鋼鉄の咆哮レーン   作:キサラギ職員

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第1話

 基地にてショップを経営している猫もとい明石の朝は早い。『前世』あるいは、『過去』では連合艦隊の数割の整備工作修理などを単独で補っていただけあって、薄緑色の髪の毛を無造作に寝床に撒き散らし半裸で丸まっている姿からは想像すらできないほどに普段は働くのだ。そう、普段は。

 しかし、世間様はお休み。彼女もお休み。何せ世間様は猫の日らしいではないか。ということで、今日も値引きしてだのうるさい指揮官やら、ゲーム機が壊れたから直してとかいってくる連中の塗り絵は無視して、今日のためにこしらえた看板をお店の前にどんと置いてゴロゴロしていたのだ。

 

 「うにゃぁぁ寝坊って素敵だにゃぁぁぁ」

 

 なんとすばらしいことか。もとより最前線を張るような船でなかっただけに、普段の任務で抜擢されることもまずない。本業は工作、修理、整備である。上層部の事情もあったのかはわからないが、お店をやることになったのは予想できなかったが。

 彼女は自身の部屋もとい工房でごろごろしていた。これでもかと暖房を利かせまくっているので寒くなく、むしろ暑いくらいだった。髪の毛も結んでいないし、服は下着くらいなもので、誰かがそこにいると仮定してちょっとかがめば裸体を拝むことができるだろう薄着で、指揮官が入ろうものなら卒倒し、即レンジャー先生の戦術講座(3時間)とケルン先生の理論講座(3時間)に懲罰をかねてぶち込まれることだろう。

 

 「にゃむ? なにか妙なにおいがするにゃ?」

 

 明石の耳がぴくんと動く。鼻をすんすん言わせると、布団を着物のようにかぶったままスススと工房の別の部屋に移動していく。侵入者だろうか。空き巣にしては人がいるのに入り込むなんて大胆すぎるし、指揮官のにおいじゃないし、むしろこれは『艦娘』もとい『艦船少女』のにおいに近い。気がする。

 『艦船少女』とはこの71%が海に覆われた世界において、セイレーンと呼ばれる人知を超えた技術を有する勢力の技術力を使い誕生した、もしくは対抗するため作られた兵器の呼称であり、かつて存在したもしくはまったく別次元の情報を元に人型をとって誕生した生物兵器のことである。メンタルキューブという物体がコアになっているとはいわれているものの、元人間だった娘もいるし、あろうことか違う世界からやってきた娘までいたり、『そういうもの』というあいまいな認識を受けていた。

 明石は、猫である。アズールレーンとレッドアクシズという二つの陣営――悲しいかな人類はセイレーンという敵対的存在を前に二つに別れ戦争をしていた――重桜すなわちレッドアクシズ側であるはずの彼女がどうしてアズールレーン側にいるかは定かではないが、とにかく、明石は猫である。重桜側の娘はみなケモノの特性を有しているといわれ、明石もまたケモノすなわち猫の特性を有している。犬ほどではないが、嗅覚は利くのだ。

 

 「にゃー! 明石のはうすに侵入するなんて許さないにゃ!」

 

 いうなり明石は壁に立てかけてあった身の丈ほどの工具を掴むと、相変わらずの半裸で歩いていった。そこは工房の隅の物置のような場所で、いらないものを放り込んでおく場所だった。

 

 「ふしゅー! 明石のはうすでなにしてる……にゃ?」

 

 がらりと扉を開けると、そこには白い髪の毛を円形状にしてその中央で寝転んでいる女の子がいた。身の丈は明石と同じくらいだろうか。幼い顔立ちに、つつましい胸元。なにやらかばんのようなものを抱えていて、侵入者というにはあまりに無防備すぎた。

 明石はとりあえずかがむと、匂いをかいで、ちょんちょんと突いてすぐ後退した。身をかがめ猫パンチをいつでもかませるようにしている。

 

 「くんくん。にゃ!? この子明石たちとおんなじにおいがするにゃ!? ……もしかしてかんむす? にゃ?」

 

 そうと決まれば話は早い。さっそく明石は相変わらずの半裸で工具を横に置くと、少女をゆすり始めた。

 

 「起きるにゃ。おーきーるにゃー!」

 「ねむいよーねかせてよー……ふぇ? え、こ、ここどこ? んー………ん??」

 

 少女は目をこすりながら上半身を上げて周囲を見回していたが、疑問符を浮かべたまま明石と顔を見合わせた。

 

 「にゃ?」

 「ん?」

 

 並んだ二人の顔は似通っていた。一瞬の間があった。程なくして再起動したのは白い少女だった。

 

 「はわ……うわわわわ接近されてるぅぅぅぅ! 護衛艦は!? ラタトスクちゃん! いないし! ほかの子は? いない! こ、こうなれば自衛あるのみぃぃぃ!」

 「うわ、落ち着くにゃ! 建造されたてにゃ?」

 「建造ならするほうですぅぅぅ! 展開!」

 

 少女が大声をあげたせいか明石は驚きひっくり返ってしまった。

 次の瞬間、少女が抱えた鞄をおもむろに地面に叩きつけ、そこからにゅっと体積を無視した量のクレーンやら煙突やらが生え始め、小部屋を破壊。明石の工房を埋め尽くさんばかりの勢いで増殖していく。

 

 「にゃぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 明石がとるものもとらず逃亡した。三十六計逃げるに如かず。絹を切り裂くような声を上げて、半裸で工房を脱出。そこに通りがかりのロリコ……アークロイヤルと鉢合わせした。

 

 「ふう。仕事は終わった。そろそろ妹たちが委託から帰ってくるころだな。時間に間に合わせるのは得意なんだ。いや、足止めをする、かな。おやあれは……」

 

 スチームパンクとでもいうべき古風な装備を身につけ胸元の開いた装束身に纏ったセクシーなその女性は、半裸で走ってくる明石を見て、神に感謝した。両手のこぶしを固め、ねっとりと視線を送る。

 

 「ぐっ……く、駆逐艦ではない……しかも猫……猫は苦手だが……しかし、これは、いいものだ!!」

 

 同時に神に深くどうして駆逐艦じゃないんだという文句を送りつけ、興奮の余り震える体を必死にこらえながら明石の前に立った。

 明石がアークロイヤルの前で急停止すると、小さい胸を上下させつつ背後を指差した。

 

 「なにかあったのか!!」

 「にゃー! あれを見てほしいにゃ!!」

 

 二人の背後で明石の工房を突き破り膨張を続ける余りにもでかすぎる構造物があった。

 

 「わーいでっかいぞー!」

 「お姉ちゃんずるーい!」

 

 金と紫色の二人組みが歓喜の声をあげて増え続ける構造物に突進していく中、アーク・ロイヤルはさすがに常識人フェイスを取り戻した。が、しかしそこは小さい子が好きなんです(自称)である。基地の七不思議に数えられる(一応)駆逐艦のロリ娘二人組みを見るやでへへと鼻の下を伸ばし始める。

 

 「あれはブリ! 七不思議に数えられる子……! なんて私はついているんだ早く閣下にも教えてあげよう!!」

 

 異音を聞きつけやってきた女性がいた。ブロンド髪を横で一房とり纏めた制服にマントをつけた姿。クリーブランドだった。

 

 「なんだありゃあ……」

 「クリーブランド、おんぶ、して」

 「もちろんさ。ほら」

 

 隣を歩いていたブロンド髪をツインテールにした少女が、足をばたつかせておんぶをねだった。クリーブランドはああと頷きつつ少女エルドリッジに対し頷いた。クリーブランドはエルドリッジをひょいと持ち上げてだっこすると、体を上下に軽く揺すりながら明石の工房だったものを見つめていた。電流は流れていなかった。大家族の長女たるクリーブランドは、こういった子供の取り扱いに長けていた。

 

 「こりゃあ大事だぞ……」

 

 唖然とする一同の前で、明石が我に返った。

 

 「さ、寒いだろう。私の服を羽織るといい」

 

 上着を脱ぎ明石に着せようとするアークロイヤルがいた。顔はもはや誰にも見せられない崩れっぷりだった。

 明石は布団を体に巻きつけると、じっとりと湿った目を向けた。

 

 「寄るんじゃないにゃ。引っかかれたいかにゃ? ……へっくち! さ、さむいにゃああああ! お布団だけじゃ寒いにゃああああ!」

 「あたためてあげよう!!!」

 「フシュゥゥゥゥ!!」

 

 バリバリー

 

 「ぎゃあああああああっ!?」

 

 騒ぎはあわてて駆けつけた指揮官によってかろうじて収束したという。

 

 

----------

 

 

 

 

 「覚えてないにゃ?」

 「う、うーん……なんか記憶があいまいっていうか……」

 「間違いないにゃ。明石の妹に違いないにゃ!」

 

 現状集められるメンバーを集められるだけ集めた講堂にて、くだんの娘の聴取が行われていた。

 娘が語るところによれば、記憶が曖昧で、自分が工作艦だったような気がするし、ドックだったような気がするとのこと。ドックが船であるはずがないと一堂が言い切ってしまったので、ますます本人は首をひねるばかりだった。

 第一発見者である明石は、隣に腰掛けて肩をくっつけて座っていた。見れば見るほど二人の顔立ちはよく似ていて、姉妹と言われてもおかしくなかった。

 

 「自らの名……仮称ですら未明とのこと、いかなる心境か」

 

 ホワイトアッシュのロングヘアの軍服にコートを纏い儀礼用サーベルを腰にぶら下げた少女が問いかけた。Z46。ついに実戦を経験することなくドックの中で生涯を終えたかつての大国の新鋭駆逐艦。冷徹ささえ感じさせる声はしかし確かに高ぶっていて、好奇心を抑え切れていない様子だった。

 白い少女はうーんとうなり、ダブダブのジャージ姿のまま首をかしげていた。

 

 「え、えと、うーん……あははわかんないや」

 「名前わかったかもしれないぞ」

 

 クリーブランドが白い少女の持ち物を講堂の隅で検分していた。鞄をひっくり返し、名前らしきものが刻まれているのを発見したらしく、声を上げた。

 

 「スキズブラズニル……?」

 

 

 少女が、あっと小さく声を漏らした。

 

 

 「思い出した。私の名前は――――スキズブラズニル。ドック艦よ」

 

 

 

 

 

 

 

 続け!

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