夢のチカラ Episode origin~Before the Animarle 作:みーぷ
「――という訳で僕のところに来たと」
「そうそう…。勉強中すみませんでした…」
「いや、怒ってはないけどさ」
「顔怒ってるじゃん…許してくださいごめんなさい…」
ペコペコと頭を下げる美来にため息をつきながら玲音はシャーペンを置いた。
「少なくとも空間・時空を使っての蒸発現象はないよ。時間流の中でそんなことが起こっていたら瞬間移動なんて出来ないし」
「そんなぁ…無駄骨だったぁ…」
「無駄とか言うな!
まーでも最近発表された論文で似たようなのはあったな」
そんなことを言い出した玲音を心底意外そうな目で美来は見た。
「…お前今絶対『玲音がそんなもの読むんだ〜』とか思ってるだろ」
「……ハイ…思いました…」
縮こまる美来にニヤリと笑って
「後で実験付き合えよ?」
といってから
「アニマーレの中枢研究機関だっけかな。『原子の誕生とその消失』ってやつで物質の蒸発に似たような事が書かれていた気がする」
嫌そうな顔をしていた美来はハッとなり、叫んでいた。
「それだっ!!」
「へ!?」
「学校でそれを話していた時ワープホール現れて声が聞こえたの。イントネーションがアニマーレだ
った。
――ねぇ、その論文、どのくらいの人が知ってるの?」
「アニマーレの王立病院のみかなぁ」
ほんの一瞬、何故そんなもの知っているのか疑問に思ったが、すぐにいつものハッキングね、と理解し苦笑しながら美来は頷いた。
「てことはその大学の関係者か論文作成者が一番妖しいってことだね、よし行こう今すぐ!」
「はっ!?あそこアポ取らなきゃ入れな――」
「テレポーーっト!」
「わっちょ待てって――!」
問答無用で襟元を掴んで移動する美来に諦め顔で再びため息をついた玲音だった。
「…それで?この後どうするの?」
「…うーんと、どうしよう」
「つまりは無計画?」
「………すいませんでした」
アニマーレは治安がいい為、入国規制も緩く、審査官も丁寧かつにこやかに応対してくれたおかげで何の滞りもなく入ることが出来た。
門をくぐって美来は一言、
「さて、こっからどうしようか」
と真顔で玲音を見た。聞かれた本人は「やっぱりか…」と呟いて、続けてこう言った。
「取り敢えず行き当たりばったりで大学とやらに行くしか無いだろ…それくらい考えてから転移しろよな」
「了解でっす。
――すみません!王立大学ってどこにありますか?」
玲音からの応答をきくなり、道を行く国民に駆け寄って、大学の場所を聞き出す。その行動の早さにやれやれと首を振りながらも玲音は自らを催促する美来の声について行った。
「…で、どうだった?」
「駄目だったー」
心優しい国の人達のおかげですんなりと大学まで進めたものの、大学の前にはガードマンが何人もおり、セキュリティが何重にも働いているらしく専用のカードか、王族から直々にもらう許可証がなければ入れないということだった。淡々と話す警備員に、
「どうしてここまで警備が厳しいんですか?」
と玲音が尋ねたところ、彼は困った表情をして答えてくれた。
「それは大学内部の者しかわからない。実際、大学といっても全容を知っているのは王家と教授、一部の学生のみ。入学するまで詳しいことは何一つ不明なんだよ」
大学内部の秘密主義の固さに思わず顔を見合わせた二人は、その警備員にお礼を言い、ひとまず大学から距離を取ったものの、ここまで来て、謎が解けそうなのに引き下がるまで温厚ではなかった。
「くそ、ここまで外に漏らしたくないとかどんな大学だよ」
「――うーん、こうなったら一か八か…玲音、王族さんとやらに直談判しにいこう」
「………今回ばかりは賛成だ。よし、行ってやろうじゃん
ほい、移動すっぞ」
同意するなり玲音は美来の手を掴んで有無を言わさず転移した。
――さっきのお返しのつもりだろうが。
刹那、景色が切り替わり、周囲は多くの人が行き交う商業区へと変化した。ここが王宮前のメインストリートなのだろう。
「へぇー、さっきのところもそれなりに人がいたけどこことは段違いだね、大混みだ。
あ、この肉まんみたいなやつ美味しそう」
露店の商品をキョロキョロと眺めながら進む彼女に
「あのなぁ、観光に来たんじゃないんだぞ?
そもそもお金なんて持ってないし」
「あれ?玲音知らなかったの?ここ、硬貨がまだ普及してなくて物々交換でもいけるんだよ。さっき道教えてくれたおばちゃんが言ってた。
――すみませーん!この肉まんみたいなやつ2つくださーい!」
「……。はぁ…」
「てほほへは、ほうやってはいふ?」
「どうやって入るも何も正面から行くしかないだろ…そもそもこんな他国のやつをあっさり入れてくれるような感じでもないはずだけと」
肉まん――に見えた果物まん的なもの――をほうばりながら、正門へ向かう二人。遠くからみても王宮は、そこまで大きくなく、そこら辺の大学と何ら変わりないスケールだった。華美な装飾もなく、王宮という割にはどこか素朴なものだった。
「門番さんいないんだね、ここ」
大学にはあれだけ多くの見張りがいたというのに、一国の重要人物がいるはずの場所に監視がいないのはとても不自然に感じた。
「これって入っていいのか…?実はセキュリティシステムがめっちゃ張り巡らされていて入った瞬間ズバンとかレーザーでびびびーとかないよな?」
玲音にしては珍しく擬音語が多かった。そして急に考え込む。
「門から堂々と入る…一番手っ取り早いが誰もいない状況だと少しやりがたい…。他の入口を探す…?いや、それの方が実は隠し扉とかで見張りがいる可能性がある訳で警備人数が少ないからそっちに回しているとか…。なんでこんなにも静かなんだ?今誰も貴族とかなんやらがいないのか?だからといって配置人数や警備を怠るほど間抜けではないし…」
独り言で潜入方法を考え始めた様子を見た美来は
「……………」
無言で王宮を見上げ、門をじっと見つめると、
「たのもーーー!!」
唐突に大声をあげた。これには侵入作戦(という名の犯罪)を企て始めた玲音も驚いて素っ頓狂な声で反論した。
「バカお前なにやってんだよッ!?」
その問いに少しばかりむくれながら不満気に答える。
「だってどっかの誰かさん温厚に入るどころか警察のお世話になりそうなんだもん。その癖直したほうがいいよ、玲音いつか逮捕されそうだし」
ぐうの音も出ないようで、黙り込んでしまった玲音を片目に門の中を覗こうとジャンプする美来。
――その時。
土埃を巻き上げて走るような…あたかも大軍が攻めてくるような大量の足音が門の奥側から迫ってくるのに二人は気がついた。
「仕方ない、迎え撃とう」
腹をくくった二人の前で、威厳の欠けらも無い小さな門が内側から開け放たれた。
「うーるさああい!
誰だれネネのお昼寝邪魔したの!
……ん?」
あんなにも大きな足音がしたというのに、門の前に立っていたのはたった1人の女子だった。年は同じくらいか。
玲音は思わず門の中を覗こうと首を伸ばして、死角になっている壁際に張り付いているのかとも考えたが、その様子は全くない。
ぷんぷんと音が出そうな程に怒っている彼女に向かって美来は恐る恐る――先刻聞いた名前を交えながら――質問した。
「ええっと…そのぉ…ネネ…さん?
さっきの大勢の足音って、他に誰かいらっしゃるとかそういったのって…」
「んー? あれ?
ネネ一人だよ、ぶっちゃけ今手薄だからさ、わざと大人数に見せかけて門まで来ただけ。
どうやってとか聞かないでね」
「じゃあどうしてですか?」
心から不思議そうに問い返す美来に一瞬目を丸くしてからぶっと吹き出して、
「なるほど!そう来たか!
おっけ、中で話そ」
「「え!?」」
「寒いっしょ? おやついっぱいあるし食べながら話そうよ」
気前がいいのか何か裏があるのかわからないネネの言葉に無意識に目線を交わす二人。
ともあれ、これなら内部に入るという目的は達せられる訳なので、特に躊躇せずに門をくぐり、王宮に足を踏み入れた。
なんとか王宮に入ることが出来た二人。
さて、このあとどうなるのか…。