異世界隠居 身勝手に呼ばれて身勝手に捨てられたので隠居したい   作:ジト民逆脚屋

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竜胆
そろそろ箍が外れる。というか、導火線に火が点いてる。

ジョナサン
美少年。実はかなり強い。

神野
そろそろ覚悟決める。

あ、いせまじょ ~異世界の魔女達の夜~も宜しくお願い致します。


竜胆

 レミエーレ王国は、今現在混乱の極みにあった。

 レミエーレ王国に伝わり、オーフィリア家が代々受け継ぎ護ってきた聖剣は、今は亡きグレイ・オーフィリア以外に抜き放つ事が出来ない筈、それなのにオーフィリア家に侵入した何者かが、かの聖剣を抜き放ち、オーフィリア家を半壊せしめ、和泉忠久に重傷を負わせたという。

 

「何が一体どうなっているんだ!?」

「い、今現在調査中ですが、オーフィリア家の聖剣による破壊だと……」

 

 らしくない怒声を張り上げ、神野が副官に問う。だが、問われた副官も、上がってきた情報以上のものは持ち合わせておらず、鈍い汗を流しながら神野に追走する。

 

「有り得ない。だが、忠久が傷を負うとなると……」

「……部下が目撃した話だと、あれは確かにオーフィリア卿が放つ聖剣の光だったと……」

 

 思わず副官を睨むが、彼も理解している。その顔は苦渋に満ちていた。

 あの聖剣を鞘から抜き放ち、光帯を放てるのは、当代ではグレイ・オーフィリアのみであり、そしてその彼は、もう居ない。

 

「だとするなら、これは……」

 

 どうなっているんだ。神野の口から、その言葉は出てこず、ただ破壊跡に口を嗣ぐんだ。

 嗚呼、知っている。この薙がれた様な、焼き斬られた様な跡は、確かにあの聖剣の光帯が放たれた証拠だ。

 

「……生存者は?」

「リナシア・オーフィリア様は無傷です。和泉将軍が、光帯を斬り裂いて、事なきを得たと。また、使用人三人が死亡、五人が重傷で、現在治療を受けています」

 

 親友の、グレイの忘れ形見が無事と分かり、神野は軽く吐息を吐き出す。

 事態は収束を見せないが、それでも最悪中の最悪の事態は回避出来た。後は、和泉の意識が戻るのを待つだけ。

 

「よう、神野」

「竜胆」

 

 長く鋭い八重歯を見せた妖しい笑みで、竜胆が立っていた。側にはシャムシールを腰に提げたジョナサンが、ぼんやりと辺りを見回していた。

 

「なあ、神野?」

「何だ? 竜胆」

「神野?」

「竜胆……?」

 

 様子がおかしい。何時もおかしいが、今は何時にも増しておかしい。よくよく見てみれば、あのニヤついた笑みが、いつの間にか消えている。

 

「竜胆」

 

 呼び掛けるが、俯いた竜胆に反応は無く、ただひたすらにブツブツと絶え間無く、何かを呟く声が聞こえてくる。

 嗚呼、勘弁してくれ。竜胆とは、高校からの付き合いだが、それでも分かる事がある。

 この状態は、竜胆という名の爆弾が爆発するまでの、秒読みが始まったという事だ。

 元の世界で、山科にセクハラを働いた教師を潰した時も、こうして俯いたまま、何か呟き続けて、そして

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ………」

 

 非常に大きい溜め息を吐き出す。

 

「嗚呼、嗚呼、そうかよそうかよ。そうなのかよ。そんなに私を怒らせたいのかよ? そうだよな。嗚呼、そうに決まってる。そうじゃなきゃ、こんなふざけた真似する訳がない。くそ、くそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそが……! 嗚呼、ド畜生! 何処のどいつか知らねえが、徹底的にやってやらぁ! ……神野ぉ!」

「お、おう?」

「今すぐ、信用出来て信頼出来る奴を集めろ! あと、そこの奴!」

「は、はっ!」

 

 竜胆が隈の目立つ双眸を見開き、神野の副官を呼びつける。

 

「和泉が目を覚ましたら、直ぐに報せろ。情報が一秒でも遅れたら、遅れた分だけ、テメエの寿命減らしてやる!」

「はっ! 了解しました……!」

「神野、リナシアは?」

「無事だ。忠久が光帯を斬ったらしい」

「へっ、流石は和泉将軍だ。聖剣の光帯を斬るたあな」

 

 竜胆が破壊跡に足を乗せ、走り去る副官の背を見送り、鋭い八重歯を剥き出しにし、獰猛な笑みを浮かべる竜胆。

 

「リンドウ様、楽しい?」

「ああ、楽しいね。私に楯突くバカ共を、皆殺しに出来るんだからな……!」

「そうなんだ」

「ジョナサンはどうだ?」

「リンドウ様が楽しいなら、僕も楽しいよ」

 

 ジョナサンが可憐な微笑みを浮かべて言えば、竜胆は妖しい笑み更に深く濃くする。

 

「嗚呼、嗚呼、ジョナサン。私はこの世界が嫌いだよ。大嫌いだ。……だから、もういいよな?」

「うん」

「り、竜胆。君は一体、何をする気なんだ?」

 

 神野が問うと、竜胆は獰猛な表情を向ける。

 

「何を? 何をか、この世界に喧嘩を売るのさ」

「世界に喧嘩を売る、だと?」

「ああ、そうさ。喧嘩を売るのさ」

 

 ギラついた笑みが、昼下がりの跡地に太陽を背に浮かぶ。

 嗚呼、この笑みはあの時と同じだ。否、あの時よりも更に質が悪い。元の世界では持っていなかった力を、この世界では得て、その使い方を十全に心得ている。

 

「竜胆、止めろ」

「あァ?」

「まだ、まだだ。まだ、早い」

「まだ早いだぁ? だったら、何時やるんだよ?」

「まずは、忠久が目覚めてからだ。そして、僕も混ぜてくれ」

「いいのかよ? 品行方正の良い子ちゃんが」

「リンドウ様、誰か来たよ」

 

 ジョナサンが指差す先、小さな影が走ってきている。彼の手は既に、腰のシャムシールの柄に掛かっている。

 何か怪しい動きを見せれば、即座に斬り捨てる。その意思が感じられた。

 

「リンドウ卿! リンドウ卿は居られますか?!」

「おお、ここに居るぜ。どうしたよ?」

 

 息を切らし、役人が竜胆を呼ぶ。明らかに慌てた様子だが、当の竜胆は慌てる様子は無い。

 

「リンドウ、卿。急ぎお戻りを」

「だから、何があったんだって」

「ア、アレフトにて、未確認の魔物の軍団が現れたと……!」

「はぁ!?」

 

 レミエーレ王国は、この日から長い争乱に入る事になる。

 役人の報告に驚く神野を他所に、ジョナサンを抱き寄せた竜胆は、静かに唇を吊り上げた。




城塞交易都市アレフト
所謂一つの都市国家であり、レミエーレ王国とファーゼル王国に挟まれる形で存在する。
又、このアレフト近郊は不戦地域となっており、アレフトも中立国家となっている。
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