異世界隠居 身勝手に呼ばれて身勝手に捨てられたので隠居したい 作:ジト民逆脚屋
出番無し。トラウマスイッチ軽くONして、砲剣のトリガーに指が掛かったまま。
リラ
にこやかに剣を抜いている。
フェリド
頑張れ、交渉役
サヤマ
周辺警戒中
ハルファ
同じく周辺警戒中
「では、先ずは私達の身分を。私は〝ソフィア・ハプキンス〟、ギルド《
宿のエントランスに当たる位置、そこで凛とした態度のソフィアが、フェリドに名を明かす。
年長者という事もあり、交渉事に駆り出される事の多いフェリドだが、今回は内心で頭を抱えた。
「フェリド・ラフィーロだ。《金鹿の蹄》つうと、あの《金鹿の蹄》か?」
「他に同じ名前のギルドが無ければ、その《金鹿の蹄》で間違いはありません」
「そうだよなぁ……」
《金鹿の蹄》、大小様々なギルドを取り込む事により、ファーゼル王国の冒険者ギルドの約八割を支配下に置く、ファーゼル最大の冒険者ギルドである。
そして、ソフィア・ハプキンス。この名前に、フェリドは聞き覚えがあった。
「ソフィア・ハプキンス。あんたの名前は、戦場で何回か聞いた事がある」
「ろくな戦功も立てれぬ未熟者です」
よく言う。フェリドは外の喧騒を耳に流し、目の前の女を見る。白の長髪で顔右半分を隠し、その下は更に黒い布製の眼帯が覆っている。革鎧とコートを纏った体格は平均的だが、少しだけ長身の部類に入り、笑みの奥にある瞳は猛禽を連想させる。
その目の前女が、嘗てフェリドも参戦していた〝一日だけの内乱〟で、四十人の兵士の頭だけを撃ち抜いた。
「あんたには、俺も助けられた」
「もしかして、あの時殿を務めていた《城塞騎士》は、貴方でしたか」
「ああ、そうだ。それでだ。俺達に話とは、なんだ? もし、醜亜巨人退治だってなら、あんたらだけでやってくれ」
フェリドは先手を打った。ソフィアの話は確実に、醜亜巨人討伐の助力に関する事。こちらに、その意思は無いという事を、しっかりと伝えておかねば、望まぬ戦いに巻き込まれる事になる。
だが、そのフェリドの思惑を、正面から打ち砕く言葉が、ソフィアから送られた。
「これを」
「あ? 依頼書か。……っ!」
ソフィアの差し出した依頼書を見たフェリドは、目を剥いた。
「今更か……」
「本当に、そう思いますよ」
「あの内乱の残り滓かよ」
フェリドとソフィアが数年前に参戦した〝一日だけの内乱〟、正確には一日にも満たない時間の紛争は、ファーゼル王国の地方領主による反乱だった。
そこでフェリドの居た部隊は、味方の裏切りにより壊走、耐久力と経験に勝るフェリド達が殿を務め、ソフィアは追ってくる敵を狙撃した。その時の撤退戦で、二人はある者を見ていた。
「確かに、魔属が居たのは見たが、偶然混じったのかと思ってた」
「敵味方関係無く、暴れてましたからね」
「だが、醜亜巨人まで手に入れていたか……」
その地方領主は収集家であった。骨董品や絵画に飽き足らず、遂には人すらも収集し始めた。
そして、秘密裏に魔属まで収集していたのだ。
「その結果、回収して封印処理を施した醜亜巨人の幼体が、杜撰な管理のせいで流出、ファーゼル王国からの極秘依頼が、私達に回ってきたという訳です」
「成る程な。〝ネフェリタ〟からの依頼か」
「あら、判りますの?」
態とらしく、驚いたふりをするソフィアを依頼書越しに見て、フェリドは溜め息を吐いた。
「奴とは昔馴染みでな、変な所で詰めが甘い。だから、〝レミエーレの魔女〟にいいように利権取られるんだ」
「あら、手厳しい。というより、今回の依頼は既に魔女の耳に入っている様でして」
「自国領内でケリつけろ。さもなきゃ、馬鹿げた額の賠償金をふんだくるぞ、か?」
「魔女の得意な手口ですね。まったく、何処に奴の耳はあるのやら……」
溜め息を吐くソフィアの側で、長い棒状の包みがずれた。
僅かに金属の音を出したそれを、フェリドは眇で見る。
「《ガンナー》ですから、私」
《
「銃槍じゃあないんだな?」
「ええ、召喚勇者だった祖母の形見でして」
言ってソフィアが包みを撫でる。フェリドが知る銃より幾分長いそれ、その威力はよく知っている。
「あ、そういえば、お仲間の……、シーナさんでしたか? 大丈夫ですか?」
「ん? ああ、あんまり気にすんな。よくある事だ」
「はあ?」
シーナの過去を知らないフェリドには、これ以上の事は言えない。仮に言えたとしても、関わりの薄いソフィアに言う必要は無いし、言ったところで、どうなる事でもない。
「しかしまあ、《金鹿の蹄》なら余裕だろ。俺らの手を借りんでも……」
「あ、それがですね。私、醜亜巨人というか、魔属との戦闘経験があまり無くてですね……。早い話、私人間専門でして」
「マジか……」
人間専門の《ガンナー》、それが何を意味するのか。フェリドはよく理解している。
彼女は一番〝死〟に近く、そして〝死〟に遠い場所に居る狙撃手だ。
「他の三人もか?」
「あ、いえ、モンド、《ダークハンター》とは長年のコンビで、《セスタス》のニコラス、《ソードマン》のフレッドは違います」
フェリドの見立てでは、ソフィアとモンドが頭一つ抜けていて、他二人はそれなりだが、あの名高い《金鹿の蹄》から派遣されたのだ。実力は最低でも上の下クラスだろう。
あの間抜けた様子からは、到底想像できなかったが。
「とりあえず、人間専門はあんたと《ダークハンター》で、他二人は違うと」
「はい」
さてと、フェリドは思案する。今回の件は受けなくてもいいが、受けなければファーゼル王国に帰った時に、〝ネフェリタ〟から五月蝿い小言を頂戴する事になりかねない。
それに、召喚勇者であるサヤマと同行する己が、王国からの極秘の依頼書を見てしまった以上、これを無視するとサヤマの立場に響く可能性も低くない。
そして、問題はシーナとリラだ。あの二人はレミエーレの人間で、今回のファーゼルの件とは関係は無い。
あの二人だけ、先にファーゼルに行かせるという選択肢も無いでは無いが、フェリドとしてはそれは避けたい。
あの二人、いや、シーナは、下手をすると壊れる。既に壊れ始めているかもしれないが、リラやハルファにサヤマと関わって、少しだけ癒されているかもしれない。
フェリドは関わってしまった以上、シーナをこのまま放っておく選択肢は選べない。ならば、どうするか。
「一応は話を聞いた。その上で、こちらも仲間と話をしたい」
「勿論です」
以上の話を以て、方針を決める。穏便に済ますには、これしかない。
大体の反応は予想出来るが、それでも勝手に決めるよりかは、遥かにマシだと言える。
そう、フェリドが結論を出し、席を立とうとした時、九人が居る宿の扉が、突如勢いよく開け放たれ、叫びが転がった。
「ソフィア! 醜亜巨人、目視で十以上!
それは最悪の報せだった。