東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~ 作:ようひ
家に帰ってからは、ひたすら能力の発現を目指す。
煙草のケース、動かない。
白札を浮かべる、動く。
煙草のケース、動かない。
白札を浮かべる、動く。
煙草のケース、動かない。
煙草を取り出し、一本吸う。
煙草のケース、動かない。
煙草を取り出し、一本吸う。
煙草のケース、動かない。
「動かねぇな」
n本目の煙草を吸い始めて、疑問を感じ始める。
白札によってオレに能力がある事は分かった。
チカラとは、[物を引き寄せる能力]だと分かった。
しかし、それは今のところ白札にしか効果が表れない。
すなわち、自身が[能力の発現の仕方]を理解していないからなのでは?
白札はオレの微弱に放たれるチカラを感知する。
その微弱は、オレの中に眠るチカラが溢れだしたモノ。
つまり。
(その大きなチカラを使うトリガーを知らなければならない)
早熟型か、晩成型か。
オレは後者のようだ。今までも、遅咲きだった経験が多い。
学校の成績やら、スポーツやら、身体の成長まで、ありとあらゆる能力が遅咲きだからだ。
大器晩成。
焦る必要はない。
「ロマンスが止まらないね」
気分を変えるために外へ出て、煙草に火を付ける。
だいぶ夜も温かくなってきた。
夜の空には三日月が浮かんでいた。
満月ほど光は強くないが、それでも人里は今宵も照らされる。
「月、か……」
月を見ていると、なんだか時間が止まったように感じた。
心があの空に浮かぶ月に引き込まれていくのだ。
それは月の引力によるモノなのだろうか。
「モノを引き寄せる力…」
あの月も、オレの力も、どちらも[引力]だ。
もし、能力として『月の引力』が使えたなら、オレはなんでも引き寄せられるのだろう。
それこそ、地球のような巨大な惑星さえも。
そして、閃いた。
「――何事も思いつきが大事さね」
思いついた事をすぐさま実践するべく、オレは煙草のケースを地面に置く。
そして目を閉じ、バッと両手を前に突き出す。
――魔理沙は言っていた、『魔法はイメージだ』と。
魔法も能力も、同じイメージから成るのではないだろうか。
「…………」
イメージは、月。
月の力を借り、一時的にオレの身体に[月の引力]を宿す想像をする。
脳裏に浮かんでくるのは、月の光。
いついかなる時でも、大地の夜を照らす、美しき鏡よ。
そのチカラ、月のチカラを。
意識を集中させ、一気に開放する――。
「!!」
月面――天から降りた一滴の雫が、オレに零れ落ちた。
何かに追い立てられるかのように、声を上げた。
「月の光よ!!」
叫んだ瞬間、掌が締め付けられるような空気の流動を感じたかと思うと、目の前の煙草のケースがピクリと動いた。
それだけではない。
弾けるようにして地面を跳ねたかと思うと、まるで糸に引っ張られたように飛び、オレの掌に収まった。
握る、握る。それは紛れもなく、そこにあった煙草の箱だった。
一瞬の出来事。しかしそれは、上手く飲み込むことができない。
「…………」
三日月の淡い光は、オレを照らし続けていた。
§ § §
白札を使わずにモノを引き寄せる事に成功した。
距離はおよそ1メートルほど、対象は煙草の箱。
魔理沙の言っていたように、バッと手を出して、ピタっと動作を止めて、意識を集中して一気にグッと開放する。
これによって能力が発現する事が分かった。
イメージは『月』。
月の持つチカラが自分の身体に注がれていくイメージをすることで、精神が安定するのかもしれない。
初めての体験に身体が震えている。
饒筆になるのも無理はない。
大事なのでもう一度書く。
イメージは『月』、自分は「月の光よ」と叫んだ。
バッと手を出して、ピタっと動作を止めて、意識を集中して一気にグッと開放する。
次は、引き寄せるモノの種類、引き寄せの軌道、距離などを調べてみる。
(『オレの能力ノート』より抜粋)
§