異世界隠居 身勝手に呼ばれて身勝手に捨てられたので隠居したい   作:ジト民逆脚屋

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椎名¦暫くはポヤポヤ状態

リラ¦ニッコリ薄目の呪い

ベアトリーチェ¦スキルに狙撃対抗Sが追加された

ソフィア¦疲れた

麻野¦白菜……!

浜名¦キャベツ……!

ネフェリタ¦韮です

フェリド¦え? 俺、全員分作んの?


餃子

 一国の最重要人物の私室としては簡素な、しかし一個人の持つ私室としては、十分に豪勢な一室の真ん中に、椎名達は居た。

 

「ご主人様、お茶のおかわりは如何致しましょう」

「ちょうだい」

「畏まりました」

 

 リラがティーポットを、カップへ傾けると、透き通った琥珀色の液体が、並々と注がれる。

 

「お待たせ致しました」

「ありがとう」

 

 優雅を気取って、カップを傾けてみるも、椎名は茶の良し悪しというものは、よく判らない。

 だが、この茶の茶葉が良い品だというのは解る。

 この茶器も茶葉も、何処からどうやって持ち込んだのかは分からないが、全てリラが用意したものだ。

 彼女が椎名に、中途半端な品を用意する筈が無い。

 

「遅いなあ……」

「どうやら、会議が長引いている様です」

「そっか」

 

 ネフェリタに呼ばれて、王城の一画にある彼女の私室に来てみれば、部屋の主は不在で、代わりに何故か《金鹿の蹄》の番頭でもあるエミリオが、申し訳無さそうに扉の前に立っていた。

 話を聞くと、クラウスは急に入ってきた依頼で遅れ、ネフェリタも急遽開かれる事になった会議で遅れ、麻野と浜名も活性化した地脈の、調伏に駆り出されてしまった。

 ベアトリーチェに至っては、何やら狙撃に対抗する技を思い付いたと、決死の抵抗のソフィアの首根っこを掴んで、何処かへ消えてしまった。

 エミリオも、クラウスの件を伝えると、早々に走り去ってしまった。

 

「うん、暇だ」

「では、この様な余興は如何でしょう」

 

 そう言うと、リラは懐から紙の束、カードを取り出し、椎名の目の前のテーブルに広げる。

 

「暇潰しに、卓上遊戯と参りましょう」

 

 何代か前の召喚勇者が、持ち込んだトランプ。シンプルかつ奥深いそのゲームは、そう時間を掛けず、この大陸に浸透した。今や貴族御用達となり、平民からも愛されるカードを束ね、慣れた手つきでシャッフルをする。

 

「リラ、カード出来るの?」

「お任せを。ポーカーから手品まで、一通りは嗜んでおります」

 

 では、どのゲームをお望みでしょうか。繰り終わった山札をテーブルに置いて、獣瞳を笑みにするリラに、椎名は山札から手札を引き出した。

 

 

 

 

 

 〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

 まったくと、ネフェリタは形の良い顔を歪ませて、誰にも聞こえない溜め息を吐き出す。

 隣にベアトリーチェが居たら、軽く小突かれそうだったが、今は居ない。

 頭が痛い。先の肉玉事件に続き、偽物のグレイ・オーフィリアの国内侵入、そして今、大陸中にある不穏な動き。

 それらに議会は紛糾し、中にはネフェリタの宰相としての、能力不足を声高に叫び、ネフェリタを宰相の座から引き摺り下ろそうと、画策している一派も居た。

 

「はぁ……」

 

 執務室で、今はネフェリタ以外に誰も居ないとしても、普段の癖で溜め息や弱音を小さく、隠す様に吐いてしまう。

 レミエーレの魔女、あのリンドウは聞く話によると、処構わず弱音や、世迷い言を吐き散らしていると言うが、あれは自分から隙を作って、政敵を炙り出しているのだろう。

 正直、あの性格は羨ましい。あれは、正しく魔女だ。

 あの女は、誰も信じていない。

 あの女は、誰にも心を開いていない。

 魔女リンドウ、魔王リンドウ、悪女リンドウ、その通り名の表す通りに、あの女はその姿を演じている。

 

 もしかしたら、あの女の本性を、誰も知らないのかもしれない。

 だとしたら、あの女は……

 

「……やめましょう」

 

 他国の事情に、見返りも利益も無しに関わるものではない。

 今はそれよりも大事な事がある。

 

「折角の休みだったのですから、余計な事は考えず、シーナさんと推しについて語りましょう」

 

 うん、それがいい。それしかない。何か聞きたい事があった気がするが、元々、そっちがついでの用事だったのだ。政治や難しい話なぞ、もう知らん。

 ネフェリタは、執務室に置いてあった革の鞄の中身を確認する。

 そして、中身を確認し終えると、満足げに頷き、肩紐を引っ掛け、執務室を後にする。途中、何度か厄介な連中の姿が見えたが、こちらは齢○百年の純血ダーク・エルフだ。

 五十か六十年生きた程度の子供の相手などしている暇は無いので、放浪者時代に培った隠密技術を用いて、さっさと私室へ向かう。

 今は宰相ネフェリタではなく、ただの王城で彷徨くネフェリタだ。

 若干、アウトな事を内心で呟きつつ、私室へと続く廊下へと辿り着いた。ここまで来れば、現れるのは自分の腹心かベアトリーチェ、もしくは招待客だけだ。

 意気揚々と、その廊下に足を向けた時、廊下の反対側、つまりネフェリタの進行方向から声が聞こえた。

 

「だから、浜名。餃子にはキャベツより白菜だって」

「いや、白菜よりキャベツだ。あと、肉よりキャベツ多めで、大蒜は無しだ」

「大蒜無しの野菜多めは同意よ。だけど、白菜」

「いや、キャベツだ」

 

 さて、これが今やこの国の冒険者の中でも、十指に入る二人の会話なのだろうか。

 しかし、二人も招待客。無視する訳にもいかない。

 

「そこで韮が参戦します」

「まさかの第三勢力?!」

 

 すっ、と然り気無く、麻野と浜名の餃子談義に入り込む。白菜、キャベツ、韮、大蒜と、全て召喚勇者によって、この世界にもたらされた野菜だ。

 中でも、サツマイモや馬鈴薯は、この大陸に住まう人々を、飢えから救った食べ物だ。

 ネフェリタ個人的に、韮はその中でも滋養強壮に優れ、味も食感も良いので非常に好みで、放浪者時代には何度か救われもした。

 

「まさか韮が来るとは……」

「おや、どうしました? 先程までの威勢が感じられませんねぇ」

「くそ、白菜。協力しろ」

「分かったわよ、キャベツ」

「ふふふ、栄養乏しき者達よ。我に挑むか」

「いや、何やってんだお前ら?」

 

 かくして、餃子の中身大戦の幕が上がろうとした時、その無用な戦を止める声があった。

 ファーゼルの名ばかり貴族の、《城塞騎士》フェリド・ラフィーロだ。

 

「ラフィーロ、貴方は餃子には白菜、キャベツ? 勿論、韮ですよね」

「いや、フェリドさんは白菜だね」

「ははは、キャベツ一択だろう」

 

 面倒だ。正直にフェリドは、そう思った。

 フェリドとしては、餃子の野菜は気にせず、使える物は全部使う。

 つまり、

 

「全部だ。ほら、中で御姉さん達待たせてんだろ。ネフェリタ、お前も宰相なんだから、しゃんとしろ」

「ぬう、正論を……!」

「正論も何もねえよ。……餃子が食いてえなら、後で作ってやるから」

 

 溜め息混じりに、フェリドがそう言えば、麻野のガッツポーズが天を突いた。

 とりあえず、本日の夕食が決定したところで、ネフェリタの私室の扉が開いた。

 

「お前ら、何やってんのさ?」

 

 細巻きの葉巻を咥えたベアトリーチェが、呆れ顔で扉に凭れながら、そんな言葉と紫煙を吐いた。

 

「ベアトリーチェ、今日は戻らないのでは?」

「ソフィアが弾切れさね。……あとは、実戦で試すだけさ」

 

 凶悪な笑みを浮かべて、ベアトリーチェが親指で、部屋の中を示すと、死人の様に動かなくなったソフィアが、隅にあるクッションベッドを占拠して、その側では手札を睨む椎名の前で、リラが実に作ったポーカーフェイスを浮かべていた。

 

「あー、ソフィア生きてます?」

「ああ、生きてるさ。殺す意味も理由も無いからね」

 

 意味と理由があったら殺すのか。という疑問は他所に置いて、ネフェリタはさっさと私室に入る。

 麻野と浜名、フェリドがそれに続いて、最後のフェリドが扉を閉めた。

 

「では、どちらに致しますか?」

「右……、左、いや右」

「畏まりました」

 

 椎名がリラの二枚の手札の内、右のカードを引き抜く。

 カードの背を上にしたまま、自分の手札へと手繰り寄せ、最後の一枚の手札と絵柄を見比べた。

 

「上がり!」

「流石です。私の負けで御座います」

 

 ニッコリと、手本の如く満面の笑みのリラを見て、麻野はベアトリーチェに目線を向ける。

 

 ──これ……──

 ──ご明察──

 

 麻野の予想通りに、リラのイカサマによる接戦だったようだ。

 ただ単純な勝った負けたより、綱渡りの様な余裕の無い接戦の方が、椎名により深い勝利の余韻を与える事が出来る。

 リラの計画は見事に当たり、椎名は逆転勝利に沸いている。

 

「シーナさん、お待たせして申し訳ありません」

「あ、ネフェリタ」

「はい、ネフェリタです」

 

 微笑み、鞄をテーブルに置くと、既にトランプを片付けたリラが、人数分の茶を用意していた。

 

「して、本日のご用件というのは、どの様なものなのでしょう?」

 

 言外に、テメー呼び出して待たせたんだから、さっさと話せよと言われている。

 この半年近くで、この程度のやり取りは出来る様な仲になった。

 ネフェリタは鞄を横にずらして、中から羊皮紙を一巻き取り出し、テーブルに広げる。

 

「本題はクラウス込みで進めたかったのですが、中々上手くいきませんね」

 

 広げられた羊皮紙は、レミエーレ、ファーゼルを含む大陸の地図。そこには幾つもの印と、線が引かれていた。

 

「単刀直入に言いましょう。昨今の地脈の活性化、これはレミエーレ王国によるものです」

 

 艶のある黒髪を掻き上げ、溜め息混じりの言葉だった。

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