異世界隠居 身勝手に呼ばれて身勝手に捨てられたので隠居したい 作:ジト民逆脚屋
今回は出番なし
リラ
同じく
男
重要人物。シーナを救い隊隊長
青年
重要人物。シーナを救い隊
偉丈夫が居た。分厚いコートを肩に掛け、大胆不敵な笑みを湛えた偉丈夫が、ファーゼルの町を歩いていた。
「それで、ギルマス。暇だからって、町を出歩いて、何か当てが?」
「ん? ああ、ねえよ。んなもん」
偉丈夫がそう言い切ると、同行していた青年が溜め息を吐いた。
「貴方はこの国最大の冒険者ギルドのギルドマスターなんですから、もう少しぐらい大人しくしません?」
「はっははは、そう言うな。こうしていれば、もしかすると出会えるかもしれんだろ?」
「……一応、聞きます。何にです?」
偉丈夫は確りとした顎を擦りながら、片眉を跳ね上げた笑みで、青年に言った。
「
そして、青年は深い溜め息を吐いた。この偉丈夫は、顔は悪くない。むしろ整っていて、雄らしい雄々しさと、荒々しさを抱いた顔立ちは、町の婦女子にも人気で、そういった噂も後を絶たない。
なのに、特定の相手が居たという話だけは無い。それは何故か。全ては男の考え方だった。
「またそれですか」
「またとはなんだ、またとは」
「いい加減、夢見るのは止めた方がいいですよ」
「まったく、分かってねえな。理想を追い求める。これぞ、男の生き方よ」
「高過ぎる理想は、身を滅ぼしますよ?」
「それこそまさに、
男が白い歯を見せて笑えば、何処からか熱のある吐息が、聞こえた気がした。
軟派という訳ではないのだが、女遊びも大概にしてほしいと、青年は内心だけではなく嘆息する。
「……大体、その運命の方は一体どういったお人なので?」
「お、気になるか?」
「……一応、お聞きします」
「そうだな。まずは、素朴さだ」
「はあ、素朴さですか?」
男が太い声で言うと、青年は気の抜けた返事を返す。どうにも、この男は価値観が、他人より少しズレている様に思える。
「華やかさも大事だが、帰ってきて、隣に居て、安心出来る。そんな素朴さが大事だな」
「そんなものですかね」
「お前はまだ若いな。俺らみたいな連中に、帰ってくる場所がある。この最高の贅沢が解らんとは」
男が大袈裟に溜め息を吐いてみせれば、青年の額に青筋が浮かぶ。優秀だが、比較的挑発に乗りやすいのが、玉に瑕だと、男が青年の立つ方を見ると、ある看板が目についた。
「最近増えてきましたよね。何でしたっけ? ああ、猫カフェだ」
「俺はどうにも、妙ちきりんな商売としか見えんがな」
「でも、ペットを飼えないとか、そんな環境の人達には人気みたいですよ」
「まあ、下手に飼って、無責任に放すよりマシか」
「そうですね」
最近の冒険者の依頼に、逃げたペットの捜索や、知識も無く飼い始めて、凶暴化したペットの鎮圧又は討伐といったものが増え始めている。
大勢を抱えるギルドのギルドマスターである男には、仕事がある事は有り難く、回ってきた仕事は率先して受ける。だが、その仕事を受けるギルドメンバーは、そうはいかない。
「凶暴化すると分かって飼って、手に負えなくなれば殺す、か」
「メンバーから苦情が出てますよ。キリが無いって」
中には、凶暴化して逃げ出し、人の勢力圏内で繁殖して、農村などに甚大な被害が出るケースもある。そして、その被害の中には人も含まれる。
「仕事があるのは有り難いが、どうにもなあ……」
「正直な話、飼い主の貴族の相手を出来るメンバーを選出するのに、骨が折れますよ」
青年が小さく嘆息すれば、男は頭を掻く。
大概に於いて、そういったペットを無責任に手放して問題にするのは、無知な貴族か成金だ。
そして、そういった連中と、最も話が合わないのが、冒険者という人種であり、度々問題が起きている。
「ソフィア達は、まだ掛かりそうか?」
「手紙によると、自警団の設立は完了して、訓練課程の構築に入ったそうですね」
「少し遅くないか?」
「町の復興と、警備の強化も同時にやってたみたいですから、それを考えると、まあ順当では?」
男は頷き、町の流れを眺める。この国、ファーゼル王国は肥沃な土地を有し、それに伴い農産や畜産で発展してきた国だ。
〝飢える事無き飽食の国〟
そう謳われる国は、大陸でも随一の栄華を誇り、黄金時代を迎えていると言える。
「くあ……、帰るか」
「言ったら悪いですけど、帰っても書類に判を押してもらうだけですよ」
「仕方ねえか……」
何かあるかと、ギルド館を出てきたのに、結局は何も無かった。得られたのは、妙ちきりんな商売の店と、旨くも不味くもない屋台が増えた事だけ。
男は太い首を左右に鳴らし、退屈そうに息を吐いた。
「あ~あ、
「フラフラして会えるんなら、安い運命ですね」
「安くても、運命には変わりないんだ、ぜ………」
毒を吐いた青年に、何時も通りの軽い調子で返そうとした男の言葉が止まった。一体、何事かと青年が、その顔が向く方向を見ると、新しく開店した猫カフェがあった。
「ギルマス、一体どうしたんですか?」
問うが、返事は無い。一体何があったというのか。
視線の先にある猫カフェを見ても、居るのは多様な種類の猫と、その客だけ。
男は確か、猫よりかは犬派だった筈。まさか、犬でも居たのかと、よく視線を追うと、ある客の動きを追っている事が分かった。
青の装甲に大剣と思わしき長大な包み、この町の住人なら、武器や装備は持たない。恐らくは旅の冒険者、だがその装備の持ち主が問題だった。
武器の巨大さに似合わぬ小柄な体、あの小さな体であの武器が振るえるとは、とても思えない。そして、青年の実力者としての勘が叫んでいる。
あの武器は、大剣ではないと。
「見付けたぜ。俺の
青年の危惧を他所に、男は歓喜に打ち震えていた。
「ギルマス、ギルドマスター、あの女は危険です」
「それはお前の勘かね? 我が副官〝エミリオ・ミラー〟」
「そうです。《金鹿の蹄》ギルドマスター〝クラウス・ヴェルディ〟」
青年、エミリオがそう言うと、男、クラウスは笑いながら、猫カフェを背にする。
「行かないので?」
「馬鹿か? 今日の俺はミント系の香油使ってんだ。
「はあ」
また日を改めてだ。クラウスとエミリオはそう言い、町の雑踏の中へと消えた。その背に、小さな獣人の少女の視線を受けながら。
次回
竜胆