東京より百八十キロほど離れた南東の海上に、一般人の立ち入りを禁じられた島___
そこで迎える臨海学校の朝。
「う…ん…もう朝?」
みやびは陽の光を感じて目が覚めた。すると、なぜか身体が思う様に動かない…徐々に意識が覚醒していくと、
「zzz…」(ギュッ)
自分の身体が悠斗にしっかりと抱きしめられていた。
(え…えぇぇぇぇ!?ど、どうして悠斗くんに私抱きしめられてるの!?ど、どうしたらいいのかな…)
みやびは好きな人に抱きしめられている喜びと恥ずかしさでどうしたらいいか戸惑っていると…
「う…ん?」
悠斗が目を覚まし、みやびと目が合った。
「あ……え…………?
ピギャァァァァァ!!!!!!」
瞬間、悠斗の顔が燃えているかの様に真っ赤になり、なんとも言えない叫びをあげた。
「ゴ、ゴゴゴメンみやび!!!そんな…やましい気持ちはこれっぽっちも…と、とにかくゴメン!!」
「う…ううん…ちょっとビックリしただけだから…」
みやびも顔を真っ赤に染め、しばらく静寂が続いた。
「…とりあえずテントから出るか…」
「う…うん…」
(お、おかしい…最近の俺はちょっとおかしい…みやびの顔を見るとなんかドキドキしちまう…新手の風邪か…?)
悠斗は自身の気持ちに戸惑い続けていた。
臨海学校五日目___訓練がつつがなく終了した。強化合宿は本日まで。
六日目の明日は完全自由行動で、島外へ出ることは敵わないまでも、生徒たちがどのように過ごそうとも構わないのであった。
「お疲れ、合宿頑張ってたなみやび」
「う、うん…きっと悠斗くんのお陰かな…」
「え?」
みやびはボソリと小さな声で呟いたが俺はよく聞こえなかったらしい
「う、ううん。悠斗くんは明日予定決まってる?」
「いや、決まってないけど?」
「そ、それなら私たちと遊びに行かない?巴ちゃんたちと一緒に…悠斗くんが良ければだけど…」
「あ…ああ良いぜ。でも…遊びに行くってどこ行くんだ?この辺りって遊び場とかってないだろ?」
「え?海…だけど…」
「海?」
みやびの言葉に俺はポカンとした。
「…そういえば、海って遊べるんだった…すっかり忘れてたぜ」
「…プッ、フフフ」
「な、なんだよ笑うことないだろ」
「だって…悠斗くんってばフフッ」
「なんだよ…ハハッ」
悠斗の反応にみやびはおもわず笑い、悠斗もつられて笑ってしまった。
夕日の中、二人の笑い声が聞こえていた。
「…では計画実行は明日の夜ということで?」
『うむ、お前さんの潜入もそれさえ済めばそれで終わりじゃ。ご苦労じゃったな、やはり念を入れてお前さんを学園に送り込んで正解じゃったわい』
「ありがとうございます。私も貴方が神を殺す力を完成させる日が来るのが待ち遠しいです。後の障害は天峰 悠斗ですが…」
『それも心配いらん。《ミスト》の専用機と奴のために作った特殊武装も調整が済んだ。幾ら天峰 悠斗と言えど奴には勝てんよ。それに…奴には切り札があるしな』
電話越しに《装鋼の技師》エドワード・ウォーカーは自信を持って答えた。
『いよいよだ…儂の悲願はようやく叶う…天をも穿つ…神殺しの部隊がな…』
「………はい、それで…成功した暁には…」
『うむ、ゴクマゴクでの地位を用意するよう約束する』
「…ありがとうございます…では」
『うむ、それではな』
電話が切れ、影は月を眺め…
「これで任務は完了、以前の名誉挽回にはなったはず…私にとって失敗したら存在する価値はない…必ず…のし上がってみせる…」
…静かに呟いた。
六日目、この日は完全フリータイムなので俺たちは海へと向かっていた。どうやら透流たちも参加している様だが、トラは寝ていて、タツも筋肉神に捧げる修行(なんだ筋肉神って?)でいないらしい。そこまでは良い、問題は…
「ちょっと…梓ちゃん…やめっ…ひゃうっ!」
「………なんなんですかこの大きさ…ていうかでかい上に柔らかいって嫌味ですかっ…」
「そんなこと言われても……ひゃあああっつ、摘んじゃ、めぇ…」
「なぁ透流…」
「…なんだ?」
「あいつら俺たちがいるの分かってんのかな?」
「奇遇だな、俺も今そんなこと考えてた。」
俺たちは洞窟前にいた。その洞窟は奥は十メートルほどで止まっており、その奥で女子一同が着替えており、俺たちは見張りに来ていたのだ…だが、女子たちはどうも男にとって毒な事をしており今に至っている。
もちろんその間も、女子のトークは続いており――
「良いですね大きいって、さぞや多くの男たちを落としてきたんでしょうね…《持ってる人》って良いですよね…ところでブラのサイズっていくつですか?ワタクシトッテモキニナリマス…」
「…それはちょっと…」
「…言わないならもっと攻めます」
「ひぁっひぁぁぁぁぁっ…い、言う、言うからぁ、え、Fだよぉ……んくぅううんっ‼︎はぁ、はぁ……はふぅ……」
「………っ!!?」
俺はみやびたちの会話を聞き、おもわず顔が真っ赤になってしまった。
(み、みやびは《F》…ファンタジーの《F》…いや、そういうことじゃなくて!これじゃただの変態じゃねえかっ‼︎)
ぼんやりと浮かんできた記憶を追い払うために、頭をひたすらぶんぶんと振りまくる
(しゅ、集中…! 今は見張りに集中しないと……!)
興奮した顔を手で覆うと、必死に自分へと言い聞かせている中 、その一方で着替えがもう少し時間が掛かって欲しいと思っていた
「……っ!!《F》…?なんですか《F》って!!えーそうですよ!!どうせ私は《B》ですよ!!!だからなんですか!!大きい方が正義なんですか!?」
「そ、そんなの知らな…ひゃうっ!」
「変ですね…柔らかい胸のはずなのに段々硬くなってきている部分がありますね… 」
「そ、そんな、私は…ひゃうっ!______っ!!ヤダよぉ…」
「そこまでだ梓!!」
「っ!?巴さん………」
突然、橘が助け舟を出した。
「それ以上みやびに狼藉を働くなら私が相手になろう!!」
「………(ギロッ!!)」
瞬間、梓は橘に狙いを定めた。
「………それは揉むなら私を揉めってことですか…考えたら巴さんも良い身体してるんでしたっけね…当てつけですか?貧乳の私への嫌がらせですか?そのでかいの半分よこせぇぇぇぇえ!!!」
「えっ…梓?ちょっ…まっ…いやァァァァ!!」
どうやら梓のターゲットは完全にみやびから橘に変わったらしい。それからも梓の怒りの叫びは洞窟内に響き続けていた。
数分後、海岸
「いや〜可愛い女子と海なんて良いよなぁ〜」
一緒に行くことになっていた勝元が俺の隣で鼻の下をのばしていた。俺たちはあの後、流石に耐えられなくなりこちらに避難したのだ。
「お前なあ…もうちょっと節操を持てって」
「はぁぁぁ!?お前馬鹿!?ゲイなの!?」
「ちげーよ!!!」
「ハハッお前ら仲良いな。」
二人の口喧嘩に透流は少し笑っていた。すると、
「お待たせ〜透流♪」
透流が振り向くと女子たちが水着姿で立っていた。
「どうですか?トール?」
「見惚れる気持ちもわかるけど…」
「なんか言うことあるでしょ?」
ユリエとリーリス、伊万里に感想を求められ、透流は少し戸惑いながらも
「ユリエはスゲー可愛らしいし、リーリスは華やかって言葉が合うよな、伊万里はスポーツ選手としてスゲー魅力的な身体をしている、橘はやっぱり綺麗だよな」
「梓はクールって感じだな。みやびは…」
と、みやびを見たが、みやびは上からパーカーを着ていて見ることが出来なかった。
「こーら、みやび。そんな野暮ったいもの脱ぎなさいって」
「で、でもわたし、泳ぐの苦手だし、みんなみたいに似合ってないから…
「えーいうるさーい、こんなもの、こうしてやる!」
そう言って伊万里はみやびのパーカーを引き剥がすと
ド――――――――ン!!
凄い、とにかく凄い、凄すぎた
平静を保つ事なんて出来ずに思考がおかしくなるくらいに
(お、落ち着け……俺)
何の話かって、勿論みやびの事だ。こんな言い方もアレだけど 海だけにスイカを思わせるサイズの胸が、ぷるぷるたゆんっと目の前で揺れて
あんな細い紐で支えきれるのかと、どうでもいい心配までしてしまう
「ゆ、悠斗くん…どう?」
「あ、ああ…すごい可愛いな」
「あ、ありがとう…」
こうして俺はなんとかみやびの顔をまっすぐ見て感想を言った。
「よしっ………俺たちも泳ぐか………」
「だなっ」
「…ていっ(ドカッ)」
「「グエッ!!」」
突然月見が悠斗と透流に蹴りを入れた。
「何すんだてめー!!」
「いや〜ウサ先生だけ放置プレイなんて、2人ともドSなんだから♪」
月見の水着はもはやバニーガールとしてしか見れなかった。
「どうかなどうかな、このビーチ仕様♪ どーんと感想言っちゃいなよ、YOU☆」
その光景にげんなりした様子の九重が力なく返してくる
「……いいんじゃないですかね。はまってますよ、ビッチ仕様」
「いやーん、ありがとぉ九重くん♡ ……ってゴラァ、誰がビッチだ?」
言葉の途中から顔を近づけ、ドスの利いた声で九重に囁く月見、そんな九重と月見のやり取りを見ながら苦笑していた 。
(というか、普段と全然変わらないよな…。これ)
「いやー、今日は楽しかったな」
「ありがとな勝元、穴場を教えてくれて」
「良いってもんよ、気にすんな」
ビーチを満喫し日も沈み始めた頃、俺たちは帰る準備をしていた。
「…なぁ勝元、」
「なんだ悠斗?」
「実は折り入って相談が…」
俺はそう言うと、最近の自分の身体の違和感を相談した。すると、
「へぇ〜なるほどねぇ、やっぱお前も男ってわけだ」
ニヤニヤしながらこちらを見て笑った。
「お前、この症状の意味が分かんのか?なら教えてくれないか?」
「ダメだ、これはテメーで考えなきゃいけない問題だ」
しかし、勝元は教えてくれなかった。
その時、
「あっ!!」
突然、伊万里が大きな声を出して足を止めた
「どうした、伊万里?」
「さっきから何か忘れているような気がしてたんだけど、ポーチを洞穴に置いて来ちゃったみたいなのよ」
「……何だ、そういう事か。さすがに誰かに拾われる可能性は無いが、すぐに取りに戻った方が良さそうだな」
「そうね、そうするわ。……あ、いっけなーい。あたし、夕食の食材を広場に出す当番だったわ。
うーん、ポーチを取りに行くと、係をサボっちゃうことになりそうだし……」
「ここからなら、全力で走れば――」
「そうだ! ねえ、みやび。すっっっっごい申し訳ないんだけど あたしのポーチを取ってきてくれないかな? お願い、このとおり!」
「え……? えっと……う、うん。いいよ」
目の前でパンと手を合わされ、頷くみやびを見ながら思った
「(まあ、みやびなら断らないよなぁ……)」
押しが弱いという事もあるが、お人好しな彼女が
友達の頼みを断る姿が思い浮かばない
でも、そういうところが、みやびという女の子の良い点でもあるんだけど
「ありがと、みやび! ほんっとうに恩に着るわ! ……あー、でも女の子一人じゃ 万一何かあったら危ないかも知れないわねー。よくないわー、心配だわー」
なんか所々棒読みになっていた。
「そうだ!!だったらよ、悠斗がついていけば良いじゃねえか?」
突然勝元が大声で言った。
「勝元それナイスアイデアよ!!というわけだから悠斗ついてってあげて!!」
「お、おう………」
特に断る理由もないしみやびについていくことにした。
「よーし!!そんじゃあ俺たちはこの後用事があったし先行くか、行くぞ透流!!みんなも!!」
「そうね、早く行きましょうみんな」
そう言うと勝元と伊万里は互いを見つめ(ナイス)とアイコンタクトをして、透流たちを連れて行った。
そんな周囲のやり取りを静かに見ていた月見がぼそりと呟く
「………。みんなやっさしーねぇ☆」
妙な一言を口にする月見は放っておき 俺とみやびは洞穴のある岩場へと戻って行った
「あ……。ここにあったよ、悠斗くん」
まるで岩陰に隠すかのような場所にあり、だいぶ時間が掛かってしまったが、日が落ちて暗くなる前には分校へ戻れるだろう。みやびのストローバッグにポーチを入れ、肩を並べて夕暮れの砂浜を歩き出す。
「わ、あ……。綺麗……」
水平線へと近づいてきた夕陽と、きらきらと輝く海を見て、みやびが呟く。
「確かに……これはすごいな……」
みやびの感想に同意し、足を止めて見入る。昼間、俺たちが遊んだ海岸が、まるで絵はがきに見るような幻想的な風景と化していた。
「…そういえばさ、前に言ったよな、俺がマフィアの人間だって」
「…うん」
「あの時な、正直怖かったんだ。みやびたちに軽蔑されるんじゃないかって、でもみやびも透流もみんな受け入れて今までと同じ様に接してくれた。…ありがとな」
裏社会の人間である俺を知ってもなお仲間と言ってくれたとき、本当に嬉しかった。
「そ、そんなっ私は悠斗くんが悪い人じゃないって分かってただけだから…」
俺の突然のお礼にみやびは顔を真っ赤にした。
俺たちははそのまま浜辺を歩いていた。俺は夕日を見ながら勝元の言っていたことについて考えていると、
「ねえ悠斗くん」
夕焼けに染まる世界の中で、みやびが言葉を紡ぐ。
「…?どうしたみやび?」
「いっぱいいっぱい…ありがとうね、もし悠斗くんがいなかったら…今の私はいなかった…あと____」
直後に続く言葉は、本来ならば波音に紛れるほどに小さな小さなつぶやきだった。
けれど____
幸か、不幸か___
偶然にもその一瞬だけ、波の音が止んだ。
「大好き、だよ」
「………え?」