異世界隠居 身勝手に呼ばれて身勝手に捨てられたので隠居したい   作:ジト民逆脚屋

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魔拳ベアトリーチェ

 まったく、手の掛かる弟子さね。

 長剣を己の弟子に、振り下ろそうとする優男を弾き飛ばしながら、ベアトリーチェは内心で愚痴った。

 

「し、師匠……?!」

「ああもう、情けない声を出すんじゃないさ。んで、バカ弟子。ありゃ、何処の誰さね」

 

 誰と聞かれても、サヤマはあれが誰なのか、答えを持っていない。だが、フェリドか誰かが名前を言っていた気がした。

 

「ベアトリーチェ、レミエーレのオーフィリアだ」

「はあ? あれがグレイ・オーフィリア? ホラを吹くなら他所で吹きな。あれは、グレイ・オーフィリアじゃないさね」

 

 首を回し、懐から細巻き煙草を取り出し、火を点ける。

 ああ、本当に面倒だ。二、三回吹かしてから、一息に吸い口だけを残して、紫煙を肺に貯めて吐き出す。

 口ではああ言ったが、弾き飛ばされた先で膝をつく、あれの見た目は本当に、レミエーレのグレイ・オーフィリアそのものだ。

 だが、あれは偽物だ。

 

「気色悪い中身さ。お前、何者さね?」

 

 答えは、言葉ではなく斬撃だった。

 膝をついた姿勢のまま、全身のバネを用い加速、《アルケミスト》でもあるベアトリーチェとの距離を潰す。

 先程の、バルザス達を斬り伏せた加速だ。

 通常なら、視認すら困難な速度だが、ベアトリーチェにとっては違う。

 

「……随分、とろくさい挨拶さね」

 

 術式の効果を増幅させる、触媒を内蔵した手甲で、その斬撃をいとも容易く片手で受け止める。

 そして、品定めをする様な視線をグレイに向け、軽い溜め息を吐く。

 

「いきなり、人を殴っておいて、溜め息まで吐くとは、失礼にも程がないか」

「あ? 人の弟子(お気に入り)、斬ろうとしといて、失礼も何もないさ」

 

 先に動いたのは、ベアトリーチェだった。

 受けた聖剣を弾くと同時に、サヤマを蹴り飛ばし、グレイの腕をへし折ろうと、蛇の様に己の腕を絡ませる。

 対するグレイも、折られる訳にはいかないと、ベアトリーチェの拘束から抜け出し、剣の間合いまで距離を取る。

 

「おや、徒手でくるかと思ってたが」

「君相手に徒手空拳程、無謀な試みはないな」

「だったら、御自慢の聖剣とやら、振り抜いてみせな」

 

 ゆるりと、決して速さを感じさせない動きで、グレイの間合いの内側に、ベアトリーチェは拳を構えていた。

 親指を上側に、縦に握り締めた拳を、グレイの腹に当てる。

 

「知ってるだろうが、痛いよ?」

 

 震脚で地を揺らし、その反力を筋肉で震わせ、骨で伝え、関節で捻りを加え、十全以上に運び、拳を銃口に撃ち込む。

《崩拳》、《モンク》の基本技の一つであり、全ての技に繋がる拳でもある。同じ徒手空拳の《セスタス》が、握り締めた拳を最上の鈍器として、相手を外から破壊するのに対し、《モンク》は己の身体全てを武器としつつ、発勁と呼ばれる独自の技術で、相手の身体の内外を破壊する。

 そして、ベアトリーチェの発勁による打撃は、他に比肩するもの無く、それが加護による防御であろうが、構わず貫く。

 そう、その加護が例え、世界が鍛造した聖剣の加護であっても。

 

「がっ……く……」

「言ったさね。痛いよって」

 

 轟音とも、爆音とも、判断し辛い音と衝撃が、グレイの加護を、腹を貫き、内臓を、骨肉を軋ませ、肺腑を押し潰し、呼吸を塞き止める。

 痛みなどと、そんな話ではなかった。

 

「おかしいね。うん、やはり妙さ」

「師匠、何がおかしいんです?」

 

 倒れた者達は全員、息があった様で、大急ぎで対処されている。出血の酷いフレッドとニコラス、槍ごと断たれたオルクは危険そうだが、意識は有る様で、まあ大丈夫だろう。

 一通り、被害と状況を認識し終えて、ベアトリーチェは気絶したバルザスを背負う、サヤマの問いに答えた。

 

「こいつがグレイ・オーフィリアなら、今の拳を受ける訳ないさ。アタシもねっ!」

 

 左手で後方へ弾く様にいなし、右の掌底で顎をかち上げる。たったそれだけのベアトリーチェにとっては、打撃未満の一撃で、グレイは簡単にふっ飛んだ。

 

「見え見えさね。えらく、真っ直ぐにくるじゃないか。しかしその癖、とろくさいさね」

「何、を……?」

「あんた、アタシじゃなくて、誰をみてんだい?」

 

 届かない間合いからの手刀、グレイはそれを隙とし、目的をはたそうと、再び瞬発するが、強かに地面に打ち付けられた。

 まるで、超重量の棍棒か何かを振り下ろされ、その上で強く組み伏せられているかの様だ。

 

「アタシでもサヤマでもない。さて、あんたの目的はなんだい? ああ、無理に答えなくていいさ。進んで答えたくなる様にしてやるからさ……!」

 

 言って、ベアトリーチェが左手を握ると、グレイの左足が、深く地面に沈み込む。

 

「ぬ……」

「偽物の癖に、一端に力は本物。だけども、妙さね」

「妙? 何がだよ」

「いいかい、フェリド。レミエーレの聖剣ってのは、インテリジェンス・アームとか呼ばれる、所謂知性ある武器ってやつさ」

「これまた、随分な話が出てきたな」

 

 体力の尽きたリラを抱えながら、フェリドはグレイの持つ聖剣へ目をやる。

 インテリジェンス・アーム、知性ある武器、お伽噺の中にしか存在しないと思っていたものが、事実目の前にある。

 この様な、鉄火場でなければ、発見に心躍らせていたかもしれない。それを残念と感じながら、フェリドはベアトリーチェの言葉を待つ。

 

「まあ、世界にあの一振りしかないからね。んで、他にお伽噺で語られる聖剣神剣の類いに外れず、その知性で使い手を選ぶのが、レミエーレの聖剣さね」

 

 しかし

 

「当代の使い手は、グレイ・オーフィリアの筈だったが、何だってあんたが、それの柄を握ってるさね?」

 

 ベアトリーチェは、グレイをよく知っている。何故なら、今よりも若い頃、まだグレイが家督を継いで、間もない頃に、レミエーレ王国とファーゼル王国は、ちょっとした領土争いで、小競り合いをしていた。

 取るに足らない、武力行使の必要を感じない争いだったが、その領土争いで何故か、ベアトリーチェとグレイが投入される事態となった。

 理由は今もよく分からない。だが、その戦場で、ベアトリーチェは生まれて初めて、己で破壊出来ない相手に出会った。

 一昼夜に及ぶ激闘、グレイが聖剣による〝三加〟を終え、ベアトリーチェも奥の手の錬成を完了させ、残るは目の前の相手を討つのみとなった時、急遽停戦が決まった。

 

「何故と、問われる意味が分からないね。〝俺〟は、グレイ・オーフィリアだ」

「はっ、本物のグレイ・オーフィリアなら、今頃そこから抜け出して、アタシと斬り結んでるだろうさ」

 

 ベアトリーチェのその言葉に、グレイは彼女を睨み付けるが、ベアトリーチェは気にする様子も無く、二本目の細巻き煙草に火を点けている。

 実際、本物のグレイが、ベアトリーチェ考案の物理術式〝圧式〟に、拘束されるかと問われたら、答えは否だろう。

 無論、ベアトリーチェが本気で拘束すれば、話は別だ。

 だが、今は違う。今は軽く左足を掴んで、地面に押し付けているだけで、本物なら意に介さず、ベアトリーチェを斬りに来る。

 

「さて、質問さ。あんたは何処の誰で、何が目的さね。……そして、本物のグレイ・オーフィリアをどうした?」

 

 背後、青い装甲の娘が反応したが、今はどうでもいい。

 それよりも、今はこいつだ。ガワはグレイ・オーフィリアで、中身は別物。なのに、オーフィリア家の血筋にしか扱えない聖剣を扱い、身体能力もグレイそのもの。

 その癖、己の身体を十全に扱えていないという事実。

 まるで、グレイ・オーフィリアという身体に、慣れていない何者かが入り込んでいる。あり得ないだろうが、ベアトリーチェの所感としては、そうとしか言いようがなかった。

 

「本物? 本物だと? 俺だよ。俺が本物のオーフィリアだ」

「話の通じない阿呆だったか。いいさね。立場悪くなるかもだが、両手両足へし折って、尋問でも拷問でもするさ」

 

 ベアトリーチェが、一歩前へ足を踏み出す。

 既に〝圧式〟の間合いだが、あの身体はグレイ・オーフィリアなのだ。念のための万全を考えて、直に手足を折っておきたい。視界の端で、クラウスが何か言いたそうに、こちらに足を向けているが、ベアトリーチェも理解している。

 もしかすると、他国の要人に危害を加えたとして、今の立場を失うかもしれないが、その時はファーゼルを出ればいいだけだ。

 立場よりも、これを野放しする事が問題だ。

 

 後、二歩でベアトリーチェの間合いとなる。さて、一息にへし折って、さっさと連れ帰るか。ベアトリーチェがそう考え、倒れ付したままのグレイに視線を向けると、僅かだが口の端が吊り上がっていた。

 一瞬、怪訝に思ったベアトリーチェが動きを止めるのと、乾きよく響く破裂音が届くのは同時だった。

 

「師匠……!」

 

 ベアトリーチェの首が、弾ける様に仰け反り、サヤマが叫んだ。

 ぐらつくベアトリーチェを見、顔色を青褪めさせた椎名の眼前で、口を笑みに吊り上げたグレイが、聖剣を振り上げていた。

 

「くそったれ……!」

 

 まだ動けるフェリドが、急ぎ駆ける。リラもどうにか体を動かし、浜名と麻野も同じく、グレイ目掛けて加速する。

 だが、それでも間に合わない。ほんの少し、僅かに一歩、一跨ぎ、その僅かな距離と、刹那の反応の遅れが、結果を分けた。

 

「椎名……!!」

 

 麻野の叫び声が辺りに響き、椎名は砲剣を盾に構える。だが、それも無意味だと本能が叫んでいる。

 どうにもならず、あの刃は椎名の命に届く。

 

「ダルマ、というのも、悪くないか」

 

 その様な言葉を口にしながら、己の手足に刃を振り下ろそうとする男を、椎名は睨み付け、渾身の力を全身に巡らせ、鍔競り合う。

 

「あの人の、グレイの顔と声で、もう喋るな……!」

「ふっ、何度も言っているだろう? 俺がグレイ……」

「違うっ!」

 

 椎名の否定に、不快感を隠さず、グレイは聖剣を振り抜いた。

 硬質な音と共に、砲剣の刀身が半ばから断たたれ、砲身の装甲にも、浅くない傷が走る。

 

「躰だけは良いから、持ち帰ろうと思ったが、もういい。……死ね」

「お前が死ね、偽物野郎」

 

 振り下ろされる聖剣と男を睨み付け、せめての抵抗とする。皆は間に合わないだろうが、それでも構わない。

 

「椎名ぁっ!?」

「間に合えよお……!」

 

 届かないと、もう離れてしまったと、そう思っていたものに、もう一度手が届いた。

 それだけで、椎名は満足だった。

 それだけで、これからの終わりを受け入れられる。

 腰の弾帯から、一つの砲弾を引き抜く。密かに形成していた魔力飽和弾。上手く聖剣に当てられれば、道連れは無理でも、片腕位なら持っていける筈。

 砲剣を盾に、椎名は振り下ろされる聖剣に、魔力を詰め込んだ砲弾を向ける。

 この刃が砲を断ち、弾頭に触れた時、自分は死ぬ。そうしたら、あの人にまた、会えるだろうか。

 

「おいおい、やらせると思ってんのか?」

 

 腕、だった。何時かの記憶に有るような、力強く優しい腕が、椎名を抱き寄せ、聖剣から引き離していた。

 

「漸く届いたぜ、俺の運命の女(ファム・ファタール)

 

 輪胴弾倉の長銃に、長い刀身を沿わせた銃剣が、その姿を断たれつつも、聖剣を弾き、軌道を書き換えていた。

 

「貴様ごときが、無意味な」

 

 だがそれも一瞬の事で、すぐさま聖剣の刃は返ってくる。ただ、一人から二人になった、それだけの事。

 椎名は、何故出てきたと無言で睨むが、クラウスは不敵な笑みを浮かべて、銃剣をグレイに投げ、椎名を抱き寄せたまま、後ろに飛ぶ。

 目眩ましにもならない。抵抗すら無く、クラウスの銃剣は二つに別れ、切っ先が浅くクラウスの背を裂く。

 

「くっ!」

「無意味な行動だな」

「無意味かどうかは、後ろ見れば分かるぜ」

 

 何をと、グレイは疑問し、一瞬で全身が粟立つ。

 そこには、歯で銃弾を噛み止めたベアトリーチェが、その銃弾を吐き捨て、右の拳を構えていた。

 

「……狙撃とは、随分嘗めた真似してくれるさね」

「ベアト……!」

 

 言葉は続かず、かき消える。小指から順に折り畳んだ指を、次は人差し指から順に握り、親指で締める。

 ベアトリーチェの拳に、貫けず、砕けないものは存在しない。ましてや、本気で殺すつもりで握り固めた拳の前に、半端な加護による護りなど、有って無いようなものだ。

 音を置き去りにするのは当然、必中は当たり前、必殺は必然。ベアトリーチェの正拳は、グレイの加護を撃ち抜き、その身を打ち砕き、地を抉り跳ね飛び、数度に渡り強かにグレイを地に打ち据える。

 

「まったく、唇が切れちまったさね」

 

 咄嗟に守りに入り、ダメージを軽減したとしても、その被害は甚大だった。

 骨は当然砕け、筋肉は裂け、内臓も幾つか破けている。これで死んでいないのは、彼の体がグレイ・オーフィリアという、世界が産み出した理不尽だからであり、聖剣の加護が生命維持に尽力しているからだ。

 

「クラウス、惚れてる女なら自分で護りな」

「面倒を掛けた。……決着か?」

「まあ、偽物だからね。あれ以上は無理さね」

 

 ベアトリーチェの言う通りに、グレイは聖剣を支えに、どうにか立ち上がろうとしては、泥濘に落ちるを繰り返している。

 

「引導ってのを、渡してやるとするか」

 

 狙撃も、あの一発から気配が無い。金鹿のソフィアが、モンドの肩を借りて、銃を構えているが、あれは関係無いだろう。

 恐らく、このグレイの味方ではあるが、必要以上に手出しをする気は無さそうだ。

 クラウスに抱かれた娘が、手を伸ばして何かを言おうとしているが、言葉にならない様で、音も無く口を動かすだけだ。

 関係者、それもかなり深い。手刀を作り、グレイの前に立つ。後は、この手刀を滑らせるだけで、この男の首が落ちる。

 

「それじゃ、さよならさ」

 

 軽く、しかし素早く、手刀を滑らせる。ある意味、因縁とも呼べる仲も、これで最後。

 しかし、ベアトリーチェは手刀をグレイの首ではなく、まるで違う自分の斜め前に振り抜いた。

 突然の変化に、場の全員が唖然とする。一体どうしたのか。その答えを理解したのは、三人だった。

 

「菱田、金谷に峰岸、何故……?」

 

 そこに居たのは、槍を持つ菱田と、腰の両脇に刀を佩いた金谷、そして弩をこちらに向ける峰岸の三人だった。

 

「知り合いかい?」

「ああ、俺達と同じ、召喚勇者だ」

 

 あまり興味無さげに、ベアトリーチェが三人を観察する。実力は問題無く、介入されても殺せる程度、だがそれよりも、警戒すべきものがある。

 

「あの連中、どこから現れた」

 

 クラウスの言葉通りに、林があるのは自分達の背後の方角であり、三人が立つ方角は、姿を隠せるものが無い草原だ。

 だというのに、この三人は当然現れた。

 

「気を付けて、そいつらも気味悪い中身になってる」

 

 仁村と同じだ。麻野は陣を起動し、浜名も分身で取り囲む。

 異様なまでに顔色の悪く、言葉一つ発しない三人だったが、菱田の体がぶるりと震えると、その口が動き出した。

 

「突然の来訪失礼する」

 

 それはまるで、予め録音しておいた音声を、再生しているかのような声色だった。

 

「これ以上の騒ぎは、こちらとしても望まない。剣を退いてもらえないだろうか」

「他国で他国の要人が好き勝手暴れて、お咎め無しで済ませろってのかい?」

「我々はレミエーレの使者。オーフィリア卿を迎えに参った」

「おい、あいつらこれか?」

 

 クラウスが近くに麻野に、自分の耳と頭を指差し、くるくると回す。

 その仕草に、麻野は頭を振った。

 

「違う。あれは中身がまるで違う」

「中身だと?」

「ガワはそうでも、中身。魔力パターンが滅茶苦茶だ」

「憑依とは違うよな」

 

 死霊に取り憑かれて、碌でもない行動を取ってしまった者達を、クラウスは知っているが、あれはそうではない。

 

「では、オーフィリア卿。帰りますよ」

「待てって言ってんのが、分かんないさね?」

 

 手甲に仕込んだ触媒に、魔力を通して興し、氷の槍を菱田の足元へ突き立てる。

 

「次は当てるさ」

「あら、ごめんなさい。彼らまだ喋れないの」

「仁村……!」

 

 また突然、何も無い草原から、次は仁村が現れる。

 仁村を知っているフェリドは、椎名の前に立ち、大盾を構え、警戒を強める。

 

「ベアトリーチェ、その女はヤバいぞ」

「殴れば死ぬんだろ? なら、アタシの敵じゃないさ」

「ふふふ、大した自信だ事。まあ、いいわ。ほら、グレイ様。無理はいけませんわ。まだ貴方の体は本調子ではないのですから」

「……済まない、アケミ」

「いいのです。貴方の逸る気持ちも、十分に理解出来ますから」

 

 グレイを助け起こし、ふと思い出した様に、仁村は椎名を呼んだ。

 

「山科、さる御方からの伝言よ。〝今は仮初めの平穏に浸れ〟ってさ。ふふふ、可哀想な女」

「仁村……」

「ふふふ、本当に可哀想な女。あの御方に目をつけられるなんて。調子に乗った罰よ」

「なら、その罰とやら、アタシが与えてやろう」

 

 言うや否や、ベアトリーチェは仁村の頭を蹴り抜いた。

 だが、手応えは無く、仁村の姿は砂漠の蜃気楼の様に歪んでいた。

 

「ふふふ、それでは皆様ごきげんよう。次に会うのは戦場かしら」

「待ちな!」

 

 左の正拳を打つが、その時には既に仁村達の姿は消え失せ、〝圧式〟が草原を押し潰すだけであった。

 

「ちっ、何がどうなってるさね。そこのあんたら、詳しく話してもらえるさね?」

 

 舌打ち、問い掛けるベアトリーチェに、椎名達は頷くしかなかった。

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