君色を満たして   作:楠富 つかさ

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第1話

 立成十七年、春。中学三年生になったばかりの私、法月みのりは実家であり定食屋でもある月見屋食堂で両親の手伝いをしている。空の宮市東部に位置する商店街は、私も通う星花女子学園の生徒や公立高校の生徒がよく来る場所で、うちの食堂も学生向けに安くて美味しくてたくさんというメニューを提供している。商店街には私と同じように星花に通う人が多くて、今、目の前でお冷やを冷酒のようにちびちびと飲む人も十年来の顔なじみだ。

 

「まこねぇ、そろそろお店開ける時間なんだけど?」

 

 学校が始まってそろそろ二週間、近所で酒屋を営む愛粕さん家の茉胡里お姉ちゃんは一学年上で高校生になったばかり。人情者で姉御肌、昔っからまこねぇの愛称で私は呼んでいる。そんなまこねぇだが、どうにも高等部に上がってから不機嫌な様子。深く理由を聞くのは食堂の未来の女将としてはよくないんだろうけど、そうは言っても気になるものは気になる。

 

「最近ずっとむっつりしてるけど、何かあったの? またお酒飲んで怒られたの?」

 

 おおっぴらには出来ない話だけど、まこねぇは家が酒屋だからって小さい頃に飲んで味をしめちゃったらしい。その後、しこたま怒られたとは聞いてるけど……。

 

「今回は酒とは関係ないんだよ。なぁ、みのりは……親友が望まない結婚をするって言い出したら、どう思うか? いや、既に結婚しているとしよう」

 

 まこねぇからの唐突な質問に私はテーブルを拭く手が止まった。三月生まれの私はこの前十四歳になったばかりで、結婚出来るようになるまで少なくとも二年はかかる。でも実際に結婚するとなるともっとかかるだろう。うちは女子校だし。まだまだ先のことだろうとしか思えない。いくら星花にお嬢様がそこそこいるとはいっても、よしんば許嫁がいるくらいで……そう言えば、まこねぇは前に仲良しのメンバーの中に凄まじいお嬢様がいるなんてことを言っていた気がする。だとすると……もしかして。

 

「みのりには難しかったよな。悪い」

「いや、なんていうか……そうじゃないよ。まこねぇの友達の話でしょう? 私の友達も、可愛い娘は多いし花嫁修業で料理部にいる娘もいる。だから、いつかは結婚するんだろうなぁって、私だって薄々思ってる。格好いい旦那さんとこの店を続けたいって」

 

 うまく伝えられないけれど、喜んでいるなら祝いたいしそうじゃないなら助けたい。そんなことを伝えた。

 

「ったく、お前は真面目でいいやつだな。ま、あたしに何が出来るかはわかんねぇ。でもやってみなけりゃわかんねぇ。すっきりした。んじゃ、ひかりのとこでケッタを拾ってとっとと帰るわ。あんがとな」

 

 自分で言った通りすっきりとした面持ちで店を後にするまこねぇ。そんな後ろ姿につい、

 

「たまには売り上げに貢献してよー!」

 

 そう叫ばずにはいられなかった。

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