まこねぇが店を飛び出してから、いつも通りに過ごしていたけれど夏の近づきを感じるようなある日、まこねぇがやってきた。
「みのり……みのりぃ」
お店の営業時間中にやってきたまこねぇは俯き涙混じりの声で私を呼び、しなだれかかってきた。その力ない身体からは……お酒の匂いがした。
「お父さん、お母さん、ごめん、ちょっと上がるね」
まこねぇに肩をかして居住スペースに引っ込む。靴を脱がして引きずるように自分の部屋に連れて行った。慌ててキッチンに行って経口補水液のペットボトルを持って部屋に戻った。
「まこねぇ、これ」
「……ん、悪い……」
あらかた飲み終えたまこねぇだけど、まだ顔は紅いし目の焦点もあってないように見える。
「何があったの? 飲まないって言ってたお酒をこんなになるまで飲んで」
料理酒にも似た匂い……多分強めの日本酒。度数の高いお酒をこんなになるまで飲んだら絶対に身体に支障をきたす。人に迷惑と心配をかけるから飲まないって言ってたのに。その約束まで破って飲むほどの何があったっていうのだろう。
「前に言ったっけな。ダチが結婚した。望まない結婚だ。……金持ちの家の事情なんざ知らねーけどよ……おかしいだろ、そんなの。だから抗議しに行った。んで突っぱねられた。あんのババァこんちくしょうめ。……まぁいい。そこまでは仕方ねぇ……仕方ねぇんだ。でもよ……イアナが……あたしは、あたしゃ……えーつが好きで、だから結婚してほしくなくって行ったのに……えーつは違うアマと一緒にいた!! あたしを選んじゃくれなかった! 誰とも知らねぇ男と結婚して、誰とも知らねぇ女を側において……」
言葉が出なかった。好きな人に振り向いてもらえない。独占欲の行き場をなくして、心の拠り所がなくなって、お酒に溺れて……荒れて、荒んで、今にもどこかへ行ってしまいそうな姿を見ていると、胸の奥が苦しくなって……。そっと、まこねぇを抱き寄せる。
「大丈夫、大丈夫だよ……。満たされないんだよね。いらないものに押し潰されちゃいそうなんだよね。苦しいんだよね。全部、吐き出して本当の空っぽになろう。そしたら今度は、欲しいものだけ集めて、満たして、そうしよう? 私が側にいてあげるから。私が満たしてあげるから」
いつものまこねぇに戻ってほしい。その気持ちでいっぱいだった。つらそうな表情をしないでほしい、いつもみたいに飄々としてかっこいいまこねぇに戻ってほしい。日常の姿が、働いている姿が、学校での姿が、全部いつものまこねぇに戻って欲しい。真っ直ぐで気風の良い……私の好きなまこねぇに戻って欲しい。
「甘えていいよ。なにも一人で背負い込むことないよ」
「あたしは……甘えて、いいのか? みのり、あたしは……」
「私がまこねぇを支えてあげたい。さぁ、まずは美味しいもの食べよう。お腹がいっぱいになれば、気持ちは前向きになるんだから」
まこねぇへの気持ちが愛とか恋とか、そういうものかは分からない。でも、いつも格好いいまこねぇが見せた弱みは私しか知らないから、誰の目にも触れないよう、いつものまこねぇに戻るまで、私が……側にいようと思う。
早くも完結です。二人がこの先どうなるかは、他のどこかで描けたらなと思います。