『この世の自然、宇宙の全ての変化の事です。アナタからは、その変化の兆しが溢れ出ております』

 

「……悪いが、宗教ならお断りだ」

 

不気味な雰囲気を感じ取ったので、オレはそそくさとその男から離れる。

対称を失った男の細い手が、水面を優しく叩く。

 

?『いえいえ、滅相もない!私はただ、占いをしているものでして』

 

「占い?」

 

宗教よりも達の悪いものがきた。どうも、スピリチュアルな事象は苦手だ。現代では占いなどは天気予報と同じぐらい適当にあしらわれている。幻想郷では、かなり重宝されていそうだが、オレにとっては無縁でいい。

 

?『もし、気になるのなら……時たまに里でやっておりますので、よろしければ』

 

「まぁ、気が向いたら」

 

?『その日は近いと思いますよ』

 

クククッと不気味な笑いを上げる。男は立ち上がると、そのまま脱衣場へと後にした。

……細いのはどこも同じらしい。全身で一貫している男だ。

 

「何だったんだ、今のは」

 

予期せぬコンタクトに謎の疲れがどっと出てきた。

まるで人間離れしてしまった男だったが、果たして占いをする日は来るのだろうか。

 

 

§

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