東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~ 作:ようひ
「ファッキン日光!」
稗田家の門をくぐり、真上に輝く太陽に中指を立てる。
文字通り世界の中心として君臨する太陽は、オレたち人類の味方であり敵なのである。
「オレたちの魂が希望の扉を叩くとき、太陽よ!お前はオレたちに明日を約束しろ!」
?『や、ミナト殿』
「そうさ 明日からお前が……ぬ?」
横から声を掛けられ、振り向くとそこにはマミゾウがいた。
門に背を預け、こちらへ手を挙げている。
「おう、アンタか」
マミゾウは少しウェーブのかかった茶髪に丸メガネを掛けている。
彼女の頭には耳が付いておらず、大きな尻尾も今は見当たらない。
人間に近い状態に化けているのだろう。昼間に歩くなら妖怪として当然か。
マミゾウ「稗田家に用事かえ?」
「まぁな」
オレの返答にマミゾウは目を細め、チラリとオレの全身を一瞥した。
つくづく狐なのか蛇なのか、狸とは思えぬ雰囲気を出すことがある。
マミゾウ「……里の外へ行くんじゃな」
なかなかの観察眼だ。見て分かることではない。彼女の読み取る力がそう理解したのだろう。
「そんなとこだ」
マミゾウ「随分と強い決心のように見える」
「世話の掛かる旧友がこっちに来てるみたいでな」
ぴくり、とマミゾウの身体が揺れた。
表情こそは変わらないが、何か面白いものを見つけたかのように、微笑みを噛み殺しているような気がした。
そして、マミゾウはオレに口を近づけた。
マミゾウ「……ここだけの話、聞きたいか?」
「……それは真昼間の人里で話してもいい内容か?」
足音はちらほらと聞こえる。人通りは少ないが、いない訳でもない。
マミゾウは辺りを見渡してから、オレの耳元へと手を当てた。
マミゾウ「つい先日、妙な噂を聞いた」
「噂?」
マミゾウ「[魔法の森]に、『とある人間』が迷い込んだんだとさ。その人間はとても美味そうなんだが……捕まえることは出来ないらしい」
「……ただの人間なのにか?」
マミゾウ「姿恰好は人間なんじゃがな。近づこうとしてもすぐに逃げられてしまう。まるで『妖怪の居場所がはっきりとわかっている』かのように」
「……」
マミゾウ「気にならんか?里の外にいるその『人間』に」
オレの中では疑問が沸々と浮かんでいた。
Q.『その人間は、何故人里へ向かわないのか?』
A.『答えは簡単だ。人里という存在を知らず、向かうことができないから』
Q.『じゃあ、[人里を知らないのに、幻想郷にいる人間]とは?』
A.『幻想郷の構造を知らない人間、つまりは、外から来たばかりの人間である』
――噂の内容が、オレの記憶と繋がった。
「……行ってみるか」
マミゾウ「ほほ、ただの“噂”なのに信じるのかえ?」
試しているようなマミゾウの視線に、オレは口元を吊り上げる。
「信じるも何も、行って実際に見てみるしかないだろう」
マミゾウ「……」
「まぁ、少なくともアンタは嘘をついてなさそうだしな」
マミゾウ「そうかそうか。なら止めはせんよ」
そう言って緑の帽子のつばを引っ張った。彼女の目元が隠れる。
マミゾウ「……好奇心、猫を殺す、じゃ。気を付けて行ってこい」
「アンタは狸だけどな」
煙草を携帯灰皿に入れると、マミゾウは手を挙げて稗田家の門をくぐっていった。
彼女も阿求に何か用があったのだろう。
(もう少しだけ準備するか)
マミゾウ「……本当に、上物じゃのう」
稗田家前にいたマミゾウは、眼鏡の縁を上げた。
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