異世界隠居 身勝手に呼ばれて身勝手に捨てられたので隠居したい 作:ジト民逆脚屋
アニマルセラピーは素晴らしい
リラ
ちょっとだけジェラシー
フェリド
手間が増える
サヤマ
特に出番は無いけど、密かに仕事が増える
ハルファ
《ルーンマスター》として、仕事が山積みになった
薄暗い路地に、踞る影が一つあった。青い装甲に日光を反射させ、片手を物影に差し出し、指を前後に動かす。
「チッチッチッ……」
指の動きに合わせて、小さな舌打ちを繰り返す。小さく折り畳んだ体を、更に屈ませ覗き込む物影には、金の獣瞳が二つ、爛々と輝いていた。
「こっち、こっちだぞ」
のそりと物影から、黒と白の二色の四足歩行の動物が、シーナに向けて歩み出した。
徐々にシーナに近付いた猫は、彼女の右手に頭を擦り付け、柔らかな毛並みの感触を伝えてくる。
「ふふふ、鶏ハムだ。食べるか?」
確りと塩抜きをした鶏ハムの切れ端を、猫の鼻先に差し出す。すると、鼻を何回か鳴らしてから、鶏ハムに食らい付く。
「慌てるな。まだあるから」
シーナは普段見せない穏やかな笑顔を浮かべると、懐から鶏ハムを詰めた小袋を取り出す。
自ら市場で厳選した鶏ハム、確りと塩抜きをしたそれを、猫が食べやすい大きさにカットして詰め込んである。
猫は鼻を動かし、その小袋目掛けて動く。
その先は、シーナの膝の上だ。シーナは己の膝の上で丸くなる暖かな体温を感じると、ゆっくりとその毛並みを撫でる。
喉を鳴らす音と、柔らかな毛並みの感触、その二つを感じながら、シーナは猫の口元に鶏ハムを差し出す。
「行儀がいいなぁ、お前」
普段しない顔で、普段出さぬ声を出す。いつの間にか、側に控えていたリラが、穏やかな表情を浮かべている。
良い兆候だと、リラは判断する。こうして猫等と戯れている時、シーナは実に穏やかな表情を見せる。
あの三人と行動を始めてから、僅かだが余裕の様なものも感じる。いまだ疲れ果てた顔に変わりはないが、それでも少しずつ明るさを取り戻しつつある。
えらく人慣れした猫と、シーナが戯れているを見ながら、リラが微笑んでいると、彼女の耳が一人分の足音の接近を拾う。
リラは笑みのまま、腰の曲刀の柄に手を掛ける。足音は小さく、態々音を殺して歩いている。
町はいまだに、醜亜巨人と犬面人の混乱の影響が残っている。町付きの冒険者やギルドが、人を募って自警団を組織しようとしているが、後手に回っているのが現状だ。
リラは暴漢の可能性を考え、曲刀の柄に手を掛けたまま、足音の聞こえる路地に目をやる。
「そ、そんな……」
現れたのは、意外な人物だった。
「ん?」
「貴女は」
猫と戯れていたシーナが、その人物に気付き、振り向く。
そこに立っていたのは、長い白髪に顔半分を覆い隠す眼帯の女、ソフィアだった。
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
「んで、町の様子はどうよ?」
「市民自体の被害は少ないが、建物の被害が酷いな」
半壊した酒場のテラス席で、フェリドがニコラスに問うと、その様な答えが返ってきた。
「井戸と飯は?」
「そっちは心配無い。念の為、《メディック》に水質検査もさせた」
ニコラスが肩を鳴らし、運ばれてきたジョッキを傾ける。疲れた体に、麦酒の苦味と酒精が染み込む。
「くあーっ、効くなぁ。……そういや、旦那。フレッドの奴は?」
「ん? フレッドなら、アーネストの小坊主の稽古だ。ついでに、うちのサヤマが相手になってる」
フェリドの戦歴を知ったニコラスとフレッドは、元々面倒見の良いフェリドを、いつの間にか旦那と呼び慕っていた。
時間は夕刻前、何もなければもうすぐ戻ってくるだろう。
「おーう、戻ったぞっと」
と、そんな話をしていると、件のフレッドが肩に少年を担いで戻ってきた。その背後でサヤマが長身を軽く曲げて、手を上げている。
「おう、どうだったよ?」
「旦那、まだまだだわな」
「そりゃ、そうか」
フレッドの肩から降ろされた少年、〝アーネスト〟はまだ目を回したままで、同行していた《メディック》と《ドクトルマグス》の少女に手当てされていた。
どうやら、この三人でギルドを組んでいる様だ。
「だが、筋は悪くねえ。あとは経験だ」
「経験か。町の依頼は?」
「今の所、町の復興が先になってる」
「おーい、ちょっと手伝ってくれ」
少し離れた場所で、モンドがハルファに連れられて来た。
「おう、モンド。我らが女神様という者がありながら、エルフの嬢ちゃんに手ぇ出すか? んン?」
「違う違う」
ハルファが無言でモンドから距離を取り、フェリドの背後に隠れる。その目はとてもアレなものを見る目だった。
「だぁーっ、違う。町役場が倒壊してて、中の金庫を取り出す手伝いが欲しいんだって」
「ふーん」
モンドの言葉に、取り敢えず全員立ち上がる。復興するにも、なにをするにも、先立つものは必要だ。
町の規模から、あまり多額の貯蓄はないだろうが、この町は交易ルートに在る。醜亜巨人襲撃を乗り切り、復興した町として、以前以上の賑わいを見せるかもしれない。
「ニコラス、上の瓦礫からどけていけ」
「旦那は、解体作業もやってたんで?」
「長く傭兵やってると、要らん知恵や技術が身に付くんだよ」
フェリドが頭を掻いて、他の冒険者達に指示を出していく。冒険者や傭兵は、仕事が無ければチンピラや破落戸と変わらない。だから、こういった復興作業等には、率先して参加して、市民からの心証を少しでも良くする。
そうしておけば、仕事が円滑に回る。アーネストと他二人も、瓦礫を運んだり土埃の飛散を防ぐ為に、水を撒いたりしている。
「そういや、我らが女神様達は何処に行ったんだ?」
「そういえば、見ないですね」
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「ヒドイ……」
「………」
「シーナさん、その子は私が先に目をつけていたのに……!」
「んん?」
見れば、ソフィアもなにかを詰めた小袋を提げている。
鷹の様な隻眼を、信じられないものを見る様に涙で歪め、シーナの膝の上で丸くなって眠る猫を見ていた。
「お前は……」
「?」
リラが地味に事態に着いていけずにいると、シーナがぽつりと口を開いた。
「お前は、猫に強制するのか?」
「うぅぅ……」
「猫は自由だ」
シーナが背を撫でれば、閉じていた金の獣瞳が片方だけ開かれ、ソフィアを見詰める。
眠た気に開かれた獣瞳は、ソフィアの猛禽の様な隻眼を見る。
「あ」
そして、立ちすくすソフィアの足元に、シーナの膝から降りた猫がすり寄っていく。
「猫は自由だ。だろう?」
「……そう、ですね」
シーナの言葉通りに、猫はソフィアにすり寄り、大人しく彼女の腕の中に納まる。
機嫌良さそうに喉を鳴らす猫を、ソフィアは子供をあやす様に抱き込み、目を細める。
「猫、好きなのか?」
「え、あ、はい」
「!」
リラは驚いた。あのシーナが、自分から他人に歩み寄っている。今まで、向こうからか己が介してやっと、他人に関わっていたシーナが、自分からソフィアに関わりにいった。
これも、あの猫の為せる技なのか。リラはソフィアに抱かれている猫に、小さな嫉妬を覚えた。
「リラ、どうかしたか?」
「いえ、なんでもありません」
「?、そうか」
不思議そうに首を傾げるシーナ、リラは嫉妬を隠し、彼女に仕える。
猫を抱き、餌を与えるソフィアがシーナの隣に座る。
「シーナさん、貴女はファーゼルに向かうそうですね」
「それがどうした?」
「私達は、この町の自警団設立の為、暫く町に残ります。なので」
ソフィアが懐から、一つの便箋を取り出し、シーナに手渡す。簡素な便箋に金の鹿の蹄の封蝋がされたそれを、シーナは眺める。
「私、ソフィア・ハプキンスからの紹介状です。持っておいて損はないかと」
「何故?」
シーナが疑問する。ソフィアが己をギルドに紹介しても、特にこれといった得は無い筈だ。
一体、何が目的なのかと、ソフィアを睨み付ける様に見ると、ソフィアが小さく微笑む。
「何も、ただのお節介です」
「そうか」
その言葉に嘘は無さそうだと、シーナは判断し便箋を懐に仕舞う。
「それに、冒険者は時折、猫に例えられます。猫は、自由なのでしょう?」
三人の元から去っていく野良猫を見ながら、ソフィアは隻眼を細めて、そう言った。
自警団
大きい町には大体ある。今回の町には無かったから、新しく作る。
《金鹿の蹄》が駐留予定有り。
《フェンサー》
前衛アタッカー、突剣を主に扱い、回避タンクも出来る。
《メディック》
後衛回復職、戦鎚等の打撃も得意。別に冒険者でなくても、医者としても食っていける。
《ドクトルマグス》
前衛アタッカーを兼任出来る回復職、《呪医》とも呼ばれる。医者というよりは薬師に近い。