カイトとウソップが麦わら海賊団に参入してから少し。海のコックを求めて彼らは海上レストラン『バラティエ』に向かっていた。
道中ルフィの非常識っぷりを、常識人側で見ているナミとカイトがよく似たような表情をしていたのは数回ではない。折角カヤから貰ったこのメリー号の操船は実質ナミとカイトに任せっぱなしである。ゾロもたまには手伝うのだが如何せん知識がないためあまり役に立っていなかった。
「しかしあいつらは自由だな」
カイトは何とはなしに言葉をこぼした。
「あれは自由って言わないわ。何も考えてないのよ」
「それはある」
ナミの呆れた表情を横目にカイトは船に揺られた。
「船に揺られるってのはいいもんだな……」
この世界に来てから船に乗ったのは停泊した海賊船に乗ったくらいだ。このように航海を楽しんだことはない。彼にとって船とは戦場だったのだ。遠方を見ると一隻の船が見える。かなり特徴的な船だった。
海上レストラン『バラティエ』。
バラティエは東の海では名の通ったレストランだ。なぜ名が通っているかと言えば他にはない海上レストランであるからというのもあるが、店を構えている場所がグランドライン手前の海域であるということも原因の一つになっているだろう。海域の性質上グランドラインに挑もうとする海賊が民間船ということで海上レストランを襲うことがあるのだ。通常のレストランならばそのまま海賊に物資を盗まれてしまうだろう。
だがバラティエは違った。
「あれが海上レストランなのか?」
ウソップは少々興奮気味にジョニーに尋ねた。
「はい、それが海上レストラン『バラティエ』です」
「魚の船首とはレストランにあったユニークな船だな」
カイトは海上レストランの船を見ていままでにはないユーモアある船についてコメントした。
「腹減ったーー!!」
「うまい飯が食えそうだ」
各々がバラティエに対し感想を述べていると、ナミが声を上げた。
「ちょっとあれ!」
「あれは海軍の船か」
カイトはナミの指さす方を見た。大きさはメリー号と同程度か。かなり小ぶりな海軍船と言っていい。
「いつの間に……」
「いきなり攻撃してこねぇよな」
気が付いたルフィとウソップは驚く。
「見かけねー海賊旗だな」
そうこうしていると船室から海兵らしき男が甲板に現れた。正義のコートは羽織っておらずスーツ姿である。
「おれは海軍本部大尉鉄拳のフルボディだ。船長はどいつだ」
「おれはルフィ」
ルフィは間髪入れずにフルボディの問いに答える。
「おれがウソップだ」
ウソップも何がしかの対抗心をもって名乗りを上げる。
「ん? お前ら政府の機関によく出入りしている小物狙いの賞金稼ぎか」
フルボディは自分から質問をしたにもかかわらず、興味はさほどないのかジョニーとヨサクに目を向けた。
「あの兄ちゃん俺たちにケンカ売って来てるぞ。小物狙いとは言ってくれるぜ」
「世間知らずには分からせなきゃな」
「行くぜ!!」
「ヒヨッコ海軍!!」
小物狙いという言葉が引っ掛かったのか、ジョニーとヨサクはフルボディに売られた喧嘩を買った。
「か、紙一重……か」
そして負けた。二体一という数の優位性があるにもかかわらず、ボコボコにされている。
「お前ら弱すぎだろ。そんなんでよく賞金稼ぎできてるな……」
カイトはある意味同業者であるジョニーとヨサクのていたらくに呆れた。
「今日はこれくらいにしてやる。今日のおれは非番なんでな」
二人を楽々のしたフルボディは船室から聞こえた女の声で戦意をなくしたのか、船室へと戻っていく。
「やべぇぞ! 海軍の奴ら大砲で攻撃する気だ!!」
ウソップは海軍船の大砲がメリー号に向いていることに気が付き声を張り上げた。
「沈めろ」
フルボディの合図で海兵は大砲を発射。
「任せろ! ゴムゴムの風船!!」
ルフィは砲弾に合わせて技を繰り出す。空気を吸って腹部を巨大化させまるで風船のようになったルフィは、飛んできた砲弾をその腹で受け止め弾き返した。
「何っ!?」
さすがのフルボディも顔を驚愕に染めた。が、ルフィの跳ね返した砲弾は海軍船を飛び越えその向こうのバラティエの上部に直撃した。
「どこ跳ね返しとんじゃあ!!」
「あーあ、弁償だよ。こりゃ」
カイトは完全に他人事のようにその出来事を見ていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ルフィが謝罪をしている間、彼らは暇をしていた。メリー号の上でのんびりといった感じだ。
「おせぇなルフィ」
ウソップはぼそりと呟く。
「雑用でもさせられてんだろ1か月くらい」
「海軍のせいにすればよかったのに」
ゾロとナミも船長不在で手持無沙汰だ。
「まぁいい社会勉強だろ。あいつは社会に疎すぎる」
カイトは砲弾を止めようとしたがルフィが前に出たためやめたのだ。別にバラティエに直撃する前に砲弾を止めてもよかったのだが、これも船長の社会勉強だと思い、カイトは能力の行使をしなかった。レストランの雑用で社会勉強も何もないのだが。
エースはかなり常識的な面があったにもかかわらず、弟のルフィは常識知らずだと言っていい。カイトは航海術がないと言われた時からかなり怪しいとは思っていたが、その予想はどうやら当たっていたらしい。
「飯食いに行こうぜ! 様子見がてら」
「賛成」
「いいな」
「そうするか」
ウソップの提案により4人はレストランに向かった。ジョニーとヨサクはまだ伸びている。
レストランの外廊下を歩いていると銃声が周囲に響いた。
「銃?」
「なんだ?」
「海賊が脱走して飯を食いに来たってところか」
カイトは何も見ていないにもかかわらず、そう言って店のドアを開けた。室内で銃が撃たれたというのになんの物怖じもしない。現にウソップは足をガクガクと震わせている。
カイトがドアを開けると木材の破砕音とともにバンダナをまいた男が床に叩きつけられた。
「どーぞお客様。お食事を続けてください!!」
バンダナ男を殴り倒しただろうエプロン男はそう言って一礼した。レストラン中から拍手が鳴り響く。エプロン男はバンダナ男を担ぐと店の外にバンダナ男を運んで行った。
「大丈夫か?」
カイトはそう言って倒れて呻いている海兵を止血した。急所は外れているらしく命には別状がないとカイトは判断した。
「騒がしい店だな」
「まったくだ」
ウソップは場の盛り上がりに着いていけずに困惑していた。
「そんなことよりご飯にしましょ」
ナミはウエイターを呼びとめて4人席を取った。ナミは案外図太いのかもしれない、とカイトは何とはなしに思った。
「フルボディ大尉。早く海賊を捕まえとけ」
カイトは海兵を血まみれのフルボディに預けるとそう言い残して仲間のもとへと足を向けた。
「何頼むんだ? うひょーメニュー豊富だな!」
「お、うまそうなのが多いな」
「さすがは海上レストランといったところね」
「ここのオススメにでもしようかな」
すでに席についていた三人はメニュー表を見ながら何を食べるか悩んでいた。カイトには特段好き嫌いはないため、海上レストラン一押しのランチを早々に頼むことを決めた。
「いろいろうまそうなのがあって悩むなぁ」
ウソップは値段と自身の食べたいものの狭間で唸っていた。ゾロも金はそう多く持っていない。そもそもこの一味で金を持っているのはナミとカイトくらいのものだろう。
海賊なのだから職を持っているわけでもなければ、賞金首を捕まえて金に換えることもできない。必然的に金を最初から持っているのは二人だけとなる。と言ってもメリー号にはバギーの海賊団から徴収した宝があるため、一味という単位でみればそこまで金欠状態とは言えない。言えないもののそのお宝もナミが管理している。
「なんなら俺が奢ってやろうか」
カイトは手持ちに余裕があるため提案した。どうせこれから100億ベリー近くの大金を消費しつくすことはないだろうと思ったからだ。巨大ガレオン船ですら数億程度なのだ。それ以上の買い物など船旅では存在しないだろう。継続的に消費するにしても、毎日豪遊を繰り返してもなくなりはしないだろうとカイトは考えていた。
「マジか!? お言葉に甘えて!」
「気前がいいな、カイト」
「私もいいかしら!」
「いいぞ、好きなの好きなだけ食え」
カイトの提案を3人は喜々として受け入れ、メニューを見直す。見直した後にウエイターを呼ぶと、厨房からエプロン姿のルフィが出てきた。
「ルフィ、注文だ」
カイトはルフィを呼び止める。顔はニヤついている。
「げっ、お前ら来てたのか」
ルフィはカイトたちに気付くと露骨に嫌そうな顔をした。
「よっ雑用」
「一年間の雑用だって?」
「旗描き変えていいか?」
「一年って長すぎだろ」
口々にルフィに対して煽りを入れていく。カイトはウソップの一年雑用ということを聞いて眉をひそめつつ茶を口にした。
「船長を差し置いてこんなうめぇ飯食おうなんて!!」
怒るところはそこなのか
「別に俺らの勝手だよな? しかもカイトが奢ってくれるってよ。な、ウソップ」
ゾロはルフィの言葉にさらに煽る。ゾロがウソップの方に向いた瞬間ルフィはゾロの飲み物に鼻くそを投入した。
「まぁここの料理は確かにうめぇよ」
ゾロは前菜のサービスで出てきたものを口に入れてから、鼻くそが入った飲み物を手に取り――
「これはおめぇが飲め!!」
ルフィの口に流し込んだ。
「何バカやってんだよお前ら……」
「おえええ」
「ああ海よ。今日という日の出会いをありがとう! 僕は君となら海賊にでも悪魔にでもなる覚悟ができた!! しかし何ということだ僕らにはあまりにも大きな障害が!!」
黒スーツの男が謎のステップを踏みながらナミの目の前に現れた。どうやら口説いているらしい。先ほどは他の女性客を口説いていたと思ったら次はこちらで口説く。なんとも軟派な男である。
「障害ってのはおれのことだろうサンジ」
「クソジジイ!」
先ほどの桃色空間を形成していたかと思えば、コック帽を被った老人に声をかけられるとサンジと呼ばれた男は平常に戻った。いや、機嫌が悪くなった。
「あれがオーナーか?」
一年は長いと思い、仕方なく雑用期間をまけてもらおうとカイトは考えた。
「ルフィ、注文だ。これもって厨房にいってこい」
サンジとオーナーの口げんかはいざ知らず、カイトはルフィに自ら書いた伝票を渡した。
「おし来た!」
ルフィが厨房に行くと同時に、カイトたちのテーブルがサンジというコックが背負い投げをされた勢いで破壊された。
「あーあ、前菜が」
「てめぇが追い出そうとしても、おれはこの店でコックを続けるぞ!! てめぇが死ぬまでな!!!」
「おれは死なん。あと100年生きる」
オーナーはそう言い残すと厨房の中へと消えて行った。
「ちっ、口のへらねぇジジイだ」
サンジは去りゆく老体に忌々しげに悪態をついた。
「おい、素敵眉毛。おれたちが金払って頼んだ前菜がおしゃかだ。作り直せ」
ゾロが不機嫌気味に言う様を見てカイトはお前は払ってねぇだろ、と思いつつも避難させていたグラスを傾けた。
その後料理が届くまでは何事もなく時間が過ぎた。新しいお通しの前菜と机もある。
「うまいな。オススメとするだけはあるな」
カイトは出された料理を一口頬張り素直な感想を一言発した。
「高い金取るだけあんなぁ」
「この肉料理うめぇな」
「この魚料理もおいしいわよ」
海上という来るのに少々面倒な立地にもかかわらず、連日人が寄りつく理由がこのうまい料理だろう。
4人は自身に出された料理に舌鼓を打ちながらも黙々と食した。
「先ほどのお詫びです」
食べ終わるのを見計らったかのようにサンジと呼ばれたコックはナミの目の前にだけ食後のデザートを置いた。
「おい、おれたちにはなしか!」
ウソップがその態度に物申す。
「てめぇらには粗茶出してやってんだろうが、礼でも言え」
「なんだ、やんのか!? いけゾロ!」
親指でゾロをサンジに向ける仕草をした。
「自分でやれよ」
◇◆◇◆◇◆◇◆
二日後。
「あと何日だよルフィの雑用ライフは」
「一週間にまけてもらったからな。あと5日ってところか」
「カイト、お前どうやったんだよ。一年を一週間だなんて」
「私も気になってたのよね」
「簡単だ。弁償金を払っただけだ。残り一週間分になるようにな」
こともなげに言うカイトだが、バラティエ上部の破損は案外でかかった。だから一年という長い期間ただ働きさせられることになったのだ。
やっぱりこの世は金だぜ、とはカイトの心の声である。ある意味ナミとは似た者かもしれない。
「お前金持ちだな……いや、おれはわかってたぜ? お前がやれるやつだってな」
ウソップは感心したように腕組みをした。
「そうね。お金の稼ぎ方をぜひとも教えてほしいわ」
「昔賞金稼ぎをしてた関係で金が多く手に入ったんだよ」
カイトはこの話はここまでだと立ち上がって海を見た。海を見たのはボロボロの巨大なガレオン船が近づいてきたからだ。
「あれは……船?」
「……クリークって奴の船だな」
「クリークってあの首領・クリーク!?」
「知ってるのかナミ」
カイトが不思議そうに尋ねる。
「東の海最大規模を誇る海賊の船団の船長が首領・クリークと呼ばれる男らしいわ」
詳しいことは知らないのかナミはそこで口を閉ざした。
「ずいぶんボロボロだな」
巨大ガレオン船が近づくにつれ、その姿は見るも無残な姿となっていることがわかった。メインマストから垂れる帆は所々千切れたり破れたりしている。他の帆に至っては引き裂かれ、帆としての機能が完全に失われてしまっている。
「どうなりゃここまで破損するんだ……」
「これは斬り傷か?」
カイトは船体の傷跡などを見てそう判断をした。
「斬り傷ってこんなでけーもんを斬るのか?」
カイトの呟きに怪訝そうな顔でウソップは言い返す。
「ゾロ、わかるだろ。その船体の傷は明らかに刃物で斬られたあとだ」
「……確かに恐ろしいほどキレイな太刀筋だ」
カイトの指摘を受けてゾロは船体の傷跡を注視し、気づく。この傷を与えたものは只者ではないと。
そうこうしていると巨大ガレオン船はバラティエの前で停止した。
「まぁ飯にするか」
カイトはひどく気楽に言ってメリー号からバラティエに飛び移った。
「そうだな」
ゾロもカイトに続いてバラティエに飛び降りる。ウソップもそのあとに続く。
「おいおい待てよ」
店の中は喧騒に飲まれていた。東の海最大の海賊艦隊が現れたのだ。あわてない方がおかしい。にもかかわらずカイトとゾロは今日のランチメニューを見ながら考えていた。
「お前ら落ち着いてんな」
「焦ってどうなんだ」
ゾロはウソップの落ち着きのなさをたしなめる。
「そうだ。どうせ数だけ集めた烏合の集団だ」
カイトはゾロの意見に同意しつつ、東の海を完全に嘗めている。
「そ、それもそうか」
ドアを勢いよくあける音が店内に響く。そこには大柄な男と先日殴り飛ばされたバンダナ男が立っていた。大柄な男は今にも倒れそうな風体である。
「すまん、水と飯をくれねぇか。金ならいくらでもある」
カイトは茶をすすりながら首領・クリークのなりを見やった。マントを羽織っているが明らかに何かを着込んでいる。それほどに上半身は不釣り合いに膨れている。マントの隙間から見える下半身はどこにでもありそうなズボンである。上半身に対して下半身が貧弱すぎるシルエットだ。
「誰がお前なんかにやるものか」
「そうだそうだ」
「日頃の自分の悪行を恨め!!」
「腹をすかして死んでしまえ!」
店内の客は満場一致でクリークに対して食料を与えないムードだ。
「なんでもいい。残飯でもいいんだ……」
首領・クリークは頭を地につけ懇願した。
「首領……やめてください。あんたが頭を下げるなんて……」
付添いのバンダナ男――ギンは自分のリーダーの情けない姿に涙をこぼす。
「どけ、飯だ」
クリークを捕えようとした料理人のパティが蹴り飛ばされる。蹴り飛ばした本人であるサンジはクリークに食料を与えてた。
「ありがてぇ……!!」
クリークは一心不乱にその食料を口にする。
「サンジ!! てめぇなんてことを!」
「そいつが飯を食ったからって何もせずに帰るタマじゃねぇ! だまし討ちでこの東の海の頂点を取った男だぞ!! ある時は海軍の船で港に入りその港を蹂躙したんだ!!」
カイトは青髭のサングラスをかけたコックの言葉に眉根を顰めた。それが本当ならたいした金になりゃしないが、潰す必要がある。
「早くそいつから取り上げろ! そいつは見殺しにした方が世のためなんだ!!」
コックが言い終わるやいなや、クリークは飯を平らげた。そして食料を用意したサンジにラリアットを食らわせた。
「ふぅ……生き返ったぜ。部下の分の水と食料100人分用意しろ!」
クリークはその場にいるコックに命令をした。
「何をしてる。そいつはお前の恩人だぞ」
クリークの前に立ちはだかった人影がいた。
「なんだお前は」
「俺が誰だろうがどうでもいい。恩を仇で返すのかお前は」
カイトは静かにクリークを見上げた。
「恩だと? そんなくだらんものなど知らねぇな」
「そうか」
その言葉を聞いたカイトは一言小さくつぶやいた。そしてクリークの懐に瞬きも許さぬうちに潜り込み掌底を腹部に叩きこんだ。能力は何一つ使っていない。ただの掌底だ。
「がはっ!?」
何が起こったかもわからないクリークは体をくの字に折り曲げる。
「首領!!」
クリークはその場に倒れ込む。わけがわからないといった顔だ。手加減をしてやったのだ。これくらいで気絶してもらっては困る。
「何をしやがった……おれの最強のウーツ鋼の鎧を……」
クリーク自慢のウーツ鋼には傷が入っていない。だが衝撃を鎧の中に通す技でその鎧を無視したのだ。
「そんな軟弱な装備がなんだってんだ」
クリークの驚愕に染まる顔を見てカイトは淡々と応える。クリークが倒れたのを見てギンはカイトに殴り掛かる、しかしクロスカウンターを叩きこまれクリーク同様その場に倒れた。
「お前賞金首らしいな。海軍に俺が届けてやろう」
カイトがそう邪悪な笑みを見せたその直後、クリークの乗って来たガレオン船が真っ二つに割れた。轟音と共にガレオン船が転覆する。
「まずい! メリー号が!!」
ウソップとゾロが外のメリー号目がけ一目散に走る。
「来たか……鷹の目」
カイトはクリークを店外に蹴り飛ばして海に叩き落してから、自身も外に出た。
そこには船体が見事に半分にされた巨大ガレオン船の無残な姿が広がっていた。
「ルフィ!! カイト!! ナミがっ!」
「なんだ?」
「メリー号がナミに盗まれた!!」
「なにぃ!? ジョニーたちは!?」
「……まだ見えるな」
カイトは冷静にメリー号を目視で捉えた。
「ここにいますぜ!」
ジョニーとヨサクは自分たちの船に上がったところだった。
「ウソップ、ゾロ、ナミを追ってくれ!」
「わかった。おめぇも気をつけろ!!」
ウソップは言うが早いかジョニーたちの船に乗り込む。
「あ、あれは……」
誰かがそう呟く。ガレオン船の煙の中に小さな船影が見えた。
「鷹の目……」
カイトはその船影を見て呟く。
「あれが!?」
ゾロの顔に狂喜が宿る。
「鷹の目!!」
カイトが小舟の前に飛び降り着地した。場所は海面だがそこに確かに立っていた。
「貴様は……」
眼光鋭くカイトを見やる。
「猟犬だ」
カイトはグランドラインの海賊には名の通っている通り名を名乗る。
「なるほど貴様が猟犬か。まさかこの東の海で見ることになろうとはな」
「俺もあんたに会えるとは思ってなかった」
カイトはそう言うとガレオン船の斬られた甲板を横に浮かべた。
「ちょっと付き合え」
「いいだろう」
鷹の目の男はニヤリと笑いカイトの用意した足場に乗った。
「カイト!! 何やってんだ!!」
「俺も一端の剣使いとして世界最強の実力を測っておきたいんでね」
そう言ってカイトは後ろ手でルフィたちを制止させた。彼はあくまでも剣士ではない。レイリーが得手としていたのが剣だった。それゆえに剣を使うことに長けることとなったのだ。その気になれば様々な物は扱える。
「久しく見ぬ強き者よ」
鷹の目の男ミホークは背負っていた大刀を抜き放った。カイトは無名の剣を右手に持った。
「どっから出したんだ?」
周りの驚く声はすでに彼らの耳にまで届いていない。
両者最初の構えから微動だにしない。彼らの距離は10mほど。
どれほどの間二人が睨み合っていただろうか。周りは固唾をのむのも忘れるほどに二人の剣幕に飲まれていた。
「動く!?」
ゾロは剣士の直感で捉えた。それは正解だった。
両者同時に前に踏み込む上段からの袈裟切りをカイトは繰り出す。シンプルだがその一閃は恐ろしく速い。その斬撃をすれ違いざまにミホークは逆袈裟切りで迎撃した。その一撃でカイトの無名の剣が粉々に砕け散る。
カイトの顔に驚きはない。砕けるべくして砕けたのだ。
「なるほど、世界最強だ」
「ふっ、白ひげと赤髪が認めたのも納得。次は良い剣で仕合たいものだ」
すれ違った二人は少し言葉を交わすだけに留まった。今の一刀でどちらも負傷はしていない。二人はこの一振りで何重もの言葉を交わし、感じ取ったのだ。
「何がどうなったんだ……?」
ギャラリーの疑問を余所にミホークは大刀を背に収めた。
「次の機会を楽しみにしているぞ」
「ああ」
カイトはミホークの言葉にそう返すとバラティエへと跳躍した。
「ゾロ、試したいんだろ」
カイトはそういうとゾロをカイトが先ほどいた場所へと投げ飛ばした。
「うおっと」
なんとか着地したゾロは黒いバンダナを結ぶ。
「ちょっと付き合え世界最強」
「……猟犬の仲間か? ならばその腕、試してやろう」
ミホークはそういうと大刀を再び抜刀した。最初から全力であることがこのひり付く空気から感じられたゾロは息を飲む。
「ルフィ、俺は一足先にナミを追う」
「わかった! おれは航海士はあいつがいいんだ!!」
カイトはゾロの闘志を感じつつも再び海に飛び降り、そして駆けて行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「いいやつらだったなぁ……また仲間に入れてくれるかな」
一人風に撫ぜられ彼女は涙する。
「また逢えるかな……。早く自由になりたいよ、ベルメールさん」
潮風が目に染みるのか涙はとめどなく流れ落ちる。
「また会ったな」
無粋な野郎が一人、驚愕する彼女の眼に映し出された。