異世界隠居 身勝手に呼ばれて身勝手に捨てられたので隠居したい   作:ジト民逆脚屋

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シーナ¦少し落ち着いてきている

リラ¦これには思わずニッコリ

フェリド¦よしよし良い感じ

サヤマ¦この調子この調子

ハルファ¦もう大丈夫だから


あ、何故か書いた新作『亡霊妃の日々』も宜しくお願い致します。


シーナの朝

 最近のシーナの朝は早い。

 寝床から起き上がり、顔を洗い、着替え側に立て掛けてある砲剣を手に取る。

 レバーを引いて薬室を引き出し、厚手の布を巻き付けた棒を突き入れる。薬室の汚れを拭き取り、砲身内の汚れも拭き取る。そして、可動部に油を挿し、軽く動作と細かな部品の確認と刃の研磨をする。

 

 それが終われば、次は防具の点検に移る。シーナの防具は左右のバランスが悪い。胸甲と脛当て以外は、全体的に左側に装甲が寄っている。

 当初は何故かと、首を傾げたが、一度砲を撃てば得心した。シーナは両利きだが、引き金を引くのは主に右となる。左は砲身にあるフォアグリップを掴み、照準を固定する。

 砲撃時の防護と衝撃の緩和、その為のアンバランスな装甲配置だった。

 汚れを拭き取り磨きながら、シーナは嘗てを思い出す。

 

 突然呼ばれたあの日、気が付けばこの装備を身に纏っていた。あの国の誰かが用意したという訳でもなく、シーナ達は己の装備を身に付けていた。

 恐ろしかった。訳も分からず呼ばれ、気が付けば理解出来ない物を身に纏っていた。

 今、己がどうなっているのか。これから、どうなっていくのか。それすら定かでないのに、期待に沸き立つ周囲が恐ろしかった、腹立たしかった。

 だが、一番は何もしなかった己だ。何もせず、ただ周りに流されるまま、ただひたすらに戦い、そして失った。

 

 装備の手入れが止まる。

 失った、失った、失ったのだ。

 得られたと思った。手に出来たと、大丈夫なのだと思った。己にも、この世界で生きる場所があったのだ。この温かな日々が、これからもずっと毎日続く。

 そう思っていた。

 そんな事有り得ないのに。

 

「あ……」

 

 磨き布が手から溢れ落ちた。拾うと、黒く汚れている。それを拾う己の手も、同じく黒く汚れが染み付いている。

 新しい布で手を拭い、鎧の蝶番を点検する。少しだけ緩んでいたので、軽く魔力を通せば、直ぐに元通りとなる。

 シーナ達が得た装備品は、特級の性能と共に、持ち主の魔力を糧に自動修復する機能を有する。他の召喚勇者は知らないが、レミエーレ王国に召喚されたシーナ達はそうだった。

 そして、持ち主が死亡した場合、新たな持ち主となる者が魔力を注げば残留するが、そうでない場合は時間経過と共に粉々に砕けて塵となる。

 後には、何も残らない。風に巻かれて消えるだけだ。まるで、世界がお前達の居場所など何処にも無い、そう言っている様だ。

 そんな事を、あの痩せた竜胆に溢してみると、実に凶悪な笑みを浮かべて、妖しく笑っていた事を思い出す。

 あれは何を意味していたのだろう。短くない付き合いだが、あの女の考えはよく解らない。

 だが、裏で何やら探りを入れていたのは確かだ。竜胆はヘラヘラケラケラと、誰にでも適当な態度で接し、誰にでもある程度親しくするが、あの女は根本では誰も信用していない。恐らく、同じ孤児院の出で友人だと言う己も信用していないのだろう。

 

「ご主人様、起きてますか」

「……起きてる」

「左様で、フェリド様達がお出でになられております」

「すぐ行く」

 

 鎧を着込み、砲剣を背負う。サヤマの口利きで、格安で借りている宿だが、借りられるのは建家だけで、食事風呂は自分で用意する。狭い一軒家だが、リラと二人で暮らすには十分な広さがある。

 自室の扉を開ければ、直ぐに居間が見える。狭い家の狭い居間だ。リラを含めて四人も居れば、必然的に拓けた位置に一番面積のある者が追いやられる。

 

「よっす、御姉さん。この宿、どうよ」

「悪くない」

「それは何より」

 

 フェリドが人好きのする笑みを浮かべて、片手を上げる隣で、ハルファが何やら繕い物をしながら言う。何をしているのかと、疑問に見ていると一つ、小さな小袋が差し出される。

 

「幸運の古代文字(ルーン)を刺繍した匂い袋、気休め程度だけど効果有り」

「……私にか?」

「仲間には渡す様に決めている。シーナは仲間、リラにはさっき渡した」

 

 リラが同じ文字が刺繍された匂い袋を見せる。ハルファの視線は手元の繕い物に戻っている。

 

「今のそれは?」

「これはサヤマの革鎧に当てる分、かなり解れてた」

「あはは、師匠にめちゃくちゃ怒られたよ……」

「訓練サボってたテメエが悪い。なあ、お嬢ちゃん」

「鍛練を怠るのは、宜しくないでしょう」

 

 手の中の小さな匂い袋を見ながら、シーナは四人の会話に耳を傾ける。昔も、以前も、こんな何気無いやり取りがあった気がする。

 あれは何時だっただろうか。

 

「ご主人様?」

「……どうした?」

「何かお悩みが?」

「いや、まだ少し眠いだけだ」

 

 霞がかかった様にぼやけた頭を振り、シーナは四人に向き直る。

 リラがファーゼル王国名物の珈琲が入ったカップを、全員分並べていく。珈琲の良い香りが鼻を擽る。

 

「それで、今日は何の用だ」

「いやな、土地探しついでにちょっとした依頼を受けてみねえかとな」

「依頼?」

 

 ファーゼル王国に滞在中、日銭を稼ぐ為にサヤマやフェリド、ハルファ経由で小さな依頼を受けていた。

 幾度かギルドやパーティからの勧誘もあったが、フェリド達の名前を出せば、大体は引いた。それでもしつこく勧誘してきた者は、いつの間にかリラが応対していた。

 

「ああ、なんでも国営農場の拡大の為に、農地開拓をする筈だったんだが、犬面人(コボルド)の群れが見付かってな」

「それの駆除か」

「はい、僕達の他にも幾つかのギルドとパーティも参加するらしいですよ」

「報酬は一人金貨十枚、犬面人の討伐数で追加報酬有り。悪くない依頼」

 

 はっきり言えば、犬面人の討伐で報酬が金貨十枚、それに追加報酬有りの依頼は、悪くないどころではなく、かなりの儲け話だ。

 冒険者でなくても、この話には飛び付くだろう。シーナとしても、土地代の為に大きな収入が欲しかった。

 

「……何時だ?」

「まだ選抜中だが、遅くても今週中には日取りは決まる」

「解った。受けよう」

 

 最低でも金貨十枚の収入を得られる。この三人なら、己を騙す事も無いだろう。シーナはハルファから受け取った匂い袋を懐に仕舞うと、カップを手に取り傾ける。

 

「如何でしょう?」

「良いな」

「んじゃ、決めるもん決めたし、飲み終わったら町に行こうぜ」

「何かあるのか?」

「演劇、《人形師》の一座が公演に来てる」

「話によると、なんかスゴいらしいですよ」

 

 リラの淹れる珈琲は、何時しかシーナ宅を訪れた時の、サヤマ達の楽しみの一つとなっていた。

 そしてもう一つ、楽しみがある。

 

「今日の演目は猫の話」

「猫……」

「今からなら、昼前には着くから、屋台で何か買うか」

「それなら、新しい店が出来たって」

「ご主人様、如何いたしますか?」

「行く」

 

 疲れきった表情ばかり浮かべていたシーナが、最近になってほんの少しだけ、見せる様になった笑顔だ。

 直ぐに消えてしまうものだが、それでも出会った当初に比べれば、随分とマシになってきている。

 

「そんじゃ、行くか!」

 

 フェリドが先導し、サヤマがそれに着いていき、ハルファに手を引かれ、リラが後に続く。

 ファーゼル王国に来てから、シーナが手にした温かな日々がそれだった。




竜胆さんが誰も信用していない?
なら、ジョナサンは?

ストッパー兼バランサー兼リミッター









トロスレ
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