東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~   作:ようひ

99 / 122
噂

「ファッキン日光!」

 

稗田家の門をくぐり、真上に輝く太陽に中指を立てる。

文字通り世界の中心として君臨する太陽は、オレたち人類の味方であり敵なのである。

 

「オレたちの魂が希望の扉を叩くとき、太陽よ!お前はオレたちに明日を約束しろ!」

 

?『や、ミナト殿』

 

「そうさ 明日からお前が……ぬ?」

 

横から声を掛けられ、振り向くとそこにはマミゾウがいた。

門に背を預け、こちらへ手を挙げている。

 

「おう、アンタか」

 

マミゾウは少しウェーブのかかった茶髪に丸メガネを掛けている。

彼女の頭には耳が付いておらず、大きな尻尾も今は見当たらない。

人間に近い状態に化けているのだろう。昼間に歩くなら妖怪として当然か。

 

マミゾウ「稗田家に用事かえ?」

 

「まぁな」

 

オレの返答にマミゾウは目を細め、チラリとオレの全身を一瞥した。

つくづく狐なのか蛇なのか、狸とは思えぬ雰囲気を出すことがある。

 

マミゾウ「……里の外へ行くんじゃな」

 

なかなかの観察眼だ。見て分かることではない。彼女の読み取る力がそう理解したのだろう。

 

「そんなとこだ」

 

マミゾウ「随分と強い決心のように見える」

 

「世話の掛かる旧友がこっちに来てるみたいでな」

 

ぴくり、とマミゾウの身体が揺れた。

表情こそは変わらないが、何か面白いものを見つけたかのように、微笑みを噛み殺しているような気がした。

そして、マミゾウはオレに口を近づけた。

 

マミゾウ「……ここだけの話、聞きたいか?」

 

「……それは真昼間の人里で話してもいい内容か?」

 

足音はちらほらと聞こえる。人通りは少ないが、いない訳でもない。

マミゾウは辺りを見渡してから、オレの耳元へと手を当てた。

 

マミゾウ「つい先日、妙な噂を聞いた」

 

「噂?」

 

マミゾウ「[魔法の森]に、『とある人間』が迷い込んだんだとさ。その人間はとても美味そうなんだが……捕まえることは出来ないらしい」

 

「……ただの人間なのにか?」

 

マミゾウ「姿恰好は人間なんじゃがな。近づこうとしてもすぐに逃げられてしまう。まるで『妖怪の居場所がはっきりとわかっている』かのように」

 

「……」

 

マミゾウ「気にならんか?里の外にいるその『人間』に」

 

オレの中では疑問が沸々と浮かんでいた。

 

Q.『その人間は、何故人里へ向かわないのか?』

A.『答えは簡単だ。人里という存在を知らず、向かうことができないから』

 

Q.『じゃあ、[人里を知らないのに、幻想郷にいる人間]とは?』

A.『幻想郷の構造を知らない人間、つまりは、外から来たばかりの人間である』

 

――噂の内容が、オレの記憶と繋がった。

 

「……行ってみるか」

 

マミゾウ「ほほ、ただの“噂”なのに信じるのかえ?」

 

試しているようなマミゾウの視線に、オレは口元を吊り上げる。

 

「信じるも何も、行って実際に見てみるしかないだろう」

 

マミゾウ「……」

 

「まぁ、少なくともアンタは嘘をついてなさそうだしな」

 

マミゾウ「そうかそうか。なら止めはせんよ」

 

そう言って緑の帽子のつばを引っ張った。彼女の目元が隠れる。

 

マミゾウ「……好奇心、猫を殺す、じゃ。気を付けて行ってこい」

 

「アンタは狸だけどな」

 

煙草を携帯灰皿に入れると、マミゾウは手を挙げて稗田家の門をくぐっていった。

彼女も阿求に何か用があったのだろう。

 

(もう少しだけ準備するか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マミゾウ「……本当に、上物じゃのう」

 

稗田家前にいたマミゾウは、眼鏡の縁を上げた。

 

 

§

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。