夢のチカラ Episode origin~Before the Animarle 作:みーぷ
ようやくストーリーが進みそう。
「しっかし妹の真似上手いなー」
あっさり病院の門を通過し、何メートルもの高さがある本棚に囲まれながら感嘆する。
「5歳下に妹いるんだよね。だからまぁそれをまんま演じちゃえばどうにかなるよ」
「…美来さん、院内は防犯カメラに似たものが常時発動しています。音声もふくめて。なので言動はなるべく常に気をつけても
美来はため息をついて呆れるように呟いた。
「完璧なのねー…。
おっけーわかった、がんばる」
「これなぁに?」
「それは最近研究でわかった論文…すごいことがいっぱい書かれた文だよ」
「論文の意味くらいわかるもん。内容は?」
「うーん、物を消したり現れるようにしたりすることはできるか…見たいな?でも丸っきりそういう結果は出なかったらしいんだよね。原子論のせいで…。原子論わかる?」
「物質の最小の単位?」
「…君の妹、何読んでるのいつも」
「最近は論文関係ばっか読んでるぜ。原子論くらい多分理解出来てる。下手したら俺よりわかってるかもしれない」
「すごいねそれ」
書簡庫には司書が一人いたが、特に怪しまれることもなく自然に振る舞う美来と玲音。流石に10歳児が論文に興味を持ったことに一瞬驚いたようだったが、「難しい文てわくわくするよね!」という無邪気な笑顔に負けて禁書棚から取り出してくれた。
「うー…この字読めない…」
「ん?あぁそれは名前。こっちの言葉で…リュウさんだね。随分日本ぽい名前だなぁ。
あれ?これって司書さん監修してるの?」
素っ頓狂な声で後ろのデスクで仕事をしていた司書に話しかける。
「監修というよりただの助言的な感じですね。僅かばかり化学系には得意なので。あと不足していた構文力を鍛えておきました。初期段階の論文は論文とは言えない構成だったんですよ」
司書さんすごーい、と背伸びしてデスクを覗き込みながら美来は感嘆した。
「今何してるのー?」
「これですか?…一応その論文に関することですよ。これ以上は何もいえません」
「こっかきみつってやつだね!
――ん?こっかひみつ?どっちが正しい?」
「いや、どっちもあってます」
ユヅカがさらりと答える。
「そっか。
…ありがとおねえちゃん!ここ面白かった!また来ていい?」
「もちろんいいよー」
ネネが必死に笑いをこらえながら呼びかけに応じた。背後では玲音――慧がつまらなそうにしていたのは無理もないことだった。
「――それで、論文内容は理解した?それなりに多いと思うんだけど中身が」
「大丈夫。ただ1つだけ。作成者は今どこにいる?どうせなら会って直接話したいというか」
元の姿に戻った美来が要望すると、
「了解しました。すぐ呼びます」
ユヅカのほうから返事が来た。
「多分20分ほどで来ると思います」
どんな風に呼んだのかは定かではないが、もう連絡はついたらしい。
玲音が頭をかきながら首を傾げる。
「僕はよく分からなかったけど。まぁとりあえず物体を原子の状態に戻すことで消失するってしくみだろ?で、物を作る時はその逆的な」
コクリと頷くネネとユヅカ。それに付け加えでネネが続ける。
「ただ1つ問題が、それを使えるのは現状4人ってことなんだわ。てことはその中に犯人がいるということに繋がる訳で」
「そ、それは!?」
「1人目はユヅカ。研究手伝ってたからね。あと3人は論文作成した張本人とその研究所の人。まぁこれは当たり前っちゃ当たり前だよね」
「じゃ、じゃあ犯人ほとんど分かってるようなものじゃない」
「…というか犯人は既に把握しているんです…」
唐突に告げられた事実に驚く玲音たち。いやいやいや、と首を振ったネネは
「それネネも知らないよ!?何それそんな情報なんで掴んでるの?」
しまった、という表情のユヅカ。即座に玲音が疑いの目を向ける。
「違うんです!あくまで推測なんです!
…ただ、研究所の1人が連絡がなくて、ここのところ休んでるです。可能性があるとしたらその人かと」
「確かに今研究所はてんやわんやなんでしょ?だったらそいつは怪しいね。誰?」
「えっと…ちょっと待ってください、名前…えっと…あ、く――」
「ユヅカさぁぁぁん!」
ユヅカが名前を言おうとした瞬間、ドアが勢いよく開いて、1人の女子が入ってきた。
一同が怪訝そうに見つめると、一気に言った。
「魔法が…例のやつが暴走しています!
現在被害箇所は16、うち消滅都市が2!物体の被害届は37件、行方不明が3人です!」
『なんだって(と)!?』
さっと顔色を変えて、ネネは叫ぶ。
「パパとママは!」
「今他国で外交しています!」
「ユイ、二人に連絡!国内に緊急事態警報発動!直ちに王宮集合させる!可能なら瞬間移動を実行。
ユヅカ、術師たちに王宮に魔法干渉不可結界を二重…いいや、三重に貼らせて!」
『了解ですっ』
慌ただしく部屋を出ていくユヅカとユイというらしい女子。玲音はその様子をちらりと見て右手に巻いてあった腕時計のようなものを眺めると、おもむろに口を開いた。
「ネネさん…」
「ネネでいい」
即座に切り込んで修正させる。
「えっとネネ、ちょっと僕の研究所の方言ってもいい?」
「お?もしかして“時空研究所のレイン”発動?」
「…そうです」
「おっけ。いってら。そっちも大変なのね」
玲音もあっという間に去っていく。一人取り残された美来。何かしたげに訴えるかのようにネネを凝視する。
「うーん、じゃあユヅカの手伝いしてもらってもいい?ああ見えて魔法がほとんど使えないんだよね…先に現場に飛ばすよ?」
「まかせて!」
返事を聞くなりネネは転移をかけ、自身も術式を組み上げるため準備に向かう――。
「――土っ!?」
転移されたあたりに見えるのはただの土だった。赤茶っぽいかわいた大地が延々に続いている。
人は何百人ほどもいるのに建物などが一切ない。植物の生えない荒野のようだった。
(これが…消失魔法の恐ろしさ…)
大勢の人達がどうすればいいのか分からず、右往左往している。
(えっと、ここから王宮に転移するんだよね…?でもこの人数だとどれくらいかかるか…混乱が悪化する可能性も…!とりあえず急がなきゃ…)
「てれぽー…おうあっ!?」
叫び声をあげて、反射的に防御魔法を展開する。
突然に虚空から岩のようなものが現れ、宙から降ってきたのだ。
「いいいい岩!?ちょっこれなにこれえええっ!?」
次々と現れて落ちるそれは止まる気配が見えない。急すぎる現象に焦りだす。
(とにかくこれは防御を先に…!ユヅカが来るまで持ちこたえるしかない!)
なるべく大きい防御魔法を広範囲に発動させ、どうにか維持する。
隕石のように降ってくる大岩は、隕石そのものではなく、まるで宙から自然に生み出されるかのようだった。最初は小さい欠片が近づくにつれ大きくなる。比喩でもなんでもなく、本当におおきくなっているのだった。
防御魔法も1人で発動しているので、一際大きな岩がぶつかる度に耐久値が減少していくのを感じた。
「玲音あの岩飛ばしてっ…ていないんだった!」
崩れ落ちた大岩がゴロゴロと転がり落ちてくるのを見て咄嗟に空間転移の達人を呼んだものの、玲音は仕事中でこの場にはいない。
流石に1人でこの人数を守るのには限界があった。
(物体そのものの消失は実在しない、もし岩をちいさくしても欠片は残る! テレポートで自分だけ助かる? いやそれはポリシーに反する! 考えろ考えろかんが―)
思考を急加速させ始めた美来の耳に。
「マテリアルアナリシス!」
唐突に誰かの声が聞こえ、すぐ脇を空気が撫でていった。…と、岩自体が消失する。
「えっ…消えた!?いやでもそんな魔法は…」
「魔法じゃないんだよこれは」
さっき何かを唱えた声が再び聞こえ、思わず後ろを振り振り向くと、そこには一人の男子と
「ユヅカさん!?」
こくりと頷いたユヅカはこちらを振り返り、
「さっきのやつはあとで教えます! 今すぐここから皆さんを避難させてください!
ものすぐここにはあいつの脅威が…」
“あいつ”が誰を指すのかは分からなかったが、顔を歪めそう叫ぶユヅカに頷き返す。
全員を避難させるには転移するしかない。かといって1度にこれほどの人数を移動させられる訳ではない。だから祈るしかなかった。
今までで1番、玲音にいてほしいと思ったが、無いものねだりをしても時間の無駄だということはよく理解していた。
(お願い玲音…力を貸してっ…!)
無力感を堪えながらそう念じ、手を突き出した瞬間。頭上に光が現れた。絶望という闇の中に迸った一筋の閃光。
徐々に形をはっきりとさせていくそれの原型を捉えた瞬間、体に電撃が走ったような衝撃を受けた。
「嘘…でしょ…」
存在を失い、役目を終えたはずの予言書――古今伝来言書が、そこにあった。
呆然としながらその巻物をそっと掴む。さっき玲音の使用した幻ではなく、完全に実態のあるものだった。言書が自分から出てくるなんて今までにはないことだった。乾いた紙の質感。重みのある辞書のような束。表紙のサイン…。
「なんでここにこれが…」
明確に本物だと分かる“製作者”のマークを見て呟く。中を開いても以前と何も変わらず、自分達の行動が明確に記載してあった。
「相変わらずこれってのは…。
それよりなんで今ここに言書が―」
『…美来! 聞こえてるか!?』
よく知った声が耳に届き、周囲の人が怪しげに見つめるのも気にせずに、思わず大声を上げる。
「玲音っ!!」
『時間がない、手短に話すぞ。
今あいつは500キロの所まで距離を詰めている。あと5分ってところだ。一人一人転移させていちゃ全然間に合わない。
だから、一勢強制転移する』
「だからあいつって誰な…ううん、それは後で教えて。
だけど玲音…ここにいないならこの人数だと現場にいなければ流石に転移は出来ないんじゃ…。そもそも玲音、私にそんな時空力なんて…」
困惑する美来に玲音は当たり前のように告げた。
『前、言書を通じて魔法…てか時空力使った時あったろ?』
「玲音…じゃなくて慧がやったやつ?あれをやれって? いくら何でもこの規模は無茶じゃ…」
『古今伝来言書は確かに力はない。けど保存なら出来る』
「……! でもそんな大掛かりな魔法は…」
『そう。時空を歪める危険性がある。だから一度、全ての時空を僕が壊す』
あまりの驚愕に一瞬、息が止まった。
「すべ…て…それじゃ世界は…」
『すぐに再構築すれば問題ない。ありったけ言書に詰めこんだから時間がない。器も大きすぎるものには長く耐えられない。いいから早く!』
あまりにも切羽詰まった雰囲気を察して、ここにいない彼女に頷いた。
「……わかった。じゃあ頼んだよ」
『あいよ』
玲音の声が聞こえなくなり、ほんの少し目を瞑った。
(玲音、頼んだよ…)
今度は言書に手をかざして静かに囁く。
「アンリミテッド・デポテーション」
「――美来さん上っ!!!」
ユヅカの悲鳴の真偽を確かめるまもなく、魔法が発動した。