カイトが初めての獲物である、サムエルを海軍本部に連行してから3カ月ほど経った頃。今日もカイトはシャボンディ諸島で
金がありえない勢いでもらえるのだ。これほどボロい商売はない、とカイトは海賊を相手にしつつ常々思っていた。現在カイトの所持金額は優に数十億ベリーである。そろそろカイトは本格的に旅をしようかとも考えているが、彼の旅に移動時間はほぼかからない。
カイトの根城にするシャボンディ諸島の条件も相まって、賞金首は毎日のように現れるのだ。
大海賊時代様々である。
賞金稼ぎを3カ月も同じ場所で続けていると、その噂は広がっていた。なにより基本大物しか狙わない。さらには新聞にも写真はないが一度だけ取り上げられた。
このことで海賊たちにとっては周知の忌むべき存在となり、海軍以上に絶対目を付けられてはいけない人物となっていた。しかし飽くまでもほとんどが口伝での情報である。人相や風体はほぼ明らかになっていない。
何せ目を付けられた海賊団はほとんど全員が殺されるからだ。運良く生き残ったとしても重傷であり、そのときのことは思い出したくないようで口をつぐむ者が多い。
だが、その次の島へ行くためには船をシャボンでコーティングする必要がある。故に最低3日滞在するはめになる。その数日の間に目を付けられたらたちまち災害は訪れるのだ。などの状況から上陸する海賊たちは戦々恐々の面持ちでひっそりと上陸するのだ。このようなこともあり、ここ最近はシャボンディ諸島で海賊が目立った抗争するようなことはない。
しかし努力虚しく、狩人の網は諸島全域に張り巡らされていた。
「10~20好きな数字を選べ」
カイトは2番GRで相対した海賊の船長に、そう言葉を投げかけた。
「あ? 20だ」
海賊の船長が訝しみつつも質問に答える。
次の瞬間、海賊の船長とその仲間は地面に這いつくばるような体勢になり手足すら動かせない状態となる。船長だけは必死に上体を起こそうとしている。
「おいおい、20Gくらいでそんなになるなよ」
カイトは地面に這いつくばった海賊の船長と、あちらこちらで気絶している船員を見てそう呟いた。
「な……なんだ!? お前まさか『りょ……!?」
カイトは辞世の句を言いきらせぬまま、命を刈り取る。海賊たちには何が起きているのか理解が及ばなかった。だが、眼前の男が行ったことだということは消えゆく意識の中で悟ったのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「おっちゃん。今日も捕まえてきたぜ」
カイトはそう言って、まだ息のある8000万の賞金首の男をシャボンディ諸島の海軍支部の顔見知りに突きだした。久しぶりの大物とあってカイトは少しだけテンションが高い。1億を超える賞金首はそう多くないのだ。カイトが海軍本部に行ったのも1カ月以上前である。
「お、流石はカイト。今日二人目か」
海軍本部中佐であるカイトの顔見知りの男は、慣れたもので素早く金を用意した。
「今日はこれで終わりにするか……おっちゃん、次の目ぼしいターゲットはいるか?」
カイトはこの日だけで賞金首を二人ほど捕まえている。どちらも悪行を繰り返してこの島まで来た海賊だ。
「そうだなぁ」
海軍中佐である男は新聞と手配書を見てから、カイトに示す。
「こいつはどうだ?」
「いいねぇ、殺し甲斐のあるクズだ」
カイトはそう言ってから用意された懸賞金をワームホールへと収納した。
「そんじゃ」
カイトはそう手を振って、未だに仮住まいとして使わせてもらっているシャッキーのBARへと足を運んだ。
シャッキーのBARはカイトの
「あれ、レイさんは?」
カイトは店にレイリーの姿が見えなかったので、シャッキーに聞く。
「レイさんならコーティングの仕事よ」
「あぁそういえば昨日来てたな」
カイトはシャッキーに「いつもの」と注文してカウンターに座り、昨日コーティングを頼みに来た海賊たちを思い出した。
お気に入りのコーヒーを一口啜るように飲むと、カイトは自分の作った球状のアイテムが砕けるのを感知した。方向は
「どうしたの?」
シャッキーは一瞬のカイトの変化を見逃さなかった。
「いや、呼ばれた」
そう言ってカイトはコーヒーを一息に飲み干した。
カイトの自作アイテムを渡したのは3人しかいない。シャッキーとレイリー、それにエースだ。
カイトはワームホールを形成し、その中に足を踏み入れた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
カイトがワームホールを抜けるとそこは火の海だった。
「なんだ? おい、エース!!」
カイトは助けを求めたであろう人物の名前を叫んだ。
「……カイト!? ホントに来るとは……」
エースはホントに来るとは思っていなかったようで、酷く驚く。その体はひどく傷ついていた。
「そりゃ俺たち友達だろ?」。
「へっ、そうだったな」
エースもカイトの軽口に少しだけ気を静める。
「それで、どうしたんだ?」
カイトは呼んだ理由を聞く。
「仲間を逃がしてやりてぇんだ」
エースはカイトの質問に答えつつも未だ炎の壁の向こう側を睨みつけている。
「おーけー。お前はどうするんだ」
「時間を稼――」
エースが言い終わる前に、炎の壁は消し飛び大気が揺れた。
「なんだ?」
カイトは悠然と立つ巨漢を注視し、驚愕の表情を浮かべる。
「俺の息子になれ!!!」
巨大な薙刀を持った大男は声を張り上げ、エースに向かって手を差し伸べる。それだけで場の空気を一変するには十分だった。
「……!!!」
白ひげの誘いにエースは驚愕を浮かべ、
「白ひげ……」
カイトは静かにとつぶやく。
「ああ? なんだ、そこの小僧は仲間か?」
白ひげはカイトを睨みつけた。
「おいエース。これまたすげぇやつと戦ってたのな。てか、息子になれってよ」
カイトは白ひげの疑問を解消せず、エースに話しかける。
「フザけんなァ!!!」
エースは息も絶え絶えにそう叫ぶと、膝を着き、倒れこむまいと手で支える。エースは今までの戦闘で、すでに満身創痍だったのだ。
だが、エースの気力はここで切れて倒れこみ気絶した。
「鼻っタレの小僧、お前はエースの関係はなんだ」
白ひげは常人ならば逃げだそうと思っても逃げることのできない圧力をカイトに掛ける。
「友だちだ」
カイトの返答に白ひげは楽しそうに笑う。たとえあの数分間の出会いだったとしても、似たような人間だとカイトは感じていた。だから自作したアイテムをあげたのだ。
なにより、こうやって自分を頼ってきてくれた人間を、カイトに見捨てることはできない。そうカイトは腹を括った。
白ひげは笑いを止め、静かに覇気を飛ばした。
覇王色の覇気、選ばれし者しか扱えぬ特殊な覇気だ。
「白ひげ、あんたの真意を聞かせろ。こんだけ傷めつけといて息子になれだと?」
カイトは白ひげの覇気をものともせずに、戦闘ができる体勢で睨みつけた。戦闘の起こりは知りえないカイトだが、自分の息子になれという勧誘のために瀕死一歩手前まで追い込むことはないと思ったのだ。
「グラララ、なかなかできる小僧だ。俺を満足させれば聞かせてやる」
白ひげは言うと同時に、左手で衝撃波をカイト目がけて撃ち込んだ。
カイトはそれを、手を前に突きだして受け止める。手を前に出す必要は本来ない。
「これが世界最強か……」
カイトはそう口にしてふっと笑って見せる。完全に強がりであり、冷や汗も凄まじいがカイトにはいまだに余裕があった。それは冥王と覇気以外では張り合えるまでに力を付けたことによる自信だ。冥王と白ひげは同じ世代である。カイトはレイリーに白ひげについて少しばかり聞いたことがある。レイリーは些細なことしか話はしなかったが。
レイリーが若干でも衰えているのだから、白ひげも衰えているとカイトは見ていた。その読みは正しく、白ひげも全盛期ほどの力は持ち合わせていない。だが、グラグラの実という規格外の実を使いこなすことにより、その衰えは感じさせない。
カイトは次なる衝撃波が来る前に、ワームホールからどこにでもある鋳造の直剣を素早く右手で取りだした。
「次行くぞ!!」
白ひげはそう宣言してから次は薙刀に力を込め、横薙ぎに振り抜いた。
「クソ!!」
カイトは先程の衝撃波が、児戯も同然のものだったと悟ると同時に、能力と身体能力をフルに活用して攻撃を避ける。カイトの覇気の錬度では白ひげの足元にも及ばない。まともに覇気を纏った攻撃を受ければ身体が粉々になる。それほどのパワーが白ひげとグラグラの実にはあるのだ。
カイトは避けきった瞬間、空中を蹴って白ひげに向かって突貫した。その高速の勢いのまま、上段から袈裟切りを放つ。
その刃には覇気を纏わせると共に斥力場が形成されている。普通の刀剣類などはこの攻撃で容易く砕くことができる。しかし白ひげは薙刀に纏わせた覇気でカイトの覇気を相殺し、壊れることなく軽々と受け止めた。カイトが剣に形成した斥力場は、白ひげの薙刀の高周波振動と拮抗している。
だがそこでカイトのさらに攻撃を繰り出した。カイトは能力の特性上、上下左右ありとあらゆる場所を基点として地面にすることができる。そのため空中で体勢が崩されようが、月歩など用いるまでもなく、中空を駆け抜けることができるのだ。それは空中でも弾き飛ばされないことを意味し、鍔迫り合いをも可能にする。なおかつ重力を大きくできるため、基本的に鍔迫り合いや力比べで負けることはない。
カイトは右手の剣で白ひげの薙刀を押さえつけたまま、いつの間にか空いている左手にも同じような剣を握り、白ひげ目掛けてその剣を振り下ろした。白ひげも流石に虚を突かれたが、紙一重でそれを避けてみせる。しかしカイトの剣は斥力場で刀身を若干だが長くなっており、白ひげの胸に一筋の浅い傷を付けた。
カイトは左の剣を振り下ろすと瞬時に白しげから離れる。
「やるじゃねえか」
白ひげは自身の身体の傷を見て、何が面白いのか笑い声を上げる。
「前時代の遺物のくせしやがって」
カイトは余裕綽々である白ひげに向かって憎まれ口を叩く。
「ケツの青いガキがよく吠える」
白ひげはそう言ってまた笑い、薙刀を構える。
「オヤジ!!」
だが、盛り上がりを見せようかと思った直後、白ひげ海賊団の船員が現れる。なかなか戻らない白ひげに業を煮やしたのだろう。不死鳥のマルコをはじめ、名だたる人物たちだ。
「おめぇの頑張りに一つ答えてやろう。俺はエースを庇護下に入れるだけだ。それだけの重要な理由がある。時代が変わるほどのな」
白ひげはそう言うと戦いは終わったとばかりにコートを翻し、部下たちにエースを船に乗せる様に指示した。勿論カイトに手を出さないよう指示もしている。
カイトは人数差によって勝目が薄くなったと思い、戦闘の態勢を解いた。
カイト自身奥の手を使えば勝てるという確信はあるが、相手やエースを殺してしまう可能性がある。運が良くても部位欠損は確実にする。白ひげを殺すことは世界の均衡を崩しかねないほどに危険なことだ。
カイトは戦闘態勢を解いた。
白ひげの言葉を聞いてから、カイトは白ひげを見続けた。ただ真偽を探っていた。
「すまん、エース」
カイトは白ひげの部下に担がれて行くエースを見ながらそう呟いた。そして世界最強の器を信じることにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「レイリー、教えて欲しいことがある」
カイトはエースと白ひげを見送った後、すぐさまシャボンディ諸島へ帰還した。
そしてレイリーがコーティングの作業に区切りを付けて戻ってくるのをシャッキーの店で待っていた。
「なんだ、改まって」
レイリーは少々訝しげにカイトを見た。
「ポートガス・D・エースという存在はなんなんだ?」
カイトは率直にレイリーに疑問をぶつけた。
「……エースか」
レイリーは少しだけ間を置いてから喋り出す。
「エースはゴールド・ロジャーの息子だ」
「……息子? 海賊王に息子がいたのか、でもなんで海軍は……」
「エースの母親であるポートガス・D・ルージュは、ロジャーの子を身ごもってから、実に20カ月もの歳月をかけて出産したのだ。出産と共に命を落としたがな」
「20カ月!? ありえないだろ」
受精してから出産まで約10カ月である。その倍の期間も身ごもっていれば、胎児は死んでしまうし、母体もただでは済まない。カイトでも知っている常識である。
現に母であるルージュは亡くなっている。
「そう、ありえない。だから海軍の目からは逃れることができたのだ」
「なるほど、全ての事柄に納得がいく。白ひげの庇護下に置かなければならない理由も見えてくるか」
カイトはルージュと言う母親の強さに敬服しつつも、白ひげの言動に合点がいった。
白ひげはライバルであったロジャーの息子を、次の世代の頂点に据えて自身の後継者にしようと考えているのかもしれないし、白ひげはライバルであるロジャーと案外中がよかったのかもしれない。幾度もの死線を繰り広げ一つの共感めいたものを感じたのだろう。頂点を争える唯一の相手だったのだに違いない。
そして白ひげももう年だ。自分自身の死期を悟っているのかもしれないのだ。ロジャーの息子であることは極少数の人間しか知らないだろう。その人物がもし、海軍の人間であれば放っておくわけがない。いつか必ず争いの火種になるはずだ。強引であるがカイトはそう思うことにした。
「白ひげにあったのか?」
レイリーはカイトの口ぶりから白ひげと接触したことを悟る。
「白ひげは新世界のどこかの島でエースと戦っていた。見た目は完全に老人だったけど」
「そうか、やはりそうしたか」
レイリーも思うところがあるようで、それきり口を閉じたままだった。
悪いなエース、白ひげはお前を守ってくれるそうだ。それを信じてみる。カイトは『風』を感じながら虚空を見つめてそう思った。
覇気の扱いは白ひげに遠く及ばなし、戦闘経験も言うに及ばず。しかしパワー以外の基本的な身体能力はすでに上回っている。能力を含めるとパワーもカイトの上。と言う設定です。
なお、カイトの素のパワーだけは白ひげよりも数段落ちます。戦闘経験に付随する洞察力なんかもカイトが劣っています。
まぁそもそも70の老体なので心肺機能などは衰えまくってると思っています。