異世界隠居 身勝手に呼ばれて身勝手に捨てられたので隠居したい   作:ジト民逆脚屋

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麻野
トラウマスイッチON

浜名
キツい


アレフト争乱 《始まり》

 男は上機嫌だった。長く続けていた仕事が終わり、その上依頼人からの覚えも良く、男が働く武器工房に、定期的に依頼を回してくれる事になった。

 仕事の成功を祝し、普段は行かない高級酒場に繰り出し、祝杯を挙げた。

 夜も更け、町の酒場の灯りも落ち始めた頃、男はいつもより遅い家路に着く。慣れた町の路地、その筈なのに何故か薄気味悪い。

 季節に合わない生温い風が頬を撫で、鼻につく臭いを運んでくる。

 はて、この道はこれ程に、灯りが無かっただろうか。男は家路を急ぎ、薄気味悪い路地を抜けようとする。もうすぐ、家が見えてくる。

 だがそんな時、急ぐ男の耳にある音が届き、背後に振り向いた。

 男は忘れなかっただろう。振り向かなければよかったと、眼前に広がる光景を、異臭の塊に呑まれるその瞬間まで。

 

 

 

 

 

 〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

 さて、どうしたものか。アレフト市街にある石造りの塔の頂上で、浜名は単眼鏡の向こうに広がる光景に、腰に差した短刀の柄を触りながら、嘆息した。

 そして、屋根の下で開いた窓に滑る様に入り、その部屋居た人物に声を掛ける。

 

「やはり、町は駄目だ。涌いている」

「うえぇ、やっぱりか」

 

 錫杖の輪形と鐶に、其々光を灯した麻野が、実に嫌そうな顔をしながら、テーブルに広げた町の地図を見る。

 地図には幾つかの印が付けられ、大小の丸で囲まれている。

 

「恐らく、門ではなく水道を介して、広がっている」

「にしては、範囲が区々じゃない? もっと、勢いよく拡大しても不思議じゃないのに」

「この町に住む冒険者や衛兵達が、なんとか食い止めているみたいだ。あと、町の外に向けて、飛脚が出た」

「早いじゃん」

「外壁区周辺に住んでいた奴が、まだ生きていたらしい」

 

 アレフト市街は二重の円を描いて、内壁区と外壁区に別れている。外壁区は火や危険物を扱う事の多い職人や、低所得の労働者達が住み、内壁区は金融や飲食業に役所等が建ち並ぶ。

 地図の外壁区は、その殆どが丸で囲まれ、赤い×印が付けられていた。

 

「ファーゼル側のはほぼ全滅、レミエーレ側は何とか門が開けた」

「応援が来るまで、耐えられると思う?」

「まず無理だ。アレが何なのか解らんが、必ず原因がある筈だ。それを潰さん事には……」

「じり貧か」

 

 麻野がそう呟いた時、錫杖の鐶に点っていた灯りの一つが、鐶と共に割れる様に消え、浜名が内壁区近くに×印を書き、コンパスで囲んだ。

 

「〝分身〟が一体やられた」

「こっちも陣が割られた」

「保つか?」

「地脈がねー? この町繋がりが弱いから、要に行ければ話は違うけど」

「要か。何処だ?」

 

 麻野が黙って、一番大きな×印を指差した。

 

「マジか?」

「マジもマジ、地脈探って辿ったら、この町の地脈の要は、昼間に磔肉風船があった場所」

 

 麻野達《陣術師》は、大地に通う魔力を操作する事に長ける。そして、その魔力を用いて〝陣〟を張り、己や他者に様々な効果をもたらす。

 つまり、術師の実力にもよるが、地脈に通う魔力が強ければ強い程、《陣術師》は強力な術を行使出来る。

 だが今、麻野達が居る場所は、内壁区の中央近くの教会。ここに通う地脈も、アレフトの中では強い方だが、そこから別の地脈への繋がりが弱い。浜名の〝分身〟に、〝陣〟を刻んだナイフを、内壁区の近くに突き立てて、結界を張っているが、対した効果は無い様だ。

 

「ちっ」

「また?」

「ああ、数が増えている。恐らく、町の住人だ」

感染(・ ・)してるって事?」

 

 魔属領にも、吸血鬼と呼ばれる魔属が居た。奴等は麻野達が知る様に、家を吸い眷族や仲間を増やす。

 仕組みとして、自らの魔力を情報として混ぜ混んだ体液を、吸血等の接触と同時に注入し、対象の生物としての情報を、吸血鬼又は眷族である屍食鬼に、記憶ごと書き換えるというもので、人間側はその一連の流れを感染と呼んでいた。

 

「だとすると、吸血鬼よりも感染力が強い」

「さ、最悪!」

 

 浜名がまた一つ、×印を地図に追加する。次は内壁区から少し離れた場所だ。それを見た浜名は、小さく眉をひそめた。

 

「ん?」

「どうしたの?」

「いや……、待てよ……」

 

 浜名が地図を見ながら、町に放った〝分身〟の一体に意識を繋げる。〝分身〟から伝わる外壁区の惨状は、惨たらしいの一言に尽き、腐臭と血生臭さが充満している。

 そして、その発生源は増え続け、更に更にと蠢いていた。

 

「やはりか」

 

 呟く浜名(分身)に、肉風船が反応し、ヨタヨタと覚束無い足取りで、包囲しようとしてくる。

 視認出来るだけで、数は十数体。そして、感染ルートはあの頭。あれで対象の頭部を潰し、己と混ぜ合わせるか何かして、感染させるのだろう。

 十数体から数十体に増えた肉風船に囲まれ、一体が頭を開いた時、浜名は分身に籠めた魔力を暴走させ、肉風船の群れを巻き添えに自爆した。

 

「麻野、本体が分かった。やはりあの磔肉風船だ」

「やっぱりか。じゃあ、この感染は」

「ああ、吸血鬼と同じ様に、本体を守り繁殖する為の感染だ」

 

 吸血鬼に生殖能力は無い。器官はあり、娯楽として行為を楽しむ事はあるらしいが、それだけのもので、彼奴らの繁殖方法は、感染による血族の複製だ。

 そしてそれは、情報源である吸血鬼が死ねば、他の血族と眷族も死に絶えるという、非常に不安定な方法である。

 その為、吸血鬼は眷族や配下とした者を守りとし、己の秘匿に全力を投じる。

 

「多分、地脈の要の魔力を吸い上げて蘇生したんだ。そして、繁殖に走った」

「厄介な話だな」

「浜名、仕留めれる?」

「魔力が割りとキツいな。出来て一体、それ以上は大した威力にはならないぞ」

「チャンスは一回だけか……、……竜胆ならどうする……」

 

 呟く友の名に、本人がやりそうな手段を考える。

 浜名の〝分身〟による同時攻撃は、浜名の魔力が足りず、〝陣〟で補佐しようにも、地脈が弱く浜名を補佐すれば結界を維持出来なくなる。

 麻野の〝陣〟による攻撃は、地脈頼りであり、地脈が弱い現在地では大した威力が出ない。

 神野の様な攻撃力も、和泉の様な突撃力も無く、新寺や朝比奈の様な制圧力も無い現状で、二人に取れる策は無い。

 物量が違い過ぎる。敵は今こうしている間にも、一体また一体と増え続けている。

 何か、何か無いか。麻野が考えを巡らせていた時、部屋の扉が叩かれた。

 

「あんたら居るか?!」

「どうした? まさか、内壁区に入られたか?!」

「いや、違う」

 

 扉を開けたのは、壮年の男だった。男は重鎧を鳴らし、二人に詰め寄った。

 

「手が空いてるなら、手伝ってくれ。最悪の事態になりそうなんだ!」

「どういう事だ?」

「市議会の一部の連中が、外壁区を焼き払おうとしてんだ! まだ生きてる奴らが居るのにだ!」

 

 男の言葉を聞くやいなや、蒼白となった麻野が立ち上がり、部屋から駆け出した。




武器工房の男
(砲撃)を降らす女の武器の正体に逸早く気付き、その再現をしようとしていた。
だが、似ていた《銃槍》とは規格が違い過ぎた。だから男は違うアプローチを始めた。
(砲撃)を降らすのではなく、雷の源(爆発)を叩き付ける。
この忌まわしき日に、アレフトで銃鎚(じゅうつい)が産声を挙げた。


アレフト外壁区
ちょっとしたヤーナム状態


吸血鬼
吸血鬼自体には非常に高い知性があり、無闇矢鱈に繁殖を行わない。 
極めて不死に近く強大である為、自らを増やすという事に意味合いを感じていないからだ。
つまり、感染を拡大させる吸血鬼は、不死からは程遠く弱い個体という事である。


蒼白となった麻野
誰かを見捨てる?
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
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