異世界隠居 身勝手に呼ばれて身勝手に捨てられたので隠居したい 作:ジト民逆脚屋
町外れの住宅街に続く街道で、バルザスは見知った小柄な後ろ姿を見付けた。
「オルク」
「む、バルザス殿か。……生きておられたか」
「まあ、そう構えんなって」
しかし、無理もないだろうと、バルザスは肩を竦める。
バルザス本人も、あれを見ればそうするし、今も僅かな不安もあるのだ。
「俺は生きてる。お前の所は……」
「何とか、団としての体裁は保てておりますが、《アルヴディナ》は……」
「……本隊じゃなかったてのが、唯一の救いではあるだろうよ」
救いの無い話だが、《アルヴディナ》は全滅はしていない。犠牲となったのは、経験稼ぎに来た新人と中堅、そしてそれらの引率役であった本隊の数名。
「仮にも純血エルフ、こっからの動き次第で価値が決まる」
「終わるなら終わる、でいいと?」
「なら、手を貸すか?」
流石にそこまでの義理は無いと、オルクが苦笑する。求められれば手助けはするが、あまり手を出し過ぎても、余計な軋轢を生むだけだ。
それに、相手は行き過ぎた純血主義の集まり。関わるだけ、損をする。
軽く息を吐き、オルクが愛槍で肩を叩いた。
「……バルザス殿、貴殿は何用で?」
「ん? ああ、フェリドが連れてたガキ共が居たろ? あの一人が寝込んでるって聞いてな。知らねえ仲じゃねえし、暇潰しがてら見舞いでもな」
「……ふむ」
「お前は、何かあるのか?」
オルクの人柄は、信頼に値する。実力も、バルザスが知る中で五指に入る腕前だ。
仕官すれば、オルクという名の評価も含めて、今すぐにでも騎士団に入り、それ相応の立場に就けるだろう。
故にではないが、バルザスは彼の様子が気になった。
「どうしたい? あまりらしくねえじゃねえの」
「某、少し考えておった事がありましてな」
「なんだよ」
「先の戦、間違いなく仕組まれていたものかと」
「……どういうこった?」
先日のあの戦いが、実は仕組まれていたものだった。
さて、この言葉が何を意味するのか。
理解出来ないバルザスではないが、しかしその意図が分からない。
「仕組まれていたって、何か意味があるのかよ?」
「意味を問われると、少々弱いですが、集められた冒険者や傭兵に、あまりに腕利きが多かったという点ですな」
成る程と、バルザスも納得する。しかし、それでは仕組まれていたと判断する理由にはなるが、実際にそうだったとする理由にはならない。
「まだ根拠あるんだろ?」
「……早すぎるのです」
「あ? 何が早いんだよ」
「戦場漁りが、ですな」
「よくある話じゃねえか」
戦場での遺品漁りは、もはや当然となっている。貧しい農村では臨時収入として、無法者には己の装備と金を稼ぐ為、戦場で戦死者の装備品を漁る。
国も戦死者全てを管理する力は無いので、半ば黙認している状態だ。バルザスもオルクも、よく知っている事だ。
「バルザス殿、早すぎるのです」
「いやだから……。何時だ?」
「……某が知る限りで、戦中には」
嫌な予感が繋がり、膨らんだ。
戦中にはという事は、あの戦いの最中に死体漁りをしていた輩が居たという事だ。
そしてそれは、
「紛失じゃなく、戦場漁りって断定するからには、それなりの数があった」
「左様です。そして、まだ幾つか気味が悪い話があるのですよ」
重い息を吐き、オルクが腰の刀に目をやる。何かあったかとバルザスが疑問する。オルクの得物は槍と刀だ。
それに何の違和感も無いが、オルクは違う様だ。
「……無かったのです」
「無かったって何がだ?」
「装備と、……遺体がですよ」
「あ?」
オルクの言葉の意味が、理解出来なかった。
装備品が無くなっていただけなら、まだ理解は出来る。だが、遺体まで無くなっているなら話は別になる。
「一応聞くが、判別出来なくなっていたって訳じゃないな」
「他のパーティの者達なら、判別は難しかったでしょう。しかし、我らの輩も居なくなっておりました」
しかもと、オルクは腰の刀を帯から抜いて、バルザスに渡して続ける。
渡された刀を観察するが、中々の業物である以外に、然したる特徴も無く、強いて言うなら鍔と柄が新しい。それだけだった。
「我が無二の友の遺刀です」
「お前、そういう大事な事は早く言え。だが、これがどうかしたのか?」
「その刀、実は妖刀と、そういった括りの業物でありました」
少々、面を食らったが、オルクやバルザスクラスの実力者ともなれば、曰く付きの得物や道具を所持していても、なんらおかしくない。
だが、何かが引っ掛かった。今のオルクの口振りでは、今のこの刀は妖刀ではなくなっている。そう言いたげだ。
「今でも十二分に業物だろうがよ」
「ええ、しかし、その刀の本体は刀身より鍔と柄。所有者の魔力を糧に、刀身に無双の切れ味を与える。その様な代物でありました」
「だが今は、その鍔と柄が無いか」
「そして、戦が終わり残っていたのは、刀身と瀕死の友の救護をしていた輩の遺体。友は遺体すらありませなんだ。……某、友の弔いすら出来ず、輩にもいまだ見つからぬ者が居り、遺品の一部も同じ様に」
「……国には言ったか?」
黙って頷く。
オルク率いる《レーア騎士団》は、個の強さも知られているが、特に集団戦の強さが知られいて、彼は仲間を大切にする。
その喪失の痛みは如何程か。バルザスは刀を返し、溜め息を吐き出す。
「国もまだ、戦死者の確認に追れていまして、王城内や町にまでアレが出て、他のパーティやギルドにも、被害が出たのは効いた様ですな」
「他人事だな」
「そうでもせねば、今すぐにでも仇討ちに駆け出してしまいそうで……」
オルクの話を聞く限り、他にも行方不明者は増えるだろう。バルザスは傭兵業を主とした冒険者、余計な危機には関わらず、報酬に要らぬ欲を出さない。それが長生きのコツだ。
しかし、今回のこれに関しては、どうにも嫌な予感しかしない。
「俺も、調べてみるか」
「何をだ? バルザス・キルシュ」
低い声がした。背の大剣の柄を手に、バルザスが声の方向に身を翻す。
オルクも十字槍を構え、声の主を見据える。
「おいおい、待て待て。俺だ俺、クラウス・ヴェルディだ」
「……脅かすな」
「まったくですな」
「悪かったって」
笑みで謝る辺り、分かっていてやったのだろう。
しかし、振り向いて改めて、珍しいものを二人は見た。
「エミリオの坊主はどうしたよ?」
「エミリオなら、ギルドで事後処理に当たっている。俺は情報収集兼見舞いだな」
何やら上等そうな包みを抱える背には、長い布包みがあった。何時も一緒に居るエミリオが居ない事も珍しいが、現場に出る事も少なくなったクラウスが、自分の得物を背負っている姿は、二人が知る限りでも更に珍しい。
「護身だ。一応、《金鹿の蹄》の頭だからな。自衛能力は有ると、たまには見せんとな」
「しかし、《金鹿の蹄》の長たる貴方が、何故態々?」
「言ったろ? 情報収集と見舞いだ。後、謝罪。こっちが強いな」
二人が首を傾げる。これから向かう先に、ファーゼル王国最大の冒険者ギルドの長と、繋がりのありそうな人物が居るとすれば、フェリドくらいなものだが、彼が見舞う様な怪我を負ったとは聞いていない。
「青い鎧と獣人の美女二人は知っているか?」
「ああ、フェリド達の仲間だろ。獣人は確かにキレイどころだったが、青い鎧の方はそうだったか?」
「バルザス殿、些か失礼かと。しかし、あの女性ですか。確かに体調を崩されていた御様子でしたな」
「知っているならいい。それでまあ、俺はちょっと先日やらかしてな。情けない話、謝罪をする暇も取れず、今やっとだ」
疲れた顔だ。予測するに、《金鹿の蹄》も相当に被害が出た様だ。
「今は腕っこき達が戻ってきて、俺が居なくても回る。だから今の内にな」
しかし、
「お前ら、気になる話をしてたな。行きながら、ちょっと聞かせろ。代わりに俺の話も聞かせてやる」
まあ、嫌な話になる事は確実だがな。
疲れた顔と声で曇天の下、クラウスはそう言った。
次回は竜胆さんか、過去編的な昔語りかな?