異世界隠居 身勝手に呼ばれて身勝手に捨てられたので隠居したい   作:ジト民逆脚屋

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シーナ¦これ帰っていいか?

リラ¦いや、まだ何かありそうですよ

フェリド¦受けなきゃよかった

サヤマ¦ホントそれ

ハルファ¦帰ったら話がある


集い集う

「で、今回の依頼をどう見る?」

 

 フェリドから器を受け取りながら、バルザスが問うてくる。視線はフェリドではなく、それ以外を見ている。

 

「どう、とは?」

 

 リラが目を細めて問う。品定めをされている様で、若干癪に触るが、バルザスの実力を鑑みれば、納得も出来なくはない。

 やはり癪に触るが。

 

「そのままだ。たかが犬面人(コボルド)狩りに、お前らや俺、そして《金鹿(こんろく)の蹄》まで参加してる。明らかにやり過ぎだ」

 

 確かにと、サヤマは二杯目の釜煮を口に運ぶ。範囲は広く、見透しは悪いというより劣悪、木々は密集していて、連携は取り辛いだろう。

 サヤマのような長柄物を得意とする者は、苦戦は確実だ。小柄で非力な犬面人にとって、避けるべきは野戦。狭く分断しやすい洞窟や暗い森林でこそ、犬面人は本領を発揮する。

 しかし悲しいかな。犬面人はそれをいまいち理解出来ず、増えた数に任せて襲ってくる。

 サヤマの師、ベアトリーチェが言っていた事だ。

 そしてそれを今に当て嵌めるなら、犬面人は相当に増えている、という事になるのではないか。

 サヤマが黙考していると、ハルファが口を開いた。

 

醜亜巨人(トロール)を飼っている?」

「まあ確かに、その線もあるが、それなら被害はもっとあった筈だ」

「単純に増えたのでは?」

「連中の性格的に、増えたなら攻めてくる筈だ」

 

 だとすると、何が言えるか。犬面人は知能がある。知能の欠片も無い醜亜巨人を飼える程度には、食料や繁殖に計画性もあるにはある。だが、愚かだ。数に任せて己の滅びを決めてしまう。

 サヤマは思い出す。師が何を言っていたか。やけに大人しい犬面人の巣があって、そこに何があるのか。

 

「……統率出来る個体が生まれた?」

「もしくは、統率可能なモノが群れを率いている」

「……笑えねえ話だな」

「一気に難度が上がった」

 

 サヤマがベアトリーチェに聞いた話によると、極稀に、犬面人の中に特異個体が現れる事がある。統率に優れる個体、武力に優れる個体、魔力に優れる個体、様々と現れる事があるらしい。

 

「でも、それは正直な話、眉唾物」

「まあ、師匠が欠伸しながら言ってた事だしね。正直、話半分に聞いてよ」

 

 サヤマがハルファに言えば、深い森に目を向ける。正直なところ、森を焼き払おうとしたシーナにハルファは賛成だ。

 犬面人は小さく、ハルファとしては厄介な的だ。あの町では、サヤマに抱き抱えられ、兎に角古代文字を撒き散らした。あれはあの町だから出来た事で、隠れる場所の無い平野では、サヤマの負担が大きすぎる上、大した効果は無いだろう。

 

「どちらにしても、犬面人を狩るのが依頼だ」

「ご主人様、何か策が?」

 

 リラがシーナに釜煮を手渡して、先を促す。

 

「策、と言えるものじゃない。というより、不明な点が多すぎる。何をどうすればいいのかすら、解っていない」

 

 シーナの言葉に全員が頷く。今現在、犬面人の駆除として集まっているが、冒険者の数はまだ増えている。ギルドやパーティーにソロ、明らかに犬面人に対して過剰戦力と言える。

 何かキナ臭い。シーナが外套の襟を正し、憮然と辺りを見回せば、ハルファが突然フードを被り、サヤマの影に隠れた。

 

「……どうした?」

「ごめん、嫌な連中が目に入った」

 

 恐怖というより、嫌悪の感情を滲ませたハルファの視線を追えば、えらく視線を集めている集団が居た。その全員が見目麗しく、耳が長い。エルフだけで構成された集団だ。

 

「あ、マジか。おい、バルザス。体ずらして、その段平立てとけ」

「んだよ、いきなり……、分かった。おい、ノッポ。分かってんだろうな?」

「はい。ほら、ハルファ。シーナさんとリラさんも、こちへお願いします」

 

 一体何だと思いながら、シーナとリラはサヤマの言う通りに、ハルファを隠す。何故かと声には出さず、シーナはサヤマを睨めば、どうにも答えに困った苦い顔があった。

 本当に一体何だと周りを見ると、ハルファと同じ様にして身を隠す者達がちらほらと居た。

 その原因はどうやら、先程から視線を集めている集団にあるようだ。

 

「……なんだあれは?」

「エルフの様ですが……」

「あ、知らねえのか? あれは《アルヴディナ》、生粋の純血主義のエルフ共だ」

 

 シーナは記憶の山から、何時だったか梶原か誰かが漏らしていた言葉を思い出す。

 確か、何かの災害救助に梶原達が向かったが、純血のエルフでなかった為に、現場である集落に近付けさせてすらもらえなかったと、ぼやいていた。

 それだけでなく、ハーフ・エルフの《ドクトルマグス》の部下に、攻撃すらしてきたと。

 

「……面倒だな」

「あの潔癖の《アルヴディナ》が関わる依頼じゃねえんだがな」

「最悪だ。あれが関わるだけで、依頼の達成が一気に難しくなる……」

 

 ハルファがフードの奥で唸る。ハルファは人間の血を引くハーフ・エルフ、今の世界で最も多いハーフ・エルフとなる。

 寧ろ、完全に純血しか居ない種族というのは、ほとんど存在しない。

 多少なりに、違う人種や国の血を迎え、血筋や親族関係を広め、遺伝的な強さを取り入れ、時に排する。人という生き物は、そうやって今まで繁栄を続けてきた。

 だが、中には純血主義という思想を掲げる者達も居る。

 

「《アルヴディナ》じゃなかったけど、前もいきなりでしたから……」

「まったく、厄介な話だな」

 

 エルフを始めとした長命の種族に多く見られ、エルフはエルフとのみ結ばれ、その高貴なる血を絶やしてはならない。

 そして、それ以外の血を受け入れた者は、淫蕩で穢れた者であり、その血筋ごと焼き滅ぼさねばならない。

 

「宗教か何かか?」

「純血教ってか?」

「冗談にもならない。そんなに純血で居たいなら、森の奥底に引き籠って、そのまま滅べばいい」

 

 それなのに、人里に出てきては問題を引き起こす、純血主義者は最たる厄介者。

 世界の認識はそれであり、ハルファや他の混血にとって不倶戴天の敵だ。

 

「しかし、その《アルヴディナ》が、何故にこの依頼を?」

「さてなあ。大方、金でも尽きたか。連中、金遣いが荒いらしいからな」

 

 遠目に見る分には、非常に見目麗しく芸術品と言って過言ではない。だが、ハルファ達が言う通りに、その内面はとてもではないが、見られたものではないのだろう。

 シーナは興味を失った様に、《アルヴディナ》から視線を外す。

 

「気違いはどうでもいい。今はこの依頼だ」

「時々思うんだがよ、御姉さんの割り切りスゴくね?」

「我が主ですので」

 

 リラが胸を張り、シーナが抱える尾が揺れる。

 

「おいおい、まだ来てんぞ」

「次は、《レーア騎士団》か。これはまた、かなりの連中が揃ってきたな」

「こうなってきたら、犬面人駆除とは思えない。……フェリド、宰相はなんて?」

「俺に聞くなよ。奴の微妙な秘密主義は、今に始まった事じゃねえだろ」

 

 冒険者達が囲む森に動きは無い。あの臆病な犬面人が潜んでいるなら、動きが無いのは違和感がある。混乱して襲い掛かってくるか、怯えて巣に引き籠るか、まさか本当に統率力のある個体が生まれたのか。

 バルザスが立て掛けた、黒光りする大剣を見る。折れず曲がらず欠けず、元は大昔の召喚勇者の装備だったらしい逸品。醜亜巨人の二、三体を斬り捨てても、その切れ味が落ちる気配すら見せない。

 

「どうしたよ、バルザス」

「いや、なんでもない」

 

 その大剣の刀身が、(ぬめ)る様に光る時は、大抵何かが起きる。それは良い事もあれば、勿論悪い事もある。

 気のせいだと言われればそれまでだが、何かが起きなかった事は無い。そう、何かが起きるのだ。

 柄を掴み、刀身をずらす。大剣の分厚い刀身と、頑健な装甲で組まれた大盾が、細く研ぎ澄まされた火槍を弾きかき消す。

 

「……随分な挨拶だな」

「それがエルフの挨拶か? 《アルヴディナ》」

「いやはや、かのバルザス・キルシュとフェリド・ラフィーロに睨まれては、恐ろしくて声も出ませんな」

 

 純血のエルフ特有の、絹糸の様な金髪を持つエルフの《ゾディアック》が、その端正な顔を歪ませて、《ゾディアック》が使う魔本を広げていた。

 

「一体、何の用かな? 何かこっち狙いだった様な気がするけど?」

 

 何時もの温厚な様子が消え失せたサヤマが、短槍を手にハルファを背に隠す。ベアトリーチェ仕込みの足腰ならば、一足飛びに貫ける。

 シーナも砲剣を抜いている。リラは姿が見えない。恐らく、《シャドウシーカー》の能力(スキル)で、誰かの影に潜んでいるのだろう。

 全員が戦闘態勢に入るのを、男は唇を吊り上げて、さもおかしいという風に言う。

 

「いえいえ、貴方を害そうなどとは欠片も。ただ、薄汚い〝汚れ〟が見えたので、ついね?」

「純血のエルフってのは、随分と目が悪いんだね? 汚れなんて、僕には見えないな。あ、もしかして、他人には見えないものが見えちゃう系の人? だったらごめんね。僕には君の見えてる世界は見えないんだ。だから、巻き込まないでくれる?」

 

 サヤマが貼り付けた笑顔で、つらつらと言えば、男の眉が僅かに上がる。サヤマは温厚だが、やる時は徹底する。

 元居た世界でも、それは変わらなかったが、この世界でベアトリーチェに師事してから、それは更に顕著になった。

 男が魔本に魔力を通した瞬間に、サヤマの短槍は男を貫く。それにフェリドにシーナ、リラにバルザスといった実力者に加え、周囲の冒険者も居る。

 愚か者はこのエルフの男だ。

 

「ふん、薄汚い混血に低俗な人間種が。貴様らの様な者が蔓延るとは、世も末だな」

「いきなり殺人をしようとする通り魔よりマシだよ」

 

 魔本のページが捲れ、サヤマが腰を落とす。フェリドは大盾を構え、バルザスも大剣を上段に構え、シーナは腰の弾帯に手を伸ばす。

 

「お待ちを」

 

 そんな中、一つ声が飛び込んでくる。大きくなく、さして急いだ気配も無いが、厳格な響きのある声に、その場の全員が動きを止めた。

 

「某、何があったのかは存じませぬが、今この場で刃傷沙汰は避けられた方が宜しいかと」

「《レーア騎士団》」

 

 平均的な人間種の子供と同程度の身長に、高い鷲鼻とエルフによく似た長い耳。ゴブリン種の男が、両者の間に立つ。

 

「オルクか」

「これは久しいですな、フェリド殿、バルザス殿も。貴公も、この場は某に預けては貰えませぬか? 純血主義を掲げる《アルヴディナ》も、この様な事は望まぬ筈です」

「……小人如きが。いいだろう、貴様に預けてやろう」

「感謝を」

 

 オルクと呼ばれたゴブリンが頭を下げると、エルフの男は嘲笑を浮かべて、その場を離れた。

 後衛の《ゾディアック》が一人で、この面子に勝てる算段でもあったのだろうか。彼の態度から余裕が消える事は無かった。

 

「いやはや、血気盛んな事ですな」

「オルクよ、助かった」

「いや、気になされるな。某も貴公らに話があって来たついででしたからな」

 

 そう言うと、彼は兜を脱ぎ、ほんの少しだけ後退した額を拭うと、話を切り出した。

 

「貴公ら、此度の依頼をどう考えますかな?」




《アルヴディナ》
純血主義を掲げるエルフのみで構成されたギルド。軽戦士や魔法使いを中心としている。
行き過ぎた純血主義の為、周囲からは疎まれている。


純血主義
何時だったか発生していた思想。長命なエルフを中心に、狂信的に傾倒する者達が多い。
しかし、彼らの掲げる純血主義は過激で、中身が無い。


《レーア騎士団》
ゴブリンを始めとした小人種のみで構成されたギルド。
体格や見た目から差別を受けがちな小人種の、権利向上の為の活動も行っている。
ギルドマスターであるオルクの人柄と実力もあり、ファーゼル王国第三位のギルドでもある。
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