東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~ 作:ようひ
「圧倒的解放感ッ!!」
人里を逝く。
家を飛び出したはいいものの、具体的な策は練っていなかった。
人物調査、ということで馬鹿の一つ覚えとして稗田家に行こうとしたが、彼女が外来人について全て知っているとは限らない。
第一、[列車]でオレは博麗神社に降りた。
アイツらがそこにいないということは、別の場所に辿り付いたのかもしれない。
なんにせよ、情報が入ってこないということは、この人里にいない可能性が高い。
(……そろそろ本格的に里の外へ出る必要があるな)
心の中で彼らの無事を祈りつつ、砂利道を歩く。
ようやく夏が来たのか、日差しがジリジリと肌を焼く。
人々も半袖の着物を着始めたようで、チラホラとその姿が見られた。
『でねぇ、新しく出来た床屋さんがとても雰囲気良くて、素晴らしかったのよ』
『まぁ、羨ましいわぁ。私も切ってもらおうかしら…』
『今年は豊作だ。お天道様に感謝だ』
『さっき子供の妖怪が里の外をうろついてたから、関所の人間が追っ払ってたよ』
『お腹減ったからうどんでも食べに行くか』
人里の中心部を抜け、北西門に近い所まで辿り付く。
領地の狭い里は端から端まで数十分で辿り付いてしまう。
北西門近くには稗田家があり、比較的豪華なお屋敷が並び立つ場所だ。
「……」
人は考えが浮かばなかった時、安定の選択をする生き物だ。
オレも人間というサガに踊らされた一人の被害者であった。
目の前には稗田家の門。
「あぁ、悲しきかなオレの発想力……」
?『発想力がどうなされたのですか?』
後ろから声がする。
見ると、羽衣のような絢爛な恰好をした稗田阿求と、同じような恰好をした老人が立っていた。
「発生力なら誰にも負けないぜ、何処からでも湧いてやる」
阿求「発生ですか?」
「なんでもない」
首を傾げる阿求の顔を見て、ピコンヌと閃いた。
そういえば、稗田家は人里の関門を管理していると聞く。
「阿求、頼みがある」
阿求「なんでしょ――う!?」
オレは阿求の肩を掴んだ。華奢な身体つきで、力を入れれば崩れてしまいそうな、儚い女の子。
昼夜だろうが、野外だろうが関係ない。
こういうのは勢いと雰囲気が大事なんだ。
オレは幼さの残る阿求の顔をまじまじと見つめた。
「お前……が、欲しい」
阿求「!?」
ボンッ、という爆発音と共に、阿求はその場にへたり込んでしまった。
「そう、人里を出る許可が――あ?」
やり過ぎてしまったらしい。顔を真っ赤にして、目が泳いでいる。
阿求を抱きかかえようとオレが手を差し伸べた時。
首にひんやりとした何かを感じた。
それは温度というよりも、氷のように冷たく、オレの全身を強張らせるには容易だった。
?『小僧、死にたいか?』
耳元で囁く老人の声、阿求と共にいた爺だった。
――この爺さん、いつの間にオレの背後を取っていた?
「……過ぎたことをした。すまない」
傍にいた護衛の老人が手に持つ短刀をしまった。
この爺さん、速過ぎるだろ?全く太刀筋が見えなかったんだが。
老人『許可を得るのなら、ついて来い』
老人は、明らかに敵意を感じる視線をオレに向けた。
人間離れした色、一体どんな人生を重ねれば、このような人を信じない眼をすることが出来るのだろうか。想像もつかない。
老人『妙な動きをすれば、箸の持てぬ身体にしてやろう』
湯気を出した阿求を抱きかかえ、老人はお屋敷に入って行った。
オレは両手を強く握りしめていたことに気付いた。
「……流石に犬食いは不躾だよなぁ」
§