異世界隠居 身勝手に呼ばれて身勝手に捨てられたので隠居したい 作:ジト民逆脚屋
リラ¦ヒロインみがすごい
サヤマ¦月猫族のマジ睨み顔は怖い
ネフェリタ¦リンドウ、何をしているんだ
まず、溜め息があった。態とらしく吐き出されたそれは、沸き立つ喧騒に消え去り、誰の耳にも届く事はなかった。
「ネフェリタ宰相、一体どうするおつもりで?」
どうするつもりか、問われたネフェリタは濃い蜜色の、長い耳を揺らして、問うてきた議員に実につまらなさそうな視線を向ける。
「どうするつもりか、とは?」
「決まっています。アレフトで起きた事に関してです」
またそれか。ネフェリタは脇に積み上げた資料に目をやり、議員に再び視線を戻す。
何度問われようと、答えは変わらない。
だが、一応は確認をしなくては、あのレミエーレの〝魔女〟の様に、言葉の隙に猛毒を仕込んで来るかもしれない。
「アレフトで起きた事、曖昧な問いは好きではありません」
言えば周りからの野次が酷い。何故、こうも人間は短い生の間に、権力にしがみつこうとするのか。
降り注ぐ野次の中、軽くそれらを聞き流しながら、問うてきた議員を見る。
見れば、議員も辟易とした表情を浮かべていた。
「アレフトで起きたあの事件、あれはレミエーレの〝魔女〟と貴女が仕組んだ事だという噂が飛び交っております」
「事実無根、間違いも甚だしく、もしその様な噂を信じている方がいらっしゃるなら、今すぐ議員の職を辞し、この場から立ち去ってください」
「中々、はっきりとおっしゃられますな」
「当然です。その噂も、レミエーレの〝魔女〟が仕組んだ噂かもしれませんのに」
間違いなくやるだろう。そして、最後には全ての罪をこちらに擦り付けてくる。そう言い切れる程度には、弁舌を交わしたし、交流もしている。
あの〝魔女〟の厄介さは身に染みている。
「兎に角、今はアレフト復興の支援と、あの新型に対する対抗策の確立が先です」
「これを期に、レミエーレへと進軍せよと、息巻いておられる御仁もいらっしゃる様ですが?」
「今のレミエーレは重病人、その看護と介護を進んでしたいというなら、私は止めません。しかし、その場合は国軍から兵の一人、国庫から銅貨の一枚、麦の一粒足りとも出しません」
私兵と私財でやってください。
深い溜め息と共に吐き出された言葉に、野次が止まる。
ネフェリタはもう一度溜め息を吐くと、席を立つ。何処へと問われれば、執務室と答える。
「何か、情報が足りませんね……」
会議場の扉を閉め、また三度目の溜め息が出る。
本当にどうしたものか。情報が足りない。今、世界で何が起きているのか。
断片的でもいいから、一つでも多くの情報が欲しい。
長い廊下を歩き、己の
書架に並べられた資料、しかし入りきらなかった紙束が、山と積み上げられた部屋の中を進み、奥にある机に向かう。
「ふぅ……」
誰かは知らないが、厄介な事をしてくれたものだ。
今の大陸でレミエーレとファーゼル、そのどちらかが弱れば、必然的にどちらかが相手を呑み込もうと動く。
だからこそ、両国の均衡を保たねばならなかったのに、今回の一件が起きた。
魔属の仕業かとも疑いはしたが、情報が確かなら〝アレ〟を制御するのは難しいだろう。
仕組みがまるで解らない。解析に当たった者達が口を揃えて言うのだ。
なにかしらの生物や菌類かと思えば違う。
なにかしらの呪いの類いかと思えば違う。
なにかしらの薬品かと思えばそれも違う。
兎に角、既存の方法では生物を、あそこまで作り替える方法は存在しない。
解ったのはそれだけであり、原因も解らず対策も遅々として進まない。
ネフェリタは部屋の隅を見る。紙束に占領された部屋の中で、仮眠用の寝床以外で唯一整理整頓された一画には、一体の人形があった。
「お前も何時動かしましたか……」
ネフェリタが人形に向けて指を動かせば、歯車の音を静かに人形が顔を上げた。
美女とも美男とも判断出来る作り物の顔、忙しく整備が行き届いていないが、それでも内部の機巧を動かす音に澱みは無い。
ネフェリタは、ファーゼル王国領内辺境にある砂漠地帯の出身 であり、《人形師》としての技はファーゼル王国の、とある冒険者から受け継いだものだ。
《人形師》の技は、他の
ネフェリタもエルフ種のダーク・エルフ、人間よりも遥かに永い時間を持つ彼女にとって、長い鍛練も苦にはならなかった。
「もう、辞めようかな……」
身に付けた技と人形、そして人並み以上に優れた容姿。それらを用い、時に冒険者として、時に踊り子の真似事をして、自由気ままに己を磨き、知識と知恵を貯え己の血肉として過ごしてきた。
その日々の中で、何度か依頼を受けてきた貴族から、ある依頼を受けた。
その依頼が縁となり、ファーゼル王国に仕官し、兵としての任を淡々とこなしていたある日、ある傭兵と出会った。
「もっと確かな情報を持ってきてくださいよ。ラフィーロ」
ファーゼル王国に縁のある傭兵の中でも、特に腕利きの部類に入る《城塞騎士》。今は召喚勇者のサヤマと共に、各国を巡り、様々な情報を集めている彼の名前を呟くと、執務机の上に飾られた、大盾を構えた騎士人形が首を傾げた。
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シーナは至福の一時の中に居た。多種多様な猫に囲まれじゃれつかれ、今までの旅で見せた事の無い笑顔で長毛種のアイドル猫を膝に乗せていた。
猫の喉が鳴り、猫特有の柔らかな毛並みと体温を感じながら、膝に乗る猫の背を撫でれば、その手に仔猫が飛び付いてくる。
「ふふ、おやつはこっちだぞ?」
猫用の干し肉を持ち、仔猫を可愛がるシーナ。そんな彼女を見ながら、傍に控えるリラも、今までに見せた事の無い笑顔を見せていた。
――ああ、良かった――
先程、店の外に見覚えのある、やけにひょろ長い人影が見えたが、一睨みすると居なくなった。
今は主の至福、何人たりとも邪魔する事は許されない。漸く、漸くなのだ。主のシーナがあれ程までに柔らかな笑みを浮かべたのは。
このまま、ただ穏やかに時が過ぎ、安住の地が見付かればいい。
フェリド曰く、希望に叶いそうな土地が幾つかあるらしく、その中で比較的安く、家付きの土地を見繕ってもらっている最中だ。
「ご主人様、本日の昼食は如何致しましょう」
「ハルファ達が良い店を知ってるらしい」
「左様で御座いますか」
あの三人も主に良き影響を及ぼしている。
リラは笑みを深くし、灰の毛並みの尾を揺らす。良い日々がゆっくりと過ぎている。
シーナにじゃれつく猫を眺め、店先に視線を移すと、野性味を感じさせる美丈夫と、整った顔の青年が揃って入店し、美丈夫がシーナを見て、やけに気取った態度で言った。
「やあ、麗しきお嬢さん。よければ、俺達とこれからどうかね」
「……ここは猫カフェだ。猫を誘え。そうでないなら帰れ」
流石です我が主。
《人形師》
魔力を通わせた糸又は魔力で作った糸で、多種多様な機巧を仕込んだ人形を操る職業。
中には《造型師》と呼ばれる《
次回
金鹿の蹄とモブ顔主人公