異世界隠居 身勝手に呼ばれて身勝手に捨てられたので隠居したい   作:ジト民逆脚屋

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竜胆
いよいよ、尻尾を掴んだぞい!

神野
最近、竜胆の手綱をどうするか考えている。

リフィーア
何かお手伝い出来ないかと、色々お試し中。


〆切間近ですが、活動報告にて人気投票やってたりしてます。


問う先は未来を得る為に

 腹立たしそうな、荒れた足音が響く。石造りの床材を踏み鳴らし、足音を反響させて、女は歩く。

 そして、行き着いたのはとある一室。女はその部屋の扉を蹴り開け、部屋の主の名前を呼んだ。

 

「神野」

「竜胆、どうした?」

「情報」

「……頼む、僕は君程頭が良くないんだ。もう少し、細かな話をしてくれないか?」

 

 端整な顔を歪ませ、神野が額に手を当てる。十人が十人、必ず見惚れる容姿の男は、応接用のソファーに腰を下ろした痩せた女、竜胆を見た。

 

「リフィーアから話は無かったのか?」

「彼女も貴族だが、ハウグスト家はあまり高位じゃないんだ。知ってるだろ?」

「はあーっ、つっかえ! これはクソデカ溜め息漏れますわー!」

 

 竜胆が盛大に態とらしい溜め息を漏らせば、苛立ちから、神野の額に青筋が浮かぶ。

 だが、神野はすぐに己を律して、苛立ちを抑える。竜胆の手口の一つに、相手を態と怒らせ、己が主導権を握るというものがある。

 竜胆は、この国の王族に連なる貴族相手にそれをして、己の手腕を存分に見せ付け、己達の有用性を示した。

 

 つまり、竜胆の目的は解らないが、これはそれだと、神野は判断して、心を静めて対応する。

 

「竜胆、一体どうしたんだい? 君は確かに変人で、話をすっ飛ばす癖のある性倒錯者であり、拝金主義だが、相手に解らない話をする様な奴じゃなかった筈だ」

「おう、九割無礼かましやがるな。訴えてもいいんだぞ? んン?」

 

 少し、間違えた様だ。あからさまに不機嫌になった竜胆に、神野はどうするべきかを考える。

 彼女に己の容姿は通用しない。竜胆の嗜好は明後日の方角にすっ飛んでいる。火に油を注ぐ真似はしたくない。

 ならば、どうするか。神野は机の上のベルを鳴らした。

 

「お? メイド。しかも、ロングのクラシックスタイル。神野、いい趣味してんじゃん」

「君の趣味程じゃあないと思うけどね……。あ~、彼女にお茶を」

「畏まりました。マサミチ様」

「はあっ!?」

 

 神野は思わず、驚愕の声を張り上げた。確かに、メイドを呼んで、そしてメイドが来た。しかし、そのメイドが問題だった。

 

「リ、リフィーア?」

「はい、マサミチ様」

 

 神野正道の婚約者であるリフィーア・ハウグストが、メイド服を着ていた。

 さあ、どうしたものか。二人の表情を見る限り、どうやら二人は結託していた様だ。リフィーアは悪戯が好きだし、竜胆は悪ノリが大好きだ。

 つまり、今までの流れは全て、竜胆の画策したものという事だ。

 

「まったく、神野。いい顔するじゃねえか」

「竜胆、君は……!」

「御迷惑でしたか? マサミチ様」

 

 ひひひと、妖しい笑いを溢す竜胆を他所に、リフィーアが小動物を連想させる表情で、上目使いにこちらを見てくる。

 これをされると、神野は弱い。迷惑であったかと聞かれれば、それ程ではないが、確かに迷惑ではあった。

 だが、婚約者で恋人の可愛らしい悪戯だ。それを許容出来ない神野ではない。

 

「いや、中々いい気晴らしになったよ。有難う、リフィーア」

「そんな、マサミチ様……」

「おーい、竜胆さんを放っとくと、後が怖いぞ?」

 

 確かにその通りだと、神野はリフィーアの頭を軽く撫でてから、竜胆に再び向き直る。

 

「で、竜胆。一体どうしたんだい?」

「王族、レミエーレ王の容態だ。生きてんのか?」

「あまり物騒な事を言うな。誰が聞いているか分からないんだぞ」

「だったら、聞いた奴を全員潰してやるさ。で、どうなんだ? 竜胆さんは王族から嫌われてて、中々近付けねえんだ」

 

 リフィーアが竜胆に茶を差し出し、竜胆はそれを一気に飲み干す。神野はそれを待って、机の引き出しから一枚の書類を取り出した。

 

「……ああ? んだこりゃ?」

「竜胆、レミエーレ王は今、離宮にて執政を執り行っているらしい。そして、それは極僅かな側近中の側近の補佐によって支えられている」

「離宮には入れるか?」

「無理だ。僕でも、離宮の門までが限界だった」

「和泉に行かせるって訳にはいかねえか」

 

 王侯貴族に覚えがいい神野で無理なら、和泉でも無理だという事になる。そして、王侯貴族に嫌われている竜胆には不可能という事だ。

 

「確かにレミエーレ王の印が押され、筆跡も間違いはない。だが、山科の事件の前後から僕達はレミエーレ王を見ていない」

「貴族の間でも、噂になっていますわ。……もしや、崩御されたのではと……」

 

 レミエーレ王は、暗愚でもなんでもない、極普通の王だった。特にこれといって秀でたものも無く、後ろ暗いものも無い。〝政治家〟として、普通に優秀な良き王だった。

 だが惜しむらくは、逸る配下を抑えきる手腕が無かったという事だろう。

 結果、魔属との戦端が開き、戦火が拡大。そして、神野達召喚勇者が呼び出された。

 

「あの王様は、善人だからなあ。ストレスで倒れたか?」

「有り得るのが嫌な話だな。だが、竜胆。僕達は何時からレミエーレ王を見ていない?」

「私が最後に会ったのは、……山科とグレイさんの結婚式の日取りを報告した時か」

「僕も和泉も同じ頃だ。そして、その辺りから妙な動きがあった」

 

 神野はもう数枚、書類を取り出し、竜胆に渡す。

 

「お? 金城(かなしろ)か。生きてたのか」

「ああ、変わらずヘラヘラと潜入捜査をしているよ」

「潜入? おいおい、神野。竜胆さんのお株を奪う気か?」

「君程じゃないさ。僕の手は金城、彼だけだからね」

 

 竜胆が見る書類には、事細かにレミエーレ国内の不穏な動きが記されていた。

 

「はっ、神野。金城に言っとけ。欲しいものがあるなら、リスト出せってな。竜胆さんが何でも買ってやる」

 

 ひひひと、竜胆の妖しい笑いが部屋に落ちる。隈の目立つ両目が爛々と妖しく輝き、吊り上がり剥き出しになった八重歯が、獰猛な獣性をさらけ出す。

 こうなった竜胆は、誰にも止められない。元の世界で、不正を行った教師を追い詰め潰した時の様に、竜胆は止まらない。

 

「竜胆さんはさ、一番嫌いなんだ。こういう、裏切り者はさ……」

 

 そう言って魔女が笑った。




金城
動物を使役する《ハウンド》。友情にはあまり興味が無い傭兵気質の男。
しかし、山科の事件には思うところがあったらしく、行方不明を偽装し、疑惑の先に潜入しては、神野に情報を渡している。
個人的な実力は、かなり高い。

裏切り者
その質にもよるが、竜胆さんが一番嫌いなもの。今回は特に大嫌いな奴。
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