東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~   作:ようひ

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見式

霊夢「肝心な能力の話をしてなかったわね」

 

霊夢は、ちゃぶ台の上にあったもう1つのグラスを、台の中心に寄せる。

てっきりもうひとり客が来るのかと思っていたのだが、違うらしい。

グラスにはたっぷりと水が注がれていて、今にも零れそうだ。

 

霊夢「能力ってのは、先天性のものと後天性のものに分かれている。前者は生まれ持っている力。これは外来人にとって幻想郷に来る前に発現している場合が多いわ」

 

「ふむふむ」

 

霊夢「問題は後者。後天性の能力ならば、また二種類に分かれる。『幻想郷に来てすぐに発現する場合』と『幻想郷に来て、一定時間経つことにより発現する場合』よ」

 

「ほむほむ」

 

霊夢「この二つの種類によって、今アンタに施す方法が変わってくる。前者ならもうすでに発現しているのだから、あなたは自分の能力を認識する必要がある。要は気づきなさい、ってこと」

 

「はむはむ」

 

霊夢「逆に後者なら、この話は全て忘れて。焦りや無理な特訓は逆効果だから、自然と能力が開花していくのを待つしかないわ」

 

「へむへむ」

 

霊夢「……話、聞いてる?」

 

「ひむひむ」

 

つまるところ、能力には元々使えない人は早熟型か晩成型かどちらかになるらしい。

 

「じゃあ、どうやってその能力の早熟性を知ることができるんだ?」

 

霊夢「いい質問ね」

 

「ちゃんと話は聞いていたからな」

 

と、霊夢は自身の脇に手を突っ込んだ。

いったい何処に札を入れているんだ、と思っていると、抜き出されたのは紙のようなもの。

俗にいう[御札]だった。

しかし、真っ白の、何も書かれていない白紙だ。

 

霊夢「この御札は霊力を込める以前のモノ。これに私の霊力を込めれば、[博麗の御札]として退魔の力が宿る」

 

「能力を注ぎ込むってことか?」

 

霊夢「そ。[白札]の時はあらゆる力を込められるように、魔力や霊力に対して敏感なのよ」

 

(まるで未体験の男の子みたいだな)

 

そんな突っ込みをすれば霊夢に消されてしまうので黙る。

 

「じゃあオレもその白札に力を注ぎ込めば」

 

霊夢「まだ能力の有無も知らないのに、注ぎ込めるの?」

 

「無理です」

 

霊夢「――そこでこいつの出番よ」

 

霊夢はちゃぶ台の中心にそそり立つグラスを指さした。

表面張力により零れる寸前を保っている。

そこへ先ほどの白い札を、そっと浮かべた。

防水なのか、札は笹船のようにぷかりと浮かぶ。

 

霊夢「[博麗見式]と私は呼んでいるわ」

 

「はくれいけんしき?」

 

何処かで見たことのあるような構図だ。

 

霊夢「能力の識別方法よ。白札の感度を利用して能力の系統を目に見える形にするの。たとえば――」

 

彼女は静かに目を閉じた。

グラスの間を霊夢の両手が包み込む。

空気が澄み切り、風の音が止む。

世界の中心が彼女になったように、突然の静寂が訪れた。

 

「…………」

 

静寂に気づいて間もなく、手をかざす御札に変化が現れた。

白い札が、淡い光に包まれていき、次第に強く濃い輝きを放っていく。

やがて眼を覆うほどの光に包まれたと思った刹那。

白い札はグラスの水を離れ、宙に浮いた。

 

「うお……」

 

ふわりふわりと浮かぶ閃光。

まるで室内に浮かぶ擬似太陽のような、眩しさだった。

 

霊夢「――ッ!!」

 

そして、霊夢がカッと目を見開くと、一瞬部屋中に白い閃光が走り、御札の光は失われた。

ちゃぶ台に着地したそれは、白札ではなく、紅い紋様の札に変わっていた。

 

霊夢「注ぎ込む力が強すぎて、退魔の札を作ってしまったわ」

 

「……」

 

霊夢「と、まぁこんな感じ。私の場合、[博麗の力]と[空を飛ぶ能力]の二つね。なんとなくわかったでしょ」

 

「あぁ」

 

正直、霊夢の力のエフェクトがかっこよすぎて、見とれていた。

オレにもこんな力が宿っているのか!と思うと鳥肌が立ってくる。

反面、オレに能力が無い時の衝撃はとても大きそうだ。

能力を有した時の期待と、現実を突きつけられた時の不安。

 

霊夢「ま、とりあえずやってみなさい」

 

そうだ、とりあえずやってみればいい。

何もなかったら何もなかったで、何もなかった時の生き方をすればいい。

そういうことだ。

 

オレは、震える両手をグラスにかざした。

 

「…………」

 

そして力を込める。

できる限り無意識の状態を作る。

イメージは真っ暗、無の状態。

 

精神が安定してきたのか、周りの音がスッと遠ざかっていく。

 

「…………」

 

俺の脳内に浮かんできたのは、神社の森での出来事。

危機一髪を回避したのは、魔理沙のおかげだった。

しかし彼女は「お前の力だ」といった。

あの時、無我夢中でかざした、一枚のスペルカード。

妖怪たちを一瞬で消した、あのチカラ。

そして、人里を襲った妖怪との闘い。

気絶していたショタが、オレの手元に移っていた。

 

あれは、あのチカラは、いったい――。

 

「…………」

 

手のひらがほんのり暖かい。

研ぎ澄まされた五感が知る、風の感触、土のにおい。

少し眠くなってきた、真っ暗は真っ暗でも、微睡みへと誘う真っ暗だったり――

 

霊夢「ミナト」

 

「……ん」

 

霊夢「目を開けてみなさい」

 

意識を引き戻す霊夢の声に目を開いた。

目の前には当然グラスと水に浮かんだ白札。

変化はない。札の色も変わってなければ、浮いてもいない。

やはりオレに能力はないのだろうか?

 

と思っていると、ふと、違和感がした。

白札が大きくオレの方へ向かって移動していた。

 

「……風のせいか?」

 

グラスの中心に戻し、動かないことを確認して、また手をかざす。

すると、また白札が俺の方へと動いてくる。

霊夢の細目を横切り、襖を閉める。風は吹かない状況だ。

同じようにグラスの中心へ浮かべ、また手をかざす。

現象は同じだった。

 

「なぁ……これって」

 

霊夢「えぇ、おそらく」

 

鼓動を早める心臓。

彼女のその一言を、事実を見届ける霊夢の言葉を、オレは待っていた。

 

 

「モノを引き寄せる力、ってトコね」

 

 

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