異世界隠居 身勝手に呼ばれて身勝手に捨てられたので隠居したい   作:ジト民逆脚屋

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シーナ¦許さぬ……!

リラ¦何というタイミング……!

フェリド¦なんか段々餌付けしてる気分になってきた

サヤマ¦カウンター

ハルファ¦良いのが入った


平原にて

 広い、ただひたすらに広い地平線がある。そして、その脇には小さくない森が広がっていた。鬱蒼と繁り、外からの光を許さぬとばかりに、枝葉と蔦が絡まり合っている。

 気味が悪く、何が潜んでいるのか解らない。

 そんな森を囲む様にして柵が建てられ、その外では幾条もの炊煙が上がっていた。

 その中の一つ、他と比べてあまり大きくない炊煙を囲む五人が居た。

 

「…………」

 

 その中の一人、外套と青の装甲を身に纏い、布を巻き付けた異形の大剣を背負う女が、憮然とした表情で焚き火を火箸で弄っていた。

 

「なあ、機嫌直せって……」

 

 大盾を側の荷物に立て掛け、重鎧のフェリドが苦笑しながら言う。手には串に刺した魚の一夜干しがあり、炙ったそれをむくれるシーナに向けていた。

 

「……これが普通だ」

「いやいや、明らかにでしょ」

 

 差し出された干物、薄い紅色の身を囓れば、サーモンに似た味があった。

 濃い脂と魚肉の締まった食感、干された事で更に強くなった風味は、シーナに懐かしさや郷愁を抱かせるには十分だった。

 

「ファーゼル産のサモルだ。生でもイケるが、干せばこの通りだ」

 

 ヒラヒラと、包みから出した干物を弄び、焚き火に掛けられた鍋をかき混ぜる。何時だったか、野営で炊いていた釜煮だった。

 

「……シーナ、これは仕方ない」

 

 つい最近、趣味だと分かった裁縫をしながら、ハルファが言う。

 

「まあ、仕方ないですよ。急とは言え、依頼の日時が今日からになったんですから……」

 

 サヤマがそれに続く。シーナの不機嫌の原因は、急遽決まった依頼の日時にある。本来の予定であれば、シーナ達は今日も劇団の演目を楽しんでいる筈だった。一日一部、全三部から成る《人形師》が手繰る人形による、人の言葉を話す不可思議な猫の物語。

 それは猫を好くシーナを忽ちに虜にし、明日はまだかと子供の様に、目を輝かせてリラに問うていた。リラもリラで、あのどんよりと暗かったシーナが、ここまで明るく振る舞うのだ。劇団の予定から周囲の屋台の種類に、どの位置から見れば一番の特等席かまで、事細かに調べ上げていた。

 

「……そう言えば、フェリド様はこの依頼の主である宰相閣下とお知り合いだとか」

 

 だから、シーナに続きリラも不機嫌であった。折角、調べ上げた情報が突然の事で無駄になった。漸く、シーナが明日を楽しみにする様になったというのに、その矢先にこれでは下手をすると、また振り出しに戻ってしまう。

 だから、この細やかな仕返しは正義の行いであり、〝怨〟という効果音が付きそうな顔で、フェリドを見るシーナも、また正しい。

 

「あ~、いやな? 確かに俺はネフェリタとは顔馴染みだが、あいつが何考えてるかまではな?」

 

 怨怨と睨むシーナの視線をかわしながら、フェリドが鍋の釜煮を器に移し、シーナに手渡す。

 不承不承ながら、シーナもそれを受け取り、匙を突き入れて大きく切られた芋を掬う。

 

「……デカイ」

「文句はハルファに言え」

 

 ちらとハルファを見れば、素知らぬ顔で刺繍を続けるハルファの横顔があった。

 

「大丈夫、可食」

「そりゃ、食えねえもんは入れてねえからな」

「まあ、それはそうなんだけどさ。なんでいきなり依頼の日時が決まったんだろうね?」

 

 サヤマが皮が剥かれただけの芋を匙で割って、噛み飲み込む。四人はサヤマの言葉を考える。

 確かに、五人が依頼を受けたのはつい先日、話によればまだ日数はあった筈。なのにいきなり今日と決まった。

 

「さあな」

「こればかりは、冒険者によくあるとしか……」

「俺も長い事この稼業やってるが、急な予定変更はよくあったわな」

「……多分、定員が集まったから」

 

 周囲を見渡すハルファ、彼女の言う通りに周囲には多数の冒険者達が集まっている。炊煙の数や位置から、あの森を囲む様にして、陣取っている様だ。

 

「定員?」

「推測、選抜はする必要が無くなった。腕利きのギルドやパーティーが集まった」

「成る程、しかしそれでは今回の依頼は、犬面人(コボルド)だけではないという事にもなりませんか?」

「数が多いのかもしれない」

 

 シーナが見る森はけして大きくはないが、犬面人が増えるには問題無い面積がある。そして近くには農場があり、餌にも困る事は無いだろう。

 

「……集落の跡地もあったよね」

「出ていったのか、やられたのか。分からんが、恐らく相当に増えてるだろうな」

 

 犬面人の繁殖方法は、醜亜巨人(トロール)と同じだ。人間種、亜人種の女を拐い母胎とし、臆病で弱いという事を除けば、醜亜巨人と大して変わりはない。だが、醜亜巨人より質が悪いのが、醜亜巨人よりも知能があるところだ。

 醜亜巨人はその巨体と筋力に任せて暴れるが、犬面人は単体では新人冒険者以下、強くなっても生身の一般的な中堅冒険者と同等程度、しかし知恵が働く。

 弱いがズル賢い。この一点が実に厄介な点である。奴等には学習能力がある。

 人の武器を使い、罠を覚える。希に魔法を扱える個体も現れ、数が増えれば集団戦で襲ってくる。それでも積極的に狩られる事も無いが、しかし増えすぎると厄介極まりない。

 

「……森を焼くか」

 

 シーナが物騒な目付きで、腰の弾帯に手を伸ばす。今からあの森に、手にした焼夷弾を幾つか撃ち込めば、劇の開演に間に合うかもしれない。

 弾帯から砲弾を引き抜こうとするシーナを、リラが止めた。

 

「ご主人様、それは性急かと」

「今なら楽に終われる」

「いやいや、シーナさん。延焼が広がったら、農場にまで影響が出ますって」

「なら、ハルファの氷の古代文字で塞げばいい」

「シーナ、いくら私でもその出力は無理」

 

 鍋に蓋をして、細巻きを燻らせるフェリドが、その光景を見ながら口の端を上げる。

 シーナも出会った当初に比べれば、かなり険が取れてきた。リラも同じだ。この調子でいければ、あの危うかった気配はそのまま消えていくかもしれない。

 サヤマが殴り倒されるのを見て、フェリドは紫煙を吐いて、吸殻をそのまま焚き火に放り投げた。ちらと、視線を背後に向ければ、馬防柵越しに見える森と、その向こう側から上がる炊煙。数が増えている。位置的にも、森を包囲する形。周りを見ても、顔や名前の知れている冒険者や傭兵ばかりだ。

 

 ――疑いたくはないがな……――

 

 ネフェリタから直に受けた依頼だ。何かあるとは考え難い。それに、これだけの実力者達を使い潰すとも思えない。

 話に決着が着いたのか、リラの尻尾を抱いたシーナが、憮然とした顔で、ハルファから受け取ったサモルの干物を囓っていた。

 

「落ち着いたか?」

「ああ」

「この仕事が終わったら、魚料理の旨い店にでも行くか?」

「そうだな」

 

 シーナが頷き、干物を飲み込む。どうやら気に入った様だ。中々懐かなかった野良猫に、餌付けをする様だが、フェリドは確か燻製もあったなと、側にある荷物に手を伸ばした時、一つ影が落ちた。

 

「お?」

 

 フェリドが見上げれば、そこには己にも見劣りしない大男が立っていた。

 

「よう、久し振りだな。生きてたか、フェリド」

「なんだ、バルザスか。お前こそ、くたばってなかったか」

 

 装備からフェリドと同様の重戦士だと解る。だが、フェリドが全身を覆う重鎧と大盾に矛鎚(メイス)なのに対し、バルザスの装備は同じ重鎧だが、フェリドとは違い胴や急所を中心に固められ、腰回りや肘や膝肩回りに装甲は無く、背には身の丈程の大剣を背負っていた。

 

「誰が死ぬかよ。んで、そいつらが今のか?」

「ああ、若者ばかりで肩身が狭い狭い」

 

 ヘラヘラと笑うフェリドに、バルザスも同様の笑みを浮かべる。

 

「よく言うぜ。《ストライダー》に《ルーンマスター》、《シャドウシーカー》、……《ソードマン》か?」

 

 的確に全員の職業(ジョブ)を言い当てていくが、シーナで言い淀む。鎧は軽鎧よりは厚く、背には大剣を背負っている。だが、どうにもその大剣が奇妙だ。

 

「……気にするな、ただの《ソードマン》だ」

「そ、そうか……」

 

 どうにも地味な顔だが、素朴な魅力と妙な圧がある。バルザスがその圧に押され頷くと、シーナはさっさとリラの尻尾に顔を埋めてしまった。

 

「…………」

「シャイなんだ、この御姉さん」

「お、おう」

「で、どうだ。食ってくか? フェリド様特製の釜煮」

 

 フェリドの誘いに、バルザスは腰を下ろす。冒険者は変わり者が多い。歴戦の重戦士の癖に、妙に料理の上手い変人から器を受け取りながら、バルザスは苦笑した。

 




バルザス
フェリドとは同期の《ウォリアー》
ゴブスレ読んで、何故かベルセルク思い出して、作成したキャラ。
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