異世界隠居 身勝手に呼ばれて身勝手に捨てられたので隠居したい   作:ジト民逆脚屋

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シーナ¦心に再び罅が入り始める

リラ¦どうして止められなかった

フェリド¦兎に角逃げろ

サヤマ¦あれなにさ?

ハルファ¦解る訳がない


一つ、この作品って、なろう系でいいのかな?
教えてエロい人……!


軋み軋む

 今回の依頼をどう思うか。

 オルクの問いに、シーナ達は一度頷いてから、答えた。

 

「信用出来ない」

 

 今回の依頼は犬面人の討伐、であるなら、これ程の規模の冒険者は必要無い筈だ。

 なのに、《金鹿の蹄》《アルヴディナ》《レーア騎士団》、他にも名の通った実力者が揃っている。

 

「俺としちゃあ、信じてやりたいが、これはなあ……」

 

 フェリドが溜め息混じりに薪を、拾った枝で位置を直し、火に掛けている鍋をかき混ぜる。

 

「つか、今更だがよ。あのネフェリタの仕切りか?」

「どういう意味ですかな?」

 

 バルザスが疑問すれば、オルクが更に問い掛けた。

 

「俺もフェリド程じゃねえが、一応は面識はあるし、依頼を受けた事もある」

「……だから、おかしいか」

 

 シーナの言葉に頷き、フェリドを見る。この中で一番、件のネフェリタと付き合いが長いのは、このフェリドだ。

 シーナの傍に控えるリラが、目を弓にした笑みを、フェリドに向ける。もし何かあれば、即座にシーナだけを連れて逃げる。そのつもりだ。

 何か嫌な予感が止まない。フェリドは手で、取り合えず座れと指示する。

 

「……俺はネフェリタから、今回の依頼を受けた。お前らは?」

「某らは仲介人からですな」

「俺は酒場の掲示板だ。他の奴等も、似たようなもんだろうよ」

 

 周囲にはフェリドやバルザス達の顔見知りも、多く居る。中には、駆け出しの新人を連れた者達も見える。

 

「……帰る」

 

 そう言って、シーナが腰を上げた時だった。彼女の動きが止まった。リラが何事かと身構え、シーナの視線を追う。

 そこには、シーナと似た雰囲気の男女が居た。

 

「なん、で……」

「ご主人様……!」

 

 シーナのただならぬ様子に、他も何事かと視線を追う。青褪め、砲剣に凭れ掛かり、漸く立っている彼女が何を見たのか。

 誰もが後に語る。

 

 この時、振り返りさえしなければ

 この時、シーナを連れて離れていれば

 この時、あの場に居なければ

 

 あんな事にはならなかったかもしれない。

 

「…………あら、山科じゃない」

「にむ、ら……」

 

 何が起きているのか、理解が追い付かない。だがリラは、体を震わせ、今にも倒れてしまいそうなシーナの様子から、目の前の女は主の敵だと断定。

 〝ニムラ〟という女とシーナの間に入る。

 

「……我が主に、何かご用でしょうか?」

「…………ふうん、可愛らしい従者ね。趣味、変えたの?」

 

 口の端を態とらしく吊り上げた、趣味の悪い笑み。なまじ、このニムラという女の見た目が整っている分、それは更に顕著に表れた。

 毒婦、フェリドやバルザス達はニムラに、そういった印象を抱き、サヤマとハルファはニムラの底意地の悪さと、言い様の無い気味の悪さを見た。

 

「…………にしても、どうしてあんたが、ここに居るのかしら? ……つかさ、なんで生きてんの?」

「……それ以上は主に対する侮辱と見なします」

 

 リラが警告した瞬間だった。ニムラの歪んだ笑みが、歪みに歪みきった。

 その笑みは、何も知らぬ部外者が見れば、ニムラの容姿と相俟って、優れた造形品の様に、美しく愛でるべき笑みに見えただろう。

 だが、その感情を受け、対峙するリラ達には、これ以上無い程に醜悪で、饐えた臭いが、実際に鼻に突き刺してくる様な、異様な笑みに見えた。

 

「…………ああ、可笑しい。あの〝大罪人〟が、こんな所でのうのうと生きて、呑気に冒険者だなんて……!」

「あ……」

 

 まるで、耳まで口が裂けたかの様な、醜悪な饐えた笑みがそこにあった。

 リラすら気圧される異質、砲剣の支えすら意味を無くし、崩れ落ちそうになるシーナを、ハルファが支える。

 

「…………うふふ、まあ、いいか。……見つけたしね」

 

 背を向けるニムラ、最後に呟いた言葉は聞こえなかったが、碌な事ではないだろう。

 去っていくニムラを睨む。だが、去っていくあれはどうでもいい。

 今はシーナだ。

 

「ご主人様……!」

 

 ハルファに支えられ、しかし顔を伏せたまま震える。呼吸すらままならぬ様子、リラは依頼の達成は不可能と断定し、シーナを連れて場を離れる準備を始める。

 

「皆様、急では御座いますが、私共は依頼を放棄させていただきます」

「お、おう、兎に角だ。嬢ちゃんは御姉さん連れて逃げな。……あの女はヤバイ」

 

 フェリド、バルザス、オルクの歴戦の猛者すら圧倒する威圧、そしてあの言い様の無い異質な雰囲気。

 傭兵として、冒険者としての経験と、生物の本能が叫んでいる。あれはダメだ。何かがおかしい。

 今まで、あんな異様な存在には出会った事が無い。

 

「……おい」

 

 シーナに肩を貸し、この場から離れようとするリラに、バルザスが大剣の柄を握り呼び掛ける。

 視線は犬面人が潜むであろう、森林に向けられているが、意識は更に向こう側、森林の反対側に上がる煙に向けられていた。

 

「逃げるなら、早くしろ。様子がおかしい」

「あっちは、確か《金鹿の蹄》が纏めていた筈。一体何が……」

 

 黒い、黒い煙だった。炊煙ではない。あれは戦闘の煙だ。

 

「オルク、お前は仲間のとこに急げ! ハルファ、サヤマは、御姉さんと嬢ちゃんの護衛だ!」

 

 オルクが愛用の槍を手に、仲間の元に走り、バルザスが大剣を構える。フェリドは矛鎚を手に、大盾のグリップを握り直す。

 受けなければよかった。フェリドは背後に離れる、四人の気配を感じながら、腰を落とす。静かに深く息を吐き出し、肺の中身を入れ換える。

 意識を研ぎ澄まし、全身に魔力を巡らせていく。

 

「フェリド、来るぞ」

 

 バルザスの合図に、何処からか火槍が飛んだ。《アルヴディナ》だ。

 放たれた火槍は真っ直ぐに、森林に向かい、その闇に潜むものを貫いた。

 犬面人だ。だが、遠目に見ても何かおかしい。

 

「……バルザス、犬面人の頭ってよ。あんなデカイ瘤あったか?」

「あれだけかもしれんぞ?」

「だったらよかったな」

 

 森林からワラワラと、群れを為して犬面人が溢れ出る。しかし、その姿はフェリド達がよく知る犬面人のそれからは、かけ離れた姿になっていた。

 額と生え際の境にあたる部分から、醜い瘤が膨れ上がり、中で何かが蠢く様に脈動し、時折、裂けた皮膚から膿が溢れている。

 

「おいおい、なんだありゃ……?」

「新種か? いや、最近出てきたっていう珍種か?」

「なんだそりゃ?」

「最近、アレフト周辺で湧いたっつう噂のやつだ。何でも、吸血鬼と同じ様に感染するとか」

「逃げるか?」

 

 森林の反対側からは、戦闘音が聞こえない。逃げたか、既に全滅したかだろう。こちらも、幾つか前線が食い破られて、後衛に被害が出始めたギルドが見える。新人を連れた者達だった。経験の浅い新人が、予想外の事に対応しきれず、フォローも間に合わなかったのだろう。

 

「バルザス!」

「分かってんよ!」

 

 バルザスが戦場を駆け、大剣を振るい犬面人を薙ぎ払う。得物から伝わる、気分のいいとは言えない感触に、バルザスは眉をしかめる。

 大盾で弾き、矛鎚で叩き潰したフェリドも同じ顔だ。

 

「斬った、というより潰した?」

「いや、崩れたが近いか?」

 

 どちらも、生きた生物を殺めて得る感触ではない。だが、目の前に湧き続ける犬面人は、死んでいるとは言い難い。

 

「兎に角だ! バラけず纏まれ! 孤立したらそいつから死ぬぞ……!」

 

 フェリドの叫びに、周囲はギルドやパーティーで纏まり、互いに背中を合わせ、犬面人の群れに立ち向かっていく。補給や回復を行う拠点も、簡易ではあるが出来はじめている。

 だがそれでも、最初に受けた衝撃と、森林の規模に対して不釣り合いな量の群れに、徐々に押され始める。

 何かあと一手が必要だ。バルザスが犬面人を、五体纏めて叩き斬り、次の一手に思案を巡らせる。

 だが、《レーア騎士団》も押され、《アルヴディナ》に至っては前線を食い破られて、全滅が見え始めていた。

 

 ――バルザス様もここで終わりか?――

 

 覚悟はしている。常に、そう構えて生きてきた。死ぬのが怖くないとは言わない。

 だが同時に、ここで終わるとも思えなかった。

 勘だ。傭兵の勘。

 

「お?」

 

 やけに装備の良い個体が構えた盾に、大剣が逸らされた。盾持ちは死んだが、背後に構えていた槍持ちが居た。

 だが、それも死んだ。額に《シノビ》が使うナイフ苦無が突き立っていた。

 

「腕利きの《シノビ》だな」

 

 フェリドの言葉通りに、黒一色の装備に、赤い襟巻きをはためかせて、《シノビ》の男が戦場を右へ左へ、自由に駆け抜けていく。

 

「フェリドのオッサン!」

「あ? アーネストか!?」

 

 濃い肌色の少年が、長剣片手に駆けてくる。あの馬宿町で自警団になっていた筈のアーネストだ。

 

「お前、なんだってこんな所に?」

「ちょっと事情があってさ。つか、何だよこれ!?」

「俺が知るか! 他の連中は!」

「キスカとユズリハとヴァニーは、負傷者の回収部隊を組んでる! フレッドとニコラスのアニキ達も居る!」

「つうことは、ソフィアとモンドもか!」

 

 若干、腐臭のする血肉を払いながら、補給と回復を終えたパーティーと前線を交替する。

 水を受け取り飲み干せば、渇いた喉と体に染み込んでいく。

 

「で、そのガキは?」

「アーネスト、年の割りにやれる奴だ。んで、アーネスト、こいつはバルザス。腕利きの《ウォリアー》だ」

「うっす、宜しく頼んます。フェリドのオッサン、これどうしたんだよ?」

「分からん。分からんだらけだ」

 

 森林からは、未だに犬面人が涌き出ている。異常事態だ。

 

「伝令は?」

「さっき早馬が行った。早くても三時間は掛かるな」

「……そうか」

「アネゴ、大丈夫かな」

「アネゴ? ソフィアの事か?」

 

 フェリドの問いに、アーネストは首を横に振った。

 

「あ~、アレフトで会ったものすげえ《陣術師》のアネゴ。あと、なんか地味な《シノビ》のアニキ」

「そいつらがどうしたよ? つか、《陣術師》が居るのか! 何処だ!」

 

 《シノビ》は恐らく、先程駆け抜けた奴だ。なら、《陣術師》は何処に居る。《陣術師》が居るだけでも、全員の生存率が跳ね上がる。

 

「えっと、アネゴはいきなり走り出して、どっかに行っちゃって……、ああもう! 何処に行ったんだよ!」

 

 アサノのアネゴ!




次回

心が枯れるまで
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