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1.目覚めたら
「なぁ、うみんちゅ。お前って他世界に行ってみたいとか思ったことあるか?」
唐突に背の高いほうの青年は隣に座っていた友人に声を掛けた。うみんちゅと呼ばれた青年は舌打ちと共に返答をした。
「なんだ急に?」
突如の質問にもう片方の青年はスマホから顔を上げる。そして数年来の付き合いの友人の奇行に疑問を投げかけた。中学入学からの友人ですでに8年ほど同じ学校に通っていることになる。
「いいから、どっちだ
「そりゃ、俺だってガキの頃は他の世界に行って見たいと思ったぞ。ま、そんなことは起きないだろうがな」
そう言って海人と呼ばれた青年は、肩を少しだけ竦めて見せて答えた。
「そう言うお前はどうなんだよ」
海人は、空腹を我慢しつつもスマホに目を落としてから、質問してきた友人に同じ質問をぶつける。
「そうだな……考えたこともなかった」
海人はその答えに眉をひそめた。自分からその話題を持ち出しておいて自分は考えたこともないなどあり得るのだろうか、そう思わずにはいられなかった。
「……」
海人はチラリと無言になった友人の顔をうかがった。その顔は平時と特に変わりないものだった。
「今はどうなんだ」
海人の友人は逆に海人の顔を見やる。
「今? ああ、いけるもんなら行ってみたいね。このコンクリートジャングルから抜け出して、なんのしがらみにも囚われず、自由に生きてみたいもんだわ」
海人は至極気軽に友人の質問に答えた。
就職難でますます自分たち大学生の将来は曇っている。それならいっそ異世界にでも行ってこの世界で体験できないことを体験するのもいいものだ、海人はそう思った。
「そうか、なら――」
次の瞬間、海人の視界は暗転した。
◇◆◇◆◇◆◇◆
強烈な光がまぶたの下の眼球を刺激する。その刺激を受けて意識が一息に覚醒した。
彼はなんだ、という疑問と共に重い瞼を開ける。
そこには見慣れた天上でもなく、真っ白な病室でもなく空高くに広がる青い、ただ青い空があった。視線を少し横にそらせば空だけでなくうっそうと生い茂る木々も確認できる。それらのことより現在彼自身の身体は仰向けに倒れていることが分かった。
「ここはどこだ」「どうしてこんな場所にいる」そう疑問に思いながら頭を掻き彼――海人は無言で上体を起こし、立ちあがった。
すでに海人の記憶から数年来仲の良かった友人の記憶は消えていた。
地面は芝のように草がカーペットになっている。海人は周りを見渡すと地面に落ちた一つの木の実を見つけた。海人の知識にはない幾何学的な文様が表面に描かれている木の実だ。訝しみつつも海人はそれを手に取った。すると極度の空腹感に襲わた。
(そういえば、晩飯食えてないじゃん)
そう思い背に腹は代えられないとばかりに、持っている果実を服の袖で磨いてから一口頬張った。
「おぇ」
あまりの不味さに風体が少年と青年の間である海人はえづいた。酸味でもなく苦味でもない、特段臭いわけでもない。ひたすらにまずい、奇妙な果実だ。しかし食えないものではないと思ったのか、海人はその果実に再度齧りついた。
「なんだ、この激マズの実。完熟前だからか?」
海人は文句を垂れつつも、自身の空腹という欲求を満たしていく。それと同時に海人自身の内に何かしらの力が生まれたのを感じた。
「そこの者!!」
突如として若い女の声がした。
海人は声がした方を向く。そこにはビキニのような、民族衣装のような布地の少ない服装をした女性が、弓を構えてこちらを睨んでいた。
海人は取りあえず波風立てないよう、もろ手を上げて敵意がないことを伝えた。その手には食べかけの木の実が握られている。
「男!? 貴様ここがどこだか知っての蛮行か!?」
弓を構えた女性は海人が男であると見るや、弓を引く力を強くした。
「いや、知らねぇよ」
一方の海人は自身が弓で狙われているにもかかわらず、飄々といった態度のままだ。
口も悪い。
「村に行かせるわけにはいかない。悪いがここで死んでもらうぞ!!」
女はそう言うと矢から手を離す。距離にして十数mもない距離だ。女の力量から言って外すわけがない距離だった。
「あぶねっ」
しかし海人は狙われた頭を逸らすだけで避けて見せる。海人は見て避けたのではなく、視線から予測して避けたのだ。海人に避けられた矢は木を貫通する勢いで突き立った。
「何!? ならば」
女は避けられたと見るや、もう一度弓に矢を素早く番えて射た。
「おい、やめろって!!」
今度は大きく横方向へ転がるようにして海人は避ける。
「敵意はないって示してるだろ!!」
海人は転がって避けてから、未だに両手を上げたままで立ちあがった。残念ながら木の実は少しだけ汚れてしまっている。
「そんなことは関係ない。貴様が男である時点でこの島にいてはならないのだ!!」
「んだよそれ!! 女性専用車両じゃねぇんだぞ!!」
理不尽な物言いに反論しつつ、海人は木々を利用し矢をかわしていく。矢が刺さった木は海人の常識ではありえないくらい矢がめり込んでいる。
「ここは女々島アマゾン・リリー、男が居てはいけない島なのだ」
「女ヶ島だぁ!?」
海人は女ヶ島に反応しつつも、木々を縫うようにして駆け出す。
「待て!!」
誰が待つか、そう思って海人は声を無視し走る速度を速めた。木々が乱立した場所では弓は無力といっていい。射線に入りさえしなければいいのだから。
女は慌てて海人の後を追いかける。
しかし追いかけっこはすぐに終わりを迎えた。女は海人を見失ってしまったのだ。女はすぐさま集落へ向けて駆け出した。皇帝が帰るまでには始末しなければならないと判断した女は一人ではなく集落の戦士たちを集めに行ったのだ。
一方の海人は見失わせてから、女の後を付けて行く。木の実は彼の手中から消えていた。
集落にはすぐに着いた。海人はこれまでの自分の身体の動きから、目覚めてから身体に力が満ちていることを感じた。
集落を見つけた海人は手頃な高台を見つけた。そこは50m以上あろうかという崖の上だった。しかし海人はすでに能力がどういうものかを分かっていた。
理屈ではなく、感覚で。
海人は崖がまるで地面にでもなったかのようにスムーズに登り始める、いや歩き始める。崖を地面のようにして歩き、体は海面と水平に保たれている。まるで崖が本物の地面であるかのように。
「なんだこの力……」
海人は自身の内から出る、未知なる力に興奮と疑問を持った。
崖の頂上へ難なく到達した海人は、眼下に広がる集落を見渡した。集落の家のおもな材料は木材で、東南アジアを思わせる建物群だ。眼下には瓦で屋根が覆われた建造物もある。見るにここが集落の長が居城とする場所だと海人は察した。さらに遠目から見ただけでも男が見当たらないことにも気付く。
ふと海人は集落に設置された海への桟橋辺りを見たところ、誰かはわからないが、白髪頭の男が海面から出てきたのだ。
なんだ? 海人は疑問に思いながらも、その白髪の人物を注視した。
老人と呼ぶにふさわしいほどに外見からは歳を感じるが、その挙動全てが尋常ではない生気を帯びていることを海人は感じとった。
「なにもんだ、あのじいさん……」
海人は何やら話している老人を、曰く女ヶ島であるここに来れる男という特殊な人物に話を聞きたかった。彼自身が20年過ごしてきた世界と明らかに異なる現象を目の前にとにかく情報を得たかったのだ。
そこまで考えた海人は集落が少々騒がしくなっていることに気づく。どうやら先程の女が仲間をかき集め、自分を探しに出るのかと納得した。
海人は再び老人を見ると、声は聞こえないが何があったのかというやり取りをしていることがうかがえた。そして老人は少し考えたかと思うと戦士たちと一緒に森の中へと繰り出していった。
「さて」
海人は一つ言葉を発した後、老人と接触するため崖を駆け降りた。
老人はすぐに見つかった、というか見つけられた。
「君が彼女たちの言っていた野蛮人か、どう見ても野蛮人というにはこぎれい子供だな」
海人は確かに老人からしてみれば子供だろうが、歳は20を超えたところだ。体は大人であるのだから子供、という表現は不適切だと思い無言で眉をひそめた。
「君はどうしてここにいるのかな?」
老人は何も返答しなかった海人を見て、言葉を付けたした。それと同時に何かしらの圧力を海人は感じ取った。
「起きたらここにいたんですよ」
圧力に動けず、屈しそうになりながらも海人は、眉間にしわを寄せてやせ我慢し、ありのままを答えた。
「ほぉ」
レイリーは感心したような相槌を打つ。
「それで君はこれからどうしたい」
「何分この島については右も左もわからないんですよね。それで、よろしければあなたのお力添えを願いたいんですが」
海人はレイリーの質問に対して、至極丁寧にそう答えた。普段の粗野な彼には似つかわしくない言葉であるが、現状を打開するために味方はいた方がいいと考えたのだ。
「手助けか……私に利はないな」
老人はそう言って海人を値踏みするような目線で見た。
海人は老人にとっての利は何かを頭をフル回転させて考える。いくつもの取捨選択を数瞬で行う。
「俺を助けてくれれば、面白いモノが見れますよ」
海人は自信満々にそう言いきった。いや、言いきらねばならなかった。
この数瞬で海人は老人の望む利を考えた、だが会ったばかりの人物が望むものなどわかるはずもなく、酷く抽象的な物言いとなってしまう。それでも海人には何かしらの自信があることを示さねばならないのだ。
そもそも具体的に物事を行うと言うよりも抽象的にしたほうが、ハズレは引かない。
面白いモノが見れる、と海人は言った。人によって面白いものは千差万別である。そして老人にとって面白いモノならば十分に利があるというわけだ。それが海人の出した結論であり、そう言いきった瞳に迷いは一片もない。別に老人に助けて貰わなくとも、奇妙な実を食べてから手に入れた力を駆使すれば逃げることはたやすいだろう。しかし、異世界だと察するに値する異常な現象が自身に起きている。故にこの世界の理を早急に知る必要があるのだ。
老人は興味深げな表情をしたが、
「ほお、気に入ったぞ。 私の名前はレイリー、みんなにはレイさんと呼ばれている。それだけの大口を叩くのだ。面白いモノというものを見せてもらおう」
すぐに表情を一転させ大笑いをした。海人は心の中でほっと一息ついた。
「着いてきなさい」
ひとしきり笑ったレイリーは海人に付いてくるよう促した。海人は黙ったままレイリーの背を追った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ハンコックちゃん。紹介しよう私の弟子になった……」
カイトはハンコックを見て、今まで見てきた美人の少し上であると感じた。といってもカイトの場合は美人の顔など様々な機会で見てきている。その9割はネットとテレビになるのだが。
レイリーは遠征から帰ってきたゴルゴン三姉妹にカイトを紹介した。海人に名前を聞いていなかったので名前は海人自身に言わせる。因みに弟子という設定はレイリーがここにカイト一人でいた言い訳も兼ねてだ。レイリーが弟子にここまで修行で来たと言えば、そうなのかと納得する。そう予想した。
「カイトだ」
よろしく、とカイトは片手を上げた。カイト的には同年代に感じたからの気さくさだ。実のところ二人の年齢は5歳前後離れている。女帝を目の前にして呑まれていないのは、手加減されたとはいえレイリーの覇気に耐えただけはあった。
「そう、カイトくんだ」
「レイリー!! 勝手に男をこの島に連れ込んでは……!!」
ハンコックは恩人であるレイリーであるからこのような行いを許しているだけで、本当は男など見たくないのだ。しかし言い訳として選んだ弟子という設定は疑われることがなかった。
「まぁ堅いこと言わんで」
レイリーはハンコックたち三姉妹の高ぶりを苦笑いしつつ制した。
「そうそう」
カイトはレイリーの言葉に便乗した。それは逆効果だったが。
「貴様が言うセリフではない!!」
ハンコックは叫びと同時にカイトへ蹴りを放った。
「おわっ」
カイトはその蹴りをバク転することで避ける。
「何すんだ、どんだけ短気なんだよ。デカ女め」
カイトは舌打ちをして悪態をついた。
そんなカイトをハンコックは無視して、レイリーに今回の用事を聞いた。
「いや何、元気でしておるか心配だったのでな。それにまた海軍からの召集を断ったそうじゃないか」
「そのようなことか。じゃが妾たちは見ての通り大事ない。海軍の召集に答える七武海なぞモノ好き位の者じゃ」
カイトは二人の会話を黙って聞く。そしてその二人から出る聞いたことのない単語の意味を考える。
「ふっ、それもそうか。邪魔をしたな」
レイリーは本当に用事はそれだけだったのか、踵を返して海へと歩いていく。
「レイさん、七武海ってなんですか?」
カイトは唯一わからない単語の意味を聞いた。みなからレイさんと呼ばれていると言われたのでカイトもその呼び方を拝借した。
「んん? なんだ、七武海を知らんのか」
「まぁ、何分世間知らずでして」
カイトはそう言って恐縮するポーズをとる。
「七武海、四皇と海軍本部に並ぶ世界勢力だ。彼らは海軍公認の海賊であり、先のハンコックもその一人だ」
カイトはレイリーの言葉に頷いて答える。
(七武海は海賊で、海軍が公認する。ということは所謂海軍は警察のような役割か。んで、海軍の公認特権と引き換えに何かしらを納めているんだろう)
カイトはレイリーの言葉から自分なりの推察をする。
「海賊って海に船浮かべて略奪とかするやつら?」
「そういう輩もいるが、自由を求めて海賊になる者もいる。その自由というのは人によるがな」
「なるほどね。海賊にもいろんな奴がいるのか」
カイトは顎に手を当てて考えるポーズをとった。しかしそれよりも気になったことを先にレイリーに聞く。
「そういえばレイさんに会った時にあった威圧感? みたいなのはなに?」
カイトがレイリーに初めて会った時感じた極度の焦燥、何かに迫られる圧力を確かに感じていた。元の世界では感じたことのない感覚だった。
「ああ、あれは覇気と呼ばれるものだ。世界中の人間に潜在する力だ」
「俺にもありますか?」
「あるとも、それに胆力もあるときた。だが今の君では十全に扱うことはできないだろう」
「なんで?」
「君がまだ弱いからさ」
レイリーはカイトの顔を見やり、あっさり言ってのけた。
この言葉が本当のことだとカイトは自然と理解した。
「あの、レイさん。俺に覇気ってのを教えてくれませんか」
海賊が公然といる世界なのだ。力なき者は虐げられ奪われ蹂躙される。そう思うとカイトは居ても立っても居られない。彼は自由を渇望していた。この時点で元の世界のことはあまり気にならなくなっていた。彼は深い付き合いをしてきた友人はいなかったのだ。
幸か不幸か親からの愛情はあまりなく、心配をされる必要はなかった。だから彼は自由が手に入れれるこの世界に魅力を感じ取った。
(自由は力だ。何モノにも虐げられないほどの力が必要だ)
「……ふん、軟な気持ちじゃすぐに潰れるぞ」
「いや、やります。俺は自由を手に入れたいんです」
カイトの目はまっすぐにレイリーの目を捉えていた。レイリーもまたカイトの瞳を捉えていた。
「いいだろう。稽古をつけてやる」
レイリーの返答と重なるように、丁度二人は桟橋へと着く。
「レイさん。船は?」
桟橋に船が一隻すらないのに気付いてカイトは質問を口にした。
「ない。嵐で船をやられてしまってね」
「……ふ、ふーん。それで」
どうするんだ、とカイトは問うた。
「泳いで行く」
カイト自身は泳ぎは得意であるが、流石に島から島へと海を渡る規模の遠泳をしたことはない。ふと海面を覗き込んだカイトは水面に移る自分が、高校時代のような顔つきであることを見て、子供だと言われる理由を理解した。本来カイトは20になった学生だ。しかし水面に映った彼は高校も半ばの、まだ幼さの抜けきらない顔立ちとなっていた。だがそんなことは大きな障害ではないとカイトは判断してから。
「……これも修行か」
カイトは少々肩を落として、レイリーが飛び込んだと後に海に飛び込んだが、自らの身体に力が入らなくなった。初めてのおぼれる感覚だった。
「なんだ、君は能力者だったのか」
異常を見たレイリーはすぐさまカイトを桟橋へと打ち上げた。
「なんだってんだ……」
カイトは訳が分からず桟橋に腰掛ける。
「カイトくん。非常に不味い木の実を食べなかったか?」
カイトは無言で首肯する。
「それは悪魔の実と呼ばれる実でな。食した者に未知なる力を与える代わりに、カナヅチになると言う害を与えるんだよ」
「マジかよ……」
カイトはがっくりとうなだれた。
(まさかあの激マズの実にそんなデメリットがあるとは)
「これでは島の移動すらままならんな」
「いえ、泳げないだけで俺は海を渡れるますよ」
カイトはレイリーの悲観的な考えを一蹴した。
「何?」
レイリーは片眉を上げた。
「ほら」
カイトはそう言って桟橋から海へと再び飛び込んだ。いや、海面に着地した。
「なんと」
「俺の能力で流動物の上でも歩けます。多分空中だって歩けると思う」
カイトはそう言って何歩か海面を歩いて見せた。カイトの声はどことなく得意げだ。
「ほお、してカイトくんの能力は何かな?」
レイリーは素直に感心した声を上げる。
多分、と前置きしてからカイトは口を開いた。
「俺の能力は――」
能力バラしは次回。
カイトが女ヶ島で目覚めた時はルフィが旅立つ5年前です。
感想他待ってます。