異世界隠居 身勝手に呼ばれて身勝手に捨てられたので隠居したい 作:ジト民逆脚屋
おや?
リラ
戦う
フェリド
露払い
サヤマ
移動砲台の移動役
ハルファ
移動砲台の砲台役
リラは駆けた。瞬発に長ける〝月猫族〟の身体能力、それを十全に用い駆け抜けるは、敵中の先陣。
一歩、石畳を駆ける。
二歩、粗末な得物を振り上げる〝
三歩、シーナの側では絶対に使わない強力な毒を塗った投刃を、犬面人の群れに投擲、命中を確認せず撤退。
命中を確認する必要も無く、投刃は犬面人に突き刺さり、猛毒が体を侵していく。薄汚れた毛皮を掻き毟り、あらゆる体液を撒き散らしながら、痙攣し倒れ力尽きる。
醜い犬と豚を混ぜた顔に、恐怖の色が浮かぶ。
犬面人は基本臆病な魔物だ。個体に於ける戦闘能力は、新人冒険者の足元にも及ばない。
だが、それは犬面人が単体又は、少数の場合だけだ。
「嬢ちゃん、こっち、こっちだ!」
連中は数が多くなればなる程、その勢いを増していく。そして、その群れに圧倒的強者が加われば、今回の様に町や村を襲い出す。
《セスタス》のニコラスの手招きに、リラは急拵えのバリケードに滑り込み、迫る群れに視線を向ける。
「数がやべえな」
「まったく」
目算で凡そ百近く、それに加えて
犬面人が、どうやって醜亜巨人を群れに引き込んだのか。それは解らないが、連携の取れていないこちらが不利なのは変わらない。
「ニコ! 醜亜巨人の足はどうだ!」
「町付ギルドの《陣術師》のお陰で、なんとかなってるが、長くは保たん!」
《ソードマン》のフレッドが、バリケードを越えてきた犬面人を大剣で斬り捨てながら、 ニコラスに叫ぶ。
町は円状に簡易な馬防柵で囲われ、四方に四つの門と、それに続くメインストリートが十字に走っている。
リラ達が屋台等で組んだバリケードの位置は、そのメインストリートの一つの中程。今は《陣術師》の張った結界のお陰で、醜亜巨人が町に雪崩れ込むという事態は回避出来ている。
「我らがソフィアはなにしてんだ?」
「町中央の時計塔に向かってる」
ニコラスの拳が犬面人の頭を砕く。手甲で辛うじて形を保っているナイフをいなし、肘鉄をこめかみへ打ち込み仕留める。
数が多い。リラもフレッドもよくやっているが、このままでは物量で潰される。だが、ここを退けば防衛線が一気に崩れる。
いまだギルド間の連携が取れぬ中、冒険者達は各々に死力を尽くし、犬面人の攻勢を凌いでいた。
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「ねえ、モンド。そっちはどう?」
「そっちからは?」
「まだ厳しいわ」
町中央に聳える時計塔、内部に設置された鐘は、既に鳴らす者は居らず、ただ二人の冒険者が町の外に目を向けている。
「醜亜巨人って、頭小さいのね。小顔なのかしら?」
「いや、ソフィー。それはおかしい」
「あら、そう?」
長い銃を抱える様に構え、片頬を銃床に乗せて塞がっていない片目で、スコープの向こう側を見る。
もう一人、《ダークハンター》のモンドも単眼鏡で同じ方角を観察する。
「あれは小顔じゃなくて、頭が小さいだけ。脳が無いんだ」
「あら、それでどうやって生きてるの?」
「脳の代わりに、脳みたいな器官があるらしい」
「そうなの……」
会話が止まり、ゆっくりとした呼吸音だけが聞こえ始めた。ソフィアの片目がゆっくりと確かに見開かれていき、スコープの向こう側にある標的を、その視界に捉える。
呼吸音が次第に深くなり、ソフィアの指に力が入る。
「今だ」
モンドの合図に、ソフィアの指が引き金を引き、弾丸が標的に向けて発射される。魔力と火薬により発射された弾丸は、銃身内に刻まれたライフリングに導かれるままに回転し、小石程の大きさに与えられた必殺の力で、標的の頭部を掻き回し、石榴の華を咲かせる。
「来たぞ! 我らが女神様の一撃だ……!」
《陣術師》の結界を抜けた醜亜巨人の一体が、首から上を失い、醜い肉塊と成り果てた。
それを確認したフレッドが叫び、冒険者達が次々に攻勢へ出る。
「モンド、次は」
「手前から一つ奥、向かい風に注意」
次を弾く。二体の巨駆が崩れ落ちる。
攻勢は止まず、ますます勢いを増し、犬面人の軍勢が押し返されていく。その中に、ソフィアはあるものを見付けた。
「モンド、ノッポの《ストライダー》と戦ってる犬面人の集団」
「どうした?」
「妙に、装備が良くないかしら?」
ノッポのサヤマが突き出した槍を、犬面人の一体が逸らし、サヤマの懐に入るが、即座に膝が顔を潰し、柄を短く持った槍が首を薙ぐ。
「気のせい、じゃなさそうだな」
「ええ、事実装備が良いわ」
粗末な石器や、廃棄された革鎧が関の山の犬面人が、駆け出しの冒険者に近い装備を身に付けている。
全員ではないが、防衛の要所要所にその集団が居る。
「なにかしらね、これ」
「さあね」
だが、所詮は犬面人でしかない。戦略も技術もなにも無く、状況をひっくり返す力も無い。装備が良いと言っても、今この戦場に居る者達からすれば、大して変わりは無い。
サヤマの槍に薙がれ、ハルファの魔法に焼かれる。
「モンド、仕事をしましょう」
ソフィアは言うと、銃口を町の外に向け直す。
《陣術師》の結界は既に破られ、逃げ遅れた数人が犬面人の餌食となり、醜亜巨人の股座に突き立っている。
「ごめんなさいね」
ソフィアが放った弾丸は、醜亜巨人の股座で動かなくなった女冒険者の、白濁に汚された頭を砕き、醜亜巨人の腹部を貫く。分厚い皮と脂肪、強靭な筋肉に守られている筈の内臓器官が、鉄の礫に掻き回され引き千切られる。痛みに悶える暇も無く、醜亜巨人は膝からくずおれ、二度と動かなくなった。
「モンド」
「酷い事しやがる。標的、前方醜亜巨人」
引き金を引き、銃声が鳴り響く。その筈だった。だがそれよりも大きく重い音が、醜亜巨人二体を消し飛ばした。
「なに?!」
「なんだぁ?!」
二人は信じられない光景に、思わず頭を上げる。スコープ越しではない視界にも、上半身が消し飛んだ醜亜巨人と、余波に巻き込まれた犬面人の挽き肉が写る。
「あれは、あの時の……」
ソフィアの隻眼が青の鎧を捉えた。彼女は見た事の無い武器を抱え、フェリドと戦場を駆け抜けていく。
巨大な重量武器を提げているとは思えない動きで、彼女、シーナは敵を屠っていく。
「凄い……」
ソフィアと同じ、一撃で相手を絶命至らしめる戦い方だが、シーナのそれは己とは違う。
ソフィアは待ち、遠くから一方的に刈り取る。だがシーナはそれをしつつも、正面から奪い取っていく。
一方的で圧倒的、シーナの武器が雷を吐けば、醜亜巨人が最低二体、ついでに犬面人まで吹き飛ぶ。
「ソフィー」
「……ええ、分かってるわ」
スコープを覗き、ハルファを抱えて屋根から屋根へと、走り抜けるサヤマを追う醜亜巨人の頭を撃ち抜く。
フレッドとニコラスも奮闘している。リラはいつの間にか、シーナ達に合流して、フェリドと二人でシーナの露払いに務めている。
戦況は完全に町側に傾いた。夕日に最後の醜亜巨人が倒れ、誰もが歪み痛んだ得物の構えを解く。
夥しい量の血肉が異臭を放ち、赤黒い地獄を形作る。
そんな地獄の中で、シーナはただ無表情に時計塔を見ていた。
次回
後片付け