異世界隠居 身勝手に呼ばれて身勝手に捨てられたので隠居したい   作:ジト民逆脚屋

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久々!


竜の救援

 シーナは町の高台にある展望台で、ぼんやりと空を眺めていた。

 雲一つ無い晴天、気温も高くなく湿気も無い。

 春から初夏へ移り変わる間の様な日差しに、ただぼんやりと目を細め、空と町の景色を眺めていた。

 

「さて、どうしようかな」

「ご主人様のお心のままに」

「だとすると、今すぐ逃げたいね」

「であれば、私の身命に懸けても」

 

 リラはそう言ってくれる。

 シーナが望めば、リラは言葉通りに命懸けでシーナを逃がす。

 だが、逃げたとしても必ず報いはやってくる。

 

「じゃあ、リラは最期まで一緒に居て」

「御意に」

 

 これからどうなるかは分からない。

 正直な話、ファン・ロンの企みが成功するかどうかは、シーナの勘だと失敗する。

 恐らく、ファン・ロンも覚悟の上だろう。

 それに巻き込まれた身としては、迷惑極まりない話だが。

 

「ご主人様、クラウス様です」

「うん」

「よう、シーナ。下の屋台で良い店があった。どうだ?」

「うん、行こう」

 

 ベンチに置いてあった砲剣を背負い直し立とうとすると、クラウスの右手が差し出されていた。

 

「立てるよ」

「格好つけたいのさ、俺のファムファタール」

 

 色気のある太い笑みで、シーナの手を取りエスコートする。

 

「クラウス様。お言葉ですが、それは私の役目です」

「そう言うな。お前任せでは格好がつかんだろ?」

 

 笑いながら言うクラウスに、リラは嘆息する。

 リラにとって、シーナの世話は全て自分の役目だ。なのに、クラウスは度々こうして割り込んでくる。

 しかし、シーナも満更ではない様子なので、リラも言葉だけだ。

 

「良い店って?」

「ああ、蒸し饅頭だ。種類があって、味も中々だ」

 

 恐らく、中華まんの事だろう。

 元の世界では、麻野達とよくコンビニで買い食いしていた。

 少し懐かしい気分に浸りながら、シーナはクラウスについて歩いていると、向こうから風変わりな二人組が此方に向けて歩いているのが見えた。

 

「あ! 居たよ」

「だから言ったろ。ちゃんと人の話を聞け」

「……何者?」

 

 右腕が巨大な義腕の防毒面と、長身の蜥蜴人の女。厚着で分からないが、防毒面も声から察するに女だろう。

 防毒面は蜥蜴人を義腕で小突くと、シーナの問いに答えた。

 

「ヤマシナ・シーナだな。オレ達はリンドーの使いだ」

 

 お前らの手助けをしろ。

 そういう依頼で来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、姉御……?」

「あ? んだよ? アーネスト」

「姉御って、《陣術師》でしたよね……?」

 

 謎の少年の安全を確保しつつ、構えたバックラー越しにアーネストが麻野に問う。

 麻野は後方支援のエキスパートである《陣術師》であって、前線で敵を殴り倒す《モンク》ではない筈だ。

 なのに、麻野は迫り来る刺客達を正面から殴り倒した。

 

 

 ──この人、ホントなんなんスかね

 

 

 後方支援職なのに前に出てくるし、出てきたら出てきたで妙に強い。以前の仕事でも、小型の醜亜巨人を錫杖でこれでもかと打ち据えていた。

 しかし、今思うと自分の周りの女性陣はやけに強い。

 キスカとユズリハも、後方支援職で医療職なのに槌と槍でガツガツやるし、ヴァニーも前には出ないが魔術でガツンとやる。

 極めつけにソフィアはバカンだし、シーナはドカンだ。

 なんでこう、我が陣営の女性陣はパワー系なのか。

 アーネストが世の不条理を嘆いていると、背後の少年が動いた。

 

「あの!」

「あ、気にしないでいいのよ。子供追い回す連中なんて、大抵ろくでもないんだから」

「でも、なんで追われてたんだ? 身形から見るに、良いとこの坊っちゃんっぽいけど」

「えっと、その……」

 

 何かを言おうとして、しかし言葉が纏まらないのか。少年は言い淀んでしまう。

 さて、どうしたものか。普通なら衛兵にでも引き渡すのが筋だが、この少年の身なりから貴族、最低でも伯爵や侯爵に位置する身分なのは間違いない。

 この国の身分制度はいまいち解らないが、平民の自分が関わっても碌な事にならないのは目に見えて明らかだ。

 平民として、貴族には関わらない方が得策だが、ここで少年を見捨てるのは更に嫌な予感がする。

 

「とりあえず、ここを離れるわよ。こいつらの仲間が増えないとは思えない」

「そりゃそうだけど、姉御。どうすんだよ?」

「ファン・ロンの奴なら、顔利くでしょ」

「ねえ様をご存知なのですか……?!」

 

 それまで言葉を言い淀んでいた少年が、急に顔を上げて麻野に詰め寄る。その様子は、詰問するというより藁にすがるかの様だ。

 

「え? ファン・ロンの関係者? ……イモ引いちゃった」

「イモでもなんでも構いません。ねえ様は今何処に居られるのですか?!」

「ちょっと落ち着いてください。俺達は別に貴方の姉を拐かしたとかじゃなくて、ちょっと雇われたというか巻き込まれただけです」

「……巻き込まれた? ねえ様はやはり何か企んでおられるのか……」

 

 アーネストの言葉に少年は項垂れる。

 さて、面倒な事になった。この少年の言が正しければ、ファン・ロンの企みはすでにばれている。

 つまり、正面から国と戦う事になる。

 こちらは腕利き揃いだが、国相手となると絶対に勝てない。

 いや、ベアトリーチェならどうにかなるだろうが、問題はこの国最強戦力のラウ・ロン。

 そいつがベアトリーチェ以上の戦力である可能性もある。

 

 

 ──嫌な予感がどんどん当たる。マジでヤバい……

 

 

 アーネストはどうするべきか、必死に考えを巡らせる。

 一番は今からでもファーゼルに逃げ帰る手だが、ファン・ロンの話が事実なら、大陸が戦禍に呑まれる。

 逃げ帰らず戦っても、勝ち目は無い。間違いなく全員死ぬ。

 どちらに転んでも、最悪の結末しかない。

 最悪の未来をアーネストが予想している横で、麻野は脇に置いてあった紙袋から揚げ芋を食っていた。

 

「姉御?」

 

 どっかりと木箱に腰を下ろし、座った目で残りの揚げ芋を口に放り込む。

 冷めて油が回り、塩気を感じられないが、その分芋と油の甘さが来る。

 現状、麻野はこの揚げ芋と同じく冷めている。

 ファン・ロンの企みには協力はするつもりだが、それ以上に関わる気はない。

 だが、この少年はファン・ロンの弟だ。

 ここで見放すのは悪手だが、このまま関わるのも悪手だ。

 麻野に政治は解らない。竜胆なら、何か良からぬ事を企むだろうが、麻野はその手の企みは不得手だ。

 

「アーネスト」

「は、はい」

「少年」

「はい」

「取り敢えず、ファン・ロンに合流する。……話はそれからよ」

 

 麻野は立ち上がる。

 面倒極まりない話だが、一度関わってしまったからには逃げられない。

 錫杖を持ち、どうファン・ロンに切り出すかを思案していると、アーネストが倒れた。

 ふっと、糸が切れる様に倒れていくアーネストに、麻野は反射的に陣を展開する。

 だが

 

「……くそったれ」

 

 意識が切れる直前、麻野が見たのはこちらへ手を伸ばす少年と、矛をこちらへ振り下ろさんとする大男だった。

 

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