東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~ 作:ようひ
今は朝。
イメージは月。
目の前には煙草の箱。
「精神一到、心頭滅却……」
意識を集中させ、[能力]を開放する。
イメージを具現化する。どんなことでも、成功したその瞬間を思い描くことが肝要だ。
「おいさっと!!」
伸ばした右手を開く。惹き寄せられた煙草の箱は磁石に引かれるようにして手に収まった。
何度やっても同じ現象が起こる。
すなわちそれは安定して使えるようになった、ということ。
「マーベラスッ!!」
思い切り箱の底を弾き、煙草に火を付ける。
昨夜に使った能力は、朝にも使えるようになった。
(やはり大事なのはイメージか)
同じように能力で寄せた灰皿に灰を落としつつ、胡坐をかいて天井を見つめる。
年季の入った古い木材に、大きなシミがたくさん出来ていた。
立ち上る煙はそんな天井に吸い込まれていく。
(もっと簡単に発動できるといいな)
煙草はいつもと違う味がした。
吸っているモノ自体は人里で手に入れたモノではあるが。
そろそろ外で吸っていたモノも欲しくなってきた時期である。
「チューチューラブリームニムニムラムラ…」
灰を落としながら、ラジオを付ける。
イカしたロック番組でもやってないだろうか。
チューニングを合わせるのは一苦労だが、音楽に慣れた若者を癒す手段はこれしかない。
雑音の世界に埋もれた秘宝を探す旅に出る。
『……ザッ…ザザーッ…』
幻想郷は結界によって外界から隔離されている。
この電波は一体何処から飛んできているのだろうか?
オレたちのすぐ傍にあったという幻想郷、結界が果たして電波を通すのだろうか?
『……ザッ――次のニュースです』
グッド。宝を見つけた。
ロック番組ではないようだったが。
チューニングを更に合わせていき、音をクリーンにする。
『――先日、京都市内にて、行方不明者が出ていた事が分かりました』
どうやら外の世界のニュース放送のようだ。
やはりラジオの電波は結界を超えてきているらしい。
凛とした声の女性が淡々と原稿を読み上げている。彼女は一体何を思いながら声を発しているのだろう。早く終わらせて帰りたい、と思わないのだろうか。
『行方不明者は、市内の大学に通う大学二年生の男性2名と女性2名の4名です』
「……」
落としかけた煙草を薬指と親指でキャッチする。
『4名は1週間程前に、深夜に伏見山へ行ったことが一人の女性の家族から分かっています』
「……」
『女性の家族は、彼女が深夜にそこへ行くと話を聞いており、それ以降彼女が姿を見せる事がなくなったため、近くの警察に通報した、とのことです』
「…………」
指先に熱を感じる。
フィルター部分まで火が到達していた。
『市内では先月、同大学に通う二名の女子生徒が行方不明となりました。警察は、集団失踪とみて、聞き込み調査を行っています――では、次のニュースです』
ラジオは他のニュースへと変わった。
オレは灰皿に煙草を押し付け、二本目に火を付ける。
(今のニュースは、間違いなくオレの事だ)
あの夜、オレは幻想郷へ行くために[列車]へと乗り込んだ。
周りには誰もいない状況だったはず。凌雅も、ナギも、ソラも、近くにはいない。
しかし、報道は[4名]と言った。
明らかに人数がおかしい。
(……巻き込まれた?)
その可能性は低い。
何故なら列車は[切符]が無ければ乗ることが出来ないからだ。
ならばあいつらは[切符]を持っていた?
または何らかの条件を満たし、列車に乗せられてしまった?
しかし、それならば車内で姿を見ているはずだ――。
(なんにせよ、こちら側に来ている可能性は高い)
ただの失踪なハズがない。
オレと同じ日に失踪したならば、間違いなくオレと同じ世界に来ているだろう。
「……動いてみるか」
煙草の火を消し、和服に袖を通した。
§