ゾイド二次創作小説~西方大陸の地にて~完結! 作:もにもに+マウンテンヘッド
・命令下りて
部隊に付属する車両化歩兵・収容装甲車両の列伍がにわかに賑やかしくなったのは、夜も、もっとも共和国時刻では、昼――この現地時刻に直して午後十時頃程の事だったと記憶している。
隊列最後尾に尾きながら警戒歩哨していたコマンドウルフ・07番機のパイロット、ウィリアム・ハートレイ騎兵伍長の述べる通りだ。
続いて、車列が止まった。すぐにヘッドセットに通信が入った。“前進、停止。”陸軍機獣化騎兵であるウィリアムのコマンドウルフ隊の、その隊長(コマンダー)からのものだった。出身原隊から二個小隊ほどがそのままにこの第六分遣隊へと組み込まれた故、これは元の隊から続く関係である。
伍長は確認した。“敵の攻撃か?”、しかしすぐに応答が入った。“違う、一時的な物だ。”
なんとも悪態が咽から出かけた。――と、ウィリアムは述べる。
今日の半日、不味い食事(ウィリアムはこれを“餌”と称する)を…デザートにしてはそこそこ上等でありがたい…粉末ココアのシェイクによって洗い流し込んでから以来、この新造まもないコマンドウルフのまだこなれていないコクピット・シートの上で、しかもMFDディスプレイが組み込まれた操縦桿システム部が、このウルフ型のコクピットの特徴なのである……搭乗員の脚太ももの直上を可動展開式のこれによって塞がれることで、中々リラックスのためのストレッチはテクニックを要し、(やりかたがないわけではないのだ。彼が陸軍騎兵部隊のコマンドウルフのパイロットに成れたのは、多分にこの技法の取得を新兵の内に会得していたからであろう)さらにその上、時にはランダムだったりすることはあるが、それでも冗長な、ハイウェイ経路のただのゾイド前進をこなしてきただけなのである。
たまりかねて、思わず両の操縦桿から手を離した。放るように、パッ、っと。
ついでに横サイドに附いている警戒僚機のコマンドウルフ一機にも確認の通信を飛ばして、同内容の返答を得、それから…まるで雷がわめいたかのようだ! それは自分の耳に飛んできた、このコマンドウルフの背部ビーム砲銃座…緊急時にはビーグルを兼ねるというが、彼ら騎兵部隊ではもっぱら、小回りの良い武装UAVの代わりとして用いていた…のガンナーから、何故急に隊も機体も止まったのだ! という怒鳴り声での発信だった。それなので、こちらも同じ以上でのヤケクソ声にて、確認を取った内容の応答で返してやった。
ウィリアムのコマンドウルフもとうに止まって、ゾイドはアイドリングのまま、隊が停止してから二分も立っていないかだったと思う。
自機の前方の隊列には機獣化騎兵・機獣化砲兵・車両化歩兵の三種が合同されているのだが、その内の砲兵……つまりはカノントータスの一機、その後部キャビンから、であったろう。
丸眼鏡をかけた、如何にも我が軍の砲兵屋の評定係だ、とウィリアムは認識する風体の兵士が一人、コマンドウルフのキャノピー越しに、こちらへ息を切らして走ってくるのが見えた。
未だ敵領域への途上にあるから、交通での事故を防ぐために、カノントータスや歩兵車両の灯火は灯っていた。
その灯火の光に照らされる形で、冷たい大気により吐息が白く映るその兵士の手の中になにやら紙片が握りこまれているのが分かった。
ん?――
見覚えがある。あれはペーパーだ。それもトイレット・ペーパー、レーションのセットにも付属しているし、基地からの出立時に各自へ渡された分もある。それの紙片である。
シット、意味通りのシットか!? ――とウィリアムは恐れおののいたが、それはまあそんなことは無かった。
その兵士はウィリアムのコマンドウルフの近くまで、頭部コクピット内のウィリアムからの眺望視界内に入る形で接近し、そしてジェスチャーを取った。
その意味はコマンドウルフ乗りならば、共和国軍一般において…それはウィリアムからすれば天の上のエリート様たちである高速戦闘隊などの特殊兵科などにも関係なく、と聞く程に…内容が通じる物である。
すなわち、“機体の首を下げろ”。
とまどいはあったが、まあ逆らえることはなく、意味通りにウィリアムは操縦桿を微操作させ、ウルフの頭を下げた。
元々はコマンドウルフ頭部・吻部先端のいわゆる“鼻”にあたる箇所、そこに集約実装されている、この機種の採用以来の特徴である各種探知・検知装置の効果を最大に使うための、機体モードの一つである。
それなのだが、外部の非搭乗者によるゾイド搭乗員への連絡・指示の手段に簡便として、センサーモードを“切”とした上で、運用に於いては主に機体動作モード側のみについても好評に繁用しているのであった。
それはとにかく…
ガクン、と…自分の体ごとウルフの頭が“落ちる”感覚。
しかしそれはそのまま落下と“着弾!”による破壊を示すものでは無く、あくまで降着として、着地の前に減速がされる。
そうしてウィリアム伍長のスムーズにして緩やかな降下がなされた後には、件のその兵士の姿が、グラスキャノピー越しにもう目前であった。
おそらくは引きつっているであろうと自覚はしていたウィリアムの顔の前に、その兵士は見るように、といった具合に、トイレット・ペーパー紙片の一面をキャノピーへとベタリと張り示した。
いよいよもって絶望となりかけたウィリアムであったが、その紙片の中に走り書かれている内容を理解するに至り、次の瞬間には、表情は精強な共和国軍ゾイド騎兵のそれへと変化していた。
ウィリアムは短く、荷物のガンナーにへとその走り書きの内容を中継した。原隊からの縁だ、知り合ってから短くはない。ジョークの通じ合う分にはそれなりに、信用はそこそこであるが、あくまでもぞんざいであった。
ただ、同時に、ウィリアムの第一の相棒である、この“ウルフ”へと、こちらは本当に真剣の……相棒への信頼、そして親愛の念、それから何よりも、今からここからのウィリアムの重要な時間を、特に預ける、一緒にやってやる――……ウィリアムは操縦桿コンソールの淵を撫で留めながらであった。そうして自らのゾイドへの愛情を、まるで語り掛けるように、されど確実に、この“ウルフ”へと伝えた。
それは、この第六分遣隊・先鋒部隊のゾイド乗り全てが、おなじような時を共有する瞬間であった。
それぞれのやり方で、ゾイドへの信頼を彼らは示し、そして機体に伝えた。
同時に車両歩兵の乗組員であったが、彼らは彼らで、故郷の親しい人たち…恋人、家族、友人、あるいは人に限らず、心の中に気に掛かっていることだとかを吐き出した者も居ただろう。
ブオォン、――とゾイドのモーター駆動子が、うなりの音を上げたのはその時だった。
それもウィリアムのコマンドウルフだけではない。
この先鋒部隊のすべてのゾイドが、一斉に呼び答えるものであった。――ゾイド乗り、パイロットたちの願いと思いへ。
それはゾイド乗りにとって、最高の答えの一つである。
さらに各々のゾイドの操縦席に座る搭乗員ならば、自分の乗る乗機の…そのゾイド・コアの暖かな脈動が、自分の鼓動と直にリンクする体験を感じただろう。相棒と己との、何倍にも増幅されたパルス! まるで漲るようなエネルギーが込められたそれ…他の何物でもない己へと宛てられたそのエナジー、ゾイドのパワー。
ウィリアムはそれを、確かに受け取った!
そしてその勇壮なモーターの回転トルクのうなりの脈動は高らかなエクゾーストとなって、故郷の土地では平和な生活を送る青年たちでしかない、今この場にいる、非ゾイド乗りの共和国軍兵士、歩兵達をも勇気づけた。
ウィリアムの乗る機体の背部銃座のガンナーも、ガッハッハっと笑いながら、戦士の祝福を挙げている。
――隊列の灯火が落とされる。アイドリングから、ゾイドや車両が立ち上がる。
唸りをあげるエンジンとモーターの音と共に、部隊の全ての機体が発進していく。
そして件の砲兵も、消えゆく灯の中で、己のカノントータスへと戻っていくのが見えた。
ハイウェイの上から、ゾイドと車両の姿が消えた……砂漠の夜の向こうへと、
そして、第六分遣隊・先鋒部隊は無線封鎖へと入った。
分遣隊本部、すなわちロブ基地司令部からの通達によって、この部隊へと作戦命令が下されたからだ。
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