異世界隠居 身勝手に呼ばれて身勝手に捨てられたので隠居したい   作:ジト民逆脚屋

75 / 76
かーなーりお久しぶりです。
メンタルが回復傾向に向かいましたので、こちらの方もじんわり更新していこうと思います。


竜の困難

 義腕はクロート、蜥蜴人はヤシリツァと名乗った。

 二人はあの竜胆から依頼を受けて、シーナ達の手助けをしろという事になっているらしい。

 

「……無理に信用しろとは言わん。だが、事実だ」

「竜胆が依頼したなら、幾ら貰った?」

 

 シーナが警戒を強め、クロートに問う。

 竜胆が雇ったという話が本当なら、それを見極める手段がある。

 それは報酬をどれだけ受け取ったかだ。

 竜胆は金を使う時は際限無く使う。特に、こういった依頼をする時は法外な金額を提示する。

 その金額が竜胆か否かの基準でもあり、竜胆の相手に対する信用の度合いでもある。

 

「リンドーから直にじゃないが、これくらいだな」

 

 クロートは懐から羊皮紙の切れ端を取り出し、シーナに見せる。それにはギルドの長であるクラウスすら、目を丸くする額が記載されており、羊皮紙の端にはなにやら奇妙な絵が描かれていた。

 

「……本当みたいだ」

「マジか?」

「うん、これは竜胆の描いた絵だよ」

「絵、で御座いますか。……犬?」

「いや、これは鳥か?」

「多分、猫」

「……竜胆は絵が下手くそなんだ」

 

 学生時代から、竜胆は運動と美術以外は平均以上だった。

 運動は言わずもがな、しかし美術は特に酷かった。

 似顔絵を描けば呪われそう、風景画は異世界になり、デッサンは狂いに狂っていた。

 そして、これこそが竜胆が雇い主である証拠だ。

 

「取り敢えず信用する」

「助かる。リンドーの使い、カジハラは報酬の持ち逃げをしてもいいとは言っていたが、流石にこの額は後が怖い」

「うん、マジでこんな報酬の持ち逃げは怖いね」

 

 クロートは防毒面の奥で安堵すると、ヤシリツァもそれに同調する。

 

「カジハラ? 梶原が来たの?」

「ああ、筋肉達磨がな」

「凄い筋肉だったよね」

 

 梶原という名で、筋肉達磨という評価なら間違いなく梶原だ。

 だが、シーナは一つ気掛かりな事があった。

 

「……竜胆じゃなかったの?」

「リンドーは今動けないから、自分が代理だって言ってたよ」

「レミエーレの魔女が動けない? ……詳しい情報はあるか?」

「無い。オレ達はこの大陸の人間じゃないからな」

「西か?」

「いや、北だ」

「北大陸から来たのか?!」

 

 クラウスとリラは驚愕した。

 この中央大陸と交流があるのは、西と南の大陸のみであり東は航路が無く、北は航路以前に船を出せない。それは北大陸と繋がる海峡は魔属領のみが接している事と、その海峡が〝絶死海峡〟と呼ばれる程に凶悪な潮流である事が挙げられる。

 

「色々とあってな。渡る手段がある」

「噂に聞く〝絶死海峡〟を渡る手段ですか」

「凄かったよ。町よりデカイ魔獣が出るし」

 

 シーナも興味のある話題だったが、しかしそれすら上滑りしていた。

 竜胆が動けない。

 竜胆は必ず何か手を残す。どれだけ追い詰められても、何かしらの逆転の一手を隠している。

 だから好き勝手に動ける。

 その竜胆が動かないのではなく、動けないと梶原は言った。

 

「ご主人様?」

「……大丈夫、なんでもない」

 

 あの竜胆が動けないなら、今のレミエーレ王国で何が起きているのか。

 恐らく、シーナが想像出来ない程に入り乱れた政変が起きている。

 

 

 ──よう、また一人か? そんな一人ぼっちには竜胆さんの友達の称号をやろう──

 

 

 嘗て、孤児院での出会いの言葉が脳内に零れた。

 傲岸不遜、厚顔無恥、それらを絵に描いた様な態度で孤児院の職員から嫌われ、しかしそれをまったく意に介さず平然として、自分の赴くままに生きていた竜胆は、シーナにとっては眩しすぎた。

 その竜胆が梶原を使ってまで、素性の知れない二人を使う。

 使い捨ての鉄砲玉という見方も出来るが、竜胆はその手のやり方を嫌う。

 

「おい」

「なに?」

「……あまり考え過ぎるな。あの手の輩はそう簡単には死なん」

「竜胆が簡単に死ぬ訳ない」

「なら考えるな。どうせ、ひょっこり顔を出すだろうよ」

 

 防毒面の奥、表情の窺い知れない顔が呆れを含んだ声でそんな事を言った。

 

「よし、魔女はどうにでもなるとして、あんたら」

「ん、なに?」

「仕事だが、どんな風に聞いているんだ?」

「んー、あんたらの手伝いとしか聞いてないよ」

「ヤシリツァ、お前な……。はぁ、オレ達はあんたらの援護、そして最悪の場合はそこの青い鎧(シーナ)と仲間を逃がせだ」

「逃がす? まさか大陸から出ろってのか?」

「オレらにその話をするって事はそういう事だろうよ」

 

 クラウスはまだ何か考えているシーナの代わりに、これからの思案を巡らせる。

 大陸から離れる事自体は、そう難しい事ではない。

 交易船に乗ればすぐに出られる。だが今回問題となるのは、あの竜胆がシーナ達を大陸から逃がす様に指示を出しているという事だ。

 

 

 ──何か起きる。いや、もう起きている──

 

 

 事態は常に最悪を想定すべきだ。

 確実にレミエーレでは竜胆すら抑えきれない動きがあり、その矛先はシーナ達に向いている。

 そう考えた場合、クラウスだけではシーナを守りきれるか。

 思案を重ねるが、自身が率いるギルド金鹿の蹄の全戦力でも、想定する相手からはシーナを守りきるのは不可能だ。

 

「……確実に逃げられる保証はあるのか?」

「クラウス……」

「さてな。正直な話、あんたらの相手が何なのか。オレは知らんから、答えようがない」

「でもさ、カジハラはシーナが逃げたら勝ちみたいな事言ってなかった?」

「逃げたら勝ちじゃねえよ。逃がせたら勝ちだ」

「逃がせたら勝ち? どういう事だ?」

 

 現在のクラウスの最大目標はシーナと仲間達の安全確保と、この国から脱出。もしくは、ファン・ロンの企みの成功による安全確保だ。

 ただ脱出するだけなら可能だが、クラウスの考えが正しければ、その場合は国家間の戦争に繋がる。

 そうなれば、自分達は戦力として前線に出る事になり、シーナを守る事は難しくなる。

 かと言って、ファン・ロンの企みに関わっても、結局は戦いとなる。

 そして、クロート達とこの中央大陸から逃げたとして、シーナの安全を確保出来るか。これはクラウスの勘が告げている。無理だと。

 竜胆の考えでは、中央大陸に居る事が危険だとしているが、何か違和感というか引っ掛かるものがある。

 言葉に出来ない違和感、まるでそうある様に仕向けられている様な気味の悪さ。

 だが、方針を変えられる程の違和感ではない。

 言ってしまえば、現在のクラウス達が取れる手は一択のみ。

 どうやって、何処に逃げるか。

 これしかない。

 相手の情報も戦況も何もかもが足りない現在、全ては魔女の手の上。

 となれば、取れる手は可能か不可能かは置いて二つになる。

 思惑通りに踊るか、思惑を超えて全て御破算にするかだ。

 

「……なあ、依頼はシーナを逃がすか援護だと言ったな」

「ああ、そうだ。だが、オレ達を戦力としては数えるなよ。戦闘は専門じゃない」

「そうか。お前達は〝探索者〟か」

「こっちではそう言うみたいだな」

「なら、俺から依頼だ。この国の地理を把握してくれ」

「……お仲間は信用出来んのか?」

「いや、信用の可否じゃなく逃げ道が欲しい」

 

 クラウスの言葉に、クロートの防毒面の奥の目が細まる。

 クロート達の得手は確かに探索、この国の地理の把握という内容を今提示したという事は、この町と周囲の事を判断して、早くて三日はかかる。

 

「えーと、期限は?」

「お前達の腕次第だが、最短で五日。今の情報ではこれが限界だ」

「報酬は?」

「魔女の提示額の半分、出来次第で追加でどうだ?」

「……必要経費と戦闘発生時の手当ても追加だ」

「了解、それはそちらの言い値で払う」

「なら、成立だ」

 

 クロートが義腕ではない右腕を差し出す。

 

「少々訳ありで、済まんが手袋は外せん」

「構わん」

「クラウス、終わった?」

「ああ、これでこの二人は俺ら側だ」

「リンドーが追加出してきたら、そっちにつくけどね」

「いいよ」

 

 ヤシリツァの軽口に、シーナも軽く言う。

 

「竜胆が追加を出しても、竜胆ならこっちの味方だから」

「……信頼してるんだな」

「竜胆は仲間や友達を見捨てない。それを思い出しただけ」

 

 一度は恨んだ。だが、麻野と浜名が来てくれたから、それを思い出せた。

 竜胆は一度でも懐に入れた相手は、絶対に手離さない。

 それが竜胆の厄介さであり、最大の弱点だ。

 

「さて、となれば面通しをするか」

「だね」

「では、私は先行して伝えて参ります」

「ギルド長! シーナさん!」

 

 そうリラが宿に戻ろうとした時、息を切らせたアーネストがやって来た。

 

「アーネスト、お前どうした? 転んだか」

「違う! 麻野の姐さんが誘拐された……!」

 

 アーネストの報にリラは目を見開き、クラウスは自身の予測の甘さを恨んだ。

 

「え?」

 

 そして、シーナは呆然としながら、ただ立ち尽くすだけだった。

 






















計画はどうなっている
多少の差異はあれども問題は無しよな
天子様の行動もか?
左様。天子様なら動くと見ておったわ
ならば何故、対策を講じなんだ
それが必要と思ったからに過ぎぬわ
それで計画が崩れたらどうする
心配は無用、それ故に我らがこちら側に居るという事
……そうだったな
そうだ。我らの目的は同じ。皇国の栄華よ
あの冒険者の女はどうする?
天子様が気に掛けておられる。無用な手は控えた方がよかろう

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。