夢のチカラ Episode origin~Before the Animarle 作:みーぷ
それでもここまで進みました。
ユイ達の元を後にした2人。美来は玲音に無言で引っ張られるまま着いていった。王宮には戻らず、玲音の家に帰り、首をかしげながら出てきた母親も無視し、2階の部屋――自室なんだろう――に連れ込む。
視線で座るように促して、自分自身も机の椅子に倒れ込む。
「いやまじで予想外」
最初に発した言葉はこれだった。
「…何が?」
その意味が理解出来ず、美来はこう尋ねるしかなかった。
「んー…クロの暴走」
何事もないようにそう言い、付け加える。
「僕らはもう関与しないほうがいいのかもなぁ…。流石にこれは厳しいというか」
突然の撤退宣言に驚きを隠せず声量を上げる。
「ちょっと待ってよ、何も分かんないよ。ユイちゃんとユヅカと玲音だけ原因解明したみたいじゃん。
なんでだんまりなの?なんで教えてくれないの?」
「ごめん……これは法に触れる……。いくら美来でも教えられない」
目をそらせたまま玲音はため息をついた。
「法律って……そんな大事(おおごと)なら余計…なおさら…どうしてそこまで大きい問題になっちゃうの。今までに打つ手はなかったの!?わかんないよ、全部わかんない!」
思わず叫んで立ち上がった美来にも、玲音は決して顔を上げようとしない。
「……ごめん」
「ごめんって…そしたら解決策ないってことなの?ユイちゃん達だけならどうこう出来る問題なの?それなら手は出さないよ。でも…こんなの納得いかないよ。わがままかもしれないけど、こんなの…」
「行動出来てたらもうしてる!出来ないから大事になったんだ!僕が…僕がもっと先の未来まで考えていれば…!もっと理解していれば!」
感情的に反論しながらも、絶対にボロを出さない玲音。それでも美来は、踏みこんではならない領域に入ってしまったことを理解した。
「何か理由あるのはいくら鈍感でも察するよ。
なら、もう私はこの事件には関わらない。大人しく帰るね…」
部屋を出ていこうとした美来に、反射的に玲音は声をかけていた。
「それはダメだっ!」
「え?」
「それじゃ…それは最悪の場合だ…多分、今1番いなくちゃいけないのは誰か、皆を知ってる人。だから…ダメなんだ」
玲音の言っていることは全く焦点も内容も詳しく説明されていない。
だが、美来が見た玲音の表情の中で、最大級に辛そうな、それでいて切実な何かが込められているのを見て思わず息を呑む。
「皆を知ってるって…?
どうしてって聞いても答えられないんだよね。
ほんとに皆考えてることが分からないよ。何も分からない。
でもわかった。一応残るよ…」
すると扉が開いて、入ってきたのは紛うことないネネとユヅカ。お邪魔します、と言ってユヅカが音を立てずに閉める。
「美来、ごめん。だいぶ混乱したでしょ」
「ま、まぁ」
申し訳なさそうに声のトーンを落としてネネがいきなり謝罪。ユヅカも頭を深々と下げて懇願した。
「でもお願いします。手を…貸してください」
何の為にどう手を貸すのか。釈然としないまま、美来は話を聞く。3人が説明している間も真面目に耳を傾けてはいたが、やはりどこか不満そうな雰囲気が漂っていた。
「クロ君は3人の言うとある事情で、思わず飛び出してアルバムを取りに来たってことなんでしょ?それに何が書いてあったのかは聞かないけどそのせいで事件を起こした…?」
「んー、まぁ詳しいことは除くとそうなるかな。でもそれの元凶は判明してないんだよね。本人に直接聞いてみるしか方法もないし」
問題はなかなか大変めんどくさいことになってきているようだ。全員が難しい顔で会話をする。
「そういえば、玲音さんは時空とか空間操るんですよね。人の存在位置とか把握出来ないんでしょうか?」
「人によるな」
腕を組んだまま即座に返して、考え込む。
「ただ向こうが原子レベルで分解していた場合は危険かな。原子を捕獲することは出来るけど周りの空間から切り離すことになるから…」
「もし漏れが出た場合に完全に戻せなくなる?」
曖昧に頷いて更に続ける。
「そ。ひとつでも遺伝子とか欠けるとそれこそ取り返しのつかない事態になる。
せめて分解を阻止できれば…」
「じゃあどこにいるかわからないなら全世界の分解を一時的に止めれば出来る?」
ぶっ飛んだ美来の質問に思わず呆れた声をあげてから、
「まぁそりゃ出来るな。そうすれば単純に確保すればいいだけだし。
でもその状況を作ること自体困難だろ。いくらお前でもさぁ」
とりあえず、とでも言いたげに肯定する。
全世界、と簡単に言うが実質12の異界が存在し、流石にこの国から出ていないであろうことは確実だとしても。
「膨大すぎるでしょ!無理無理、どこからそんなエネルギーと魔力持ってくるの。無茶だよ」
ネネですら当たり前のように反論するが、ユヅカは何かに気づいたようにハッと表情を変えた。
「太陽とか…ですか…?」
「「太陽?」」
「うん、そんな感じ!」
視線で説明を促す2人に美来は簡潔に解説する。
「ユイちゃんがあの能力の原理は放射線の分解って言ってたよね?それを根源に発動しているならその元を止めさえすれば力は使えない。
この世界で放射線が出ているところだけを止めれば!」
「いや、でも普通に植物とか食べ物にも含まれているんじゃ…」
「じゃあ放射線全てを集めちゃおう。遥かに楽だよ、世界丸ごとより」
笑顔で提案する美来だったが、玲音は真面目に問い返す。
「だとすると核開発施設や原子力発電所、病院とかその他もろもろってことだよな。
言っとくけど僕じゃ出来ないのは承知の上だよな?」
質問を予想していたように言葉の途中で頷くと、さも当然のごとく告げる。
「もちろん私がやるよ。一筋縄ではいかないだろうけど何とかするって。
その分皆にはクロ君の確保頼むからね〜」
おどけたように計画を立てる美来だったが、3人が心配そうな顔で見つめているのに気づいて首を傾げた。
「ちょっとちょっと、どうしたの?」
「だって…万が一失敗したら行き場を失った放射線は美来さんに直撃するわけで…。
被爆で云々のレベルじゃないと思うんですが…」
「うーん…まぁそっか。
じゃあ成功すればいいんだから大丈夫だよ」
あくまでも軽い様子で返答する美来にネネは苦笑いを返した。
「これじゃ運に頼るしかないかー。
分かったよ、任せるから成功すること!ミスったら承知せんぞ?」
「がってん!
よしじゃあやろう今やろうすぐやろう」
『はぁ!!??』
すぐさま魔法を発動させようとしたので、全員が素っ頓狂な声で叫ぶ。
「え?時間もったいなくない?」
「いや、そういうことじゃなくてさ…。
あぁもういいよやるよ!」
説得を諦めて玲音も時空の調整に入る。
「ネネ達は特に出来ることないからもし魔法に綻びが出来そうだったら塞ぐね」
小刻みにユヅカも頷きながら同意して、即急の追跡手段を実行する用意は整った。
「玲音、行くよ!」
「あいよ!」
床に両手を当てた美来は目をつぶると、深呼吸をひとつすると、もう一度大きく息を吸って目を見開いた。
その途端、まるで重力が唐突にかかったかのように辺りがとてつもない魔力…のようなものに包まれる。
「これは…?」
「大きな魔法を使うほどその術者の周りでは副作用とも言える事象が起きる…なるほどね」
地面の胎動とも言えるような小刻みの揺れに対してネネはそう解釈した。
「――――っ!」
声にならない悲鳴が、2人の思考を引き戻す。襲いかかる魔法の代償では無いことを信じて…。
否。
そうと知っていても、知らないふりをして玲音はその瞬間を待つ。
「やっぱりっ…原発は…っ大きいっ…!」
歯を食いしばってひたすら耐えて耐えて我慢する。
「〜〜〜〜!」
「もうちょい頑張れ!」
「美来さんファイトです!」
ユヅカたちが思わず応援した直後。
残った力を振り絞るようにして掠れた声で美来は玲音の方を苦しげに見つめた。
「収束……全部……収監、完了……っ!」
その言葉を聞いてコンマ後すぐに感覚を全ての空間に集中させ、自分のいる場所から全方位に向けて存在のみを追跡する。視覚、聴覚を完全に遮断し、己の走破力だけを信じて――。
「地球走破……魔界…幻夢…木花…」
無意識に声を漏らしながら、クロがいる可能性の少ない地域から感覚のみで地形を把握しながら、全ての空間を隅々まで洗い出すという荒技で看破していく。
「地球…痕跡のみ…アニマーレ…西南部…移住区…。
――よし、見つけた」
間髪入れずに空中に転移するための穴を開く。
「美来、解除していいぞ!」
「まだだめだよっ。その場で捕まえたの確認しなきゃまた逃げられるっ!」
「玲音さん早く突っ込みましょう!美来さんの体力と魔力が持ちません!」
ネネが辛そうで動けない美来を抱えて穴に飛び込む。後を追って2人もジャンプで転移した。
「ネネ!目の前正面13メートル高2メートル、建物2階1番手前の部屋っ」
聞き取れるかぎりぎりの早口で言った玲音にネネは親指を立てて走り出す。
「援護します!」
ユヅカも自分の後ろで水蒸気を揮発させて猛烈な追い風を起こすと、自分自身も追いかけて駆け出す。
「蹴破り失礼っ!突っ込むぞー!」
叫ぶな否や、窓を蹴り、そこそこ厚みのあるガラスを一息に割砕いて室内の床に着地する。
「玲音いた!」
突然の大音響に流石に驚いたのか、一瞬目を丸くしたもののすぐにそれを取り繕い、逃げようとする。
「――――させるかっ」
右手を一閃。
それだけで空間ごと捕えられ、原子分解を使えなくなったクロは、あまりにもあっけなく体の自由を奪われる。
「なんで…原子…?」
「もう…逃がさないから。ユイちゃんたちにも謝っ、て…」
ネネの背中の上でそこまで言うと力尽きたように気を失う美来。この国に来てから2度目である。
ちらりと視線を1度だけ向けたネネはため息をついて、
「だーから言わんこっちゃない。無理すんだからさー。
クロも分かってるくせになんでそんな逃げたんだか」
呆れ顔を隠そうともせずにそう言った。
「……」
黙秘を続けるクロを見たユヅカは盛大にため息をつく。
「自分たちの過去を隠そうとするあまり何人の人を危険な目に合わせてるんですか?
これが全ての人にとって最善と思ったことをしたまでです。今更変えようが――」
「――ならなんでだよ」
「え?」
ユヅカの文句を遮って、一同を軽く睨みつけながらクロはやっと口を開いた。
「今更?それはこっちのセリフだろ。忘れられて、俺らだけ苦労してそれでもどうにかなった所にまた事件?
そりゃ俺に負い目はあるとしてもどこに真実あると思ってる?まじわけわからねぇっての。見落としがあるのに気付かないとか…」
「ちょ、ちょっと待ってよ。クロ、あんた嘘ついてない。それはネネが断言する。
だとしたら他にも共謀者がいると言っているようなもんじゃない!」
信じられないものを見たように声を裏返して叫ぶ。
「だから言ったろ、俺はやってない。俺が、やったわけじゃない。
そもそも考えてみろよ。俺だけじゃなくあいつらにもそんな力はない。なぜなら魔力は持ってないから。しかも俺らが使えたのは生活に必要なレベルの分解・構成技術であって、あんな大量の岩を生成したりたくさんの人を分解したりするなんてこと出来るわけないだろ。
…そもそも他人を分解するなんて非人道的なこと、するはずがない」
クロの主張に絶句する3人。ユヅカはネネを思わず見たが、
「嘘は、ない」
再びきっぱりと告げられ、ありえないとばかりに顔をしかめる。
「それなら!誰がこれ程の大規模術式をかけたんだよ!
部外者巻き込んで、防ぐために美来に2度も危ないことさせて。ユイなんか飛び出していったぞ?
誰がこんなこと…」
「誰って…お前、まじで気づいてないの?」
心外そうな口調のクロに玲音は眉をひそめた。そして意図せず大声をあげる。
「何にだよ!」
そこで初めてたじろいだ様子を見せたクロが僅かに躊躇してから、半ば落ち込み気味に告げた人物は。
「お前の父さんだよ。
玲音じゃない、春岡の方の。
――慧の父さんが、俺に手を貸したんだ」
なんかまた衝撃の事実が発覚しましたね。