異世界隠居 身勝手に呼ばれて身勝手に捨てられたので隠居したい   作:ジト民逆脚屋

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浜名
リアルタイムアタック挑戦、失敗は死。

アーネスト
買い物に来たら、醜亜巨人の次はこれだよ。

キスカ
買い込んだ薬草、全部使った……

ユズリハ
戦闘中、とある武器工房で変わった戦鎚を拾う  

ヴァニー
後衛火力、魔力に近しい妖精族。


アレフト争乱 戦禍

 急がねばならない。浜名はただひたすらに、一点を目指しながら、肉風船を刈り取り刃を突き立てていく。

 

「っと……」

 

 恐らくは、元冒険者であっただろう、鎧を纏った肉風船が突き出してきた槍を、首を曲げて回避。脇を通り抜け様に、背中、首の付け根に苦無を突き刺し、巻き付けていた起爆符を爆破。起爆符の爆破を推進とし、苦無をパイルバンカーの杭として撃ち込む。

 爆破に抉られ、力尽くで断たれた頭部が、嫌な音を立てて石畳へと落ちた。

 

 時間が無い。恐らくではなく、ほぼ確実に、浜名が手間取れば、あの議員達は外壁区に火を放つだろう。

 賭けとしては、あの白髪の議員の理性に賭けるしかない。今の状況で、城塞交易都市アレフトの、内壁区を囲む外壁区に火を放てばどうなるか。そして、何が引き起こされるか。気付いているのは、あの議員だけだろう。

 

 都市国家の一区画、それを焼き払えば、それ相応の熱が発生する。そして、外壁区は内壁区をグルリと囲っている。

 どう火を放つのかは知らないが、二重三重に幾重にも堅牢な城塞を囲まれた、密度の高い周囲が燃え尽きる様な火を放てば、確実に内壁区も熱で焼ける。

 逃げ場も無く、ただひたすらに天に届かんばかりの炎と、堅牢な城塞に囲まれて、灼熱に焼かれて死ぬ。あの様子だと、脱出路があるとは見えなかった。

 それだけの火の手を上げるには、それなりの準備が必要になる。恐らくだが、それは町から脱出し、攻め入ってきた敵を焼き殺す為のものだったのだろう。

 

「数が多いな……」

 

 兎に角、急がねばならない。あの議員二人は、この事に気付いていても、理解が及んでいない。多分、麻野達《陣術師》に結界を張らせれば、何とかなる程度の認識だろう。

 たった数人の《陣術師》で、その規模の結界を保てる訳が無いのに。

 それに例え生き残ったとして、その後のアレフトに人が集まるだろうか。

 浜名は政治に疎い。だが、問答無用で町を焼き払い、己達だけ生き残る様な連中が治める町に、人が再び集まるだろうか。浜名なら、自分から住みたいとは思わない。

 しかも、それに加えて今回の事は最悪だ。町中で未確認の魔物が現れ、そして感染増殖していた。実情と感染増殖のメカニズムを知らない者達が、この話を聞いてどう思うだろうか。

 嫌な話だが、人の口に戸は立てられず、人は未知と己と違うものに恐怖する。アレフト住民に対する迫害が始まりかねない。

 最悪だと、浜名は愛刀を月明かりに光らせ、物陰から迫ってきた肉風船を斬り捨てた。

 そしてそれと同時に、分身の内、二体が自爆した。どうやら、敵の本丸に近付いていた様だ。他の分身から送られてくる情報では、徐々に囲まれつつある。

 まだ突破は容易だが、あと一手が欲しい。神野や和泉、況してや新寺までとは言わない、それでも前線近接職が一人でも居れば、この半端な包囲など、簡単に食い破り、この肉風船の本体を断てる。

 三体目の分身が自爆したのを確認し、浜名は無い物ねだりを止めて、闇夜を駆ける。

 二体、三体と斬り捨て、昼間に見た磔台へと走る。その時、肉風船が突如として動きを変え、浜名から離れていく。

 

「何だ?」

 

 警戒を強める浜名が、疑問符を浮かべた。そして、その疑問に、すぐさま回答がきた。

 火炎の柱が、月を隠した夜を裂いた。

 

「あの位置は……!」

 

 浜名は屋根伝いに、あの柱の元へと急いだ。

 

 

 

 

 

 〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

 まさか、ここまでか~。磔台の通り一つ向こう、奇跡的に肉風船の包囲が薄い辻で、アーネストは長剣を振るいながら、十字路に聳え立つ火炎の柱を見ていた。周囲を見ると、キスカとユズリハも、手を休めず見ていた。

 《ウォーロック》と呼ばれる古来からの魔法使い。単体では最大クラスの火力を誇ると、師であるフレッドから聞いてはいたが、ここまでの威力を放てるのは、まったくの予想外だった。

 

「って、ヤバ!」

 

 炎に誘われる羽虫の様に、火柱へとフラフラと近付いては燃える肉風船の群れ。だが、その数が多く、柱を抜けた数体が、《ウォーロック》のヴァニーへと群がる。

 近くのキスカが、半ば炭化しかけた肉風船を、杖の先端に備え付けたククリナイフで、横薙ぎに斬り倒した。

 

「大丈夫ヴァニー!」

「は、はい!」

「アーネスト、ヤバイよ。どんどん来てる」

 

 戦鎚を担いだユズリハが指差す方角から、肉風船が次々とやって来る。

 一体何がどうなっているのか。ヴァニーの火力に惹かれてやって来ているなら、タイミングがおかしい。早すぎる。

 

「逃げるぞ」

 

 しかし、アーネストは思案を他所に追いやり、即座の行動を選んだ。

 多勢に無勢、数も実力も不明な相手からは、一目散の逃走を。師であるフレッドと、ニコラス達の教えだ。

 小さな馬宿町の自警団となったアーネスト達に、《金鹿の蹄》のメンバー達は、徹底的に基礎を叩き込んだ。

 それは剣や戦闘よりも、生存に重きを置いたものだったが、それで今こうして地獄を生き抜いている。

 

「次撃てます!」

「ヴァニー、ユズリハの合図で!」

「カウント三秒で、橋を撃って!」

 

三秒後、爆発が陸橋を斜めに打撃する。頑丈な石造りの橋だったが、圧縮された火炎が爆ぜた瞬間、橋を形作っていた煉瓦や石畳が砕け散り散弾となって、火炎と共に肉風船の群れを飲んだ。

刺さり潰れ焼かれる。異臭が充満し、吐き気が込み上げてくるが、アーネスト達は足を止めない。

止まれば死ぬ。フレッド達が何度も何度も繰り返し、アーネスト達に叩き込んできた事だ。

 

「くそっ! 行き止まりか……!」

 

だが、その逃走をアレフト市街に、張り巡らされた城塞が阻む。土地勘の無さが、致命傷になった。アーネストは背後を振り替える。まだ追い付かれてはいないが、通りを戻れば鉢合わせは確実だ。そうなれば、戦うしかない。

だが、

 

「アーネスト、私もヴァニーも魔力が……」

「こっちもよ」

 

青い顔の三人、キスカはまだ近接でも戦えるが、ユズリハとヴァニーは、そうはいかない。

最悪、アーネスト一人で道を切り開くしかない。アーネストが、その事を想定に加えて行動を再開しようとした時、くぐもった水音が、ヴァニーの背後から聞こえた。

 

「ヴァニー!」

「え?」

 

非常にゆっくりとした視界の中、がらくたに埋もれる様にしていた肉風船が、そのおぞましい頭を開いて、ヴァニーを飲み込もうとする。

首から下の服装から判断するに、恐らく浮浪者。何故、埋もれていたのか。アーネストが急ぎ長剣を構えるが、これは間に合わない。アーネストの剣が届く前に、ヴァニーは飲み込まれ、アーネスト達は仲間を喪う。

いやに冷静に、その事実を認識しながらも、アーネストは剣を振るった。

そして

 

「……遅いぞ、少年」

 

頭上から落ちてきた〝黒〟が、そんな言葉と共に、肉風船を両断した。

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