異世界隠居 身勝手に呼ばれて身勝手に捨てられたので隠居したい 作:ジト民逆脚屋
これからちょっと前後したりして、書いてる逆脚屋が大混乱してます。
ボスケテ
「……で、何があって、こうなったんだ?」
寝室の前、そこに繋がる廊下を挟んだ反対側、リビングに当たる部屋で、フェリドは自らの恩人とも言える人物と、半ば苛立ちと怒りを籠めて対面していた。
黒の装束に襟巻き、顔立ちは整ってはいるが、何故か印象に残り辛い。
《シノビ》の青年、名を浜名と言った。
「……取り敢えず、俺達二人の立ち位置を言っておきたい」
「いいぜ、言ってみろよ」
二人を隔てるのは、薄いテーブルの一枚のみ。仮に、浜名が何かしらの動きを見せても、フェリドなら対処出来る。
そう判断して、サヤマとハルファは、シーナが眠る寝室前で、動かない麻野を監視するリラの元につけた。
「信じられんかもしれないが、俺と麻野は山科の味方だ」
「なら、その味方を見て、お姉さんは気を失ったって訳だ」
鼻で笑う様に言えば、浜名の顔が曇る。
シーナは、二人に会ったあの日から、今まで眠り続けている。正確に言えば、二人に会う以前、あの女に会った時からだが、フェリド達にしてみれば、あの女もこの二人も大差無い。
「それに関しては、俺からはどうにも言葉に出来ん。だが、はっきりとさせておきたい」
「何をだよ」
「俺達は山科の味方だし、山科を連れ戻そうとは考えていない」
「…………」
さてと、フェリドは考えを巡らせていく。
二人がシーナの味方である。この事に関しては、少しだが疑いを緩めてもいいだろう。彼女を害するつもりなら、あの時に仕留めてしまえばよかったのだ。
あの女とグルという可能性も無くは無いが、どうにも言動や行動がそれらしくない。
グルではないが、仲間若しくは知り合い、それもかなり気の合わない。そんな感じだった。
「話を戻すぜ。お前らが味方だと仮定してだ。今更何の用だ?」
「山科の保護と安全の確保だ」
「明らかに怯えていた相手をか?」
浜名の顔に浮かぶ色は、後悔と怒りだ。そして、その全ては自分に向けている。
恐らくではなく、確定だ。この二人、否、レミエーレで何かが起きた。そしてシーナは、その中心に居た。
それを聞き出さない事には、話は進まないだろう。
しかし、どう聞き出すか。フェリドが考えていると、浜名から深い溜め息が聞こえた。
「聞きたい事を聞いてくれ。……本当は姿を見せるつもりは無かったんだが、こうなった以上、隠し事が出来るとは思っていない」
「なら、聞くぜ。お姉さんは、レミエーレの国政に関わる人材だったのか?」
「違うと、断言させてもらう。戦力としては最重要だったが、政治には直接は関わっていない」
「直接はって事は、身内か?」
「そうだ。ラフィーロさん、レミエーレの魔女は知っているな」
「ああ、知ってるさ。レミエーレの召喚勇者の一人で、うちの宰相がやられてる相手だ。まさか、その魔女の身内か?」
「同じ孤児院の出だ」
成る程、戦力として最重要であり、政治においても最重要人物の身内。狙われる理由は揃っている。
だが、フェリドはそれが理由だとは思えなかった。レミエーレで何かが起きた。これは確定だ。
しかし何だ、この言い様の無い違和感は。政争で狙われる理由は確かにあった。結果もある。
なら、残るものは何だ。
動機?
それは、理由だ。
なら、何だ?
目的?
シーナを害する事。なら、シーナを直接狙えばいい。
否、狙ったのだ。だから、シーナはレミエーレから逃げた。
だが、誰が何故どうして。シーナは、戦力的最重要人物でしかなく、言ってしまえば、召喚勇者自体に政治的な価値は、殆ど無いに等しい。
自国で喚んだのだから、自国で処分してしまえばいい。シーナは実力者だが、シーナより強い者はごまんと居る。レミエーレで言えば、かの聖剣のオーフィリア家の当主や、他騎士団団長だ。
他にも、毒や暗殺など、単純に殺す方法ならいくらでもあり、召喚勇者一人を消す事は簡単だ。
しかし、シーナは現在、ファーゼルにまで逃げ延びている。
つまり、実力者が動けず、暗殺も難しい状況だったという事になる。
「話を続けてもいいか?」
「……ああ、続けてくれ」
嫌な予感がする。傭兵として生き延びてきた、フェリドの勘が叫んでいる。
この話はマズい話だと。
「山科は国政には関わっていない。だが、ある人物と深い関わりがあった」
「ある人物?」
「ある意味、レミエーレ王国の象徴とも言える人物だ」
「待て、まさか……」
「……レミエーレ王国に伝わる聖剣、その当代の使い手であったグレイ・オーフィリアの、……恋人だったんだ」
瞬間だった。いくら呆けていても、思考は一瞬で繋がる。大国レミエーレ王国の象徴とも言える家系の当主、その相手が出自のはっきりしない、孤児の召喚勇者となれば、権威主義である貴族社会はどの様な手段を取るか。仮にも、貴族の端くれでもあるフェリドには、その事がよく判る。
フェリドの予想が正しければ、オーフィリアはシーナを守らなかったか、守りきれず捨てたか。若しくは、そのどちかでもない。
だとすれば、それは最悪の予想だ。
そして、何時も何時も世の中というものは、最善より最悪を連れてくるものだと、フェリドは知っている。
「……俺達を国から離して、こうさせているという事は、竜胆も予想済みだろうから、はっきりと言おう。山科椎名は、ある作戦中に起きたグレイ・オーフィリア殺害と、騎士団に対する攻撃による国家反逆の罪で、レミエーレでは極秘裏にだが、大罪人として扱われている」
「おい、それは……!」
明らかにと、フェリドの言葉は続かなかった。歯を食い縛り、憤怒に染まる目。それらをすら、埋め尽くし覆い隠す悔恨。
叫ぶ様に呟かれる言葉を、フェリドはただ聞くしかなかった。
「なあ、この世界は一体何なんだ? 俺達を勝手に喚んで、好き勝手に使って、それでも生きていこうって、無理矢理にでも前を向いて、漸くだったんだ。漸く、この世界に根を下ろそうって思えたんだ」
「お前……」
「あんた達が悪いだなんて、欠片も思っちゃいない。だけど、俺達はもう半分も残っていない。皆、死んだか壊れていった。俺達が、……いや、山科が何をしたって言うんだ」
何を言いたいのか、いまいちはっきりしない言葉。だが、フェリドは聞き逃す事は出来なかった。
彼らに起きた事は、この、ある意味で狂った世界で、召喚勇者に起きる悲劇の一つに過ぎない。
大切を、幸いを得ようとし、そして失う。ありふれた悲劇の一つ、フェリドもハルファも、この世界の住人なら、誰もが知る悲劇の内の一つ。
だがそれは、当事者ではないからこそ、言える事だ。
願わくば、サヤマやこの二人、シーナに、これ以上の悲劇が起きない事を祈るしか、フェリドには出来なかった。
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豪奢な飾り付けが成された部屋に、深い溜め息が落ちた。
痩せ細った体をソファーに預け、テーブルや床、部屋中に乱雑に撒き散らされた書類を、最早興味も失せたと、皺になるのも構わず、足の指で掴んで拾い上げる。
「……はは、バカみてえだな」
竜胆は目当ての書類を引き当て、そこに並ぶ文字を再度読み、自虐の笑いを溢した。
「バカ丸出し、そんな事がある筈が無い。そう思っても縋りついて、これがその結果かよ」
ジョナサンは一度、竜胆しか知らない隠れ家に逃がした。
他の使用人も、自衛能力の無い者は暇をやって、竜胆独自のルートで逃がした。
静かになった屋敷、その中でもう一度、自虐の笑みを溢して、竜胆は喧しい窓を見る。
雨が窓を叩いている。あの日も、こんな日だった。
「……何かあると、何時も雨だな、私はよ」
目を閉じれば、何時だって聞こえる怒りと悲しみの叫び。
それらを振り払う様に、頭を掻き、深く息を吐き出した。
「リナシアに絶縁されるだろうな……」
だが仕方ないと、竜胆は屋敷を後に、オーフィリア家へと向かう。
全ては先日の新王即位式の違和感を払う為に。