東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~ 作:ようひ
「モノを引き寄せる力よ!」
何度この言葉を発しただろうか。
何度この言葉を意識しただろうか。
何度この言葉を反芻し、酔狂しただろうか。
「モノを引き寄せる力よ!!!」
白札に発現した力は、『引力』だった。
モノを引き寄せる引力を、オレは幻想郷に来てから開花させた。
後天性の能力だったが、それでも有無で境界を引くなら、間違いなく「有」だ。
「モノを引き寄せる力よ!!!!!」
何度この言葉を発しただろうか。
何度手に力を込めたのだろうか。
力を込めても、叫んでも、卓袱台のタバコケースはピクリとも動かない。
「うがぁ!!!」
精神的に限界だったので、そいつを開けて煙草を吸った。
気は長い性格だと自己判断していたが、見誤っていたようだ。
「手に煙草が吸い寄せられたらかっこよかったのにな……」
漫画アニメでありそうな光景だったが、無理だった。
能力を持っていたことは良い、大きな誇りだ。
しかし、肝心なことをオレは知らなかった。
「能力ってどうやったら発動するんだ?」
今までで一番アホな顔をしてアホな言い方だったに違いない。
だってアホなんだもん!
てかこれって不器用な人に「家を作ってくださいはいよーいスタート~」って言ってるものだ。建築学無振りだから無理ではなかろうか?
「ぐーっむむむ」
頭をフル回転させた結果。
「……地道にやるしかないな」
ちゃぶ台の上にグラスを置く。水は表面張力並みに注いである。
そのうえに、霊夢からもらってきた白札を浮かべる。
両手は、添えるだけ。
「…………」
明鏡止水の地に至った気分になって、意識を集中させる。
イメージは引力だ。モノをこちらに引き寄せる想像を膨らませる。
念じたものをオレの元へと引き寄せる。
白い札を、魔力感度の高いこの札を、オレへ。
「…………!」
白札が、ゆっくりとこちらに向かって移動した。
白札なら引き寄せられる。だが、他のモノになるとまだ引き寄せることができない。
千里の道もワンステップスターティド。
「がんばるぞい」
新しいCampusノートに日付と結果を書き込む。
『能力ノート』。ガキによく見る『ぼくのさいきょうのーと』に匹敵する痛々しさだがそうも言ってられない。
【能力を持つことを知る。白札ならば引き寄せられるが、他のモノはまだできない。地道な努力が必要である。一日一白札を心がけるべし】
ノートに記入を終える
気づけば夕方になっていた。
夕飯の支度をしなければならないが、とてもやる気になれない。
「……外食行くか」
明日はしっかりとごはんを作ろう、と思いながらオレンジに染まった世界に飛び出す。
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