異世界隠居 身勝手に呼ばれて身勝手に捨てられたので隠居したい   作:ジト民逆脚屋

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麻野
シーナを探して、聞き込み。密かに年上からモテてウハウハ気分

浜名
シーナを探して、聞き込み。金髪巨乳信仰。


串焼き

 黒く分厚く、重々しい城塞に囲まれた都市に市場が開く。

 嘗て、ほんの一時の争乱にて与えられた被害は、今はもう見る影無く、嘗て以上の賑わいを見せようとしていた。

 

「兎に角、ここに椎名が来たのは確実」

「まあ、だろうな」

 

 麻野が串焼きを頬張りながら言えば、浜名が麻野が脇に抱えた袋から、串焼きを一本抜き取り頷く。

 まぶされ焼かれた濃い目の塩が、獣肉の血の味を強く感じさせる。

 

「塩が沁みるな」

「結構、味濃い目ね」

「言いつつ食うな」

 

 赤い香辛料がたっぷりと塗られ焼かれた、バラ肉の串焼きを口に運ぶ。

 

「ぬ?」

 

 辛いかと思えば、噛んだ脂身から濃く甘い脂が溢れて、香辛料の鋭い辛味を中和している。否、それだけではない。このタレに使われている香辛料には、果実や野菜もたっぷりと使われている。舌の上に残る甘味が、確かにそれを伝えてくる。

 

「浜名」

「ははは、共食いか?」

 

 錫杖を顎に叩き込んだ。黙って、食べ終わった串を入れた袋をゴミ箱に入れ、もう一度先程の串焼きの屋台へと戻る。

 

「へい、大将。串焼き、あるだけ袋に詰めて」

「はっはっはっ、いいね。若い奴は食わねえと。ほれ、おまけだ」

 

 串焼きの肉の群れの中に、数本の緑色の串が混ざる。細長い筒の様な見た目の野菜が、こんがりとした焼き目を付けられ、五つ連ねて刺さっていた。

 

「獅子唐? オクラ?」

「お? あんた、召喚勇者か。これは、シシリカっつう野菜でな。あんたと同じ召喚勇者が作ったらしいぞ」

「へえ」

 

 シシリカの串焼きを、一つ口にすると、小気味良い歯応えと鼻に抜ける香りと、獅子唐の辛味とパプリカの甘味、僅かにオクラの粘りがある。

 

「……いいね。大将、これ三本追加ね」

「あいよ」

 

 焼き立てのシシリカの串焼きを、肉の串焼きが詰まった袋に捩じ込み、倒れたまま放置された浜名を、錫杖で軽く小突く。

 

「ほれ」

「いや、ほれじゃなくてな? なんだ? 獅子唐? いや、オクラか?」

「シシリカだってさ」

「ほお、……旨いな」

「だしょ?」

 

 立ち上がり、串焼きを口にすれば、そんな言葉が出てくる。

 

「兎に角、ここに椎名が来たのは確実」

「ああ、そうだな」

「地味な顔に青い鎧の上からでも分かる派手な体の女、それに妙なデカイ剣背負ってたとなると、椎名しか居ない」

 

 断言する麻野が串焼きを一本平らげる。

 確かに、顔が地味で体が派手で、デカイ妙な剣を背負っているなら、それは自分達の知る山科椎名だろう。

 だが、浜名が気になるのは、そこではない。

 

「獣人の少女か……」

「お? 金髪巨乳から宗旨換えか?」

「ははは、ふざけろ。僕は金髪巨乳信仰だ」

「じゃあ、何さ?」

 

 麻野が串焼きを片手に、続きを促す。麻野と浜名の付き合いは長く、彼の考え方もよく分かっている。

 

「何処で、獣人の少女を連れたのかとな」

「あんたやっぱり……」

「違う。獣人の風習は知っているだろう?」

「忠誠心が半端ないんだっけ?」

「ああ、一度でも主と定めれば、その命尽きるまで忠誠を貫く」

 

 高い身体能力に高い忠誠心、獣人を表す最大の特徴だ。

 一度主に定めた相手に絶対の忠誠を誓い、その命尽きるまで主の為に動く。

 仮に少女だとしても、それは変わらない。

 

「山科に忠誠を誓っているなら、僕達はどういう扱いになるんだろうな?」

「…………」

 

 山科椎名を助けられず、見捨てる形になってしまった。現実に自分達がどう言おうと、その事実は変わらない。

 そして、その自分達が主に近付く事を、その獣人の少女は良しとするだろうか。

 

「最悪、戦闘になりかねん」

「……嫌だな」

 

 麻野の言葉に浜名も頷く。

 

「でも、私達は椎名に会わなくちゃいけないんだ」

「そうだな」

 

 頷き返す浜名を横目に、アレフトの大通りを進んでいくと、何やら人だかりが出来ていた。

 宿へ続く道すがらに出来た人だかり、どうしても気になるのものだ。麻野は衛兵に話し掛けた。

 

「ハロー、何かあったの?」

「あ? ああ、何か知らんが、ほれ、あれだ」

「……何あれ?」

 

 麻野の視線の先には、杭を打たれ鎖に縛り付けられた肉塊があった。

 人の頭部辺りが膨れ上がり、赤黒い蛸や海月を思わせるそれは、溶けた腐肉と膿を噴き出していた。

 

「気色悪……」

「なんでも、町の外を彷徨いていたらしいぞ」

「うえぇ……」

 

 頭の大きさに対して、細い体。あんなものが、腐肉やら膿を噴き出しながら、ヨチヨチと歩いていたら、間違いなく逃げる。よくあんなものを捕まえたものだ。

 

「気持ち悪……、帰ろ」

「…………」

「浜名?」

「いや、何でもない。帰ろう」

 

 浜名は何かに違和感を感じていた。それが何に対する違和感なのか、判別は出来なかった。だが、あの肉風船の体が纏っている装備が、街道で襲ってきた蜥蜴人に似ている気がした。

 

「気のせいか」

 

 恐らくそうだろう。あれがあの蜥蜴人だとしたら、薄気味悪い事この上無い。それに、あれには蜥蜴人特有の鱗や甲殻の外皮が無く、辛うじて纏っている装備も、よくある珍しくもない量産品だ。

 新型か、新発見の魔物か何かだろう。浜名は、そう結論付けて、磔にされた肉風船に背を向けた。

 

「浜名! 早く!」

「はいはい」

 

 言いつつ、浜名は人だかりを掻き分け、叫ぶ麻野の元へと向かう。

 

「取り敢えず、明日にはアレフトを出よう」

「行き先はファーゼルだったな」

「多分、目的は分からないけどね」

 

 苦虫を噛み潰した様な、それとも噛み潰して泣くのを我慢している様な顔で、麻野が言う。

 

「ファーゼルに何かあるのかな?」

「分からん。だが、情報が確かなら、山科はファーゼルに向かっている」

 

 魔物見物に向かう冒険者達の群れを避け、脇道に逸れながら、地図を小さく開く。

 アレフトからファーゼル王国迄の、狭い範囲だけを折り曲げて、情報を整理していく。

 

「先ず最初に、ここアレフトで地味な顔の派手な体の女が、妙な剣で雷を降らせたという話」

「間違いなく、椎名の砲剣の砲撃だね」

「そして、ここから暫く行った先にある町で、同じく雷を降らす青い鎧の女が目撃されている。そして、仲間らしき三人と行動していたとか」

 

 コークスペンで線を引き、印をする。

 印から印を辿り、今までの自分達の記録と照らし合わせると、山科はかなりのハイペースで、このアレフトまで来ている事が分かった。

 そして、ここから仲間らしき三人と、行動を共にする事となり、若干ペースは落ちた様だが、それでも速い。

 

「多分だが、山科は既にファーゼル王国に着いているだろうな」

「まあ、このペースだしね。てか、椎名ってば、無理しすぎだよ……」

 

 馬車もほぼ無しの、徒歩による強行軍。《砲剣士》という、身体補正が強く掛かる職業でも、これはかなりの負荷が掛かっている筈だ。

 

「とは言っても、僕達が倒れたら意味が無くなる。今のペースを維持して、ファーゼルを目指そう」

「そうだね」

 

 残っていた冷めた串焼きを、一気に頬張り、袋ごと近くのゴミ箱に放り入れる。

 兎に角、今は確実に山科の足跡を追うしか無い。麻野と浜名の二人は、明日に備えて早目に宿へ戻る事にした。

 

 背後に聞こえるくぐもった泡音に気付かずに。




シシリカ
何十年も前に召喚された召喚勇者が、実は農家歴ウン十年の大ベテランだった。
品種改良や近代農法をアレフトやファーゼルの農家に教えて回り、数十人を越える弟子や仲間に見送られ、大往生の最期を迎えた。
その召喚勇者と弟子達により開発された野菜。
主にファーゼルからアレフトの夏から秋に掛けて収穫され、主に焼き物や揚げ物、マリネ等にされて食される。
また、酢漬けにして保存食としても美味。
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