夢のチカラ Episode origin~Before the Animarle 作:みーぷ
「ちょっとちょっと、あれなんだったの!?
玲音は何に気づいたっの?」
強制転移に流されるまま美来達は全く知らない場所に移動し、訳の分からないまま言われたとおりにテレポートを繰り返した。
「こんなに違うとこ行ってるのにまだトレーサーの気配が着いてきてる…一体何者?玲音はなぜ戻ってこないの!?」
ネネが後ろを振り返らずに叫ぶ。一瞬ごとに移動し続けるのでもはやどこに着いてどこに向かっているか定かではない。
「もう20回は繰り返してるよ〜」
「流石に酔うってば…」
うんざりした表情の美来が体をじたばたさせながら喚いた。ユイに至っては転移慣れしてないせいか、すでにヘロヘロで空間酔いだった。
「トレーサー、まだ付いてますか?」
「だいぶ気配は遠ざかってきたけど、まだ十分とは言えないな…」
「じゃあ博打かけてみるか…」
そう言うなり美来は体を振り向かせて(転移が続いているため体勢は宙に浮く形になり、倒れたりするということはない)、
「せいっ」
手刀を切るかのように手を斜めに閃かせる。
空間斬り――。
本来は空間そのものを転移させたい時に使う技だが、応用すれば斬った部分を取り除いたり切り離したりすることが出来る。美来は以前それを玲音に教えてもらっていた。
「おっ、効果あり!
美来、もういっちょ!」
大幅に遠ざかったトレーサーを感知したネネは背後の美来に向かって叫んだ。
「そぉ…れっ!」
先程よりも大きく早く腕を動かし、1回ではなく連続で斬撃…ともいえる技を繰り出した。
空間斬りは使用者本人の身体能力に左右されやすいものだ。俊敏性・空間把握能力・魔力、そして体力や言葉では表せない様々なパラメータによって、その威力であったり持続時間が変わっていく。
玲音に関しては一撃で完全遮断するほどだが、そこまでの技量は流石に持っていないがための連続技。
「おっ、消えた消えた!」
半ばホッとしたように報告したネネに、ユイは大きくため息をついた。ユヅカも思わず肩の力を抜く。
「一時はどうなるかと…。にしても玲音は大丈夫かな?
相当切羽詰まった様子だったよね」
「ううーん、詳しいことを話さないのはいつもの事だけど今回はどうも身の危険というか違う気がするんだよね…」
幾度となく混乱の境地に立たされる美来なだけあって、玲音の性格はそれなりに熟知していた。
「玲音のお父さん――だと思っていた人が実は危険人物で、すごく強い…ってことだよね。で、政府の偽証明証を作れたり遠距離まで飛ばせるトレーサー…。
ううーん謎だぁ」
犯人のしっぽを掴んだと思った瞬間の新たな展開。全員がどうすればいいのか判断しかねていた。
コンコンッ。
唐突に部屋の扉がノックされ、皆が飛び上がった。
「だだだ誰っ!?」
美来が上ずった声で問うと、呆れたような返事がかけられた。
「この部屋の持ち主に決まってるでしょ。入るよ」
少し低めの女性の声がして、ドアノブが回る。
「まったく、急になんか来たと思ったらユイさん達じゃん。どしたの?」
「あっははは…。実は追ってから逃げてまして…」
苦笑しながらユイが言って、頭の上にハテナが浮かんでそうな美来に説明する。
「この人はリコさん。一緒に転移させられた最後の1人だよ。ほら、占いで稼いでる友達のこと言ったっけ?」
そこでリコに向き直った。
「仕方ないじゃん、こっちはこっちで大変なんだから」
「まぁそれはこっちで見てたけどさ…。
にしてもまためんどくさいことになってるねー」
全てを知っているかのように腕を組んで真面目な顔でそう言う。
「一応、今までのことは全部知っていると思ってくれていいよ。ユイさんの言う通り占いで見てたから。
――あれって変わってるの?」
「アニマーレじゃ見ないからね、星を使った占いは。地球出身独自だよ」
脇からネネが補足した。
「あ、ちなみにお互いさん付けなのは仲悪いとかそーゆーのじゃないからね。中3の時なぜかさん付け流行ったんだよね」
「あ、なんかそれ分かる。まっしーとかにもいつの間にかさん付けで呼ばれてた」
つい美来も同意すると、感慨深げにリコはため息をついた。
「あー…そっかぁ…」
「ん?何が?」
「なんでもないよ。
それじゃ、こっち来て。真犯人の正体、暴いたる」
背を向けて歩き出すリコ。さっき、刹那に浮かべた哀愁はすぐに消えていた。
「暴いたる…って占いで?」
「名前とかハッキリした正体は分からなくても特徴とか何か手がかりになるものを導き出せる自信はあるよ。相手がいくら高術者だとしてもね」
「へぇ…!」
「で、多分そいつ玲音のお父さんっての嘘だと思う。
しかも厄介なことに姿がバレないように少なくとも4重…くらいは変化をかけてる」
「うわ、厳重」
驚いて体を仰け反らせる美来に苦笑をひとつしてから、リコは続けた。
「それとこの世界…アニマーレや人間界、魔界の人物でないのも確認済み」
『ええっ!?』
さらりと言った言葉に一同が素早く反応する。
「じゃ、じゃあ本当に何者? どこの国の人なの?」
ユイがより一層困惑した様子で呟くと、リコはおそらく、と前置きしてから続けた。
「うちが考えうる範囲では…フェアリーが絡んでるはず。種族は人間だけど幻夢界に関係してると思われる」
「いやいやいや冗談きついって…」
今聞いたものが信じられないかのようにネネはユヅカを見つめる。直視された本人は考え込むと、
「まぁそう仮定すると変装に長けているのは分かりますが…。フェアリーは追跡関連の魔法は苦手なはずです。人間とはいえ、いや、人間だからこそ幻夢界の住人はフェアリーの能力を越すことは出来ない…と認識してますが…」
「確かに基本的に世界の原則では他国から来た人はそこの住人を超える魔法や異能を使うことは出来ないとなってるけど、それを言ったら既に枠から外れる人はそこにいるじゃないか」
身長が自分より低い美来を見下ろして、リコは少しだけ面白そうに笑う。
「オーロラファンタジーでは限界突破で変身してとてつもない高さの崖を登ったり、玲音と初めてあった時はなんだかんだで銃を使えちゃったし、玲音が生存する為に自分自身が一度死んでまで守り抜いた。
はたまた操られた玲音に瀕死ながらも魔法と剣で時間稼ぎしたり、昨日だって幾つもの大岩を住民を守りながら転移させた。
2回も死にかけて今ここで元気にトラブルに巻き込まれてる美来さんはもう規格外の訳わかんないやつだよ」
「な、なんかそれだけ聞くとすごいことやったみたいだけど…」
弱々しく笑い返す美来だったが、リコは静かに首を振った。
「みたい、じゃなくて事実なんだよ?
美来さんが守ってきたのは人だけじゃなく世界まで含まれる。大きすぎるけど確かに実行してきた。
だから…フェアリーにも目をつけられたのかもしれない」
いきなり話が核心に戻り全員がハッとする。
「だから…?元凶は…私?」
「1番はそれが原因だと思うね。玲音が強制転移させたと思うけど、僅かながら美来が優先されていた。
あと、玲音が今まで美来に銃や剣、空間系の技術を教えてたのはなんでだと思う?」
「え、えっと」
唐突に質問を振られ、しどろもどろになる美来。
答えを待たずにリコは再び口を開く。
「1番狙われる可能性が高いからだよ。
力あるものは自分より上がいることに許せなくなる時がある。
美来さんは強い。だからこそ、自分の身を自分で守れる力も必要だった。他人のための魔法だけでなく。そして、玲音がいなくてもどうにかするために」
「だから玲音は必要でないことまで教えた。空間斬りだってそう。普段使うシチュエーションないでしよ? でもさっきみたいに追っ手がいる時にかなり有効だ。
たまに魔法が効かない相手がいる。人間界以外の国ではほとんど異能があるから、そういう奴は少ない分物理攻撃が効いたりする。だから銃や剣を教えた。
瞬間移動も使い手の能力によって、行き先がバレてしまったりわざと偽装出来たりする。だから定期的に転移を使うことで自然にその技が身につくようにしてたんだ。
――玲音は、ほんとうに過保護だね…」
遠くを見つめるリコの目はどこか悲しそうに美来に写った。
「玲音は、ずっと私に…」
「そうだね。やりすぎたとは思うけど必然だったんだよ。彼女自身が持っている技能を全て渡すつもりでさりげなく伝承してたんだと思う。
きっとあいつとの約束は関係無しにね…」
「…………。
私、玲音になんにも出来てないよ。いつも引っ張られて怒られて助けられてるだけだよ…」
いつの間にかリコと美来しか喋る者はいなかった。今までの玲音の行動の意味を知り、呆然としていた。
美来は放心状態で視線を宙にさまよわせながらぽつりぽつりと呟くように独り言――のように聞こえる――を呟いた。
「玲音、いつも私に『出来る』って。『どうにかなる』って。私じゃ考えられない作戦とったり知らない魔法や武器使ったり…。
私が自分で自分を守れるようにって…そんな…。強い人に狙われるかもしれないから知らずに私に知識くれたなんて私…」
顔をくしゃりと歪めると、いきなり立ち上がって部屋を飛び出した。
「美来っ!!」
「やめてあげて」
ネネが追おうとすると、リコは首を振ってそれを静止した。
「まだ…早かったのかもしれない。でもそろそろ自覚しないと危険…を超える危機的状況に陥った時が怖いから。
玲音にいつか伝えて欲しいって言われてたけどやっぱり衝撃は大きいと思うから、ほっといてあげて。今だけは」
「リコ…あんたどこまで知ってるの。そんなことずっと玲音と一緒にいたネネたちですら知らなかったんだよ」
厳しい表情をしながら、どこか泣くのを我慢しているような顔をして、ネネは問い詰める。
「玲音は…うちが占いで生計を立てている事を知ってる。だから自分自身が万が一死んだ時、伝えられる人を作っておいたんだよ。占いは知りたくもないことを教えてくれることもある。だから、そうなる前にわざとうちに知らせた。全てを。
ほらね、やっぱり過保護なんだよ」
でも、とユイが胸を押さえながらつっかえるように言った。
「どうして美来さんがそこまでされなきゃ…玲音くんがそこまで守らなきゃいけないの?
ただの中学生で、ただの友達なのにっ!」
吐き捨てるような叫びに誰もが黙り込む中。
「――所詮人って生き物は自分勝手でさ」
1人だけ、応える者がいた。
「自己満足で相手に物事を押し付けたり逃げたりするんだよ」
その場の全員が見たのは傷だらけで汚れた玲音の姿。
「玲音さん…おかえりなさい…」
かすれた声でユヅカがその名を呼ぶ。
ひねり出したような泣き笑いをしながら玲音は小さく肩をすくめた。
「ただいま。
やっぱりこのタイミングで話したか。潮時だとは思ってたけど、もう少し長引けば良かったなぁ」
俯くと、長い前髪のせいでその顔はほとんど見えなくなった。
「ホントはさ、普通の人みたいに友達と遊び回って勉強に明け暮れて、部活でヘトヘトになって家で毎日美味しいご飯が食べられる。そんな生活を送ってほしいよ。
でも能力と状況がそれを許さなかった。
あいつ、強いんだよ。僕なんかすぐに越しちゃうくらい。だけどそれが分かってない。どう活かせばいいかも理解してない。
だから余計無防備で、自分を守るってことを知らないんだ。僕の為に2回も死にかけて、それがまるで当たり前みたいに笑い飛ばして。その度にもっと僕が強ければって…。
でも結局僕だけじゃ限界があるから、せめて僕が知ってることを全て教えてあげなきゃって…」
決して泣かない玲音だったが、この時は僅かに鼻声だった。
「“普通じゃいられない人”なんだよ。変えようもない事実。
だから僕は、僕は――」
「もういいよ、玲音、わかったよ。
あまり自分を責めすぎないで」
ネネが我慢出来ずに止めに入った。玲音の体はどうしようもなく震えていて、とても見過ごすことができなかった。
お互いが背負った責任と義務。
それがとてつもなく重いもので、避けようのない現実だった。
「その傷、大丈夫?…治すね?」
ユイは玲音に歩み寄り、黙って手をかざす。白い光が生まれ、傷は一瞬で治った。
「体の傷は…すぐ治せるけど心はどうしようもないんだよ。
美来を守るって約束したんでしょ、“慧”。喜与志と。
なら、そこまで責任とりなさい。それが自分の義務だと思っているなら、傷ついている美来を戻すのは慧の役目だよ」
ネネはそう言って微笑んだ。
「ネネは慧たちがどんな約束したのか詳しくは知らないけど、大丈夫。きっと大丈夫だよ。
玲音、いってらっしゃい」
ずっと下を向けていた顔を上げて、玲音は頷いた。
「ごめん…ありがと。行ってくる」
そしていつものように瞬間移動ではなく、走って部屋を出ていった。
感情移入が激しくて書いていて辛いです…。