異世界隠居 身勝手に呼ばれて身勝手に捨てられたので隠居したい 作:ジト民逆脚屋
「で、アーネスト。麻野が拐われたのは確かか?」
「フェリドさん、そうとしか考えられねえよ。現場には血は無かったし、なにより……」
「ファン・ロンの弟か」
フェリドは葉巻に火を点け、頭を抱える。
浜名とニコラス、フレッドも同じだ。
よりによって麻野を拐うとは、かなり不味い事態だ。
「ニコラス、お姉さんの様子は?」
「今は落ち着いてる。大将とリラ、サヤマ達が付いてるが、あのよく分からん行動を早めてる」
「ハマナ、あれなんなんだ? 知ってんだろ」
フレッドが浜名を見る。
浜名は天井を仰ぎ見る。シーナのあれをどう説明するか、どう説明すれば危険性を伝えられるか。
いや、それもだが麻野は大丈夫なのか。奴が大人しく拐われるとは思えない。
だが、アーネストの話から抵抗する間もなく拐われている。となると、相手はかなりの手練れになる。
浜名は溜め息を一つ吐き出し、テーブルの上にあるコークスペンを手に取る。
「……砲弾、弾体自体は変わらない。問題は中身だ」
「中身? 魔力飽和弾みたいな感じか?」
「いや、似ているが違う。あれはもっとヤバい」
「あの魔力飽和弾よりか? あれも大概だぞ」
「魔力飽和弾の威力は
「は? 町一つ消える?」
浜名はあの戦場を思い出す。
神野や和泉すら押し返され、グレイも別の戦場から移動中。前線は崩壊、シーナが率いるオーフィリア騎士団を中心とした遊撃部隊は、残存戦力を回収して撤退していた。
その最中、魔属領の主力部隊が追撃を開始。その時にあれは放たれた。
「魔力飽和弾は弾殻に魔力を目一杯に詰め込んだだけ。だが、あれは違う。〝核熱弾頭〟、僕達はそう名付けた」
あの日見た光、聞いた音、世界を殴り付けた衝撃。それがレミエーレでの浜名達の立場を決定付けた。
「砲弾の中身は純粋な魔力、それも何十発も圧縮され続け、更に加圧する。そうすると、この位の結晶になる」
浜名は手で玩んでいたコークスペンを全員に見せる。
それだけでも、アーネスト以外の全員が顔をしかめる。
魔力は空間内で、ある一定の濃度にまで達すると結晶化する性質がある。
そして、その結晶には凄まじい価値があり、それと同時に凄まじい危険性がある。
「魔力結晶か……。それだけでも、かなりヤバいな」
「フェリドさん、そんなにヤバい代物なんですか?」
「アーネストは知らねえか。大昔に魔力結晶を奇跡的に運び出せた事があった。で、それを研究してた施設が丸々消し飛んだらしい」
「らしい?」
「ああ、ネフェリタの話だ。大体三百年前の話で、その時の結晶は豆粒みたいな大きさで、専門家が何重にも張った結界ごと消滅したそうだ」
「つまり、その結界が無かったら……」
「豆粒程度でそれだ。町一つ消える。で、お姉さんはそのコークスペンサイズの結晶を持ってるとしたら」
「最低でも国が消える」
アーネストが息を飲んだ。
シーナは今も魔力を砲剣に籠め続けている。もしそれが、魔力結晶を作る作業だとしたら、シーナは何時からそれをやっていた。
今の結晶のサイズは如何程か。全員が浜名を見る。
「多分だが、今の結晶はちょっとした飴玉くらいだと思う。それ以上にするならまだ時間は掛かる」
「大体、どれくらいだ?」
「あと、二、三ヶ月だ。あの時はグレイさんの聖剣の加圧もあったから三日で出来たし、山科一人の魔力だと
そして、シーナの〝核熱弾頭〟の最大の脅威は他にある。
「〝核熱弾頭〟最大の脅威は結晶の爆発よりも、その熱だ」
「熱?」
「ああ、強靭な魔属が体を失い、その影が瓦礫や地面焼き写される様な熱。それが一番の脅威になる」
「……今思うんだが、ソフィアにしろシーナにしろ、我らが女神陣は殺意高くね?」
「言うな、ニコ」
男性陣が溜め息を吐いた。
シーナは敵に容赦なく砲弾を撃ち込み、ソフィアは容赦なく眉間を撃ち抜く。
ユズリハとキスカも大体頭を狙うし、ヴァニーも容赦ない。
極めつけに今回の麻野は、〝セスタス〟のニコラスが引くレベルで殴り掛かってくる。
リラが唯一の救いの様な気がするが、奴は奴で全身に猛毒仕込みの武器を隠し持ってる。
これもう、女神じゃなくて死神の集団だ。
「……だぁー、ファン・ロンの弟の事だが」
「お、おう」
フレッドが流れを強引に戻す。
アーネスト曰く、ファン・ロンの弟は彼女の企みに気付いている様子だった。
つまり、
「問題の家臣二人にも気付かれてんだろ、これ」
「そこだよ。それが一番の問題だ」
今回のファン・ロンの計画は、言ってしまえばクーデターだ。
クーデターとは国家への反逆、どう軽く見積もっても死罪以外なんでもない。
「……逃げるか?」
「麻野を置いてか?」
「まさか? アサノを連れてだ」
死罪は死罪だが、自分達の立場は傭兵になる。
雇われの兵まで罪に問う暇は無い筈なので、事がどう転ぶにしろ逃げるが勝ちだ。
「あの二人は?」
「挨拶済ましたら、さっさと行っちまった」
「大将の依頼だとさ」
それに、あの二人はレミエーレの魔女からシーナと仲間達を逃がせと依頼されている。
話が本当なら、あの〝絶死海峡〟を越えている。つまり、海に逃げれば追っ手は来ないと見ていい。
「ファン・ロンにこの事は?」
「言ってねえ。というか、弟の事話したら青い顔してどっか行った」
「あいつも信用は出来ん。二人の事は適当に話しておけ」
「あいよ。で、ハマナ」
「なんだ?」
「アサノも連れてって言ったけどよ。どうやるよ?」
「なんか、あいつの事だからキレて地脈ブッパかまして逃げてきそうなんだよなぁ……」
浜名が遠い目をする。
元の世界でも、大抵の状況を動かしてきたのは麻野のキレだ。
シーナが巻き込まれて、麻野がキレて、浜名が諦めて、竜胆が騒ぎを大きくする。
これが大体の流れだ。
つまり、今の現状とあまり変わらない。
「まあ、あいつ図太いからなんとかするだろ」
「いいんすか? それで」
「アーネスト。麻野はな、王族相手に啖呵きる奴だ」
「あ、はい」
だから、まあ
「なんか、心配して損した事なんて山程ある」
「で? あんたら、なに? 喧嘩なら買うけど?」
牢屋と言うにはあまりに豪勢な一室、そこの奥で座布団に胡座を掻く麻野が目の前の人物に問うた。
「い、いえ、この度は我が国の将兵がとんだ無礼をと、お詫びに参った次第でして……」
「そこはいいのよ。状況的に勘違いされても仕方なさそうだったし。問題はあの子」
「あの子……、まさか天子様の……!?」
「そう、なんであの子はあんたらに怯えてたの? 事と次第によっちゃ、ちょっと暴れんぞ?」
目の前の連中、元の世界で観た中国の歴史ドラマに出てきそうな連中の一人が唇を噛み締めた。
この反応から見るに、コイツらはあの子の敵ではなさそうだが、ならあの反応は一体なんだったのか。
「……実は……」
「なりません」
「しかし、女官長。この方なら御味方になってくれるやも知れませぬ」
「味方? なってやってもいいけど?」
「そうかもしれませんが……。はい?」
「味方、要るんでしょ? 私がやってやんよ。その代わり、仲間に連絡させろ」
驚いた顔で女官が麻野を見る。
確か、ファン・ロンの弟は次期帝だった筈。それが家臣に怯えを見せたという事は宮廷内に敵が居て、彼にはその判断がつかない状態だという事だ。
「……一体どういったつもりで?」
「あ? ガキをどうこうしようとしてるバカが居るみたいだから、ちょっと一発ぶん殴ってやろうってね」
だから、
「条件飲むなら、味方になってやる。魔属との戦争生き抜いた《陣術師》様がな」
おい
儂は知りませぬ
我も
いや、お前ら、これどうするんだ?
多少想定外ではありますが、計画に問題はないかと
いや、大分問題あるぞ
そうは申されますが、元より計画は……
言うな
はっ……