異世界隠居 身勝手に呼ばれて身勝手に捨てられたので隠居したい 作:ジト民逆脚屋
意外と食い意地張ってる。北欧系の美女
モンド
ほんのちょっと濃い目のイタ公系のイケメン
フレッド
白人系、実は元マフィア
ニコラス
ゲルマン系、元拳闘士
アーネスト
中東系、一攫千金を夢見て上京
ユズリハ
アジア系、アーネストの幼馴染み
キスカ
白人系と中東系のハーフ、ユズリハと性癖が一緒
「ほら、走れ走れ。走れなきゃ、死ぬだけだぞー」
革鎧に大型の手甲の着けた大男が、一定の速度で走りながら、後方に声を飛ばす。少し離れた後方には、十数人の男女が、銘々の装備を身に付け、息も絶え絶えになっていた。
「よう、ニコ」
「おう、フレッド」
倒れ込み、息を整える後続をよそに、ニコラスはやって来たフレッドに目をやる。愛用の大剣を肩に担ぎ、葉巻を口の端に噛んでいた。
「アーネスト達は?」
「あっちで伸びてる」
「まだまだだなぁ」
ニコラスが頭を掻く。この町に自警団を設立させる為、《金鹿の蹄》のメンバーである四人は、町付きの冒険者や流れの傭兵から人を募った。
だが、その結果はあまり芳しくはなかった。
「まあ、猟師擬きみたいなもんだったろうしなぁ」
「仕方ねえさ。田舎じゃ、それが当たり前だ」
冒険者は、言ってしまえば傭兵だ。金で雇われ戦争に行き、村を守りもするし、魔物を討ったりする。
未開拓の土地に率先して赴き、利益を持ち帰り名声を得る。それ以外にも、金次第で依頼を受ける。
ある意味、傭兵よりも便利に使われる。だがそれでも、この世界ではまともな仕事だ。
「やる意味はあるし、俺らよりいいだろ?」
「まあな」
自分の分を弁え、多少の命の危険はあるが、無理さえしなければ、ある程度の収入を得られる。村付きや町付きとなれば、村や町からの支援も受けられる。
数多くの冒険者が求める安定した収入、それが手に入る。
そして、その最たるものが自警団。
フレッドとニコラスは、町が余裕をもって養える人数を決め、ソフィアとモンドによる試験を行った。
「しかし、《レンジャー》達は、ソフィアとマンツーマンか」
「モンドも居るぞ」
「あ~っと、そうだったな」
言って、フレッドが紫煙を吐き出す。葉巻独特の強い匂いが鼻につくが、慣れたものだ。
ニコラスが肩を回し、ランニングを再開しようとした時、近くの森から乾いた破裂音が響いた。
「やってるな」
「さて、今日は何人残ると思うよ」
「0に今日の晩飯」
「0以外に賭けろよ。賭けにならねえ」
フレッドが葉巻を吐き捨て、大剣を横薙ぎに振る。
「今のはよかったぞっと……!」
横薙ぎの大剣は、細身の少年が振るった長剣とバックラーごと、彼自身を弾き飛ばす。
体勢を崩すが、少年はすぐさま立て直し、フレッドの追撃の範囲から逃れる。
「よしよし、まずは合格ラインか?」
「本当か?!」
「はい、油断」
手首を使った細かな動きで回された大剣が、少年の長剣を弾き飛ばし、返す刀で頭上に鞘付きの刀身を置かれた。
少年が諦めの意思を、両手を挙げて伝えると、フレッドは新しい葉巻を口に噛み、大剣を退けた。
「アーネスト、気を緩めるな。訓練じゃなけりゃ、死んでたぞ」
紫煙を吐き出し、大剣を肩に担えば、離れた場所から二人の女が、急ぎ駆け寄ってくるのが見える。
アーネストと同郷の《メディック》のユズリハと、《ドクトルマグス》のキスカの二人だった。
フレッドはまた喧しくなるなと、ニコラスに助けを求めるが、彼はいつの間にか新人達を連れて、ランニングを再開していた。
フレッドは溜め息代わりに、深く紫煙を吐き出し、二人分の抗議の声に耳を傾けた。
遠くから、乾いた破裂音が木霊する。かしましい声を、この音が掻き消してくれないかと、フレッドは葉巻から上がる紫煙を眺めながら、切に思った。
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
「よし、訓練終了だ」
「……やっとね」
排莢の音が深い森に落ちる。高く響く音が消え、モンドが単眼鏡を、腰のポーチに戻す。
あちこちから、呻きに似た声が聞こえてくる。
「ほらほら、早く立つ。実戦だと、いい的になるぞー」
モンドが近くに倒れていた《バリスタ》の青年を、引き起こしながら周囲に声を飛ばす。
その声に、よろよろと幾つかの影が立ち上がる。モンドが引き起こしている《バリスタ》も、周囲に立ち上がる《レンジャー》や《アーチャー》も、誰もが体を様々な色に染めていた。
「ま、今日自分が何処から、どう撃たれたのか。理解しとけよ? 射手には、それが必要だ」
モンドがソフィアをちらりと見る。猛禽の様な隻眼が、日の光を背に射手独特の視線、相手を観察し射抜く、威圧的なその目が、モンド達をじっと見ていた。
手を貸している《バリスタ》の男の、身が震えたのが分かる。
「モンド、帰るわよ」
「あ、ああ、分かった」
長い付き合いで慣れているモンドでも、一瞬背筋が凍る。さっさと帰る背に、どうやらかなり不機嫌だと分かった。
「そ、そんじゃ、解散。染料は早めに落とせよ」
原因も分かっている。ソフィア・ハプキンスは見た目より食い意地が張っている。時刻は夕方前、実は昼食を食べ損ねている。
隻眼を不機嫌に歪めていた彼女は、突如長銃を構え、銃弾を空に向けて放った。モンドはその一連の動きに、腰に納めた長鞭を引き抜く。
「ソフィー、どうした?!」
「モンド、四つ翼雉よ。しかも、尾長の。香草焼きにしてもらいましょう」
「そっかー」
ソフィアの指差す先には、茂みに落ちた四つ翼雉が、再び飛び立とうともがいていた。
モンドはもがく雉の首を折り、血抜きを始める。
「内臓は、食堂で抜いてもらおうか」
「ああ、でもやっぱり、肉詰めにしてもらおうかしら? 野菜に麦をたっぷりと詰めて……」
「ソフィー、なら早く詰所に戻ろう。空腹を抱えて、オーブンの前で待ちたい?」
「ああ、それはごめんね。モンド、早く戻りましょう」
先程よりは少々、浮かれた足取りで町への帰路に着く。
長い付き合いで、機嫌は直ったとモンドは判断する。
「……本当に長い付き合いだな」
癖毛に手櫛を通して、夕方前の涼しくなり始めた風を、若干汗ばんだ額に当てる。熱が冷めていく感覚が、一日の終わりに心地いい。
ソフィアとモンドは、長い付き合いだ。
昔、《金鹿の蹄》に大口の依頼が舞い込み、フレッドにニコラス、モンド達を始めとする一等団員を筆頭に、二等団員以下の団員まで動員した仕事があった。
内容はファーゼル地方都市の大規模野盗賊団からの防衛。本来なら、王国騎士団の仕事だが、騎士団も反乱により動けず、已む無く《金鹿の蹄》にお鉢が回ってきた。
あの時、あの都市で、モンドはソフィアと出会った。
個人で依頼を受けていたソフィア、その狙撃の腕前を見た団長が、彼女の目的に協力するという条件で、彼女をスカウト。
そして、目の良さと、当時手が空いていたという理由で、モンドがバディとなった。
「何時まで、続けられるのかな?」
冒険者は何時死んでもおかしくない。今日、明日、気付いたら死んでいる。そんな事が当たり前にある。
朱色に夜が混じり始めた道を歩きながら、モンドはソフィアを追い掛けた。
四つ翼雉
この世界の高級食材。リアル換算だと、一羽で十万円くらい。尾長の場合、肉質と羽を計算するので、更に上がる。
ソフィアの目的
……ニッコリ