夢のチカラ Episode origin~Before the Animarle 作:みーぷ
さてさてやっとこ起承転結の転あたり?
「…ネネ」
「あれ?ユヅカもう戻ったん?大丈夫なの、なんかすっ飛んでいったけど」
コクリと頷いて周りをちらりと見る。そして小声で囁く。
「美来さんを呼んでもいいですか。…春岡さんも出来れば。今回の一連の事件、最初から話しておこうと思って」
ネネはやけに深刻そうな表情のユヅカを一瞥してため息をついた。
「いいよ、今までの4人ないし5人のこと話すんでしょ?ただし条件がひとつ。あくまでも要点だけ。万が一にでも勘づかれたら…面倒だから」
再び無言で首を振ってからユヅカはすぐに走り出す。
最初にユヅカが2人に会った部屋――執務室へ。
呼び出された美来と玲音は双方ともに疲れが溜まっているようだった。
(追い打ちをかけることになっても話さなければならない…これは一大事。こんなプライドと“約束”なんて――)
「美来さん、玲音さん。今回の話を発端から話しておこうと思います…」
何も言わずにユヅカが話すことに耳を傾ける。
「…その4人が発案したんだよね?でもその4人にユヅカは本当に含まれてるの?なんか今までのことから推測すると1人だけ別ルートでここに来たとしか思えないんだけど…」
難しい顔をして唸りながらそう言い出す美来に、
「そう…ですね。確かに来た理由も時期も違います。4人の中には含まれないと断言します。でもちょっとした理由で加わることになりました。
実際は5人で開発していたんです。でも途中段階で1人、逃げだしたんです。だから4人、と。」
「紛らわしいなぁ。んでもまぁ一応は5人でやってたわけなんだよね。そこからどうして逃げたりしたんだ?」
ユヅカは少し視線を逸らした。
「意見の対立です。私と彼の自論が合わなかった。それだけで私たちは決別し、自分だけが残りました…。でもその時点で理論は完成していて後は運用してみるかーっていう段階だったのでその技術は使える可能性の方が大きいです。だから…」
「だからそいつが犯人だと目星をつけた、なるほどな。それが1番真実に近いかもな」
そこで、と前置きしてから最後の言葉。
「今から乗り込みます。彼の…暴行を止めるために」
「おし、じゃあ僕らも行くか」
「れっつごー!」
当たり前のようにあとに続く美来と玲音。一瞬キョトンとしてから、僅かに微笑んで
「やっぱり変わらないんですね。
…こっちです。転移します」
ユヅカは2人に向けて手をかざし、静かに唱える。
「モレキュリカルアナリスト――」
一瞬の目眩を感じ、思わずよろける美来。
「すみません、あまり転移する系の魔法には向いてないんで合成酔いするかもです」
「もう遅い…なんかくらくらする」
申し訳なさそうに謝ってから、
「じゃあ行きますか」
スタスタと歩き始める。顔をしかめながら隣に立つ玲音を恨めしげに見る。その視線を感じたのか、肩をすくめて
「こんなの時空の流れが乱れた時に比べればなんてことない。
しかしさっきのはモレキュリカルって分子…だっけ?アナリストは…分解…なるほどね。だから原子論…。
でもよく再合成出来るよな…分子とか云々除いてDNAとかって一体…」
「はいはい、行きますよ玲音君。あとでユヅカにでも聞いてください」
またも自分の思考回路に入り込みそうだった彼女を引っ張って美来はユヅカの後を追いかけた。
「にしても静かですね」
ようやく追いついた美来たちを見て開口一番そう言い出す。確かに辺りは異常なほど静寂だ。風の音だけが、やけに大きく聞こえる。周りには廃墟と化した建物が立ち並んで、今にも崩れそうなくらいボロボロな状態だった。
これも原子分解が生み出した脅威なのか。
「――っ!?」
ふいに壁を触っていた玲音が息を飲んだ。その手の先は壁に触れたまま止まっている。
「こ、これ…柔らかい…コンクリとか木造じゃないぞ?」
「少し失礼します。
これは…タンパク質で作られていますね…」
その呟きを耳にした途端、美来と玲音は身震いする。
「いや、まさか、え?そ、その壁って…」
「人間の残骸とか言わないよな…?」
ユヅカの指先がぴくりと動く。
「そう…かもしれません。ゴム製ではありませんし他に思い当たる節もないです。
これは…一体なんてことを…」
「わ、私触ったら一生トラウマになりそう…前に玲音に撃たれて死んだ時以上に」
「そもそもこれはどこから運んで…殺された…今回の犠牲者に含まれる……。
……!
消えた人達!!そうかこれは、この人達は事件の発端、消失事件の被害者!」
叫ぶかのように玲音が自論を――事実に近いだろう推測を述べる。
今度こそ明確に体を震わせてユヅカが唸る。
「なんて、なんて酷いこと…こんなの人道どころの話じゃなくて人権無視のあまりにも…残酷な…!」
唐突にユヅカの周りに無数の粒子が渦巻き出す。怒りのあまり自分の力を制御しきれていない。
「ユヅカ落ち着いて!相手はそんなことすら簡単にやってのける人なんでしょ?冷静でいなくてどうするの!」
我を忘れそうになっている彼女を必死に呼び戻そうとして大声で叫ぶ。
「いくら何でもあの怒り方は尋常じゃないぞ…確かにこれは酷いけど… 。
ユヅカってそんな犯人に対して別の感情でも持ってたのか?普通に怒るどころの話に見えないな」
「お願いユヅカっ。気持ちは分かるけど深呼吸!問答無用で深呼吸!はい!吸って!吸って!すっ――」
「今定番の漫才でもやらせるつもりなのか?息はかせろって」
無理矢理息を整えさせて、なんとか気持ちを抑えさせる。
ユヅカの周りを渦巻いていた粒は静かに地面に落ち始めた。
「すみません、つい…」
「いや、大丈夫だけど。
そう言えばなんだかんだで向こうの名前聞いてないな。なんて言うんだ?」
思い出したような玲音の問いに気のせいか視線を泳がせてから回答する。
「とある事情で本名は言えません。
ただ、あだ名はクロ、と。いつもみんなそう呼んでいました」
「んじゃ、そのクロ君とやらはここにいるの?」
今度は美来の質問に頷く。
「りこさんによると彼はこの地下にいると思われます」
「地下?じゃあどうやって見つけるの?砂だらけで何も見えないよ」
するとユヅカは恐ろしいほどの無表情で地面を指さすと、
「ちょっと軽くぶっ飛ばしますね」
「えっ? ぶっと――!?」
刹那、直径5メートルほどのクレーターが現れた。――いや、文字通り吹っ飛んだ。
無音でごっそりと地面に穴が開くその様子は時間が飛んだような様子。
「いやいやいや相当怒ってるなお前…」
もはや引いているようにも見える玲音。
「一見ここにいるように見えませんね。でも生体反応はあるようなので、」
再び無言で手をかざすと辺りの砂から一部が浮き上がっていく。ため息をひとつしてから、呆れたようにそこに向かって話しかける。
「アホですか?同じ能力使える相手に通用するとでも?それとも私を愚弄してるんですか?」
もはや人型といえる“それ”が目の前で形作られていく。そして“それ”は完全に人の形になり、ついに
「いや、そんなんじゃないんだけど」
「「喋ったー!」」
ユヅカの後ろで2人が大声をあげる。それをチラリと見てから“それ”はユヅカに言い返そうと口を開いた。
「だってさ――」
「だっても何もいりません言い訳が通じるとでも思っているんですかねこの馬鹿は」
真顔なのが余計に凄みを帯びるユヅカ。ちょっとばかり相手――恐らく彼がクロというあだ名の本人だろう――も思わず、といった様子で体を引いて後ろに下がった。
「待て待て待て、少し話聞け!」
「正当な理由があるならば聞きますよ?
言い訳や誤魔化そうとするならば――」
ニッコリと笑って仁王立ちする様子に後方2人は縮こまる。何も悪いことはしていないのだが。
「確かに俺はその魔法っつーか使えるけどそんなことすると思うか?
なんの根拠で疑うんだよ?」
「それくらいなら答えましょう。
まず1つ目。これは事件云々関係なくなぜ今私達が来た時にこんな自分を分解までして隠れたんです?何もしてない人ならそんな事せずに平然と出てくるでしょう。
2つ目。連絡取れませんでしたね、ここ数ヶ月。確かに大した用事もないし話すこともありません。でも私はともかく他のリュウやユイまで生存すら知らないほど、連絡どころか足取りまで掴めないとはどういうことなんでしょう。
3つ目。他にこの技術を知っている人はいません。私達がやっていないことは姫様の前で証明済みです。あの人は嘘を見抜けますから。
以上からあなたがやったと判断しました。
さて、反論をどうぞ。少しでも逃げようとすれば…」
静かに論破しそうな勢いに根負けしたのか、ブンブンと首を振るクロ。
「まず1つ目の回答。殺気持ったやつが近づいてきたんだ隠れるに決まってるだろ?ましてやこっちは相手が誰か知る術がないんだからこうするのが一番いいと思ったんだ!
2つ目!逃げ出したくらいなんだぞ、消息不明にしとくのが最善と思ったんだよ。どこに逃げたか知られたくないし。
3つ目、確かにあの場にいた中で可能性があるのは俺だけかもしれない。だけどその論文が外に漏れてたら?そしたらそいつの犯行かもしれない。いくら守られていたって今の世の中当てにならないんだから」
まくし立てて弁解しようとするクロが話終えると少し下を向いて考えた様子を見せてから顔を上げた。
「なるほど。それじゃあネネの前で同じ事を言ってもらいましょうか。そうすれば嘘かどうかハッキリします」
ユヅカの言葉に挑戦的な目付きを向けて
「なるほどな。王女さんの前でははったりが通用しないから連れていこうって魂胆?」
これから起きるであろうことを確認する。
「そういうことです」
当たり前だ、とでも言いたげにその視線を見返した直後だった。
「なら俺はここにいる資格がないな」
「はい?それは一体どういう――」
「っ!!抜けな――!」
玲音が悲鳴のような声を上げて銃を出すのと。
クロが一瞬で腕を振って消えるのが。
全く同じタイミングで二人とも動いたものの、玲音の弾は宙を撃ち抜いて遠くに飛び去っていった。
「……くそっ」
本気で悔しがって地面を蹴飛ばしている。
「ほんの一瞬、あいつの方が早かった。ずっと抜け出す機会を伺ってたんだ。僕も少し油断してた。
…鈍ってんなー鍛え直さなきゃダメだなこりゃ」
そんなことを呟いてひとりで真面目に反省している反面、
「逃げられた…どうしよう…」
放心状態でどこかを見つめるユヅカ。
「どどどどうするの!?もうどうやって捕まえるの!?」
「これは…1回ネネに相談ですね。りこさんの手段がまた使えれば別ですが。
足取りを全く残さずに雲隠れする、というのは一度やられているので厳しいかもです」
眉間にしわを寄せて考え込む一方で、玲音は、
「僕なら…今、僕達が喋っていた間にあえて事件を悪化させようと思うはずだ…。
目の前で会話している相手がまさか別の場所で犯行に及んでいるとは普通推測しないだろ?」
ある1つの可能性を導き出す。
「てことは…今のクロは偽物ってこと?そうするとおかしいよ。生体反応なんであったの?」
美来の声にあっ、と小さく反応するユヅカ。
「この技術を使えば…人間界で禁止されているあることが容易に出来ます…。
――クローン人間を製造することが」
ブルりと体を震わせて驚愕する美来だったが、それにも反論する。
「そんな短時間でできるものなの?そもそも私たちに気づかれないように異能を使える?」
「使えるさ」
これには玲音が応答した。
「僕の力を蓄えてお前が使った…って感じのシチュエーション、何回かやってるだろ?多分それと原理は同じ。
時限式にして発動…といったことは不可能じゃない」
「そんなぁ…捕まえる確率減ったじゃん…」
思わず弱気になるのもむべるかな。しかし解決しなければ被害は広まるだけ。
最悪の事態に追い打ちをかけるように告げられたのは。
「悲しいことに、僕らは一旦この場を離れなきゃならない」
どうだったでしょう?
犯人の名前がようやっと出てきました。
とは言いつつ、状況は悪化しただけでした。この先、どうなるでしょうか。
頑張って書きます