東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~ 作:ようひ
その日の夜。
オレは拾ってきたラジオを付け、包帯を外し、寝間着に袖を通す。
飯も洗い物も全て済ませてある。後は寝るだけの体制だ。
「Vの体勢を取れ!!」
布団に潜り込む。
布団はまだ冷たい、足先から凍ってしまいそうだ。
「ベイリィ……メロンヌッ」
震えによる摩擦で身体を温めていく。
春はまだ完全には過ぎ去っていないようだ。夜はまだ寒い。
「…………」
少し暖かくなってきた。
オレの脳裏にぽかりと浮かんできたのは、親父に関する情報だ。
――親父さんは幻想郷におる。
――チカラをつける事じゃな。
マミゾウの言った言葉が脳内をこだまする。
人里のあらゆるコネクションを使って訊きだしたはずだ。その中で一番有益だったのが、妖怪であるマミゾウの情報だ。
最終的に妖怪の話を信じることになるとは、なんたる皮肉であろうか。
「……何処にいんだよ、親父」
親父は幻想郷にいる。しかし、親父は何のために幻想郷に来たのだろうか?
家族を捨ててまで幻想郷に来た理由。
今のオレでは、到底思いつかない。
「……親父は何かを見つけようとしているのか?」
外から風の音がする。
ガラス戸がかたかたと揺れた。
「……それとも、単純な好奇心なのか?」
雨の音はしない。
それでも風は一向に鳴りやまない。
「……知らん」
結論は、[直接聞きだしてやろう]だ。
まず初めにあったら拳で一発。それから胸倉を掴んで吐き捨てるように聞いてやる。
「震えてるのは当たり前だろう~」
頭の中は、親父を尋問する方法でいっぱいだ。
(明日、行ってみるか)
§ § §
桜の花びらが舞う、境内の中庭。
前来た時よりかは桃色の量が減り、その中に緑が混じりはじめていた。
そんな季節の変わり目にある神社で、オレを睨む目があった。
?「アンタ、やっぱりバカじゃないの」
出会い頭に罵倒してくるS気質適性値をもつ博麗の巫女。
「チャリで来た」
霊夢「そういうことじゃなくて、アンタのその左腕、一週間かかるって言ったじゃない」
「言ってたな」
霊夢「まだ3日しか経ってないんだけど」
「オレの体内時計は一週間を過ぎた。よって完治した」
実際に痛みは残っているが、動かせるのでそう判断した。
霊夢「……やっぱりバカね」
霊夢は、境内に箒を投げ捨て(イライラによる)、「人の好意をなんだと……」とブツブツ呟き(イライラによる)、縁側に上がる。
オレが座布団に座るや否や、冷たいお茶が3つ置かれた。一応客として扱ってくれているらしい。
「…………」
霊夢「…………」
お互いにお茶を一気に飲み干す。
頭に昇っていた血が引いて行ったのか、霊夢の表情が柔らかくなった。
霊夢「で、ここに来たってことは、チカラが欲しいって事ね」
「相違なし」
霊夢「単刀直入に聞くわ。どうしてあの時、[スペル]が発動しなかったと思う?」
あの時――先日の人里での妖怪侵入の件だ。
発動する時と、発動しない時のある、オレのスペルカード。あの時には発動しなかった。
博麗神社の森で襲われた時には発動した。
では、スペルカードの発動理由は?
「……能力が無いから?」
霊夢「それは間違いよ。スペルカードってのは、持ち主の力によって作られる物だから」
「じゃあ、オレには能力があるって事か?」
霊夢「半分正解」
ラノベ的な返答だ、まどろっこしい。
霊夢「正確には、『能力を使いこなせていない』段階ね」
「はぁ」
霊夢「アンタにはスペルカードがある。最初にここで使った時には発動していないように見えたけど、アレはアレで発動していたのよね」
「話が見えないんだが」
霊夢「黙って聞きなさい」
「ぴゃ」
半ば暴力的に傍聴を促される。
霊夢「スペルが安定して発動しないのは、貴方の能力が未完成だから」
「……能力を安定して出せる段階まで持って来れば、スペルを使える?」
霊夢「そういうこと、例えば――」
霊夢はあるカードを取り出し、宣言した。
見たことがある。青色の波紋が描かれたカード。あれは――マズい。
「ちょ、ま」
霊夢「[靈撃]」
パリン、と青い閃光が走り、空間に衝撃波が押し寄せる。
畳が捲れんばかりの圧力に、オレはなす術泣く吹き飛ばされる。
衝撃は一瞬で止んだ。
「[靈撃]は持ち主の力に相応して威力が上がる。アナタにも持たせたわよね?」
「そのくだり、二度目なんですけど?」
霊夢「大事な話だからしたんじゃない。三回目、いっとく?」
「今しがた身体で覚えたから大丈夫だ、うん」
霊夢「能力が強ければ強い程より強力になるわ、私のようにね」
やはり霊夢は博麗の巫女にして頂点……。
§