異世界隠居 身勝手に呼ばれて身勝手に捨てられたので隠居したい   作:ジト民逆脚屋

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浜名¦…………ふぅん………

麻野¦ほうら、お食べ

ソフィア¦こっちの方が美味しいですよ

椎名¦食べる

フェリド¦平和なもんだな

フレッド¦酒が呑める

ニコラス¦酒が呑めるぞー

モンド¦酒が呑めるんだー


土地神の顔面サッカーボールキック

「何から話すべきかなんだが……」

 

 新しく頼んだ蜂蜜酒を口に含み、浜名はこの2ヶ月近くの事を思い返す。

 

「………………フゥン……」

「おーい、ハマナ? ハマナ? え、おい、しっかりしろ……!」

 

 突然、感情の無くなった目で、遥か遠くを眺め始めた浜名だったが、とりあえず、ニコラスが気付けに頬を叩いたら、再起動した。

 

「……はっ、僕は一体?」

「よーし、落ち着け。いいな落ち着け、兎に角落ち着け。一体何があった?」

「ああ、そうだ。ファーゼル東部の大森林地帯を調べるって話になって、麻野が地脈にコンタクトを取ったら、弾かれて……」

「麻野が弾かれたの?」

 

 椎名の言葉に、浜名は頷いた。

 それに椎名は驚く。麻野の《陣術師》としての腕前は、その身でよく知っている。

 あの複雑だという魔属領の地脈でさえ、捩じ伏せて掌握し、二個師団全員分の魔力を引き出してみせたのだ。

 その麻野が弾かれたと言うのだから、ただ事では済まなかった筈だ。

 

「ああ、弾かれてな。その土地の土地神引き摺り出して、顔面思いっきり蹴り飛ばした……」

「またやったんだ……」

 

 嘗て、まだレミエーレ王国を少し信用はしていた頃、見聞を広める為と、竜胆を含めた四人で短い旅をした。

 一ヶ月にも満たない短い旅だったが、まだこの世界に慣れていなかった頃に、あの日々は濃厚だった。

 

「いや、待て。土地神ってあれだろ? 地脈の管理者とかっていう……」

「正確には、管理機構が長い時間の中で、魔力の影響受けて人格を持ったものらしい」

「なぁにそれぇ?」

 

 土地神とは、元は世界に流れる魔力を維持管理する為に、自然と発生したものであり、自然環境内に於けるサイクルそのものだった。

 だが、人間には想像もつかない永い時間の中で、自分達に接触してくる存在、人間を学習し、人格という個性を獲得するに至るものが現れた。

 それが、土地神というシステムだ。

 

「待て。土地神ってのは、地脈から出てこねえって聞いたぞ。いや、シーナ、またっつったか?」

「うん、またやったんだね」

 

 フレッドの言う事も頷ける。土地神はシステムであり、人格はあるが姿形は無い。強いて言うなら、その地流れる土地が、その土地神の姿となる。

 つまり、土地神の顔面を蹴り飛ばす事は不可能なのだ。

 しかし、麻野はそれをやった。しかも二回。

 

「……いいか、質問は受け付けん。麻野曰く、地脈に圧をかけて、飛び出てきたやつに形を与えて、思いっきり蹴り飛ばしただけらしい」

「意味が分からねえ」

 

 安心しろ、フェリド。僕もだ。

 浜名は一つ息を吐いて、チーズを一欠片、口に放り込む。強目の塩気と、チーズ独特の旨味と酸味が口に広がり、それを蜂蜜酒で流し込む。

 

「はぁー、チーズは良いよなー。僕、引退してチーズ作る。んで、金髪巨乳の嫁さん貰うんだ……」

「なら、味見は任せな」

「ああ、今叶わぬ願いになった」

「どういう意味だ? 浜名、んン?」

 

 肉、野菜、魚、それらを使った料理を、情け容赦無く載せたプレートを両手に、麻野が実にあれな笑顔で、浜名の顔を覗き込んでいた。

 

「おぉン? 浜名、誰に味見を任せたら、どう叶わないんだ?」

「ははは、お前に任せたら、味見も何もないからな」

 

 いい笑顔で浜名が言い、とても良い笑顔で麻野が頭突いた。鐘を突いた様な、重くよく響く打撃音が酒場中に届き、酒場が一瞬動きを止めた。

 だが、その音の主が麻野だと判ると、誰もがまた飲食に戻る。この半年で、二人のやり取りは酒場名物となっていた。

 

「へっ、生意気言うからそうなる。お、このスパゲッティうま」

 

 テーブルに突っ伏す浜名を横目に、麻野は両手のプレートを置き、早速フォークで赤いソースを被った麺を手繰り、口に運べば、強い旨味と細やかな酸味、そして爽やかな辛味が広がる。

 麺も悪い小麦特有の滑りも無く、茹で加減も丁度いい。

 

「麻野、美味しいの?」

「お、椎名も食べる?」

「食べる」

 

 椎名の即答で、麻野がフォークに巻いたスパゲッティを、椎名の口に放り込む。

 麻野が持つフォークを咥えたまま、数回口を動かして嚥下する。

 

「美味しい」

「シーナさん、こっちも美味しいですよ」

「ん」

 

 麻野のフォークを離せば、次はソフィアが白身魚のソテーを、スプーンに載せてソースごと、椎名の口に入れる。

 

「美味しい」

「それは良かった」

 

 では、次はと、麻野とソフィアの二人で、次々と椎名に料理を与えていく。

 その光景はまるで、親鳥が雛にする餌付けの様だったが、誰もそうとは口にしなかった。

 何故か、麻野の錫杖の穂先がこちらに向いていて、何故かソフィアの長銃がホルスターから、剥き出しになっているのは関係無いが、とりあえず誰もそうとは口にしなかった。

 

「おう、餌付け中済まねえが、麻野。東部の大森林地帯で何があったんだ?」

 

 だが、そこでいくのがニコラスという男だ。

 二人のフォークとスプーンが止まり、ゆっくりと麻野の首がニコラスの方向へと向く。

 

「……最近、地脈がやけに活性化してるでしょ」

「ああ、そうだな」

「それで、大森林の土地神が、急に力つけたから調子のってさ」

「おう、それで?」

「矮小な人間に貸す力など無い、とかぬかすから、人格消滅する寸前まで痛め付けた」

「何してんの? お前」

 

 浜名が再起動して、愕然とした顔を麻野に向ける。

 

「蹴り飛ばしたのは見てたけど、え? 痛め付けた? 人格が消滅する寸前まで?」

「ったりめえよ! あの土地神、顔面蹴り飛ばされても、まだイキッてたから、ベアトリーチェと一緒に地脈に圧掛けて、タコ殴りにした」

「麻野は優しいよね」

 

 酒場の全員が、一斉に椎名に振り向いた。

 魔力的な存在の、人格が消滅する寸前までタコ殴りにする女の、何処に優しさがあるのか。

 

「前の土地神は首もぎ取って、体踏みつけて、操られてた魔獣を平伏させてた」

「椎名、あれはいいのよ。あれは女の敵だったから」

 

 ソフィアがその話を聞きながら、四つ翼雉の丸焼きにナイフを入れ、詰められた麦と野菜を取り出し、取り皿に解した肉と一緒に盛り付け、雉の中から溢れ出してきた肉汁のソースを、容赦無く掛けていく。

 椎名もそれを見ていたので、同じ様に盛り付けて、また容赦無くソースを掛ける。

 

「おぉう」

「この方が旨いのです」

 

 ソースの海に浮かぶ肉と麦を頬張り、その濃厚さに満足を得て、細切れになった野菜の柔らかな甘味で、口に落ち着きが与えられる。

 しかし、今回は当たりだった。血抜きと内臓の処理は完璧で、麦と野菜も古くない新しい物だけ。ソースも変にゴテゴテとした、ただ濃いだけの味付けではなく、出汁から丁寧に煮出している。

 

「あ、それ私も頂戴」

「ほれ、アサノ」

「イエー! 、フェリドさんの盛りは容赦無くていいわー」

「そりゃどうも。と、後でそっちのソースも加えてみろ。野菜だけで作ったソースだが、使ってる野菜の種類と量が並みじゃねえから、肉に負けねえ」

 

 ほれ、お前らもと、酒飲みに入っていた男衆にも、同じ様に雉肉と麦を取り分け、皿を渡していく。

 サヤマとハルファの食べ盛りコンビの食欲を、一人で支えてきたフェリドには、飲んだくれの肴を構えるのは容易だ。

 適当に切って盛って、目の前に出せば、連中は勝手に呑んで食う。

 

「んで、アサノよ。さっきの女の敵云々の話はどうなったよ?」

「ん? ああ、あの人妻寝取り野郎ね。昔、椎名達と旅をしてた時、何か変な祭事してる開拓村があってさ」

 

 村の発展具合と、開拓状況から金の匂いを嗅ぎ付けた竜胆が、村人と行商人の交渉に、首を突っ込んだのが、事の始まりだった。

 

「嫁入りって言えばいいか、あれ?」

「あー、そんな感じね。妙な行列が、神輿に女の人乗せて、村を練り歩いててさ。話聞いたら、嫁入りだって言うから、めでたいなって思ってたら、男の人が行列に走って行って」

「変な力で吹っ飛ばされたんだ。浜名が急いで、受け止めて、怪我は無かったけど、村人の人達が皆、もう無理だ、諦めろって、男の人に言ってて」

 

 この流れに、また何やら金の匂いを嗅ぎ付けた竜胆が、お得意の口八丁で村長を騙くらかし、話を聞き出した。

 

「昔話でよくある奴よ。災いを起こされたくなければ、生け贄を寄越せってやつ。それを、土地神がやってたの」

「なんだそりゃ?」

 

 フレッドが口を横にして言う。他の面子も、皆似た様な顔だ。

 しかしまあ、フレッド達の言う事も解る。

 土地神というのは、あくまで地脈の管理システムが得た個性であり、昔話の所謂〝神〟ではないのだ。

 生け贄を得る必要なぞ、微塵も無い。

 

「しかも、生け贄に選ぶのは決まって、婚姻が決まった女性か、夫婦仲の良い人妻」

「歪んでんな」

「それで、どうなりました?」

 

 簡単な話だと、浜名が続けた。

 まずは自分達の身分を明かし、竜胆の口八丁で村人を協力させ、村人の妻ではなく、麻野と椎名を、その土地神の元へ送る。

 幸い、女性の背格好が椎名と似ていて、変に怪しまれる事も無く、すんなりと土地神を奉ってある社の場所まで着けた。

 

「まあ、そこからは麻野の独壇場だな」

 

 地脈の魔力が社に集中したのを確認して、錫杖を地面に突き刺し、爆発的な魔力を叩き込み、地脈の主権を一時的に土地神から奪い取る。

 地脈の主権を奪い取られた事で、狼狽えた土地神を捕捉し、圧を掛けて引き摺り出した。

 

「んで、会話は成り立ったから、何がどうしてか聞いたら、自分の強化の為に、自分好みの女を地脈に解かしたって言った瞬間……」

「麻野が暴れる土地神の顔面を、思いっきり蹴り飛ばした」

 

 そこからは、麻野無双の始まりだった。

 顔面を蹴り飛ばされた怒りで、土地神が森に住む獣を魔獣化させたが、土地神が治める地脈に圧ではなく、威圧を掛け、踏みつけた土地神の首を力ずくでもぎ取って、力関係を刻み付けた。

 

「僕達の世界に、悪鬼を踏みつけて、辺りを威嚇する様な神様の像があるんだけど、あの時の麻野はそれだった……」

 

 錫杖の石突きが、浜名のこめかみを突いた。

 ふ、と少し危険な息を吐いて、テーブルに突っ伏した。若干、痙攣しているが息はしている。全員が椎名を見て、彼女が頷いたのを見て、浜名は大丈夫だと判断した。

 

「それから、土地神が地脈に解かした人達を数人だけど、なんとか救出してから、腐れ土地神の人格を破壊して、私達で再形成して終わり」

 

 再形成した人格には、自分達を参考に当て、必要以上に人間に関わらない方針にしておいた。

 ファーゼル組が、凄く味わい深い顔をしているが、土地神自体はシステムでしかなく、その人格はその付属品でしかない。つまり、土地神は自分の人格を好きに変える事が出来る。なら、外部からそれを行う事も可能だと、竜胆の仮説を試したら、存外上手くいった。

 その時に、竜胆が何か仕込んでいた様だが、竜胆の力の弱さは折紙付きだ。

 しかし、あれは仮にも呪いを撒き散らす《カースメーカー》。

 何も無ければいい。そう思いながら、ソフィアにまた餌付けされていた椎名に声を掛ける。

 

「椎名、ベアトリーチェが明日、王城に来てくれって」

「え、やだ」

「大丈夫、私や浜名、リラも行くし、話をするのはベアトリーチェと、あの宰相さんよ」

「行く」

 

 あの事件の後、ベアトリーチェとクラウスを交えて、ファーゼル王国宰相であるネフェリタと、事の顛末について話した。

 その結論としては、保留。というより、内容があまりに荒唐無稽過ぎて、扱い難く、グレイ・オーフィリアという要人が関係している以上、レミエーレ王国側も動かないだろうという判断だった。

 その時に、どういう話の流れだったのか。確か、クラウスと椎名の繋がりだったか。その流れから、ネフェリタが犬好きだと分かり、椎名は猫好きだが、犬も好きなので話が合った。それから、仲の良くなった二人は、度々話をする仲になっていた。

 

「仕事も一段落つきそうだし、ちょっと聞きたい事があるんだってさ」

 

 だから、茶飲み話でもしよう。

 それがネフェリタからの伝言だった。

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